2011年03月26日
【ヒットの秘密】『遠足型消費の時代 なぜ妻はコストコに行きたがるのか?』中沢明子,古市憲寿

遠足型消費の時代 なぜ妻はコストコに行きたがるのか? (朝日新書)
【本の概要】
◆今日ご紹介するのは、久しぶりのマーケット本。登場するのは、『高額ではないけれど激安価格でもない「必ずしも必要ではないもの」』の数々です。
本書の冒頭の「次のような方にお勧めです」というリストの中に
*ニトリとイケア、ユニクロとH&Mの違いがわからない方とあり、なるほど納得。
さらには、「食べるラー油」の発信元がアノ雑誌だったとは!?

【ポイント】
■お父さんチェックリスト◆本書の「はじめに」には、本文で登場するアイテムの中から10個を選んで作った「チェックリスト」が登場します。
・「DEAN & DELUCA(ディーン&デルーカ)」のトートバック
・蒸し器「Lekue(ルクエ)」
・「辛そうで辛くないラー油」
・スーパー「Costco(コストコ)」
・柔軟剤「Downy(ダウニー)」
・雑誌『Mart(マート)』
・「SOHOLM(スーホルム)」のトートバッグ
・インテリアショップ「IKEA(イケア)」
・"雑貨"問屋「松屋」の「針葉樹の洗濯板」
・蚊帳生地の台ふきん「花ふきん」
これらのうち、5つ以下しか知らなければ「お父さん」なのだそう。
この本は、世の中の「お父さん」がしらないところで売れているものたちを描き、その仕組みを解明するための本です。そして、その「お父さん」が知らない「女こどもマーケット」が、意外とバカにならない大きさなんですよ、と主張したいと考えています。いや、ぶっちゃけ私は、たまたま先日の小室さんの本でルクエを知っていて、かろうじて「お父さん」を免れたのですが、名前すら見たことない製品がいくつかありました。
読者の皆様はどうだったでしょうか?
■「遠足型消費」の時代とは?
◆そもそも、タイトルにある「遠足型消費」とは何ぞや?
そのキーワードは「キラキラ」である、と。
スパンコールやラインストーンで実際に「キラキラ」光るように装飾されていなくても、「女こども」の目に映った時、特別に発光する「何か=キラキラ」を持っていることが「売れる」条件です。この理論でいくと、イケアやH&Mはキラキラしていて、ニトリやユニクロはそうでないそう。
何のこっちゃw
とりあえず今の段階では、「日常と地続きではあるけれども、どこかで私たちの気分を浮き立たせてくれる魔法のようなもの」とイメージしておいてください。大丈夫です。読み終わった時には、「やっぱり『リーマルシェ』のセレクトは、いつも間違いないよな」とか「最近思うんだけどさ、ニトリって一回りすると意外と使えるものもあるんだよ」という会話が自然に出来るようになっていますから。えー、個人的には、大きな本屋さんや文房具屋さんに行くと「キラキラ」しているような気がするんですけど、これはちょっと違いますね、分かりますw
■信頼される雑誌『LEE(リー)』
◆上記チェックリストのうちのいくつかのヒットの陰にあったのが、雑誌『LEE』と、その通販サイト「リーマルシェ」
雑誌『LEE』はコンビニ等で見かけるので知っていましたが、「リーマルシェ」については全く知りませんでした。
何とこちらは、コンスタントに年間7億円を売り上げているとのこと。
写真もスタイリングも商品コメントも、『LEE』本誌を作っているスタッフによるものだけあって、世界観にブレがありません。
◆一方、雑誌『LEE』も、この雑誌不況の中、2011年1月号は軽く50万部超えを達成。

LEE(リー) 2011年1月号
その特徴は
流行をなんでも取り入れる姿勢は絶対にとらず、雑誌の価値観やスタイルに沿った服やモノを、丁寧に、また、何度も「定番ブランド」としてさりげく紹介するところにあると言えるかと。
読者は『LEE』を信じ、その結果このような流れが生まれます。
『リー』を読んでいたら、お勧めの商品が欲しくなった→買う瞬間、とってもワクワクした→実際に使ったら、日常空間がキラキラした→おかげで毎日の生活に潤いが出た→ちょっと値段は張ったけれど、買ってよかった→必ずしも必要でないものが、必要不可欠の愛用品になった→やっぱり、『リー』を信用して間違いがなかった。まさに、読者とメディアとの間に、見事な信頼関係ができていますね。
■ヒット商品の仕掛け役、雑誌『マート』
◆そして冒頭の「食べるラー油」のヒットの火付け役だったのが、雑誌『マート』。
![Mart (マート) 2011年 05月号 [雑誌]](http://ecx.images-amazon.com/images/I/61l4S7QjDmL._SL75_.jpg)
Mart (マート) 2011年 05月号 [雑誌]
私は「食べるラー油」は、てっきり「ネット発」のヒット商品かと思ってましたが、
フード・コンペティションに特別招待されていた『マート』読者50人が「バイヤー一押しのたれ系調味料」より「辛そうで辛くない少し辛いラー油」に注目。誌面で報告したり、ブログで「3歳の子どもでも食べられる」と紹介したりしたところ、売れ始めたのだそうです。
まぁ、上記のとおりブログにも書いてるワケですし、Twitter等でやたらと見かけたことからも、途中からはネットで広まったと言えないこともないですが。
それ以外にも『マート』は「コストコ」「イケア」「ルクエ」等も、誌面で仕掛けてきた実績アリ。
『LEE』に比べると、良い意味で敷居が低く、一切背伸びをしてないのが『マート』の特徴です。
◆さらに昨今のホームベーカリーブームの裏にも『マート』の影が。
ここ数年、ホームベーカリーが盛り上がりかけていたのはなぜかというと、実際に流行し始める、ずっと前から『マート』が盛り上げようとしていたからです。以前、女性誌編集者がこう言っていました。「『マート』はすごいと思うよ。だって、誰もが持っているわけじゃなかったホームベーカリーを、あんなに何度も推すなんて、普通の雑誌には出来ないもん」。また、『マート』の特徴として挙げられるのが、タイアップ広告かと思ってしまうほどの「企業のおもてなし」ぶり。
2010年10月号では、『ファブリーズ』と『ダウニー』の「飾り見せ収納」の特集が。
![Mart (マート) 2010年 10月号 [雑誌]](http://ecx.images-amazon.com/images/I/51qoL7JqAlL._SL75_.jpg)
Mart (マート) 2010年 10月号 [雑誌]
顔写真入りの読者が提案する「飾り見せ収納」を10ページも展開している前のページは、「ダウニーエイプリルフレッシュの香り」(ダウニーの香りのファブリーズ))のタイアップ広告記事だったのだそう。

ファブリーズ ダウニーエイプリルフレッシュの香り 本体 370ml
これはもう、アサマシエイターとしては見習いたいテクニックですね。←違うw
【感想】
◆他にも面白いお話が多々ありましたが、ボリュームの関係でこの辺で。本書を読んで「意外に雑誌が健闘している」ことを初めて知りました。
そして、上記でご紹介した2誌をほとんど読んだことのなかった私は、流行に敏感だとは、とても言い難く。
そもそもテレビを、まったくと言ってもいいくらい観ていない時点で、むしろ流行に疎い方なのかもしれませんがw
◆もっとも、雑誌が特定の読者に向けて、強いメッセージを発しているのは、昔からのことではあります。
その辺については、この本が詳しかったり。

ターゲット・メディア主義―雑誌礼讃
参考記事:「ターゲット・メディア主義―雑誌礼讃」 吉良俊彦(2006年04月10日)
また、独自のライフスタイルを提案し、特定の商品を激プッシュして、その商品の売上をあげる、というのは、かつて(今も?)雑誌『LEON』の得意としたところで。

LEONの秘密と舞台裏 カリスマ編集長が明かす「成功する雑誌の作り方」
参考記事:『LEONの秘密と舞台裏』 岸田一郎 (著)(2005年09月12日)
ただ、昔と違うのは、今はTwitter等のソーシャルメディアによって、従来以上に口コミが広まりやすいことかと。
その辺をうまく設計して、現代のヒット商品は作られているのかもしれません。
◆本書は、取り扱っているアイテムに身の回りの物が多い分、マーケティング本としては、かなり読みやすくなっています。
新書としては異例なくらい脚注が多いのですが、「ネタか?」と思う位くだけたものもあり、とにかく堅苦しさからは無縁。
上記のチェックリストで5つ以下だった人は、一般常識的に読んでおくべきだと思います。
……本書に登場するショップやショッピングモールが揃っていることから、「現代日本の中心地は埼玉県と言ってもいいのではないでしょうか」というクダリにはたまげましたがw
これからの消費を読み解く1冊!

遠足型消費の時代 なぜ妻はコストコに行きたがるのか? (朝日新書)
1章「モノが売れない時代」に「女こども」が買っているモノ
1-1 嫌消費世代と超節約族がモノを買ってくれないって本当?
1-2 「キラキラ」した空間で、ウキウキと買い物がしたい
1-3 「非日常」と「日常」の間にある「キラキラ」
2章「海外旅行型消費」から「遠足型消費」の時代へ
2-1「遠足型消費」の時代
2-2 日常の中の「遠足」たち
2-3 ショッピングモールに「遠足」へ
3章 デフレ消費論・格差マーケティング論の嘘
3-1 デフレ消費論は本当なのか?
3-2 「バブル」は本当に終わったのか?
3-3 「マス」は本当に崩壊したのか?
4章 雑貨って言うな!
4-1 信頼される雑誌『リー』の秘密
4-2 食べるラー油の仕掛け役『マート』の秘密
4-3 雑貨は、こうして売れている
5章 「新しさ」に惹かれる私たち
5-1「共感」消費時代
5-2 ショッピングモール時代の終わり?
5-3 モノを売るのは悪いことですか?
6章 キラキラ消費の未来
6-1 キラキラ・チャリティを狙え!
6-2 埼玉化する社会
6-3 「女こども」化する社会
【関連記事】
【スゴ本】『ソーシャルネイティブの時代 ネットが生み出した新しい日本人』遠藤 諭(2011年02月13日)【ブログ心得】『マキコミの技術』でブロガーが確認すべき8つのこと(2010年12月18日)
【骨太】『コトラーのマーケティング3.0 ソーシャル・メディア時代の新法則 』(2010年09月08日)
【スゴ本】『売り方は類人猿が知っている』ルディー和子(2010年08月27日)
【ヤバ本】『「情報創造」の技術』三浦 展(2010年05月19日)
【編集後記】
◆もうすぐこんな本が出るようです。
Google英語勉強法 お金をかけずにネイティブから学べる
アマゾンのページにあまり情報がないのですが、目次ページを見ると、結構面白そうなw

この記事のカテゴリー:「マーケティング」へ
「マインドマップ的読書感想文」のトップへ
スポンサーリンク
この記事へのトラックバックURL
●スパム防止のため、個別記事へのリンクのないトラックバックは受け付けておりません。
●トラックバックは承認後反映されます。
当ブログの一番人気!
4月24日まで
Kindle月替わりセール
年間売上ランキング
月別アーカイブ
最近のオススメ
最近の記事
このブログはリンクフリーです