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2010年05月07日

【交渉】「実践!交渉学」から学ぶ3つのポイント


実践!交渉学 いかに合意形成を図るか (ちくま新書)
実践!交渉学 いかに合意形成を図るか (ちくま新書)

【本の概要】

◆今日ご紹介するのは、「交渉学」についてコンパクトにまとめられた新書。

著者の松浦正浩さんは、「東京大学工学部土木学科卒、マサチューセッツ工科大学都市計画学科修士課程修了、三菱総合研究所研究員、マサチューセッツ工科大学都市計画学科博士課程修了、東京大学公共政策大学院特任准教授」という華麗な経歴の持ち主です。

アマゾンの内容紹介から。

二人以上の人間が、未来のことがらについて、話し合いで取り決めを交わすこと―「交渉」をそう定義するなら、身の回りの問題から国際関係まで、使われる場面はとても多い。本書が扱う「交渉学」とは分野にしばられず、交渉にあたってのフレームワークを築き、当事者全員にメリットが出ることを目指すものだ。小手先のテクニックに終始しない、その基本的考え方と方法、そして社会的意義をわかりやすく解説する。

学ぶ点は多々あったのですが、キモとなるポイントを3つ選んでみました!


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【目次】

第1章 交渉とは何か

 交渉学について
 配分型交渉
 統合型交渉
 利害と立場
 交渉とコミュニケーションと社会運動

第2章 交渉のための実践的方法論

 BATNA(不調時代替案)
 ZOPA(合意可能領域)
 交渉の進め方

第3章 社会的責任のある交渉の進め方―Win/Win関係の落とし穴

 Win/Winの本当の意味
 Win/Winのべールに隠された社会問題

第4章 一対一から多者間交渉へ―ステークホルダー論

 現実の多者間交渉
 多者間交渉の落とし穴
 ステークホルダーの定義が交渉を変える

第5章 社会的な合意形成とは

 合意形成は交渉による利害調整
 ビジネス交渉と社会的合意形成の違い
 ビジネス交渉における社会的責任
 社会的合意形成における価値の配分競争

第6章 交渉による社会的合意形成の課題―マスコミと科学技術

 マスコミの役割と課題
 科学技術と社会的合意

第7章 交渉学についてのQ&A

おわりに――よりよい自分と社会のために、あなたが実践する交渉学に向けて

あとがき


【3つのポイント】

■1.「配分型交渉」ではなく、「統合型交渉」を目指す

◆一般的に私たちが「交渉」と聞いた場合に思い浮かぶのは、「配分型交渉」と呼ばれるもの。

ちょっと極端なケースですが、例えば、「電車に乗っていたら、大富豪がやってきて、自分と隣の見知らぬ人にこう言った」とします。

「ここに100万円の札束があるから、二人で山分けしなさい。二人の分け前について、話し合いで合意できたなら、この札束を二人にあげよう。この場で分けて持ち帰りなさい。この札束を受け取ったならば、君たちは今後一切、連絡をとってはいけない。あと5分で私の降りる駅に到着するから、それまでに決めてくれ。」

分け方は「ぴったり50万ずつ」から、「片方が多くてもう片方が少ない」パターンまでさまざま。

共通点は、二人合わせて「100万円」ということです。

 このような交渉を配分型交渉(distributive bargaining)といいます。distributeとは英語で「配分する」という意味があります。いま述ぺたケースでは、100万円を配分する交渉というから「この交渉distributive bargainingである」と言えます。片方が得すれげもう一方が損をするので、先ほど述ぺたように、「Win/Losee交渉」とも言います。


◆このような交渉では当たり前ですが、「険悪」なムードにならざるを得ません。

ならばどうすべきなのか?

解決策は、配分型交渉から統合型交渉への転換です。統合型交渉とは、英語のintegrative bargainingの訳語ですが、具体的には、ニつ以上の取引材料について同時に話し合うことです。

本書で登場するのが、メーカーと下請けとの間の価格交渉のお話。

価格の問題だけだとお互い譲らず、決裂しそうだったところに、「納期」というファクターを追加した(早く納品する分、値段を上げる)ことにより、お互いが納得する結果になったという。

先ほどの価格交渉の事例でも、価格に加えて、納期が交渉事項として新たに加わったことで、配分型交渉から統合型交渉へと変化しました。つまり、統合型交渉への転換の鍵は、交渉事項(イシューとも呼ばれます)を増やすことにあります。

要は「価値の異なるものを交渉相手と交換すること」で、各人の効用を高めるワケですね。


■2.「利害」と「立場」を区別する

◆交渉学において重要なポイントの1つに「利害と立場の区別」というものがあります。

これまた本書の事例から、交渉学の始祖ともいえる20世紀初頭の経営学者、メアリー・パーカー・フォレット女史の実体験のお話を(ちょっと長いですが)。

ある日ハーバード大学の図書館のある小部屋にいたとき、そこにいた誰かさんは窓を開けておいてほしかったらしいのですが、私は閉じようとしました。そこで私たちは、誰もいない隣の部屋の窓を開けることにしました。これは妥協ではありません。なぜなら、二人ともそれぞれの欲求を無理に抑えているわけではないからです。二人とも本当に望んでいたものを得ることができました。私はぺつに密閉された部屋を望んでいたわけではなくて、北風が私に直接吹き付けることが嫌なだけだったのです。またもう一人の人もその窓をどうしても開けておきたかったわけではなくて、単に部屋の中の空気を入れ替えたかっただけなのです。

この場合において、「窓を開ける」「窓を閉める」は立場です。一方、「空気を入れ替えたい」「北風に当たりたくない」は利害です。

 交渉学では、立場と利害を明確に区別した上で、利害のほうに着目することで、お互い満足のいく合意条件を見つけることを重視しています。真っ向から立場が衝突している配分型交渉でも、利害に着目することで、背後にある利害の「ずれ」を見つけ出せれば、統合型交渉に転換できます。メアリー・パーカー・フォレットの例で言えば、「窓の開け閉め」という立場だけで議論していては、ゼロ・サムの配分型交渉になってしまいます。実は、まったく異なる利害を持っている、ということをお互いに理解することで、はじめて「隣の部屋の窓を開ける」という解決策が見つかり、合意に至ることができたわけです。


◆本書ではこの考え方の有名な事例として、中東戦争におけるジミー・カーター米国大統領による調停が紹介されています。

キャンプ・デービッド合意 - Wikipedia

イスラエルはシナイ半島を侵攻したものの、半島自体への利害は薄く、その目的はイスラエル本土へのエジプトによる攻撃を防ぐことにありました。

一方、エジプトはシナイ半島を領有すること自体に利害があったため、カーター大統領は両者の「利害のずれ」に着目して、交渉を行ったわけです。

……窓の開け閉めから、外交まで、応用範囲が広いですねw


■3.BATNA(不調時代替案)をしっかり準備せよ

◆交渉学における、重要な知見の1つが「BANTA(バトナ)」

これは「不調時代替案」と訳されるものですが、要は、「交渉が決裂したときの対処案として最も良い案」のことです。

本書から具体例を。

いま、あなたはインターネットで知り合いになった佐藤さんから、F社のパソコンBを1台買おうとしています。そのパソコンの性能については、佐藤さんや他の信頼できる情報源から十分な情報を得ることができました。これから値段について交渉しようというところです。

 さて、この状況であなたのBATNAは何でしょうか。交渉が決裂したときの対処策、すなわち、佐藤さんから買わないときの最善の対処策がBATNAです。当然、対処策はいくつでも考えられますが、たとえば次のようなものが考えられるでしょう。

a 同じ性能のパソコンを電器店で買う
b 同じ性能のパソコンを売ってくれる友人を探して買う
c 同じ性能のパソコンをインターネットオークションで買う

この例では、端的に言えば「他の手段で同じ性能を持ったパソコンを買うということ」ですね。


◆さて、このBANTAを準備しておくと、どういう点で良いのか?

本書では、次のようなメリットが挙げられています。

 ●心の余裕ができる

 ●自分が損をする交渉結果には絶対にならない

 ●交渉力になる


詳細については、本書を見て頂くとして、逆に、自分自身は今まで何かの交渉をする際に、全く考えていなかったことに呆然としましたよ(今さら)。


【所感など】

「交渉素人」の私にとっては、この3つだけでも結構お腹一杯なのですが、実はこの辺まででも、まだ本書の半分にも達しておりません(第2章の途中)。

第3章以降は、「多者間交渉」ですとか、「社会的合意形成」といった、もうちょっと複雑な内容が登場。

また、第2章までのテクニカルなお話とはちょっと違って、「学問チック」になるため、今回のエントリも、当ブログ的に重要性の高い部分に絞った次第です。

実際、著者の松浦さんも「ありきたりな交渉"術"の本にはしたくない」というご意志があったようですし、類書をお読みの方にとっては、このスタイルの方が正解なのかも。

ただ、私にとってはこの手の本は初めてだったので、ガンガンに攻めて頂いてもよかったのですがw


◆ちなみに、類書というか本書で何度も登場するのが、その「交渉"術"」の本であるこちら。

ハーバード流交渉術
ハーバード流交渉術

今回の3つのキモは交渉の基本的な要素であるため、こちらの本にもしっかり出ているよう。

…今般、ググってたら出てきたこの本も、ちょっと面白げw(ちょっと難しそうですが)

最新ハーバード流 3D交渉術
最新ハーバード流 3D交渉術


◆なお、本書で何度か強調されているのが、交渉学の本質的な部分について。

交渉学は、当事者全員にメリットがある解決策を見つける手助けをします。交渉の結果、自分が幸せになるだけでなく、交渉相手も幸せにしてあげなければなりません。交渉相手が不幸になるのであれば、そのような交渉は「失敗」でしかないと私は信じています。

これは倫理的な面のみならず、現代のような情報化社会では、一時的な交渉の成功(ひっかけ等により)が、逆に将来において評判等で、マイナスになる可能性がある、ということ。

私も当事者全員が納得できる交渉を目指して、ぜひとも本書の教えを実践したいな、と。


夫婦間から国家間まで活かせるスキルです!

実践!交渉学 いかに合意形成を図るか (ちくま新書)
実践!交渉学 いかに合意形成を図るか (ちくま新書)


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「NYPD No.1ネゴシエーター最強の交渉術」 ドミニク・J. ミシーノ (著)(2005年02月13日)


【編集後記】

昨日のオアゾランキングにも入っていましたが、この本、売れてるらしいです。

星野リゾートの教科書 サービスと利益 両立の法則
星野リゾートの教科書 サービスと利益 両立の法則

前作(?)は一応ご紹介済み。

参考記事:【星野流!】「星野リゾートの事件簿」中沢康彦(2009年07月09日)


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この記事へのコメント
               
こんばんは。

自分の知らない本が紹介されてると
興味を持ちますね。
楽しませていただきました。

またお邪魔させていただきます!

Posted by 書籍の感想とレビュー■まあ at 2010年05月07日 21:30
               
>書籍の感想とレビュー■まあ さん

はじめまして、コメントありがとうございます!
ブログ、まだ始めたばかりのようですが、頑張ってくださいマセ。
私のように時間投下しすぎるのもどうかと思いますがw
Posted by smooth@マインドマップ的読書感想文 at 2010年05月08日 04:35