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2010年10月10日

【戦略】『戦略は直観に従う』ウィリアム・ダガン


戦略は直観に従う ―イノベーションの偉人に学ぶ発想の法則
戦略は直観に従う ―イノベーションの偉人に学ぶ発想の法則


【本の概要】

◆今日ご紹介するのは、最近やたらと人気のある(?)「米国の大学教授の本」の新顔。

過去の重要な発見や決定が、あらかじめ意図されたものではなく、いかに「ひらめき」によって生まれたか、を解き明かしてくれています。

アマゾンの内容紹介から。
ビジネスで成功するための創造性、革新性、戦略的思考力は、すべて「一瞬のひらめき=戦略的直観」によってもたらされる。コロンビア大学の人気教授が古今東西の事例からその方法論を紹介する。
その事例も「ナポレオン、ピカソ、仏陀、マイクロソフト、グーグル、グラミン銀行」と多岐に渡っており、まったく飽きませんでした!


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【目次】

第1章 ひらめきと第一感
     ―戦略的直観とは何か

第2章 地球史に残る科学革命
     ―コペルニクス、ニュートンと直観的ひらめき

第3章 右脳と左脳
     ―脳科学が解き明かす知的記憶の働き

第4章 戦略的直観vs.専門的直観
     ―消防士とチェス対局者の脳内

第5章 ナポレオンのヨーロッパ征服
     ―古典軍事論におけるひらめき

第6章 仏陀の闘い
     ―初心に帰る道

第7章 ビル・ゲイツとグーグルが命運を懸けたもの
     ―ビジネスにおける戦略的イノベーション

第8章 社会的企業の実践経営
     ―アメリカ社会運動とグラミン銀行の現場から

第9章 アフリカ彫刻と食事をするピカソ
     ―創造性は盗めるのか

第10章 戦略的直観は教えられるのか
     ―デューイの教育論

第11章 ケネディのアポロ計画
     ―環境が進化をもたらす


【ポイント】

■1.戦略的直観とは何か
戦略的直観は、漠然とした予感や本能的な直観のような「単なる直観」とは一線を画す。単なる直観とは感情の一形態であり、思一思考ではなく感覚である。戦略的直観はその正反対の概念で、感覚ではなく思考なのだ。明確で傑出した思考をもたらす突然のひらめきが、人々の脳裏にある霧を晴らす。ひらめきを得た瞬間、感情的に高揚しつつも、思考自体は冷静沈着である。ついに自分が進むべき道が明確となり、気持ちが高ぶってくるだろう。


■2.ナポレオンのトゥーロン攻囲戦成功の鍵
実際にはナポレオンは、幾日もかけてレギエットの砦奪取の戦略を練り、他の下級士官たちに相談している。成功に終わったナポレオンの戦略を練るにあたり、ナポレオンが参照した情報源が何であったのか、後世の戦史研究家が解き明かしている。等高線地図、軽カノン砲、アメリカ独立戦争、そしてジャンヌ・ダルクである。


■3.ジョミニクラウゼヴィッツの相違点
われわれはこの問題を掘り下げて、ジョミニとクラウゼヴィッツの相違点をニつの言葉で集約した。すなわち、「目標」と「決め手」の違いである。ジョミニ側の見解によれば、勝因は、目標地点において相手よりも自分の勢力が優っていることにある。一方、クラウゼヴィッツによると、勝因は決め手となる地点で相手よりも自分の勢力が優っていることにある。ジョミニの戦略的計画では、最初に目標地点を定めて、その後そこに到達するように計画する。一方、クラウゼヴィッツの戦略的直観では、頭の中で結びついた青写真の一部として決め手となる地点が浮き彫りになる。あらかじめ目標地点がわかったうえで物事を始めるということはない。


■4.マイクロソフト最初の成功であるMITS(Micro Instrumentation and Telemetry Systems)との契約
 MITSとの契約は、戦略的直観の働きを示す好例といえるだろう。ゲイツとアレンは、他者が発明したアルテア、8080チップ、BASIC、そしてPDP-8の四点を組み合わせたのだ。二人の平常心がひらめきを生み、新たな組合せを導き出したのである。このひらめきは、二人がそれ以前には考えもしなかったソフトウェア会社の設立という目標変更をも伴った。少し前までゲイツは休暇をシアトルで過ごすために帰郷の準備をし、アレンはボストンのハネウェルで勤務していたが、次の瞬間には二人は新たな方向に舵を切っていた。


■5.ゼロックスのパロアルト研究所を訪問したジョブズに起きたこと
 このとき、ひらめきがジョブズに語りかけた。ジョブズは「目がくらんだ」。彼には他の二つものは「目に入りさえもしなかった」。そして10分も経たぬ間に、「確信した」。ゼロックスのGUIは、マウスを使ってカーソルを動かすものだった。GUIは、ジョブズの頭の中でアップルの小型コンピュータと結びついた。ゼロックスのコンピュータは、冷蔵庫ほどの大きさがあり、ゼロックスには小型コンピュータを作る意向はなかった。そこでジョブズは、自らGUIを使った小型コンピュータの製作に乗り出したのである。
 この結果生まれたのが、初めてGUIを搭載したパソコン、マッキントッシュ(MAC)である。


■6.グラミン銀行設立もユヌスの直感的戦略の賜物
 グラミン銀行創業の経緯を詳細に見ると、ユヌスが最初からビジョンを持ち、実行計画を策定したのではないことがわかる。ユヌスは、過去の事例からグラミン銀行の設立というビジョンを得て、当初の計画を大幅に変更した。ジョルバ村をラティフィーとともにまわってソフィア・べガムに出会ったとき、ユヌスには素晴らしい平常心があった。彼は、クラウゼヴィッツの教えどおりに、予想外の出来事に心を開いていた。ユヌスは緑の革命を研究する経済学者としてジョルバ村にやって来たが、帰る頃には貧困者に対する資金提供者に一転したのである。


■7.ピカソのキュビズム誕生
 ピカソはひらめきを得た。このタイミングからすると、どの要素を結びつけたかがわかる。マティスの『生きる喜び』とアフリカ彫刻である。この結果、ピカソにとって突破口となった傑作、『アヴィニョンの娘たち』が生まれたのである。ピカソの絵には、マティスの新スタイルと共通する重要な要素、すなわち、歪んだ形、非現実的な色彩、そして陰影や遠近法のない平面的な描写が存在する。また、べージュとえび茶色という同様の色調を用いており、女性のポーズも似通っている。それにもかかわらず、この二つの作品は全く異なるものに見える。アフリカ彫刻に影響を受けたピカソの絵はデコボコして角張った描写になっており、マテイスの描く柔らかい曲線とは好対照をなしていたのである。

ポスター パブロ ピカソ アヴィニヨンの娘たち 額装済 ウッドベーシックフレーム(オレンジ)


【感想】

◆本書で何度も出てくる「直感」という言葉に、この本のことを思い出した方もいらっしゃるかもしれません。

第1感 「最初の2秒」の「なんとなく」が正しい (翻訳)
第1感 「最初の2秒」の「なんとなく」が正しい (翻訳)

私も読み始めた直後は、てっきりこの話かと思っていましたが、ちょっと違っていました。

例えば、この『第1感』で論じられているのは「専門的直感」と言われるもの。

要は、「パターン認識」によって処理スピードを上げる、「瞬間的な思考」の一形態に他なりません。


◆一方、「戦略的直感」は、直感的ひらめきは一瞬で起こるものの、その瞬間が到来するまでには、時には何週間もかかります。

上記ポイントでは挙げていませんが、本書によれば、仏陀が悟りをひらくまでには6年かかったそう。

ですからむしろ、「戦略的直感」が起きる前に、「専門的直感」によって即断する危険を避ける必要があるとのこと。
そこで未知の世界で戦略的直感を十分機能させるためには、専門的直感のスイッチを意図的にオフにすることが求められる。古い点同士のつながりを断って、新しい点同士が結びついていくようにしなければならないのだ。
本書では様々な事例を通して、この「戦略的直感」について掘り下げています。


◆また、一般的に私たちが考える「戦略」とは、上記ポイント3の「ジョミニの戦略的計画」であることが多いよう。

まず、「目標地点を決定」し、そこに達するための「計画を練る」

何ら違和感はありませんし、世界中でビジネスその他のあらゆる組織において、一般的に採用されています。

ただし、本書に登場するような事例は、その枠を超えたからこそ、成功したと言えるかと。

少なくとも「ひらめき」の前後で、方針は大きく変わっていることがほとんどです。


◆本書には、この「戦略的直感」を身につけるための有益なアドバイスを含んでいる事例が多々。

特に、アイデアを盗んでいる他者の影響を受けている」ケースが多いのが特徴的でした。

また、一見、元から意図していたように見えても、詳細を調べると、偶発的であったり。

私個人としては、「人生行き当たりばったり」といいますか、あまり目標を立てないタイプなので、本書の考え方は結構しっくりきました。←違うw


現代の閉塞感を打開できるのは、本書の考え方だと思われ!

戦略は直観に従う ―イノベーションの偉人に学ぶ発想の法則
戦略は直観に従う ―イノベーションの偉人に学ぶ発想の法則


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【編集後記】

◆戦略本つながりで、新しく買った本の合間にちんたら読み続けているこの本をご紹介。

ストーリーとしての競争戦略 ―優れた戦略の条件 (Hitotsubashi Business Review Books)
ストーリーとしての競争戦略 ―優れた戦略の条件 (Hitotsubashi Business Review Books)

下手したら今年ベストのイキオイなんですが、ハードカバーな上に500ページ超なんで、なかなか鞄に入れられず、明け方4時過ぎとかに数ページ読んだりしてますw


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この記事へのコメント
               
『戦略は直観に従う』の詳細なご紹介、ありがとうございます。本書の事例がまとまっていて、非常に分かりやすいですね。

原著者も「戦略的直観という概念は、自分自身で生み出したのではなく、盗んだのだ」と言っていますし、「Immature poets imitate, mature poets steal.」というエリオットの言葉を好んで引用しているくらいですから、読者の皆さんも是非、本書から様々なアイディアを「盗んで」もらえたら嬉しいです。

訳者より
Posted by KicoS at 2010年10月10日 16:34
               
>KicoSさん

翻訳者さま直々のコメントありがとうございます。
自分がポーターの本を読んでいなかったため、今ひとつ深いところまで突っ込んで行けなかったのですが、本書はとにかく事例が豊富で楽しめました。

記事にも書いたように、さすが東洋経済さんの戦略本は手堅いな、と(笑)。

今後ともよろしくお願い申し上げます。
Posted by smooth@マインドマップ的読書感想文 at 2010年10月11日 04:06