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2011年09月10日

【価格戦略】『無料ビジネスの時代: 消費不況に立ち向かう価格戦略』吉本佳生


無料ビジネスの時代: 消費不況に立ち向かう価格戦略 (ちくま新書 924)
無料ビジネスの時代: 消費不況に立ち向かう価格戦略 (ちくま新書 924)


【本の概要】

◆今日ご紹介するのは、『スタバではグランデを買え!』でお馴染みの、吉本佳生さんの最新刊。

2日連続でちくま新書なのは、たまたまであって、特に他意はありません。

アマゾンの内容紹介から。
最初は無料で商品を提供しながら、最終的には利益を得ようとする「無料ビジネス」。こんな手法が社会的に求められるのはなぜか? 日本経済のゆくえを考える。
吉本さん流の『FREE』とも言える快作です!


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【ポイント】

■1.きちんと計算した上で無料ビジネスを行う
 100人の営業スタッフを雇って、年間5億円の人件費をかけるより、3億円ぶんの商品を無料で配付したほうが、たくさんの新規顧客が獲得できるのなら、営業スタッフを解雇して、無料ビジネスに切り替えるほうが利益は増える。あるいは、深夜のテレビCMに年間8億円かけるより、顧客になりそうな年齢層の人が読む雑誌などで計4億円ぶんの無料券を配ったほうが、ずっと効果が高いかもしれない。巧みに無料ビジネスをおこなう企業は、こういった計算をしたうえで無料ビジネスを実践しているはずです。


■2.大型テーマパークでアトラクションが無料な理由
 それなりに高い入場料金を設定している大型テーマパークは、たいていのアトラクションを営業時間中ずっと稼働させるという前提で、人員を配置しています(同じアトラクションがいくつもある場合には、閑散期には半分を動かさないといった選択の余地もあるでしょうが)。たとえば、飛行機型のアトラクションについては、1日に80回動かすと決めているとしましょう。
 すると、誰も乗っていない状態のすぺての座席について、「空席に誰かを乗せるときにかかる追加コストはゼロだから、料金を無料にしてもいい」という話が適用できます。だから、アトラクション無料は、コスト面から考えれば合理的な料金設定なのです。


■3.USJの巧みな価格戦略
 結局、遠くから来る客に対しては、実質的な値上げをしているのです。それも、入場チケットの値上げと、待ち時間節約チケットの多売で、ダブルの値上げ効果になっています。他方、近くに住んでいて、よく来場する人たちには、年間パスの大幅値下げによって、1回当たりの価格をかなり安くしている。すでに説明したような地域別価格によって、利益を増やそうという価格戦略が一貫していて、見事というしかありません。


■4.ネオン街のお店の無料ビジネス
ネオン街の高級クラブが提供するサービスについて、価値を分解してみると(付加価値に分解する、と表現しますが)、「異性とのコミュニケーション」が価値の大部分を占め、他に「お酒・おつまみ」と「場所(席)」が少しずつの価値をもちます。ところが、料金設定をみると、いちばん価値が高いはずの異性とのコミュニケーションというサービス(商品)は、無料になっています。
 他方で、お酒・おつまみと場所(席)の提供というサービスは、他では考えられない高さの料金設定になっています。そうして、やたらに高い場所代(席料)を支払い、やたらに高い料金が設定されたお酒を飲みながらも、顧客が満足して帰るのは、価値の大部分を占める異性とのコミュニケーションが無料だからです。


■5.「無料ゲームを提供して有料アイテムで稼ぐ」という戦略が優れている理由
 第1に、すでに強調したことですが、消費者が完全な無料で逃げ切ることも可能です。
 第2に、原則として、消費者が自発的に無料から有料に移ります。
 弟3に、有料で支払う金額の高さは固定されておらず(非固定、可変で)、消費者が自分で決めます。
 だからこそ、おカネを支払う余裕がまったくない(あるいはちょっとしかない)消費者は、それに応じて、無料のままで(あるいは少額の支払いしかせずに)ゲームをします。その一方で、おカネをたくさん支払えるような消費者は、支払える金額に応じて高額の支払いをしてしまいやすく、しかも、そのときの支払い金額に上限はありません。


■6.資源価格と消費者物価の関係
資源価格が高騰すると、日本ではモノやサービスでみたインフレ(消費者物価上昇)が起きるのではなく、日本人労働者の誰かの賃金が下がるというかたちの「賃金デフレ」が起きやすいといえます。
 しかも、賃金カットにあった人たちの消費は冷え込み、物価下落圧力になります(消費の不振に対して、商品を値下げして対応する企業が多いからです)。だから、2004年からの4年間のようによほど急激なものでないと、資源価格の上昇はむしろ消費者物価を下げてしまう可能性があります。実際に、1998年から2010年でみると、資源価格が高騰する一方で、日本の消費者物価は下落したのでした。


■7.「書店での立ち読み」という無料ビジネス
 改めて考えてみると、書店が立ち読み無料のかたちでやっている無料ビジネスは、これがあるから本が売れるといっていいもので、日本の出版ビジネスの中核にあります。それなのに、その書店との関係を考えずに、安易に電子書籍で無料ビジネスをしたって、期待通りにならないのは当然です。それなのに「本を売るうえでは、無料ビジネスの手法は効果的でない」と思い込むのは、あまりにバカげています。
 正しくは、すでに書店でやっている無料ビジネスが、本を売るうえでとても効果的だからこそ、まだ誰もが慣れていない電子書籍での無料ビジネスは、よほどくふうしないと効果をもちにくいというだけです。


【感想】

◆本書で定義する「無料ビジネス」とは、商品を提供する側が「最初に、なにかの商品に対する支払いをゼロ円(無料)に設定しておき、全体としては利益の拡大を目指す、ビジネス手法」のこと。

厳密にはこの定義に当てはまらないものでも、「考え方」として、この「無料ビジネス」に当てはまったり、比較する上で有意義なものが、本書ではいくつか収録されています。

例えば第1章では、「2タイプの無料コーヒー」が登場。

「1杯目が無料で、2杯目以降が有料」のパターンと「1杯目が有料で、2杯目以降が無料」のパターンのどちらが良いのか?

上記ポイントの4番目の「ネオン街の高級クラブ」も、厳密には「無料ビジネス」ではないですが、同じようなサービスでも「時間ごとの料金設定」をするキャバクラと比較すると、そのビジネスモデルが明らかに違うことが分かります。


◆大型テーマパークについては、上記のUSJとお馴染みTDLについて分析。

もちろん、「無料ビジネス」の遊園地とは、入場料を無料にして人を集め、アトラクション収入等で稼ぐタイプを言いますから、この2つは「無料ビジネス」ではありません。

ただし、もしこの2つが入場料を無料にしたら、今でさえ混雑しているのが、さらに輪をかけて混み合うことは明らかです。

逆に言うと、無料にしなくとも人が集まるテーマパークなら、入場料を無料にする必要はないワケで。

入場料を有料にしておいて、アトラクションを無料にすることの有用性は、上記のポイント2の通り。

また、「待ち時間節約チケット」(TDLで言うところのファストパス)は、TDLが無料なのに対してUSJは有料です。

この辺の戦略の違いについても、本書の第3章ではかなり掘り下げて分析していますので、ぜひご確認を。


◆そして、現在の停滞した景気状況を打破するための施策として吉本さんが期待されているのが、「ケータイの無料ゲーム」です(上記ポイント5)。

これは俗に言う「フリーミアム」の1つであり、多くの無料ユーザーの中に、少数でも有料ユーザーがいればビジネスが成り立つもの。

かたや「ゼロ円ケータイ」も一種の「無料ビジネス」ですが、こちらは「同じ個人」が支払うタイミングをずらすものに過ぎません。

この両者の比較が行われているのが、本書の第5章。

問題点も指摘される「ケータイの無料ゲーム」ですが、そのビジネスモデルの考え方は、可能であればご自身のビジネスでも取り入れて頂きたいところです。


◆なお、当ブログの読者さんにいらっしゃる「出版関係者」の方なら、第7章の電子書籍のお話は必読。

ちなみに吉本さんは、2011年6月15日から4回に分けて、日経ビジネスオンラインで、電子書籍の価格戦略についてのコラムを書かれてらっしゃるそうです。

電子書籍が出版ビジネスに与えた真の衝撃〜問われる価格戦略:日経ビジネスオンライン

『FREE』の成功を見て、「全文公開無料」に踏み切ったところの多くが失敗に終わってますが、『FREE』を真似るのは、そこじゃないだろう、というお話も本書にはありました。

そもそも再販制度に守られていた出版業界では、価格については今まであまり考えられておらず(本の値段もページ数相応だったり)、それでいきなり「価格戦略」と言われても、対応が難しいのは当たり前なのかもしれませんが……。


私たちの苦手な「価格戦略」について踏み込んだ1冊!

無料ビジネスの時代: 消費不況に立ち向かう価格戦略 (ちくま新書 924)
無料ビジネスの時代: 消費不況に立ち向かう価格戦略 (ちくま新書 924)
第1章 無料ビジネスとは?
第2章 共同購入型クーボン vs. 無料ビジネス
第3章 TDLとUSJのアトラクション無料
第4章 予算制約 vs. 時間制約
第5章 ケータイと無料ビジネス
第6章 消費不況と無料
第7章 電子書籍と無料ビジネス


【関連記事】

【価格戦略】『マクドナルドはなぜケータイで安売りを始めたのか? クーポン・オマケ・ゲームのビジネス戦略』吉本佳生(2010年12月04日)

【スゴ本】「フリー~〈無料〉からお金を生みだす新戦略」クリス・アンダーソン (著), 小林弘人(監修)(2009年12月02日)

【続スタバ】「クルマは家電量販店で買え!」吉本佳生(2008年11月12日)

【今さらでつが(汗)】「スタバではグランデを買え!」吉本佳生(2008年09月16日)

【面白】『頭がよくなる「経済学思考」の技術 』木暮太一(2010年06月07日)


【編集後記】

◆ちょっと気になる本。

イヤになるほど人の心が読める
イヤになるほど人の心が読める

先日『心を上手に透視する方法』をご紹介したばかりなのですが、読んでみたいな、とw


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