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2010年08月07日

【オススメ】マルコム・グラッドウェル『失敗の技術』に学ぶ2種類の失敗


マルコム・グラッドウェル THE NEW YORKER 傑作選2 失敗の技術 人生が思惑通りにいかない理由 (マルコム・グラッドウェルTHE NEW YORKER傑作選 2)
マルコム・グラッドウェル THE NEW YORKER 傑作選2 失敗の技術 人生が思惑通りにいかない理由 (マルコム・グラッドウェルTHE NEW YORKER傑作選 2)


【本の概要】

◆今日ご紹介するのは、マルコム・グラッドウェル『THE NEW YORKER 傑作選』の第2弾、『失敗の技術 人生が思惑通りにいかない理由』

先月ご紹介した『ケチャップの謎 世界を変えた"ちょっとした発想"』に続く、アンソロジー集です。

今回も興味深いお話が7つ収録されておりますが、私のような「スキルアップ好き」として見逃せないのが、表題となった「失敗の技術」

そこで、この部分について掘り下げてみたいと思います。


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【目次】

(前作が第1章〜第6章までとなっています)
第7章 公開されていた秘密

第8章 一〇〇万ドルのマレー

第9章 画像をめぐる問題点

第10章 借りもの

第11章 点と点を結べ

第12章 失敗の技術

第13章 爆発

【「失敗の技術」について】

■1.ヤナ・ノボトナの突然の変調

◆物語は、1993年のウィンブルドン女子シングルス決勝戦、シュテフィ・グラフヤナ・ノボトナの戦いのシーンから始まります。

スコアは第1セット7-6でグラフ、第2セットは逆に6-1でノボトナが取り、第3セットも4-1でノボトナがリードして、ノボトナのサーブ。

サーブ&ボレーのプレイスタイルを身上とするノボトナにとって、芝のウィンブルドンでのこの状況は絶対的に有利。

この第6ゲームを取れば、ゲームカウント5-1となり、ウィンブルドンでの初優勝は、ほぼ手中に収めたといってもよいほどでした。


◆ところが、ここからノボトナが変調。
 突然それは起こった。ノボトナがサーブをネットに引っ掛けてしまったのだ。いったん動きを止め、気持ちを立て直し、もう一度サーブする――トスをあげ、背中を反らせる――が、今度はもっと悪かった。スウィングが、腕も脚も胴体もすべてが中途半端に見えた。ダブルフォルト。
 次のポイントでは、グラフの打った高めのショットへの反応が遅れ、フォアハンドのボレーをひどく打ち損ねる。ゲームポイントでは、ノボトナの打ったスマッシュがネットに突き刺さる。ゲームカウント五対一になるはずが、四対二。
その後ノボトナは、まったく良いところなく、1ゲームも取れずに終わります。

ゲームカウント6-4、セットカウント2-1でグラフの勝利。

この試合の大逆転ぶりは結構有名らしく、YouTubeにこんな番組(?)まで上がっていました。



注:1分39秒あたりに、ノボトナのダブルフォルトが登場します。


■2.「緊張して固くなる」ということ

◆ここで考えねばならないのが、失敗には「2つの種類」があるということ。

まずは、上記でノボトナが陥った「緊張して固くなる」ことについて。

実は運動神経には、考えながら行う「顕在的なもの」と意識しないで行う「潜在的なもの」の2種類があるそう。
 このふたつはまったく別の学習方法であり、脳内の別々の場所が担っている。ウイリンガム(ヴァージニア大学の心理学者:smooth注)によれば、最初に何か――バックハンドの打ち方なりスマッシュなり――を教わると、頭の中でそれを慎重に機械的に考えながら行う。だがうまくできるようになると、潜在学習システムが取って代わり、いちいち考えなくてもバックハンドが滑らかに打てるようになる。
確かにプロのサーブをレシーブするのに、いちいち考えながらやってたら、間に合いませんよね。


◆しかし、ここに「何らかのストレス」を受けると、「顕在的なシステム」「潜在的なシステム」に取って代わることがあり、それこそが「緊張して固くなる」ということである、と。
 ノボトナがとつぜん崩れたのは、自分のショットを意識しはじめたからだ。だからノボトナはいつもの滑らかな動きや自分のリズムを忘れた。ダブルフォルトを繰り返し、強いカと微妙なタイミングが要求されるスマッシュを打ち損ねた。まるで別人――ゆっくりと慎重に考えながらブレイするビギナーのようだった。
この「意識する」というのが結構クセモノ。

それまで何ら問題なくバックハンドを打っていたテニスプレイヤーが、「バックハンドはどんなグリップなんですか?」と握り方を聞かれた途端に、「意識」するようになってスランプになった、という話を私もかつて聞いたことがあります。


■3.「パニックを起こす」ということ

◆一方、同じ失敗でも「パニックを起こす」ということは、「緊張して固くなる」のとは事情が異なります。

本書ではスキューバダイビングのレッスン中に溺れそうになった女性(モーフュー)がバディ(パートナー)のレギュレータをひったくった例が登場。
 これは"パニック"の典型例だ。その瞬間、思考は停止した。自分がついさっきまで口にくわえていたレギュレータがあることも、バディにふたつのレギュレータがあり、ふたりでひとつずつ使えることにも考えが及ばなかった。
 相手のレギュレータをひったくれば、ふたりの命を危険に曝すことも忘れていた。モーフューを動かしたのは、最も基本的な本能だけ。すなわち「空気を確保せよ」だ。
これはもはや、「思考が停止している」、とも言えます。


◆本書ではさらに、ジョン・F・ケネディ・Jr.の自家用飛行機墜落事件についても分析。

夜間飛行経験の少なかったケネディは「霧が立ち込めるほぼ真っ暗闇な空」のもとで、機体を水平に保てず、揚力を失い、ついには墜落します。
それまでこの島に飛んだときはたいてい、水平線か灯りが見えていた。墜落直前の奇妙な操縦は、ケネディが躍起になって霧の切れ目を探していたためだ。
 ケネディは島の灯りを見つけようと、見失った水平線を取り戻そうと必至だった。国家運輸安全委員会がまとめた報告書の行間には、ケネディの絶望がにじみ出ているようだ。
完全に「パニック状態」に陥っていたことがわかります。


■4.まとめ

「失敗する」という意味では、「緊張して固くなること」も、「パニックを起こすこと」もあまり変わりありません。

しかし両者はむしろ「真逆」だと言えます。
 人間は緊張すると考え過ぎ、パニックを起こすと思考が停止する。
 緊張で固くなると本能を失い、パニックに陥ると本能に戻る。

 同じように見えても、実際はまったく違うものなのだ。
必ずしも、その境遇から脱出できるとは限りませんが、この2つの違いを意識して、自分が置かれた状況がそのどちらかを認識することは、決してムダではないと思います。

例えて言うなら、披露宴の新郎の挨拶をしようとして、大勢の招待客を前にして、暗記した文章がトンでしまうのが前者で、別れたツモリの浮気相手が結婚式場に乗り込んでくるのが後者…って、私の話じゃないですカラ!

それ以上に、どちらか判断がついても絶体絶命であることには変わりないですがw


【所感などなど】

◆1点に絞って書いてきましたが、実はこの件に関しては、本書ではもうちょっと突っ込んだ内容となっています。

例えば「ステレオタイプ脅威」とその対処法や、「どういう人がプレッシャーを受けやすいのか」等々。

詳しくは本書を読んで頂くとして、自分を含め、対処を間違っている方は多いのではないでしょうか?

それでも、パターンを知っていれば、逆の方向に進まなくて済むと思われ。


◆なお、今回取り上げた「失敗の技術」の章を読んでいて、思い出したのがこちらの本。

上達の法則―効率のよい努力を科学する (PHP新書)
上達の法則―効率のよい努力を科学する (PHP新書)

参考記事:「上達の法則」岡本浩一(2006年10月02日)

この本における技能の「言語化」「コード化」のお話と、いざ緊張してしまうと、それがすっ飛んでしまうお話の関係が深いな、と。

もう一度、こっちも読み返してみようかな?

橋本大也さんのブログでも、細かく紹介されており、こちらも必見!

Passion For The Future: 上達の法則―効率のよい努力を科学する


◆上記目次にあるように、この「失敗の技術」は本書の第12章のテーマであり、本書には他にも、グラッドウェルらしい面白い話が計7つ収録されています。

アマゾンの内容紹介で簡単に触れられているので、その部分を引用してみようかと(ちょっと長くなりますが)。

ここを読むだけでも、大体どんなお話が出てくるのか分かると思われw

第7章 公開されていた秘密   
2001年に突如破綻した巨大エネルギー商社のエンロン。情報を隠蔽し、投資家の目を欺いたと検察は主張するが、実は「充分すぎるほど充分な」情報をエンロンはオープンにしていた・・・

第8章 一〇〇万ドルのマレー
ホームレスのような問題は、ひとつずつ対処するよりも、一気に解決するほうが簡単かもしれない。問題の本質は「大半のホームレス」ではなく、ごく一部の「慢性ホームレス」にある・・・

第9章 画像をめぐる問題点
イラク爆撃での米軍航空レーダーと、乳がん検診のマンモグラフィー(乳房X線撮影)には「見たいものが見えない」「見えすぎて困る」など、共通の問題点がある?

第10章 借りもの
NYで上演された劇をめぐり、筆者が執筆した記事の一部が脚本家によって盗作された。グラッドウェルは考えを変えていく。「著作権は本来、どこかの段階で盗用されるものなのではないだろうか?」

第11章 点と点を結べ
同時多発テロが発生した当時、「なぜ事前に予測できなかったのか」とアメリカの情報機関は激しく批判された。だが、事前の兆候から未来を予測することなど可能だろうか?

第12章 失敗の技術
スポーツの大会でも大学受験でも、なぜ人間は「いざという時」に緊張して固くなったり、パニックを起こして頭が真っ白になったりするのだろう?

第13章 爆発
原発事故やスペースシャトル爆発事故のような、科学技術が複雑に絡み合った現代の「事故」を防ぐ手段というのは存在するのか?


◆第1集に比べて、この第2集では、「事件・事故」に関する考察が多い感じ。

第1集が「マニアックネタ(そんなの知らなかった)」であるとするなら、こちらは、「常識が覆される」印象を、個人的には受けました。

日頃、こういった「社会科学系」の本をあまり読まないこともあって、かなり「目からウロコ」が落ちまくり。

ノウハウ系の本では味わえない「知的興奮」が満喫できることウケアイです。


夏休みに読むにオススメな1冊!

マルコム・グラッドウェル THE NEW YORKER 傑作選2 失敗の技術 人生が思惑通りにいかない理由 (マルコム・グラッドウェルTHE NEW YORKER傑作選 2)
マルコム・グラッドウェル THE NEW YORKER 傑作選2 失敗の技術 人生が思惑通りにいかない理由 (マルコム・グラッドウェルTHE NEW YORKER傑作選 2)


【関連記事】

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『第1感 「最初の2秒」の「なんとなく」が正しい』 マルコム・グラッドウェル (著)(2006年03月01日)

【オススメ】「アイデアのちから」が予想以上に面白かった件(2008年11月25日)


【編集後記】

◆申し遅れましたが、今日のグラッドウェル本は、前作に引き続き勝間和代さんが担当されています。

その勝間さんの最新作がコチラ。

勝間和代の学び旅「マナベル」
勝間和代の学び旅「マナベル」

本田直之さんも推薦の1冊です。


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