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2011年11月26日

【科学的!】『格闘技の科学 力学と解剖学で技を分析!』吉福康郎


格闘技の科学 力学と解剖学で技を分析! (サイエンス・アイ新書)
格闘技の科学 力学と解剖学で技を分析! (サイエンス・アイ新書)

【本の概要】

◆今日ご紹介するのは、カラーイラストでおなじみのサイエンス・アイ新書の新刊。

通常の格闘技本とはちょっと違って、サブタイトルにもあるように「力学」や「解剖学」の図解が楽しいです。

アマゾンの内容紹介から、一部引用。
「空手の突きとボクシングのストレートの違いは?」、「空手の前蹴りとムエタイの前蹴りの違いは?」、
「なぜ体の小さな柔道選手が大きな相手を投げ飛ばせるの?」
――こんな疑問をもったことはありませんか?
さまざまな格闘技で繰り出す技は、力学や解剖学の観点から見ると大変合理的で、いわゆる「力技」とは一線を画します。
本書では、さまざまな格闘技の技を科学的に分析し、その威力の秘密に迫ります。
年末恒例の格闘技番組も、本書を読んでおけば、より一層楽しめることウケアイです!


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【ポイント】

■1.鋭い衝撃力と思い衝撃力の違い
質量1kgの物体が秒速10m(m/s)でぶつかるのと、2kgの物体が秒速5mでぶつかるのは、運動量がどちらも10(単位はkgm/s)なので、力積、つまり「衝撃力の重さ」はどちらも同じ10kgm/sになります。
 しかし、高速でぶつかる1kgの物体は、衝撃力の発生時間(=目標との接触が開始してから完全に停止するまでの時間)が短い(ほぼ半分)ので、2kgの物体より衝撃力の最大値が大きく(ほぼ2倍)なります。「衝撃力の重さ」は同じでも、軽い物体が高速でぶつかるほうが「鋭く」なるわけです。パンチでもキックでも、拳や足先が高速になるほど「鋭い衝撃力」になります。


■2.ストレートや前蹴りに比べて回し蹴りがよけにくいワケ
 ストレートと前蹴りは、拳や足がまっすぐ向かってきます。顔面が目標なら、顔の幅くらい横に動けば当たりません。ボディを狙われたときは、胴体の横幅ほど動くのは胴体の重さもあり顔をよけるより大変ですが、胴体をひねることにより打撃が斜めにしか当たらなければ威力が大幅に減り、よけたのと同じです。(中略)

 またフックは拳でしか打てませんが、回し蹴り、特にムエタイ流に脚全体を振り回すフォームでは、先端の背足(足の甲)、足首からひざ付近までのすねのどこかが当たればダメージになることもよけにくい理由です。
 加えて回し蹴りの軌道は基本的に水平なので、直立した体を鉛直軸の周りにひねってもよけられません。


■3.顔面へのパンチでダウンするかは、脳にどのようなショックが伝わるかによる
 ストレートが、まともに額、つまり頭蓋骨の正面に当たっても、額の骨は頭突きができるほど分厚くて丈夫なのでそれほどダメージにはなりません。自分の手の平(手根部)で額をたたけば実感できます。
 しかしあごの先端を正面からたたくと、頭部がうつむくように回転し、脳にショックがきます。フックやアッパー(アッパーカット)にもいえますが、あごが急所といわれるのは、あご自体が額ほど丈夫でないことも一因ですが、あごを打たれると頭部が回転しやすく、脳にショックが伝わりやすいからです。
 フックがダウンにつながるのは、あごの先端をとらえたときが多く、ときにはかすっただけのように見えてもダウンしますね。これは、頭部が横向きに急回転するからです。


■4.クロスカウンターは本当に威力があるのか?
 実際に測定した数値を見ると、相手が秒速2m(2m/s)で前進してきた場合、相手に対する拳の速度は7.2m/sから, 9.2m/sへ28%増ですが、上腕は3.8m/sから5.8m/sへ53%増にもなります。前腕と胴体も加えた全身の運動量、すなわち相手に伝える力積(単位はkgm/s)は、30.5から47.9へと57%も増えます。
 衝撃力の最大値について正確な計算はできませんが、力積の増加に応じて、かなり増えると考えられます。カウンターは相手の踏み込みが速ければ速いほど「重く」(ボディ)、「鋭く」(顔面)なります。


■5.投げ技とは投げることではない
「投げる」とは「倒す」、つまり、相手のバランスを崩してそのまま地面に落とすことなのです。落とすといっても、相手が腹ばいになっては効果がありません。背中から着くように相手の体を回転させながら落とすのが基本です。
 柔道の投げ技にはいくっかの方式がありますが、力学的には「相手の体の2力所(以上)に逆方向のカをかけ、回転させながら落とす」という共通点があります。

(詳細は本書を)


■6.首絞めの威力とは?
首を絞めるのは、生理学的に次の2つの意味があります。
(1)気管を圧迫して、肺への空気流入を妨げる
(2)頸動脈を圧迫して、脳への血流を絶つ

 (1)により体に取り込める酸素量が減り、脳を含む全身が酸素不足で機能低下します。(中略)

 (2)により脳への酸素と栄養素(ブドウ糖)の供給を絶ちます。


■7.手刀でビールびんが切れるワケ
 手刀一閃、ビールびんが切れた瞬間、細長い部分が吹っ飛び、ビールが泡とともに吹きだす演武は迫力がありますね。実は、ビールびんを「切る」のではなく「たたき折っている」のです。つまり、手刀の当たった部分が切れるのではなく、先端を打ったカで細長くなった部分を曲げるカが生まれ、根本付近Aで折れるのです。


【感想】

◆本書はサイエンス・アイ新書なのですが、このシリーズの特長である「図解」が見事にハマった1冊でした。

文章だけで説明して、なかなか分かりにくい部分も、併記された図を見ると、一目瞭然!



もっとも、そういうネタをこのブログでご紹介する場合、いちいち図を載せていくワケにもいかないので、上記ポイントも、ある程度イメージしやすいものが中心になってしまった次第。

例えば、「ブラジリアンキック」というハイキックのやり方を、テキストだけで説明してもわかりにくいのですが、本書のイラストで見ると、普通のハイキックとはあきらかに違うことが分かります。

……ブログの場合、「動画」というさらに分かりやすい手があるのですがw





◆また、テキストで分かりにくいものとは別に、内容的に「素人にはオススメできない」、ちょっとマニアックなものもチラホラ。

例えば、こんな辺りとか。

『単独のストレートより「打ち返しのほうが強い」と聞いたが本当?』

『大外刈りで投げようとしたら、逆に大外刈りで投げられた……。なぜ?』

『金的を狙った前蹴りはどう防げばいいの?』
等々……。

ぶっちゃけ私には、オーバースペックです罠。

ただし、格闘技を観るのが好きな方や、実際におやりになっている方にとっては、興味深いネタが詰まっていると言えそうです。


◆なお、実際に格闘技をやらない方でも第7章の「武器・実戦の科学」は目を通しておいた方がよいカモ。

『1人で多人数と闘う方法はあるの?』

⇒先に弱い方から倒したり、相手を盾にしたり……


『ナイフを持った相手とはどう闘えばいいの?』

⇒ベストは「全力で逃げる」だそうですが、本書では構えや具体的なアクションを指導。


『素手でナイフと闘うのは無理でも簡単な武器で対抗できない?』

⇒30〜40cmくらいの短い棒があれば理想なものの、週刊誌やパンフレットを堅く巻いたものでも代用可能、とのこと。

まぁ、こんな状況にならないことが一番ですが(当たり前)w


◆本書の著者である吉福康郎さんは、『東京大学理学部卒、同大学院理学系研究科(理論物理学)修了。理学博士(東京大学)』という肩書のお方です。

もともとは虚弱体質で、スポーツも苦手だったのに「強い人はなぜ強いのか、その理由がわかれば自分も強くなれるのか」という疑問を解くべく研究し、解明した成果を自分の体で実践。

今では、60代後半なのに「柔道部の黒帯が踏ん張っていても、簡単に倒せる」のだそう。

私はさすがに、自分が強くなりたいというワケではないのですが、本書のように理詰めで解説してくれると、「格闘技」を身近に感じることができました。


知的好奇心が満たされる良書です!

格闘技の科学 力学と解剖学で技を分析! (サイエンス・アイ新書)
格闘技の科学 力学と解剖学で技を分析! (サイエンス・アイ新書)
第1章 打撃の科学
第2章 突き・パンチの科学
第3章 蹴り・キックの科学
第4章 つかみ・投げ・極めの科学
第5章 防御の科学
第6章 稽古・練習の科学
第7章 武器・実戦の科学
第8章 気の科学


【関連記事】

これは凄い!『上達の技術』を便利にする7つのツール(2011年04月24日)

「上達の法則」岡本浩一(2006年10月02日)


【編集後記】

◆同じくサイエンス・アイ新書の同日発売の1冊。

免疫力をアップする科学 腸内細菌で病気知らず!いますぐできる科学的健康法 (サイエンス・アイ新書)
免疫力をアップする科学 腸内細菌で病気知らず!いますぐできる科学的健康法 (サイエンス・アイ新書)

こちらも紹介しにくいジャンルですが、面白そうです。


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