2011年08月21日
【目から鱗の経営本】『どうする? 日本企業』三品和広
どうする? 日本企業
【本の概要】
◆今日ご紹介するのは、当ブログらしくない(?)骨太の経営本。土井英司さんがメルマガで激賞されたおかげで、アマゾンでは品切れになっていたため、近所の書店にて購入しました(現在は在庫復活したようです)。
アマゾンの内容紹介から。
成長ありきの経営はもう止めよう。腕時計、ピアノ、鉄などの事例から、日本企業がはまった落とし穴を検証。イノベーション、品質、多角化、国際化の難しさと恐さを示し、活路を探る。経営本というと、苦手に感じられる方(含む私)は多いと思いますが、本書は一気に読み切れる面白さでした!
いつも応援ありがとうございます!
【ポイント】
■1.売上高が伸びているのに利益率が低下し続けているという現状このグラフを見ていると、日本企業が「成長の奴隷」になってしまったのではないかと思えてきます。まるで強迫観念に取り憑かれたように成長、成長とまくし立て、売上高は伸ばし続けてきたものの、その陰で利益を度外視したツケがたまりにたまって、閉塞感を打破できない状況に追い込まれてしまったのではないでしようか。第一次産業には「豊作貧乏」という言葉がありますが、日本を蝕む疾病は第二次産業、なかでも製造業における「豊作貧乏」だと言い切ってよいでしよう。
■2.セイコーは量を追って自滅した
香港の10ドルウオッチに挑み、返り討ちにあってしまったことで、セイコーは大きな痛手を被りました。ローラス計画のような戦略は、結果のいかんによらず、経営資源を釘付けにしてしまいます。何種類もの製品を新たに開発したり、自動化ラインを立ち上げるだけでも、とにかく人手がかかります。金型一式を取り揃え、流通在庫を積むにもカネがかかります。そういう投資が無駄に終わったことで、セイコーは1994年度から多額の特別損失を計上するよう迫られています。
それだけではありません。限られた経営資源を普及帯に張り付けていた間、他の戦線が手薄になってしまったのです。その隙に本丸の中級帯や高級帯を攻め込まれ、セイコーは安住の地まで失いました。
■3.日本企業はコンフォーマンス・クオリティを上げることで原価を下げた
パフォーマンス・クオリティは、顧客に見える素材や仕上げが醸し出すものなので、これを上けるには原価を積み増す必要があります。それに対してコンフォーマンス・クオリティは、製造工程からバラツキを徹底的に排除することによって上がるものです。したがって、上げれば上げるほど材料や作業のムダが減り、原価が下がる類の品質なのです。「品質を上げれば原価が下がる」という関係は、天動説と地動説が入れ替わるに等しいインパクトをビジネスの世界にもたらしました。世界が日本企業を畏敬の眼差しで見るようになったのは、既存の常識を覆す、日本企業の知的な挑戦に気付いたからだったのです。
■4.多角化を試みる際には、既存事業領域とは関係なく狙い打つべき
意外と知られていませんが競争戦略論の大家と呼ばれるマイケル・ポーター教授は一貫して狙い打ちを支持しています。多角化を試みる際は、多角化先事業の利益ポテンシャルを見て是非を判断すぺきで、「どこから」など関係ない、「どこへ」多角化するかが肝心だというのです。これを拡張解釈すれば、いくらモノ造りが上手でも、このアドバイスに従わないから日本企業は儲からないという見立てになるのでしょう。
■5.余剰人員の解消策は出向がベストだった
実際に新日本製鐵が採った善後策を振り返ってみると、最も有効だったのは出向です。これは製鉄所内の遊休地に他社の工場を誘致し、そこに社員を送り込むという施策てす。社員の籍は新日本製鐵に置いたままで、先方の支払う給与が新日本製鐵の水準に満たない差額分は、新日本製鐵が補填しました。この差額補填は新日本製鐵から見れば純粋な持ち出しになりますが、その代わり巨額の投資が要りません。スぺースワールドや半導体事業に振り向けた資金は、差額補填に比べると桁違いに大きなものでした。鉄鋼以外の事業で儲けようなどという邪心は起こさず、差額補填に甘んじておけば、大火傷を負うことはなかったと思います。
■6.新興国で汎用品に手を出すと利益が犠牲になる
前節の末尾で、新興国では汎用品を捨てて、特殊品(ニッチ)で勝負するに限ると書きましたが、アジアでは、売上1000億円、営業利益100億円あたりを目標にするのが1つの知恵かもしれません。そこを超えて規模を拡大しようとすれば、汎用品に手を出さざるをえず、図30に現れているように利益率が犠牲になってしまいます。それを許してしまうと、「豊作貧乏」を味わう羽目に陥りかねません。
■7.新規事業が未来の指揮官を育てる
なぜ新規事業は指揮官を育てるのでしようか。一般に新規事業は安定していないため、次から次に問題が噴出します。そして動きが速いため、目の前に拡がる光景も次から次に変わっていきます。しかも組織が未成熟なため、それに携わる人は何から何まで自分で面倒を見ざるを得ません。要するに、新規事業は圧力鍋のようなもので、人に密度の濃い経験を染み渡らせるのです。そういう環境に身を置いて成功した人は自ずと機を見るに敏となり、絶大な自信を身に付けます。これが効くのです。
【感想】
◆本書はまず第1章で、「成長戦略」の問題点について検証。特に日本においては、売上高が伸び続けているのに利益率は低下しており、「豊作貧乏」状態に陥っている点を指摘しています。
企業が価格を決めれば、どれだけ売れるかは市場に委ねられ、また逆に企業が出荷数量を決めれば、いくらで捌けるかは、蓋を開けてみないと分からない以上、「本質的に売上高は不確定な数字」である、と。
それなのに、売上高を努力目標にしてしまうと、必然的に利益が犠牲になるわけです。
確かに、昨今の「価格破壊」の風潮も、利益を無視している気がしないでもなく。
◆第2章では、「成長戦略」の具体的な失敗例として、時計のセイコーが登場します。
一時はクオーツ時計をひっさげ、スイス時計を駆逐したかに思われたセイコーも、香港の安価製品と正面から競り合って敗北。
さらに後発のスウォッチ・グループに、普及帯のスウォッチから、中級帯のロンジン、ティソ、高級帯のラドー、特上帯のオメガ、雲上帯のブレゲ等、見事なポートフォリオで完全に市場を掌握されてしまいます。
一応、セイコーにも上にクレドール、下にアルバというブランドがあるんですが、成功しているとは言い難く。
そもそもがクオーツに力を入れる前は、高級機械式腕時計もあったのですが、クオーツで鳴らしたセイコーが今さら復刻しても、オメガやブレゲに張り合うのもは難しいでしょう。
◆第3章では、「高品質とは何か?」について言及しており、具体例としてヤマハのピアノが登場。
かつては「工芸品」であったピアノも、ヤマハは技術革新により「工業品」として、従来の100倍もの規模で大量生産し、かつ、上記のポイントの3番目で触れたように、原価削減にも成功します。
一方で、イタリアのフィツィオリというメーカーは、「工芸品」として頂点を極めるべく、「工房」で年産150台未満の体制で王者・スタインウェイに挑戦。
「工業品」として、韓国勢や中国勢に追われるヤマハとは対照的です。
また、ヤマハのピアノの生産は、2010年時点でピーク時の1/8程度まで減っているにもかかわらず、従業員数はピーク時の1/3にしか減っておらず、固定費に苦しんでいるのだとか。
これもやはり、「大量生産」の影響と言えそうです。
◆興味深かったのが、第4章で分析された「多角化」。
一般的に多角化を検討する場合、周辺事業で行なう方が成功しやすそうですが、実はそうでもないことが明らかにされています。
ポイントの4番目に挙げたように、ポーター教授も「狙い打ち」を推奨しており、それができない日本企業を見て「自分が知らない事業に尻込みする経営者の偏好ではないのか」と指摘。
ここでは具体例として、新日本製鐵が登場し、余剰人員対策として「手当たり次第の多角化」が行われたことが明らかにされています。
なお、新日本製鐵に限らず、主要な鉄鋼メーカーはもれなく半導体に挑戦し、基本的に全滅。
確かにNECや日立製作所が白旗をあげるような分野で「地縁」を頼ってもしょうがなかったのかと。
◆さて、第5章では「新興国」を分析するのに、戦後の日本を当てはめ、「日本に進出した業種」で成功したものが、実は現在、アジアにおいても成功していることを明らかにしています。
具体的にどの業種なのかは、本書にてご確認を。
さらに第6章では、かつての日本で成功をおさめた「集団経営」が今や役に立たなくなりつつあることを指摘。
なるほど、現在のような非常時には本田宗一郎氏や盛田昭和夫氏のような「創業経営者」タイプの方が向いてそうです。
具体的に日本企業がどうすべきか、についても触れられているのですが、詳しくは本書にて。
この結論部分の是非はさておき、そこに至るまでの各章の指摘の鋭さに思わず付箋を貼りまくりました。
まさに「目からウロコ」な1冊!
どうする? 日本企業
第1章 本当に成長戦略ですか? 日本が歩んだ衰退の道
第2章 本当にイノベーションですか? 腕時計が刻んだ逆転劇
第3章 本当に品質ですか? ピアノが奏でた狂想曲
第4章 本当に滲み出しですか? 鉄が踏んだ多角化の轍
第5章 本当に新興国ですか? 日本が教えた開国攘夷策
第6章 本当に集団経営ですか?
【関連記事】
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【オススメ】「異業種競争戦略」内田和成(2010年02月04日)
【編集後記】
◆今日の本と同じ三品先生の5年前に出版された新書。経営戦略を問いなおす (ちくま新書)
新書でここまで値崩れしていない(送料合わせたら新品と同じ)と言うのも珍しいかと。
ご声援ありがとうございました!
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