2011年05月19日
【奥義?】『スピーチの奥義』寺澤芳男
スピーチの奥義 (光文社新書)
【本の概要】
◆今日ご紹介するのは、羽田内閣時に経済企画庁長官を務めた、元野村証券副社長の寺澤芳男さんのスピーチに関する1冊。さすが元議員さんの本だけあって、ビジネスパーソンの手によるスピーチ本とは若干違う味わいでした。
アマゾンの内容紹介から一部引用。
参議院議員、野村證券副社長、経企庁長官、MIGA長官......日本で唯一人、「政・財・官」+世界で活躍した著者が、相手の心をわしづかみにする全ノウハウを伝授!「ガチなノウハウ本」と言うよりは、もうちょっと気軽に読めるエッセイかと。
いつも応援ありがとうございます!
【ポイント】
■1.自分の「口」よりも聞き手の「耳」を意識するスピーチだけではなく会議で発言したり、ネゴシエーション――交渉をしたりなど人に話す場合はすべからく、自分の「口」からどんな言葉を出すかではなく、相手の「頭のなか」に何を残すかということを優先して考えることが大事である。
ここをおろそかにすると、聞き手にとって「聞きたくないこと」「聞く耳を持たないこと」ばかり話して総スカンを食う恐れがある。
ようするに自分の「口」よりも、相手の「耳」を意識する。それがスピーチをはじめとするコミュニケーションの鉄則と言えよう。
■2.オバマに学ぶ聴衆の懐疑心を解く法
大統領選に出馬した当時、オバマはシカゴの有名人ではあったが決して全国的な知名度があったわけではない。演説を聞く人たちの多くが「誰?」という感じだっただろう。(中略)
そこで、オバマはどうしたか。ふつうなら必死になって自己弁護に走り、自分がいかにリーダーとして優れているか、声高にアピールするところだろう。けれどもオバマは「みなさんが懐疑的になるのもごもっとも」と受け入れたのである。(中略)
この例から学ぶべきは、聴衆が話し手である自分に懐疑的もしくは否定的な目を向けているような集まりでは、まずそういう聴衆の気持ちをしっかり受け止めること。その気持ちを代弁しながら「そう思われるのもごもっともです」と自分の弱点をさらけ出すことが大事だ。
■3.ビジネススピーチは「結論ファースト」
幸いぼくは「結論ファースト」のコミュニケーションを野村証券で鍛えてもらった。株というのは売りか買いかホールド(持つ)か、結論は3つしかない。お客さんから電話がかかってきたときに市場の状況説明からくだくだ述べていたら、たちまち雷を落とされるのだ。(中略)
コミュニケーションでは常に「結論ファースト」を意識し、習慣づけるといい。自然と誰と何を話すときも「結論ファースト」が身につき、スピーチや交渉にもいい影響をおよぼしてくれるに違いない。
■4.雄弁家・海部俊樹元首相に学ぶスピーチの基本
彼に言わせると、
・カタカナ外来語を使わないこと
・専門用語や難しい言い回しを使わないこと
・ウウとかエエとか言わないこと
の3点に尽きるらしい。彼の話はとにかくわかりやすいのだ。
■5.話の"スペア"を用意しておく
聴衆の反応がいまひとつであれば、「準備したから話そう」という気持ちはスッパリ捨てて別の話をしてみる。それができるように、話の"スぺア"を2つ、3つ用意しておくようにしてている。
つまり「まずこの話をしてみてウケなかったらあの話をしよう。場合によってはそこからあっちの話に発展させてもいい」といったことを考える。それぞれの話については、大唯把にストーリーの組み立てだけつくって、ポイントを箇条書きで記しておくくらいのことをやっておく。それがぼくにとっての「スピーチの準備」である。
■6.「よく聞こえるささやき」がスピーチ力を高める
以前、富士ゼロックスの社長・会長を歴任した小林陽太郎さんから興味深い話を聞いた。
小林さんはぼくとはペンシルべニア大学のウォートンスクールで机を並べた仲で彼は「大の男がスピーチの効果を高めるために、『ささやき』を勉強したことをよく覚えている」という。
実際、ウォートンでは「よく聞こえるささやき」の練習をさせられるのだ。声を落として、でも明瞭に発音しなければならないので意外と難しい。(中略)
ところが、帰国して5年ほど経って富士ゼロックスに入社したとき、アメリカ人やイギリス人の会長・社長らがスピーチをする前に何度も練習をしているのを"目撃"したのである。その練習には「よく聞こえるささやき」も含まれていて大変驚いたそうだ。(中略)
小林さんはこのとき、「よく聞こえるささやき」の練習の有効性を再認識したようだ。英語のスピーチのみならず、日本語のスピーチでも効果的な方法だと思うので、みなさんもスピーチの前にちよっと練習してみてはいかがだろう。ささやき声でも聞き取れる、そんな話し方ができればスピーチは間違いなくうまくいく。
【感想】
◆最後が長くなってしまったので、この辺で。冒頭でも触れたように、本書は新書だけあってか、それほどガチガチなノウハウ本ではありません。
アマゾンの内容紹介だけ読むと、単行本顔負け(?)のうたい文句なので、その点はまずご留意頂きたく。
ただ、逆にエッセイのつもりで読むと、さりげなく深いTIPSが述べられていて、見落としそうになるのが怖いところ。
『日本で唯一人、「政・財・官」+世界で活躍した』という肩書は伊達ではありません。
◆一応、本記事もカテゴリーは「プレゼンテーション」に入れておりますが、実際にはタイトルにあるように「スピーチの心得」的なものがメイン。
何せ、「入念に原稿を作り上げて準備する」よりも、上記に挙げたように「話の"スペア"を用意する」ことを推奨されているくらいですから。
もちろん、プレゼンでも聴衆の反応を見て、ストーリーを変えることができればそれに越したことはないのでしょうけど、まずは当初の予定を完璧にこなせるようになってからの話かと。
ジョブズでさえ(だからこそ?)あれほど入念にリハーサルをしている以上、私たちも地道に準備した方が無難だと思います。
◆そのジョブズですが、本書ではもはや「定番」ともなっている、例のスタンフォード大学でのスピーチの、寺澤さんご自身による和訳を全文掲載。
このスピーチについては、様々な書籍で解説、分析等されていますが、本書でも寺澤さんによって解説がなされています。
なるほど、「●●●●の●●を軸にせよ」、と(一応ネタバレ自重)。
もっとも当ブログの読者さんなら、すでにこの本をお読みかと。
スティーブ・ジョブズ 驚異のプレゼン―人々を惹きつける18の法則
参考記事:【スゴ本】『スティーブ・ジョブズ 驚異のプレゼン―人々を惹きつける18の法則』カーマイン・ガロ(2010年07月11日)
◆……と、ここまでスピーチネタ、プレゼンネタで進めてきておいてアレですが、個人的には著者である「寺澤芳男さん」の「人となり」が面白かったな、と(ヲイw)。
さすがに野村証券の副社長まで務めた方ですから、元から人脈も豊富ですし、そこに加えて政界参戦後には政治家の皆さんも登場。
さらには閣僚の「棒読み原稿」の舞台裏や、細川護煕さんに口説かれて日本新党から出馬することになったいきさつ等、ネタには事欠きません。
終章の「男と女のネゴシエーション」では、還暦を過ぎてから27歳年下の女性と熱愛の末、奥さんと離婚&その女性と再婚し、2年で死別されたお話も。
それにしても、何という波乱万丈の人生を送られていることかと思ったら、何と高校の先輩でしたw/(^o^)\
これはもう、プッシュするのが後輩の務めでございます!
スピーチの奥義 (光文社新書)
1章 最初の一分が勝負
2章 相手の頭に何を残すか
3章 聴衆の心をわしづかみにするコツ
4章 "霞ヶ関流"スピーチを反面教師に
5章 言葉が豊かな人と人脈を作る
6章 英語力を磨いて未来を切り開け!
終章 男と女のネゴシエーション
夫婦関係を上手に保つコツ
あとがき
【関連記事】
【スピーチテク】『スピーチの天才100人』から選んだ10のTIPS(2010年11月01日)【プレゼン】「伝える技術50のヒント」を読んで知った7つのコツ(2009年08月29日)
【テク満載!】ブライアン・トレーシーの 話し方入門(2008年08月03日)
【論理的な話し方】「ロジカル・コミュニケーション」安田 正(2008年05月10日)
【話し上手】「話し上手の法則」田中省三(2008年03月04日)
【編集後記】
◆かなり前の本なのですが、マーケットプレイスで高値で取引されているのがこちら。昇格する!論文を書く (角川oneテーマ21)
新書の中古で1000円超えって、あまり見たことないです。
ご声援ありがとうございました!
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