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2011年10月20日

【オススメ!】『ビジネスマンのための「行動観察」入門』松波晴人


ビジネスマンのための「行動観察」入門 (講談社現代新書)
ビジネスマンのための「行動観察」入門 (講談社現代新書)


【本の概要】

◆今日ご紹介するのは、日本における「行動観察」の第一人者である松波晴人さんが、「250を超える事例」から抽出した成果を披露した1冊。

「行動観察」とは、アマゾンの内容紹介によると
「人の行動を人間工学、心理学、表情分析などの知見を通じて観察・分析することで、問題解決に役立てようとする手法」
であり、
「従来のインタビューやアンケートなどではわからなかった潜在的なニーズ、言語化しにくい知識を共有化する手法として、欧米では多くの企業・組織で商品開発、生産性の向上、個人の能力開発などの分野で実践され、 効果をあげている」
のだそう。

読み始めてビックリしたのが、それぞれの事例における中身の濃さ。

ホントなら、新書1冊でやるべき分量じゃないっすよ、これ……。


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【ポイント】

■1.調理をしながらのビールは、自分へのご褒美?
 これで気付いたことが1つある。よくよく考えてみると、これだけ体力ぎりぎりでがんばっているワーキングマザーに対して、周りからのポジティブなフィードバック(自分が認められて、正当な扱いを受けること)が全くないということだ。(中略)

 むしろ実態は逆で、掃除や洗濯などで、行き届かない点があるときには「最近部屋が汚いぞ、きっちり掃除しているのか?」とか「この間、シャツに汚れが残っていたぞ」といったように、ネガティブなフィードバックだけはしっかりある。(中略)

 このように、一生懸命がんばっているのにもかかわらず、褒めてもらったり感謝を表明されていないワーキングマザーは、自分で自分をねぎらうために、自分自身にご褒美を与えているのだった。


■2.提案するときのコンテキストに留意する
 たとえば、「タイヤの保険」のポスターがあるとする。「この保険に入っていれぱ、もしタイヤがパンクしても保険で直します」というメッセージのポスターである。これをディーラーの新車展示コーナーに貼ったとする。それでもそこそこ契約は取れるであろうが、もっと効果的な貼り場所がある。それはディーラーの車両修理の受付である。(中略)

車両修理の受付に来るのは、タイヤのパンクをはじめとした何らかのトラブルのあったお客さんである。パンクを経験した直後のお客さんであれば、その保険のありがたみがよくわかり、その場で加入していただけるかもしれない。つまり、同じ提案内容であっても、提案するときのコンテキスト(ストーリーと言ってもよい)が非常に大事である。


■3.優秀な営業マンを観察して得た気づき
(1)優秀な営業マンは、お客さんとのファーストコンタクトを非常に大事にしている

(2)優秀な営業マンは、自分よりお客さんのほうが話す時間が長い

(3)優秀な営業マンは、お客さんをよく観察して、個別のお客さんのニーズに合う提案をする

(4)優秀な営業マンは、お客さんに何か必ず親切なことをする


■4.「不特定多数への声かけ」が効果的な理由
 洋服屋さんで「春物が入りましたから、右奥のコーナーをぜひご覧くださーい」と言いながら歩いている店員を見かけたことはないだろうか? このメッセージの出し方が有効なのは、後で話しかけたときに話に入りやすいという点だけではない。このメッセージは特定の人に向けられていない。お客さんは圧迫感を感じることなく、店員から有効な情報を得られる。もし店員が特定のお客さんに向かって「春物でいいのが入りましたよ!」と話しかけたりしたら、そのお客さんは逃げてしまうかもしれない。このように、「不特定多数への声かけ」は、イべントや店舗での販売でとても効果的である。


■5.オフィスでの生産性を下げる原因は?
 次に分析したのは、「正味の時間」の中身である。もともとその部署で問題とされていた「上司からの呼び出し」は、実際には非常に少ないことがわかった。定時内であっても、「上司からの呼び出し」は2日間で1人当たり約4回しかなく、時間はトータルでも約9分である。一方、「電話」は定時内に限っても約30回あり、トータルで1時間以上かかっている。さらに、「部内者との会話」は52回あり、その時間はトータルで同じく1時間以上あった。問題は「上司からの呼び出し」よりも、ただでさえ短い「正味の時間」を中断させてしまう「電話」と「部内者との会話」であった。


■6.5000人の名前を記憶するホテルマンの記憶法
 よく、「顔と名前をセットにして記憶しよう」と言うが、これはとても困難であることがわかった。一般的に、「顔」は憶えていても「名前」が出てこないことがあるのは、多くの人が普段から体験しているだろう。(中略)

 では達人はどのように記憶しているかというと、「顔」と「名前」を直接つなげて記憶しているのではなく、間に「会社」という情報を挟んで記憶している。
 なぜ「会社」という情報を挟むのかといえば、「会社」という情報には、「名前」と違ってストーリー性があるからである。

(詳細は本書にて)


■7.滞在時間が違う書店のお客さんの特質
「目的買い」の人は、何を買うか決めて来店しているので、滞在時間はすごく短く、どの時間帯にも見られる。また、「息抜き買い」の人は、夕方から夜に多く見られ、滞在時間は1時間以上と長く、じっくり商品を選んでいて、購入する率も高い。最後の「ヒマつぶし」の人は、滞在時間は両者の中間で30分ぐらい、朝や昼食休憩、昼から夕方に多く、書籍の購買率は低い。つまり、本町店の売り上げをさらに向上させるためには、比較的短い滞在時間の「ヒマつぶし」のお客さんに、適切な情報提示を行うことが重要であることがわかった。


【感想】

◆ここまで読まれて「この本、いったいどの業界の話なの?」と思われた方もいらっしゃるかもしれません。

今回抜き出したのは、本書の第2章からなんですけど、その現場となったのは下記目次の通りさまざまです。

しかも、各業界におけるセールス法だけならまだしも、初っ端で調べたのは「ワーキングのマザーのニーズ」ですし、2番目は「集客+セールス」。

そうかと思えば、「ホワイトカラーの生産性向上」や「特定の個人のスキル(記憶法)の共有化」もあったりして、私も今回、記事のカテゴリー判断に迷ったくらい。

冒頭で触れたように、本来ならもっと掘り下げて、単行本数冊にまとめても良いような「元ネタ」の濃さなんですよ。

それを、結論部分を中心にコンパクトに凝縮して、新書1冊にまとめてしまったという(何と贅沢な!?)。


◆ところで、上記ポイントを読んで、この本を思い出された方も多いのではないでしょうか?

なぜこの店で買ってしまうのか―ショッピングの科学
なぜこの店で買ってしまうのか―ショッピングの科学

参考記事:【スゴ本!】「なぜこの店で買ってしまうのか―ショッピングの科学」パコ・アンダーヒル(2007年10月09日)

良いコンディションの古本が大量にありますし、もうちょっと高くなりますが、「新版」もありますので、もし未読の方がいらっしゃったら、ぜひ一読をオススメ。

こちらの本でも「お客様を観察」することによって、目覚ましい改善が図れることが良く分かります。

ただ、本書が異なるのは、上記のように観察の対象が特定の個人であったり、その個人にヒアリングを実施して、エッセンスを抽出していること。

同じ観察でも、得られる情報の「質」が全然違うわけです(良い悪いの問題ではなく)。


◆ちなみに、「ワーキングマザー」や「優秀な営業マン」の例がそうなのですが、本書では必ずしも大量の対象者から話を聞いているわけではありません。

なぜなら、「仮説を検証する」のであればサンプルは多い方が良いのですが、「その仮説を生み出す」ためには、どれだけ深く、その実態や行動を知る必要があるから。

そういう意味では、こちらの本の考え方も参考になります。

「情報創造」の技術 (光文社新書)
「情報創造」の技術 (光文社新書)

参考記事:【ヤバ本】『「情報創造」の技術』三浦 展(2010年05月19日)

【スゴ本】の次が【ヤバ本】だと、信憑性に欠けそうですが、この本もマジでオススメ。


◆そして当ブログの読者さんの一部(?)には、大変興味がありそうなのが、上記ポイントの7番目にある「書店」の事例。

これは『週刊ダイヤモンド』編集部からの依頼に基づき、雑誌に掲載する記事のためのプロジェクトとして、紀伊國屋書店本町店に「行動観察」を応用した際のものです。

掲載されたのはこの号なんですけど、書影の右上に確かに「行動観察」の文字が見えますね。

週刊 ダイヤモンド 2011年 1/8号 [雑誌]
週刊 ダイヤモンド 2011年 1/8号 [雑誌]

恐らく写真等も収録されているでしょうから、お持ちの方は、ぜひこちらもチェックして頂きたく。

その後、この本町店は『ガイアの夜明け』でも取り上げられており、その時は「書店のリニューアル」まで行なったそう。

もちろん、その際の模様も本書には収録されていますから、業界関係者なら見逃せないハズ!?


◆ただ、私個人としては、最初の「調理をしながらのビール」で、いきなりグッと来てしまいました。

実はウチのヨメも、たまにビールを飲みながら調理しておりまして……。

これって要は、ヨメに対する「褒めたり感謝したり」が不足しているってことですよね。

考えてみたら、子供2人育てながら、大学院出たり、今も週休1日で働いているヨメには、もっと感謝せねば。

他にもワーキングマザーの「生の声」が多々収録されているので、それらを読んだら反省したくなる旦那さんは、私以外にも多そうですが(マジで)。


これはもう、激オススメせざるを得ません!

ビジネスマンのための「行動観察」入門 (講談社現代新書)
ビジネスマンのための「行動観察」入門 (講談社現代新書)
第1章 行動観察とは何か?
第2章 これが行動観察だ
 1 ワーキングマザーの隠れた欲望
 2 人でにぎわう場の作り方
 3 銭湯をもっと気持ちのいい空間に
 4 優秀な営業マンはここが違う
 5 オフィスの残業を減らせ
 6 飲食業を観察する
 7 達人の驚異の記憶術に学ぶ
 8 工場における生産性向上と品質向上という古くて新しいアプローチ
 9 元気の出る書店を作ろう
第3章 行動観察とは科学である


【関連記事】

【スゴ本!】「なぜこの店で買ってしまうのか―ショッピングの科学」パコ・アンダーヒル(2007年10月09日)

【ヤバ本】『「情報創造」の技術』三浦 展(2010年05月19日)

【スゴ本】『おいしいから売れるのではない 売れているのがおいしい料理だ』正垣泰彦(2011年07月24日)

【ヒットの秘密】『遠足型消費の時代 なぜ妻はコストコに行きたがるのか?』中沢明子,古市憲寿(2011年03月26日)

【スゴ本】『売り方は類人猿が知っている』ルディー和子(2010年08月27日)


【編集後記】

◆ちょっと気になる本。

なぜレストランのメニューで3行目を選んでしまうのか?
なぜレストランのメニューで3行目を選んでしまうのか?

アマゾンで商品説明が大量にあるんですが、それらを読むだけで興味津々w


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この記事へのコメント
               
毎日ブログを楽しみに拝見しております。行動観察の本はこのブログを見てすぐ買いました。なぜなら仕事柄、ワーキングマザーの方と接する機会が多いからです。まだ全て読んでないですが、早くも今年ナンバー3以内に入る良書に間違いないです。ご紹介下さりありがとうございました。
Posted by 福田将太郎 at 2011年10月21日 14:21
               
福田将太郎さん

コメントありがとうございます。
私もこの本は、かなりスゴいと思いました。
同じように感じて下さって嬉しいです!

福田さんがワーキングマザーの方と接してらしたら、確かにその章だけで、この本の値段は元取れちゃいますよね。
単に妻を持っているだけの私ですら、グッときましたし。
是非ともお仕事に活かしてくださいませ。

今後ともよろしくお願い申し上げます。
Posted by smooth@マインドマップ的読書感想文 at 2011年10月22日 05:35
               
こんにちは。
祥伝社の萩原です。
私もsmoothさんのブログを拝読して、
この本、買いました。
面白かったです!
ご指摘の通り、いちばん興味深かったのは書店さんのところでありました。
たぶん、smoothさんのブログを読んでなかったら、この本、手にしてなかったと思います(なんだか難しそう、という印象で恐れをなしたのではないか、と)。
本当にありがとうございます。
Posted by はぎはら at 2011年11月05日 18:48
               
>はぎはらさん

コメントありがとうございます。
また、ブログでのご紹介も感謝です。

やはり書店さんのところは興味惹かれますよね〜。
それと、手にされない危険性(?)があったのは、やはりタイトルのせいかと。
あまりにあざといタイトルも困りますが、もうちょっとキャッチーなものにして欲しかったです。

それと、関連記事で挙げている『なぜこの店で買ってしまうのか』は未読でしたらぜひ!
売り場構成を考える機会がある方ならマストです。
Posted by smooth@マインドマップ的読書感想文 at 2011年11月06日 04:59