2010年04月19日
【電子ブック】「電子書籍の衝撃」佐々木俊尚
電子書籍の衝撃 (ディスカヴァー携書)
【本の概要】
◆今日ご紹介するのは、既に一連のデジタル版販売時の出来事のおかげで(?)、その存在自体が広く知れ渡った「問題作」。ディスカヴァー社長室blog: 「電子書籍の衝撃」の衝撃の理由 ●干場
私もデジタル版は初日の12時過ぎに押しかけてしっかり挫折したクチなんですが、翌日には無事捕獲しておりましたw
そのデジタル版を読まれたり、紙の書籍での献本を受けられた方々のエントリーが既にたくさん挙がっておりますので、今さら取り上げるのもどうかと思いつつ、「備忘録」の意味でちょこっと書いてみようかと。
というか、書評系のブロガーとしては、読んでおかないとブログ読者さんに失礼な1冊ですよ、コレ。
【目次】
第1章 iPadとキンドルは、何を変えるのか?
姿勢と距離から見る、コンテンツとデバイスの相性
キンドルの衝撃
これ以上ないほど簡単な購入インターフェイス ほか
第2章 電子ブック・プラットフォーム戦争
ベストセラー作家が電子ブックの版権をアマゾンに
電子ブック、ディストリビューターの広がり
出版社の勝算なき抵抗 ほか
第3章 セルフパブリッシングの時代へ
アマゾンで、だれでも書き手の時代到来!?
ISBNコードを取得する!
アマゾンDTPに、アカウントを登録! ほか
第4章 日本の出版文化はなぜダメになったのか
若い人は活字を読まなくなったのか?
ケータイ小説本がなぜ売れたか?
ケータイ小説は、コンテンツではなくて、コンテキスト ほか
終章 本の未来
電子ブックの新しい生態系
書店の中にコンテキストをつくった往来堂書店、安藤哲也さん
なぜ、未来の書店像として広まらないのか? ほか
【ポイント】
■キンドルの複数のデバイスで読書が続けられるしくみたとえばある日、キンドルのリーダー上である本を34ぺージから45ぺージまで読み進めたとしましょう。次に同じ本をパソコンのアプリで開いて見た時には、ちやんと45ぺージが表示されています。パソコンでさらに54ページまで読み進めれば、次にキンドルリーダーで開くとちゃんと54ページが表示されます。つまり「どこまで読んたか」という情報もすべてのデバイス間で同期してくれるのです。
■電子ブックで求められるプラットフォームとは
多くの人気書籍をラインアップできている。
読者が読みたいと思う本、あるいは本人は知らないけれど読めぱきっと楽しめる本をきちんと送り届けられる。
そうした本をすぐに、しかも簡単な方法で入手できて、その時々に最適なデバイスを使い、気持ちよい環境で本が楽しめる。
■「出版社取り分70%」のエージェント契約の罠
このまま進めば、出版社は「電子ブックの値段が下がっていくこと」と「70%の取り分が減っていくこと」という二重の責め苦にあえぐことにもなる可能性があります。
電子ブックの値段が下がっていけば、高い紙のハードカバーが売れなくなり、出版社の収益を減らします。その減った分を電子ブックでカバーしようとしても、電子ブックの値段が下がっていくのですから70%の取り分は全体としては減って行かざるを得ません。
そうなると、いまのような高コスト体質は維持できなくなるでしょう。そこで低コストでスピーディーなビジネスを展開しているネット企業がやってきて、洗いざらい収益モデルを奪っていくということになっていくのです。
■セルフパブリッシングという潮流
第一に、ソーシャルメディアを駆使して書き手が読者とダイレクトに接続する環境が生まれ、それによって書き手のいる空間がひとつの「場」となっていくこと。
第二に、電子ブックによってパッケージとしての紙の本は意味を失い、コミュニティの中で本が読まれるようになっていくこと。
第三に、セルフパブリッシングの世界では大手出版社かどうかは意味がなくなり、中小出版社でもあるいはセルフパブリッシングする個人でも、購読空間の中で同じようにフラット化していくこと。
■コンテキスト(文脈)が大事なケータイ小説
ケータイ小説というのは従来のいわゆる「文学」「小説」といったコンテンツとは異なって、読者と書き手の双方をくるんだ共有空間のようなものを生み出すためのシステムと呼んでもいいでしょう。
つまり自分とその共有空間がつながるための装置として、べタなリアリティが存在しているというわけです。
■データ配本の問題点
データ配本は、薄く広く、しかも機械的というような配本パターンになることから逃れられません。本の部門(ジャンル)というのがそもそも大ざっぱすぎますし、売上高や返本数だけではその書店に来るお客さんたちの本当の特徴はわかりません。(中略)
これはかつてのマス消費時代、「みんなと同じ本を読んでいればいいや」という時代にはまたなんとか対応できたのですが、いまのようにどんどん好みが細分化していく時代状況になると、もうまったく対応不可能です。
結果として「良い本となかなか出会えない」という事態を招いてしまいました。
■「本のニセ金化」の仕組み
仮に、1万部のうち書店で5000部しか売れず、残り5000部は返本されたとしましょう。そうすると出版社は、この5000部分の代金250万円を、取次に返さないといけないことになります。
そこで出版社はあわてて別の本を1万部刷って、これをまた取次に卸値500円で委託します。そうするといったん500万円の収入になるので、返本分250万円を差し引いても、250万円が相殺されて入ってくることになります。
これこそが、本のニセ金化です。出版社はは返本分の返金を相殺するためだけに、本を紙幣がわりにして刷りまくるという悪循環に陥っていくのです。
【感想】
◆目次や上記ポイントからでもある程度お分かりのように、本書は単純に「電子書籍」についてのみ書かれた本ではありません。もちろん主題は電子書籍なのですが、その「過去」「現在」「未来」を描くために、「出版業界の仕組み」(「パターン配本」「本のニセ金化」等々)や、「音楽業界」についても触れられています。
特に音楽業界に関しては、一足先に(?)「デジタル化への移行」が終わりつつあるので、今まで起きたことを理解しておくことは、電子書籍を考える上ではかなり有益かと。
ただ、若い世代には少ないのでしょうが、私なんぞ「ネットでデジタル音楽を買ったことが無い人間」なので、今ひとつピンとこない部分がありました。
私より上の世代の方々は、この辺についてはじっくり読みこんで理解しておくべきかも(私もですがw)。
◆同様に、出版業界(もしくはかなりの本好き)以外の方だと、あまりご存じなかったりするのが、「配本のしくみ」や、最後に挙げた「本のニセ金化」のお話。
現在の出版不況の要因の1つでもあります。
確かに電子書籍になれば、「返品の山」はなくなりますが、今後もし「取次」自体が介在しなくなると、「ニセ金化」の手法は使えなくなりそうな。
その場合、一気に電子書籍化へシフトするようなことがあれば、「過去の負の遺産」によって倒産してしまう出版社も出てくるのだと思います。
◆なお、本書での佐々木さんの主張の1つは「コンテキスト化」であり、そこには「ソーシャルメディア」が深く関わってくるとのこと。
本書の終章にはこうあります。
具体例として、スゴ本のdainさんのブログエントリーが紹介されていましたので、そちらもご覧あれ。読者の側が教養や文化、知識といったコンテキストを持っていなくても、ソーシャルメディアを経由して流れてきたコンテキストとコンテンツをともに受容することで、そのコンテンツが持っている価値を理解することができるようになるのです。
わかりやすい比喩でいえば、こういうことです。
「あなたのためだけに特別に作られたガイドの音声をイヤフォンで聞きながら、難解な現代アートの展示を見て回る面白さ」
千賀さんはとんでもないものを教えてくれました、「カイト・ランナー」です: わたしが知らないスゴ本は、きっとあなたが読んでいる
カイト・ランナー
◆以前、ビジネスの話をする際には、『FREE』を読んでおくのが常識、というような話がありましたが、出版や電子ブックの話をする際には、本書がそれと同じ意味合いを持ってきそうです。
小飼さんがネタバレ自重されていたので、私も割愛してしまいましたが、本書の主張のもう1つの柱である「アンビエント化」については、やはり本書にてご確認を。
ちなみに、本書は現時点でアマゾンランキングでも上位に付けていますが、丸善オアゾ等のリアル書店でも売れているよう。
その理由の1つが、「本書の素晴らしい装丁のおかげ」(個人的にはかなり「ツボ」なんです)だとしたら、なんとも皮肉なことですがw
私がオススメするまでもない「マスト」な1冊!
電子書籍の衝撃 (ディスカヴァー携書)
【関連記事】
【ブランディング】「ネットがあれば履歴書はいらない」に学ぶ7つのポイント(2010年01月10日)【超仕事術?】「仕事するのにオフィスはいらない」佐々木俊尚(2009年07月20日)
【Amazon】今月号の雑誌『MONOQLO』の「アマゾン全方位読本」は必読!?(2010年02月22日)
【メモ】「本と雑誌と新聞の未来」@ニューズウィーク日本版(2009年11月11日)
【Amazon】今週号の週刊東洋経済は、やっぱり買っとくべきな件(2009年08月24日)
【編集後記】
◆そのアンビエントに関連して(?)、本書に登場したこのアルバムを。ミュージック・フォー・エアポーツ(紙ジャケット仕様)
参考記事:【環境音楽】「Ambient 1: Music for Airports」ブライアン・イーノ(2007年09月24日)
元々は、「Mind パフォーマンス Hacks」の中で、『「聴くことでより集中して思考をすることができる」音楽』として紹介されてたんですけどねw
ご声援ありがとうございました!
この記事のカテゴリー:「ITスキル」へ
この記事のカテゴリー:「企業経営」へ
「マインドマップ的読書感想文」のトップへ
スポンサーリンク
この記事へのトラックバックURL
●スパム防止のため、個別記事へのリンクのないトラックバックは受け付けておりません。
●トラックバックは承認後反映されます。