2009年09月26日
【情報操作】「スピンドクター」でツボだった「情報操作法」7つ
講談社
売り上げランキング: 5905
【本の概要】
◆今日ご紹介するのは、私たちも気がつかずに接している、情報操作を行う人、「スピンドクター」のご本。「スピン」とは、Wikipediaにあるように、「パブリック・リレーションズ(PR)において、特定の人に有利になるような、非常に偏った事件や事態の描写を意味する、通常皮肉のこもった言葉」であり、それに熟練した者を「スピン・ドクター」と言うそう。
本書は、海外での有名なスピン・ドクターや、日本国内での生々しいスピンの実例が満載!
その中から、ツボだったものを7つご紹介してみます。
いつも応援ありがとうございます!
【目次】
第1章 闇に葬り去られる記事
第2章 スキャンダルをモミ消せ!
第3章 国家のスピン
第4章 官僚たちのスピン
第5章 選挙というスピン合戦
第6章 異形のスピンドクターたち
第7章 新たな「スピン」の台頭
【ポイント】
■1.情報提供者の信頼性を突いて「情報の価値を下げる」◆スキャンダルのもみ消し等に用いられるスピンでよくあるのが、「情報の価値を下げる」というやり方。
著者の窪田さんは、実話系暴露雑誌の編集長時代、とある人から頼まれて、スキャンダルになりそうなネタの鎮火を画策。
別の出版社にスキャンダルの情報提供をしてきた人物がいかがわしい旨、その出版社に伝えたことがあるそう。
事実、その問題となったA社の「被害者」の中には、社内の権力闘争で破れて解雇され、A社に恨みを抱いている人間がいたのだとか。メディアにとってネタ元というのは、「弱点」にもなりうるということだ。語る情報に説得力がなかったり、社会性がなかったり、なにか別の思惑を隠していたりという「怪しいネタ元」。今回A社を告発する「被害者」には、どこかしらそんな匂いがしたように思える。
そういう話があると、情報提供してきた人物が実際にその解雇された人間でなくとも、そういった可能性も考えて記事にする必要がでてくるわけです。
結果、そのネタは記事になることなく、ボツになったそう。
■2.特定のメディアにリークして「情報の価値を下げる」
◆他にも、『「赤旗」にわざと情報をリークする』という荒業(?)もあるそう。
地方在住の某スピン・ドクターのお話から。
アクの強さがこういう効果をもたらすのでしょうけど、「スピン」の手法としてはちょっとビックリ。「全国紙や大手地方紙というのはなぜか赤旗に抜かれたネタはやりづらいという傾向がある。共産党系の情報に踊らされたくないという思いも強いだろうし、ネタとして何か『色』がついているのではないかと勘繰るのだろう」
■3.「圧力に屈した」のではなく「自主規制」
◆記事が世に出ないケースとして、何らかしらの「圧力」がかかることもありますが、内部的には「自主規制」するケースも多いそうです。
某企業の大スキャンダルの記事が、ゲラ確認後、営業サイドから待ったがかかったことも。
似たような「自主規制」の例としては、業界の大物に無礼を働いたことに配慮して、会社側が「無期限謹慎」とした北野 誠氏もケースもあるとか(本当のところはわかりませんが)。記事が俎上にあげている某企業が、さるコンビニエンスストアチェーンと非常に親密な関係だということがわかったのである。出版社にとってコンビニエンスストアは重要な販路である。私の雑誌も例に漏れず、書店ではなく90%以上をコンビニに頼っていた。もし、こんな記事を世に出して、大お得意様の機嫌を損ねたら大変である。
■4.「誰得?」な報道も「自主規制」
◆「芸能スキャンダル」の場合は、報道して一時的に雑誌の売上が伸びたとしても、結局「誰も得しない」ゆえに闇に葬りさられることがあるのだそう。
窪田さんの友人の週刊誌記者が、ある人気アイドルグループの一員の、飲酒運転の動かぬ証拠をつかんだものの、結局「大人の事情」でお蔵入りになったのは、「誰も得しない」から。
アイドルゆえに関わる人も多く、CM関係者、スポンサー企業、広告代理店関係者はもちろん、ドラマやバラエティのキャストの入れ替え等々、迷惑がかかる人の数も桁違いなワケです。
なるほど、そういうケースは、てっきりドンみたいな人が握りつぶしているのかと思いきや、思いっきり「大人の事情」による「自主規制」だったとは。これだけ多くの人々から、その週刊誌は、「余計なことしやがって」と恨みを買うわけだ。そして、日本中のファンに与える精神的ショックを考えたら、果たして「誰が得をするのか」という根源的な問題に芸能マスコミは直面する。政治家や政府の不正ならば、損をする人々がいても、「報道」「ジャーナリズム」という"社会正義"が背中を押してくれるが、芸能スキャンダルは「報道」だと社会に受けとられてはいない。
■5.権力者によるもみ消し
◆本書では警察の"暴挙"についても言及しています。
有名なところでは「桶川ストーカー事件」。
ただ、こういう体質は日本だけのものではなく映画『チェンジリング』の元となった事件も、警察がスピンを行った例。警察がはじめから女子大生の声に耳を傾け、捜査をしていれば、彼女は殺されなかったかもしれない――。
この事実をモミ消すため、埼玉県警は被害者が「ストーカー」に対して金銭を要求していたり、風俗店でアルバイトをしていたという虚偽の情報をメディアに流した。要するに、杜撰な対応で「被害者」をスピンによって「風俗嬢」に仕立て上げ、自らへの批判をかわそうとしたわけだ。
ジェネオン・ユニバーサル ¥ 3,990 |
詳細はWikipediaをご覧下さい。
ゴードン・ノースコット事件:Wikipedia(映画のネタバレ注意)
■6.役人にとっては記者は「スピンの駒」
◆最近何かと話題の(?)「記者クラブ」。
ここに所属する記者たちは、一種の「談合」ゆえにネタを均等に与えられながらも、上からは「特ダネ」を求められると言う相反する状況にいます。
その結果どうなるか?
これを証明するのが、窪田さんの知り合いの、引退した中央官庁キャリア官僚の発言。特ダネを与えてくれるのは役人である。彼らも記者が「談合」の中からひとつ頭を抜け出したいことをよく知っている。そこで。「いいネタがあるよ、××新聞さんだけに教えてあげるよ」とニンジンをぶらさげ、記者という"馬"を意のままに操るのだ。
記者クラブが変わることによって、今後どうなっていくのでしょうか・・・?「我々は記者の扱いにはよく慣れている。いかにクラブの記者にこちらの思っていることを書かせるのかということを我々はずっと研究してきたし、実践してきた」
■7.「インターネット掲示板」に工作する
◆窪田さんが『NONFIX ナックルズ』というスキャンダル雑誌の副編集長時代に、Aというある大企業から億単位の訴訟を受けたことがあったそう。
そして、その手の案件では百戦錬磨の弁護士の作った「闘い方のコツ」のレポートの中にあったのが、「2ちゃんねるに積極的にA社の不正を告発するような書き込みをして、相手にプレッシャーを与える」という一文。
結局はその策を使うことなく、訴訟は和解で済んだものの、窪田さんは「あれほど大きな企業にそんなことをしたところで無駄じゃないか」と思っていました。
ところが、ネットに精通するあるジャーナリストにその話をしたところ、「その先生の言うとおり戦ってたら、和解じゃなく勝てたかもしれないぞ」と言われたとか。
確かに、ねらーの皆さんに燃料を投下しようものなら、大炎上必至です罠。『NONFIX ナックルズ』に掲載されていた記事と同じような内容が、ネット掲示板に書き込まれたとしよう。A社として最も恐れるのは、その内容で出版社と争っていることがネット掲示板でも話題になることだ。つまり、A社に批判的な「2ちゃんねらー」たちに、新たな書き込みの材料を与えることである。そこに我々の勝機があったというのだ。
【感想】
◆本書は、著者である窪田さんの豊富な経歴もあいまって、やたらと事例が多く、抜き出すものを選ぶのに苦労しました。本来なら、スピンの主戦場である選挙や議員さんのお話もそれぞれ5章と3章で扱われているのですが、丸ごと割愛。
スイマセン、この辺は背景から説明したりするのがちょっと面倒で。←ヲイ!
特に、安倍元首相の「隠し子騒動」から、「内閣情報調査室」への流れのあたりは、本来なら本書の読みどころの1つかと。
◆他にも、獄中において、メディアを片っ端から名誉毀損で訴えた故・三浦和義氏の逸話も面白かったです。
何でも、さまざまな雑誌を定期購読し、自分の記事を見つけたら訴状を書いていたのだとか。
マスコミは、三浦氏が逮捕された時点で、アヤシイ話でも何でも記事として書き飛ばしていたため、裁判はほとんど三浦氏の勝訴。
結果三浦氏が手にした賠償金は、本人によると2億円以上だったそう。
◆今回その話を読んで、なるほど昨年三浦氏がサイパンで拘束された際に、マスコミが報道しまくったのは、そういうワケだったのかと、今さら納得。
自分は一応「ロス疑惑」等も記憶にありますが、かれこれ四半世紀以上前の話の主人公を、何であそこまで取り上げるのか疑問だったんですよね。
結局どのマスコミも、今までかなり鬱憤が溜まっていたというのが、その理由なのだとか。
◆一方、新聞や雑誌のネタがかなり豊富な割に、比較的手薄だったのが7章で取り上げられていた「ネット関係」。
ただ、その7章では「2ちゃんネタ」や、「グーグル八分」の話に混じって、「アルファブロガーネタ」もちょっとだけ触れられていました。
某著名大企業の広報部長のお話から。
さすがに私のところには「PRビデオ」は届いていませんが、断らなかったら新刊本が毎日のように届くのかもしれませんねー。←ヲイ!「はっきり言って、新聞や雑誌などの"紙媒体"に対して、もはや我々はそれほど重要視していない。失礼かもしれないが、雑誌は50万部を切ったらもうマス(大衆)じゃない。代わりにマスに訴える力があると思っているのが"ブロガー"だ。たとえば、新製品が出たら紙媒体にはプレスリリースをFAXで送るでしょ。でもブロガーには、制作費をかけてつくったPRビデオを添付したメールリリースを送っている。そもそも彼らは、マスコミじゃなくて一般人ですよ。この差でも、我々がどっちを大事にしているかわかるでしょう」
また、「スピン」と言う意味では、アマゾンランキングやアマゾンレビューの問題もあるかと(本書では言及されてませんが)。
◆上記でも書いたように、本書は事例が豊富で、かつ新書であるため、個々の「スピン」の掘り下げ方には若干もの足りなさを感じないこともありません。
ただ、それぞれについて掘り下げられたら、このページ数じゃ間に合うわけもないかと。
むしろ、本書の「おわりに」にあるように、多くの人が気づいていない「世の中に溢れている情報は誰かが意図的に流したものだ」という事実を認識するためには、様々な事例を列挙したこのスタイルの方が適しているのではないでしょうか?
本書を読んで、意外な話が「スピン」だと知って、「えっ!?」となるかもw
情報の裏にある「意図」に気づくために読んでおきたい1冊!
講談社
売り上げランキング: 5905
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「心脳コントロール社会」小森陽一(著)(2006年08月03日)
「CM化するニッポン」谷村 智康 (著)(2006年05月13日)
【編集後記】
◆今日の記事に関係しそうなご本。三橋 貴明 ¥ 1,470 |
私は結構こういうネタ好きなんですが、アクセス数等の反応を見る限り、ジャンル的に難しいのかも。
ご声援ありがとうございました!
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