スポンサーリンク

       

2009年08月07日

【ヒットの秘密】「理系の企画力!」宮永博史




【本の概要】

◆今日ご紹介するご本は、タイトルに「理系」とあって、ビビらされましたが、かなり面白かった1冊。

著者の宮永さんは、「技術マーケティング」「事業化戦略」を専門とするコンサルさんです。

アマゾンの内容紹介から。

問題山積で商品企画がままならない。基本的にモノ余り。何を作っても売れない。そんなメーカーの嘆きが聞こえてくる。一方で、「高くても売れる洗濯機」「消せるボールペン」「安くて、すぐ納品できるカスタムロボット」といった商品を実現したのもまた、現場の技術者たちだ。成功を手にできた彼らは何が違っていたのか。技術力だけでヒット商品は生まれない。理系社員にも企画力が必要である。実際にヒット商品を生み出した現場へと目をやると、そこに共通してあるのは優れた「現場感覚」だった。問題に気づき、それを乗り越える方法を探ろうとする個人や組織の資質である。

そう、企画のタネは、現場にあるんです!


人気blogランキングいつも応援ありがとうございます!




【目次】

第1則 現場は観察するだけでなく、実際に体験する
 現場の技術力の大切さ
 「1年間、ぶらぶらしていなさい」 ほか

第2則 一面からのモノの見方にこだわらない
 規制強化を活かして市場参入する
 便器の節水が成功の鍵に ほか

第3則 使う人が求める究極の我侭こそ、発想基準
 定期券が一人ひとり違うということ
 使う人の「違和感」に気が付くか ほか

第4則 はじめにコンセプトありき
 これまでは定則にしたがって進化してきた
 技術ロードマップの危険性 ほか

第5則 優れた技術は感動を生み出す
 ほんの一瞬を判定するプロスポーツの世界
 隠れたところにすごい技術が ほか

第6則 最初から二兎を追う
 不況時に必要な期待値コントロール
 ロボット事業と「滑らかな動き」 ほか

第7則 異なる分野の技術を結集する
 オープンイノベーションの陰
 ダントツ商品を実現するには ほか

第8則 技術はわかりやすく翻訳する
 プロセッサーとメモリ――ハードウエアとソフトウエア
 メモリをメモリとして売らない会社 ほか

第9則 商品はロングセラーを前提に考える
 ヒット商品をロングセラー商品にする大塚製薬
 商品開発だけでなく、生産技術も重要 ほか


【ポイント】

■業務用布団丸洗い機に「衣類を傷めずに洗う洗濯機」のヒントが

 説明員の話によると、高速回転によって生まれる遠心力で洗浄液がすり鉢状になり、脱水槽の上まで到達するといいます。普通の洗濯機であれば、そのまま洗浄液が外に飛び出してしまいますが、そこに遮蔽板があって、洗浄液は遮蔽板にあたって脱水槽の中心部に戻ってきます。中心部に戻った洗浄液は再び遠心力で外周方向へ移動します。この繰り返しで、洗浄液が布団の中を通過し、布団が内側から丸洗いされるという仕組みとのことでした。(中略)

この展示会には、10人ほどの技術者が足を運びましたが、布団の丸洗い機に気づいたのは、太田さんともう一人の技術者だけでした。


■排水孔の穴を広げて便器の節水をしたTOTOと追従できなかったアメリカのメーカー

アメリカの家庭では、トイレやバスルームなどの修理や改装を、専門家に頼まず自分たちで行う習慣があります。そのため、修理用の部品が日用品スーパーなどで売られています。アメリカの大手陶器メーカーは、こうした需要にこたえるために修理部品を売るための全米販売網を構築していました。排水孔の穴を変えると、それに応じて新しい部品と既存の部品の両方を販売網に提供しなければなりません。全体で見れば、大変な変更になってしまうのです。こうして既存のメーカーは排水孔のサイズを変えることに二の足を踏みます。TOTOはここに目を付けました。


■IMA社の「糸で綴じるティーバッグ」を生んだ「日本人の価値観」

このIMA社が、日本の大手食品メーカーから緑茶のティーバッグ用包装機械の注文を受けたときのことです。最初はリプトン紅茶などと同じように、ティーバッグの口をホチキスで留めていたのですが、IMA社の社員が実際に日本に住んでみて日本人の価値観を体験すると、ホチキス留めの違和感に気が付きます。(中略)

そこでIMA社は、ホチキスの代わりに『糸で綴じる』ことを考えるのですが、その技術開発は容易ではなく、実に3年もの年月をかけたといいます。しかし開発した『糸で綴じる』包装機械は日本の食品メーカーばかりか、今ではリプトン紅茶などのティーバッグにも使われるようになっています。


■日本で商品開発力を磨くP&G

 P&Gはマーケティングのお手本の会社として知られていますが、日本市場攻略にあたっては、必ずしも米国流のマーケティングが通用しないことを理解しました。データ至上主義の米国流を一度忘れ、日本の消費財メーカーと同じように、消費者に密着して商品開発をすることを実践したのです。品質や性能やそのうえコストにも厳しい日本の消費者に受けいれられる製品を開発し、日本市場で成功させたばかりでなく、その企画を世界に売れる製品へと進化させ、日本での製品開発投資に見合うリターンを得ているのです。


■テニスの判定の際に用いられている『ホークアイ』システム

最近のプロテニスの試合をご覧になった方は気づかれたと思いますが、サーブが打ち終わると同時に、ボールの軌跡がアニメーションで表示されるようになってきました。いかにもアニメといった映像ですので、本当のボールの軌跡を正確に表現しているのだとはにわかに信じがたいのですが、実はその裏には高度な技術が隠されています。(中略)

このように『ホークアイ』の成功は、次の3つの技術が核になっていることがわかります。

(1)超高速度撮影カメラ(画像の入力技術)
(2)10台のカメラ映像からボールの立体位置を推定(画像の処理技術)
(3)誰にでもわかりやすい形で表示(画像の表示技術)


■エルゴノミデザイン社がスカンジナビア航空のためにデザインしたコーヒーポット

コーヒーポットにフルでコーヒーをいれると2.5キロもの重さになるます。しかも通常のコーヒーポットは重心が取っ手の部分から離れているために、乗務員たちにとって手や肩を痛めるといった問題があったのです。(中略)

エルゴノミデザイン社のデザイナーたちは、機内に乗り込み、長時間にわたって客室乗務員たちの仕事ぶりを観察しつづけた結果、取っ手を本体の近くに移し、重心を近づけ、コーヒーを注ぐときに手を水平にしたまま注げるようなコーヒーポットのデザインを考案したのでした。

3788add0.jpg





(画像は「メルマガ アイ・ラブ・スウェディッシュデザイン」さんからお借りしました)


■産業用ロボットの安川電機の戦略・『外専内標』

ファナックなどの既存の競合他社に勝つためには、カスタムであるうえで、標準に勝てるような価格と短納期を実現しなければならなかったのです。
 そこで、カスタム品でありながら、低コストと短納期を実現する経営の仕組みを考えていきました。その仕組みが『外専内標』という言葉に集約されています。(中略)
すべてのロボットをゼロから開発するのではなく、会社として共通のプラットフォームを作り、このプラットフォームのうえで、顧客の個別の要望を実現するための変更を加えていくというものです。


■建機メーカー、コマツのICT(情報通信技術)システム・『コムトラックス』

 この(建機に設置された)センサーは、世界中にある建機の位置情報、稼働時間、部品の消耗状況、エンジンの負荷状態、燃料の残量などの情報を集めることができます。(中略)

個々の建機の稼働状況や部品の消耗状況から、適切な交換時期を予測して、保守サービスを行うことができます。


■Suicaカードに内蔵されているアンテナは、『電池』としての役割も果たしている

 注目すべきなのは、普通は情報のやりとりをするためのアンテナを、エネルギーを発生するための役割にも使うという翻訳がなされている点です。当たり前のように思われますが、実は、こうした発想の転換はそれほど容易ではありません。事実、初期の段階では、Suicaカードにもバッテリーが内蔵されていたのです。


【感想】

◆引用部分だけでは分かりにくいものもあったと思いますが、本書も「目からウロコ」級のネタがザクザクありました。

特に、建機のコマツの『コムトラックス』の威力のほどは、本書でぜひ確認して頂きたいところ。

元々、メンテナンス・サポートのニーズから始まったもので、コマツとユーザーの双方にメリットがあったところ、他にも思わぬ効用が見つかったとか。

例えば、エンジンをかけた形跡がないのに、満タンだった燃料が一晩で空っぽになっていたら、「燃料の盗難にあった」とか、建機がありえない速度で動いていたら、「盗難にあっている」とかw


◆そして極め付けがコレ。

 たとえば、2004年の中国市場において、コムトラックスのデータから、建機の稼働状況が減少していることをつかんだコマツは。工場のラインを3ヵ月間止める意思決定をしました。その後、需要が冷え込んだにもかかわらず、コマツは過剰在庫を抱え込まずに済んだのです。このとき、ラインを止めて生産調整するのが、1ヵ月遅れていたら、在庫を抱えて大幅な業績悪化に苦しんだはずです。

もはやメンテナンスどころの騒ぎではなく、会社の「意思決定」の大きなファクターにまでなっているという。

ただし、この技術は、コマツの建機自体の性能を高める主流技術ではないところがミソ。

一見本業と関係なさそうな技術が、思わぬ貢献をする、というケースですね。


◆それと、大学時代はテニスサークルにまで入っていた私なのに、全然知らなかったのが、上記の『ホークアイ』システム。

Wikipediaの「ビデオ判定」の「テニス」欄に、このような記述がありました。

ちょっと長いですが引用します。

ビデオ判定:Wikipedia

テニスでは、イギリスのホーク・アイ・イノベーションが開発を手がけた「ホーク・アイ(タカの目)」(開発者の名前がポール・ホーキンスであることにもちなんでいる)と呼ばれるシステムが導入されている。このシステムはミサイル誘導技術を応用したもので、コート周囲に設置された10台のカメラがボールの軌道を捉え、映像を「ホーク・アイ・コントロールシステム」に送り、ボールがどのような軌跡を描いたか瞬時に映像解析を行う。(中略)

選手はライン際のイン、アウトの微妙な判定に対し、1セットにつき3回までビデオ判定を要求(チャレンジ)する権利を持つ(ビデオ判定の結果誤審であった場合は、要求権は保持される)。ビデオ判定の際には、CG加工された映像が場内の大型スクリーンに映され、観客やテレビ視聴者にもシステムが行った判定の是非が分かるようになっており、ショー的要素も含んでいる。同システムの導入は、プロテニス界にとって1970年のタイブレーク導入以来のルール上の革命とも言われ、単に判定の正確性という観点のみならず、チャレンジ要求のタイミング・巧拙が試合の流れを大きく左右することも少なくない。ルール改正をめぐっては、トップ選手であるロジャー・フェデラーやレイトン・ヒューイットが反対の意向を示すなどして話題となったが、現在のところおおむね好評のようである。


◆どんなものかとYouTubeを漁ってみたら、こんな動画を発見。



これなんか、ありえないくらい際どいですよ(38秒辺りから)。

人間の目じゃ絶対判定できないですって。



まさに、「ルール上の革命」というのもわかります。


◆ただし、こうした技術は、皆、素晴らしいのですが、最終的には企業として利益を上げられなければしょうがないわけで。

上記で挙げたP&Gも、日本での製品開発投資もあって、全社としては20%という高い利益率なのですが、これが日本市場だけに閉じていると、販管費の割合が増え、どんなによくても利益率は10%どまりなのだとか。

つまり、日本国内のみを相手にしてたらかなりキツい・・・って、「ガラパゴス」なんて揶揄されている業界もありますね。

むやみに海外に出るのが良いとも思いませんが、基本的に「日本人相手に商品開発」をすると、「お金がかかる」ということを肝に銘じておきたいもの。


◆本書の「はじめに」で、著者の宮永さんはこう言われています。

企画力といわれて、ついどれほどの独創性や際立つ個性が必要か、と考える人もいるかもしれませんが、大切なのは、それ以前にある考え方や感覚です。正しい考え方や感覚を共有できている現場や組織は、成功を生み出す可能性が高い――筆者はそう信じています。

今回の記事では表現し切れませんでしたが、各社それぞれ理念スタイルがあって、学ぶべき点が多々ありました。

もちろん、実際に何かを製造されている会社の方ならストレートに参考にできるかもしれませんし、私を含め非製造業の方でも「考え方のヒント」を得ることができるハズ。

それ以前に、事例が単純に面白かったんですけどねw


文系の私でも十二分に楽しめました!



【関連記事】

【商品開発の天才?】「ヒットの神様」内田 耀一, コイケ ジュンコ(2009年06月30日)

【枯れた技術の水平思考】「任天堂 “驚き”を生む方程式」井上 理(2009年05月15日)

【オススメ!】「外食の天才が教える発想の魔術」フィル・ロマーノ(2008年03月20日)

【発明】「発明家たちの思考回路」エヴァン・I・シュワルツ(2007年10月12日)

「成功者の絶対法則 セレンディピティ」宮永博史(著)(2006年09月17日)


【編集後記】

◆3年前に出たこの本がいよいよ文庫化です!

(参考記事:『1億稼ぐ「検索キーワード」の見つけ方』 滝井秀典 (著)


情報は今年6月のものにリバイスされているとか。

単行本をお持ちでない方は、この機会にぜひ!


人気blogランキングご声援ありがとうございました!

この記事のカテゴリー:「アイデア・発想・創造」へ

「マインドマップ的読書感想文」のトップへ

スポンサーリンク




               

この記事へのトラックバックURL


●スパム防止のため、個別記事へのリンクのないトラックバックは受け付けておりません。
●トラックバックは承認後反映されます。