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2011年05月01日

【数字力】『ウソを見破る統計学』神永正博


ウソを見破る統計学 (ブルーバックス 1724)
ウソを見破る統計学 (ブルーバックス 1724)


【本の概要】

◆今日ご紹介するのは、『不透明な時代を見抜く「統計思考力」』でビジネス書界にデビューされた、神永正博先生の最新刊。

今回は面白そうなネタの数々を、講談社BLUE BACKSから「新書形式」で送り出されています。

アマゾンの内容紹介から。
大学で統計を教える主人公・素呂須譲二のもとに、統計アレルギーの学生や怪しい営業マン、はては文系女子の妻や娘が次々と問題を持ち込んで…。平均、標準偏差から相関、検定、推測統計まで、笑って読めて無理なく理解。難しい数式は一切使わず統計の基本と使い方を会得する。
ひたすら分かりやすく作ろうとされた神永先生に脱帽です!


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【ポイント】

■1.幹部社員に総額1億6500万ドルのボーナスを出したAIGの賞与平均額が無意味なワケ
私が調べられた範囲では、ボーナスを受け取った幹部の内訳は図1・1のとおりでした。100万ドルもらっていない幹部が、327人もいます。100万ドルから200万ドルの間に51人、200万ドルから300万ドルの間に15人、300万ドルから600万ドルの間に6人。そして、600万ドルから700万ドルの間に1人。AIG幹部一人ひとりのボーナス額の間には、こんな差が隠されていたのです。


■2.「過去40年で最大でも23.8%のマイナスにしかならなかった」ポートフォリオの秘密
譲二 まずね、過去40年の株価のデータを用意するでしよ。そのうち、あまり下がらなかった銘柄だけを選んで、ポートフォリオを組む。年間の最大下落率が25%を超える銘柄も混ぜると、信憑性が増すかな。まあ、とにかく、40年でとくに高い利益率だった銘柄に、良くない銘柄を混ぜてブレンドする。でも、全体で25%以上の下落率にならないように。これで、過去40年のデータを分析した結果、最大でも25%以下の下落にしか「ならなかった」ポートフォリオの完成。どう?


■3.「血圧が高いほど年収が上がる」ってホント?
 たとえば、血圧と年収の関係を調べたら、おそらく「血圧が高いほど年収が上がる」という傾向が見られることでしょう。もうお分かりですね。背後に隠れているのは、この場合も「年齢」です。しかし、このような例でも、「血圧が高い人は精力的だから、その結果、年収も高くなる」というような、一見もっともらしい説明をつけることができます。そのような傾向はもしかすると本当にあるのかもしれませんが、実証するためには、最低でも年齢をそろえて比較する必要があります。


■4.事故は前の事故の直後に起きる可能性がもっとも高い
 指数分布において、事件(事故)と事件(事故)の間隔は、狭ければ狭いほど確率が高くなっています。つまり、馬に蹴られて兵士が亡くなる事故が起きてから、次に同様の事故が起きるまでの間隔は、短ければ短いほど高確率になります。つまり、次の事故は、事故の直後に起きる可能性がもっとも高いのです。
 この他にも、一定期間の交通事故、航空機事故、地震の回数、高速道路の料金所への車の到着台数など、一見何の関係もないようなさまざまな現象の回数の分布は、すべて同じ種類の分布、すなわちポアソン分布となり、その間隔分布は指数分布になります。
 したがって、事件・事故は続いて起きる傾向があるのです。


■5.庶民の所得が「対数正規分布」に従うワケ
 もっとも代表的なケースとして、サラリーマンを考えてみます。サラリーマンの給与を左右する要因として、どんなことが挙げられるでしょうか。(中略)

仮に「大卒になると、高卒の1.3倍の所得が得られる」ということにします。(中略)

「自分に合った仕事が割り振られた場合、所得が1・2倍になる」としてみます。(中略)

業績が良い会社に入社できることによって、所得も1.1倍に増えることとします。その他に、配属先の上司に左右される部分も大きいと考えられます。上司に恵まれることで、所得も1.2倍。
「大卒で、自分に合った仕事ができて、高成長している会社へ入社でき、上司に恵まれた幸運な人」と、「大卒ではなく、業績の良くない会社へ入社し、自分に合った仕事をさせてもらえず、上司に恵まれなかった不運な人」がいるとします。あえて単純に考えた場合、幸運な人の給与は、不運な人の、1.3×1.2×1.1×1.2=2.0592倍になります。
 ひとつひとつの差はそれほど大きくなくても、掛け算されると大きな差となって現れます。庶民の世界が、掛け算によって出てくる対数正規分布に従う理由は、庶民の所得が「小さなことの掛け合わせ」で決まっているからという考え方です。


■6.高額所得者の所得分布は、なぜ「べき分布」になるのか
 この水準になると、通常のサラリーマンの給与所得だけでは達成不可能で、何らかの事業所得、株式の売却益などが必要だと考えられます。事業所得、株式の売却益などは、変動が極めて大きいものです。事業は、うまくいけば巨額の利益を得ることができますが、失敗すれば借金を背負うかもしれません。株も同様です。
 べき分布の世界は、いわばブレーキのないF1レースのようなもの。クラッシュするまで止まれず、行き先が天国か地獄かは分かりません。何もかもが行きすぎな世界なのです。このようなワイルドな性質が、所得の分布に反映していると考えられています。


■7.陸上の世界記録の限界は予測できる?
 2006年12月、産経新聞に「陸上男子百メートル9秒29限界? 数学者が予測」という記事が掲載されました。
 その内容は、男子100メートル走の記録は9秒29まで伸びる可能性があるが、男子マラソンは限界に近い。女子マラソンは、まだ8分以上記録が更新される可能性がある、というものです。

(詳細は本書を)


【感想】

◆実はワタクシ、冒頭で触れた『不透明な時代を見抜く「統計思考力」』を、アマゾンキャンペーン目当てでサクっと購入しておりました。

不透明な時代を見抜く「統計思考力」
不透明な時代を見抜く「統計思考力」

Discover - プレゼント:「統計思考力」キャンペーンサイト > プレゼント

しかしこの本、ガチ文系の私にとっては、少々荷が重く、未だ「積読」状態であります(サーセン)。

一方、今回の『ウソを見破る統計学』も、相変わらず荷は重いものの、取り扱ってるネタが魅力的でつい購入。

上記で挙げた以外にも「数学が得意な学生は、プログラマーに向いているのか?」「40歳までに結婚すると長生きできる?」「女子生徒の方が国語が得意と言える?」「金融と山火事のメカニズムが似ているって本当?」といった興味深いネタを、かなり噛み砕いて解説してくれています。

……なのに、理解しきれていない自分がなさけないのですが。


◆また、内容紹介にもあるように、本書では各項目の導入部分は、某国立大学の工学部で統計を教えている「素呂須譲二」(ジョージ・ソロスのもじり)が、家族や学生・営業マンからの疑問に答えたり、ツッコミ返すという設定。

これがまたとっつき易さを醸し出していて、私もつい、リアル書店で購入してしまいました。

こういった会話形式のスタイルで、コミカルにやろうとしてスベる本をたまに見かけますが、本書はかなりこなれており、そこもポイント高し。

「扱っている内容」は硬派なのに、「入り口部分」の敷居の低さで、「統計」という敬遠されがちなテーマを上手に料理されていると思います。

『不透明な時代を見抜く「統計思考力」』と違って、最後まで読み切れましたし。←そのレベルかYO!


◆ちなみに、どのくらい「噛み砕いているか」という事に関して、本書の「はじめに」で、譲二氏が娘のもあさんから「こんな統計の本が欲しい」というリクエストを受けています。
もあ 計算を全部追うところまではいいから、意味を理解して頭に入れたいわけ。たんなる入門書とかノウハウの本じゃなくて、読むだけで統計の素養やセンスが身に付くような本!

譲二 そのためには、計算はともかく、数学のエッセンスだけは伝える必要があるかな。なぜこんなことをやるのか、なぜあんな式が出てくるのか。それに、実際の現象について雑学的に知っていることも意外に役立つ。統計は応用と結びつくと、ぐっと面白くなるからね。統計学はまだ発展中の学問だから、今どのあたりが分かっていないか、っていう話もあるといいかも。
そして、それを実際に書籍化したのが本書である、ということ。

確かにダラダラと計算式が羅列されるようなことはなく、実務でも手計算しないようなものは、「データをソフトウエアに入力すると……」といった具合に、結果だけ取り出して話を進めています。

……私はそのソフトウエアも使ったことないんですけどね。


◆それでも「統計」というモノが今ひとつ良く分からなかった(私のように?)場合は、「統計を使うと、こういうことができる」という知識だけでも仕入れておくことをオススメ。

例えば、「重回帰分析」を使えば、「ぶどう畑の冬期降雨量」「育成期間の平均気温」「収穫期の降雨量」から「ワインの質(価格)」が分かるのだそう(ただしこの件については『その数学が戦略を決める』が詳しいです)。

もっとも、個人的には、ポイントの最後の「陸上の世界記録の限界」の話は、どうもしっくりしませんでしたねぇ。

本書には各種目ごとの現在の世界記録と「理論上の」上限が載っているのですが、「限界間近」の男子マラソンはあと20秒ほどで上限に達するとのこと。

現在の世界記録が2時間4分26秒なので、20秒って割合で考えたら0.26%とかですよ!?

うーん、もう1度読み返さねば。


「これからの時代の一般教養」として読んでおくべきかと。

ウソを見破る統計学 (ブルーバックス 1724)
ウソを見破る統計学 (ブルーバックス 1724)
第1章 統計の基本にストーリーあり

 ボーナスが高い会社を狙え
 間違いだらけの学部選び
 本番に強いのはどっちか
 その数学が就職を決める
 テストの合否を推定せよ
 投資でウソをつく法

第2部 隠れた関係をあぶりだす

 麦酒研究部はB型王国
 大人の事情
 肉で勝つ!
 長生きできる国、できない国
 男と女の分かれ道

第3部 統計の深遠なる世界

 物語で人は動く
 庶民の世界
 お金持ちの世界
 株価の分布は取扱注意
 世界記録はどこまで伸びるか
 世界は分けようとしても分けられない


【関連記事】

すぐに使える『ヤバい統計学』テクニック7選(2011年03月05日)

【ヤバ経再び】『超ヤバい経済学』スティーヴン・D・レヴィット,スティーヴン・J・ダブナー(2010年09月27日)

【スゴ本】「予想どおりに不合理」ダン・アリエリー(2008年12月15日)

ヤバい経済学 [増補改訂版](2007年05月16日)

「行動経済学」友野典男(著)(2006年07月20日)


【編集後記】

◆今日の本に関連して。

歴史は「べき乗則」で動く――種の絶滅から戦争までを読み解く複雑系科学 (ハヤカワ文庫NF―数理を愉しむシリーズ)
歴史は「べき乗則」で動く――種の絶滅から戦争までを読み解く複雑系科学 (ハヤカワ文庫NF―数理を愉しむシリーズ)

『複雑な世界、単純な法則』のマーク・ブキャナンの作品です。

結構面白そうなヨカン。


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この記事へのコメント
               
書評ありがとうございます。smoothさんに書評して頂けるとは思いませんでした。

極値統計がちょっとわかりにくかったということですが、話が微妙すぎるからかもしれませんね。地震の強さや津波の高さの限界値をはじきだす方が差が大きく出て、イメージしやすかったかもしれません。

ガチ文系と謙遜されつつ、極値統計で記録の伸び率に着目されているところをみると、実は数学的センスが鋭い方に違いありません。

理系の世界へようこそ!

支離滅裂になってきてしまったので、このへんで失礼します。
Posted by 神永正博 at 2011年05月05日 09:19
               
>神永先生

著者様直々のコメントありがとうございます。
本自体はかなり面白く読めました。
今回のご本のような、会話形式のご本の中ではピカイチではないか、と。

数学は中学時代の通信簿で、唯一最後まで「5」が取れなかった科目であり、自分の中では「黒歴史」だと思っております。
当分は立ち寄れない(?)かもしれませんが、また機会がありましたら……。
Posted by smooth@マインドマップ的読書感想文 at 2011年05月06日 02:38