2009年07月11日
【渋滞学】『「渋滞」の先頭は何をしているのか?』西成活裕
【本の概要】
◆今日ご紹介するのは、土井英司さんのメルマガを読んで気になっていた1冊。もうすぐお盆ですが、帰省の際にいつも渋滞に巻き込まれる方なら、必読の内容です。
アマゾンの内容紹介から。
自分が車を運転しない事を差し引いても「目からウロコ」の内容でした!車間距離を40m以上空ければ、渋滞は発生しない?年間12兆円ともいわれる渋滞による経済損失を総裁するための鍵は、人の心にあった。本書の著者、東京大学教授の西成活裕は、渋滞のメカニズムを物理学や数学の見地から総合的に解析し、解消法を導き出す「渋滞学」を生み出しました。高速道路の渋滞、電車の遅延、運動会の場所取り、インターネット、流行や噂・・・社会にはびこる様々な「渋滞」にメスをいれます。
【目次】
はじめに
第1章 「渋滞学」へようこそ
世の中は「渋滞」だらけ
「渋滞」を科学する「渋滞学」
なぜ「渋滞」は発生するのか ほか
第2章 「渋滞」の先頭は何をしているのか?
そもそも「渋滞」とは何なのか?
なぜ「自然渋滞」は起こるのか? ~メタ安定の崩壊
なぜ「自然渋滞」は起こるのか? ~4%の上り坂=サグ ほか
第3章 世の中は「渋滞」している
生きものの世界の渋滞
アリの行列と渋滞
意外なところに発生する渋滞 ~「音楽」の渋滞 ほか
第4章 渋滞学が実現する快適社会
問題は「自然渋滞」対策
どうすると自然渋滞はなくなるのか
なるべく分散すべし ほか
あとがき
【ポイント】
■車間距離は詰めすぎないとにかく40m以下の車間が渋滞状態なので、これ以上詰めて走っても何も良いことはない。この40mを渋滞開始の「臨界距離」と呼んでいる。急いでいると車間を詰めたくなるが、詰めれば詰めるほど交通量が低下するため、逆に社会全体で損をすることを覚えておこう。渋滞を避ける上手な運転は、車間をこの臨界距離以下に詰めないで走ることだ。
■渋滞の3つのタイプ
●自然渋滞
●ボトルネック渋滞
●ダンゴ型(アリンコ型)渋滞
(詳しくは本書を)
■自然渋滞発生の原因
高速道路出の自然渋滞を起こすきっかけとなる一番の原因は坂道だ。あるいは、サグ部と呼ばれる、少したわんだような高低差がついている道路部分である。ここでは傾きが緩やかなため、アクセルはそのままの状態で走りやすい。すると上り坂で知らず知らず速度が遅くなってしまう。車は重力の影響でだんだん上る速度が遅くなるのだ。これがメタ安定状態を刺激して自然渋滞を作ってしまう。そして今では高速道路の渋滞原因の半分以上がこのサグ部分で起きている。
■「上り坂、渋滞注意」の本当の意味
これをテレビやラジオで話したところ、看板の意味が今までわかりませんでした、という連絡を多数受けた。最も多かったのは、「坂道に遅い車がいると渋滞になるから、トラックは左車線に寄れ」という意味だと思ってました、というものだ。しかしこれはもちろん間違っている。上り坂だと認知してもらうことで、すべての運転手に速度低下しないようにアクセルに注意を向けてほしい、という意味なのだ。
■渋滞させない運転術「右折は1.5秒で」
右折レーンの長さと、右折信号の秒数は、曲がりきれない車両がないように適切に設定しなくてはならない。(中略)
右折レーンに入った車は、1台につき1.5秒以内で次々に発進していかなくてはならない。もし、自分が先頭から数えて5台目だとしたら、6秒以内に出発できればOKである。
■渋滞の法則「渋滞のし始めは左車線が空いている」
空いているときに、最も車が多く走るのは当然左車線だ。ところが、少し混んでくると、この割合が変わる。皆が早く進みたくて心理的にどんどん右の車線へと移動する。これにより、統計的には左車線が25%、中央車線が35%、右車線が40%という分布になるのだ。したがって、渋滞は皮肉にも一番速いはずの追越車線から始まる。
■急行をなくした結果ダイヤの遅延が減った例
最近、東急田園都市線で、朝のラッシュ時において、二子玉川駅から渋谷方面に向かう列車をすべて各駅停車にした。(中略)
それまでは、各駅停車を追い越す急行列車には乗客が集中するため、乗り降りにも時間がかかり、結果としてダイヤの遅延となったりしたのだが、急行を廃止したことで、逆に到着が2分も早くなったのだ。
■「夜の山手線」はなぜ混雑するのか
帰宅時間は個々人によって異なり、電車の乗車率も分散されているはずなのに、なぜ混んでいるかというと、朝ほど本数を走らせていないからだ。
■障害物があった方が退出時間が短くなる場合もある
被験者50人に幅50?という狭い出口から退出してもらい、障害物として直径20?の円柱を出口から75?離して設置した。6回の実験の平均で総退出時間は障害物があった方が2秒も速かった。(中略)
そしてビデオを分析すると、円柱があった方が人同士のぶつかり合いが少なくなることがわかった。円柱がない場合は人が出口に一気に殺到してアーチアクションが発生するが、円柱のおかげで殺到が抑えられ、衝突が緩和されたのだ。
■稟議書の回転スピードを上げる方法
まず、自分が印を押す書類が回ってきたら、例えば1時間おきなどの定時に必ず内容をチェックして印を押し、次に回すとよい。これを定時運搬と呼び、これにより書類の回転にスピードが生まれる。
【感想】
◆車を運転しないし、旅行にも滅多に行かない私にとって、「渋滞」という現象は、何か「ヒトゴト」のようなものでした。「渋滞?車乗らなきゃいいじゃん」みたいなw
多分、小学生の頃、お盆に叔父の家族に車で長野まで連れて行ってもらった際に「とんでもない渋滞」に毎回巻き込まれたのがトラウマになっている気がします。
あれは運転してくれていた叔父には申し訳ないのですが、苦痛以外の何ものでもなかったような。
◆そんな(?)「渋滞」の謎をわかりやすく解明し、かつ、その対策をも伝授してくれる、というのがこの本。
同じ西成さんによるこちらの本よりも、幾分とっつきやすい切り口になっている感じです。
さらに、この本が出た後も、いくつか新たな実験も行われているよう。
私が動画を見た記憶があったこの記事でも、実は西成さんは、元となった論文の共著者でした。
【衝撃の事実】渋滞は車が多いと発生する。阪大らが実証実験
◆なお、ポイントでも挙げられている「渋滞の3つのタイプ」のうち、ドライバーの意識により防ぐことができるのが、「自然渋滞」。
「車間を詰めすぎない」「無駄なブレーキを踏みすぎない」という方法のほか、私も知らなかったのが、「上り坂での減速防止」。
しかも微妙な上り坂の場合、
というのですからやっかいです。周りの視界が開けているときなどは下りにさえ見えることがある。
その点、運送業者等のプロのドライバーの人は、「いつも速度メーターを気にしながら運転している」そうなので、ご参考まで。
◆個人的にツボだったのが、「急行をなくして遅延を減らした」事例。
ただこれも、急行にばかり殺到するという「目先のことに囚われ過ぎる」ことが原因なわけで。
そして「車間を詰めすぎる」ことも、「追越車線が遅くなる」のも同様です。
「急がば回れ」とは、昔の人はよくいったもの。
また、車以外の「渋滞」の事例についてもいくつか言及されており、今後の研究の成果も待たれるところです。
「知的好奇心」を満たしたい方に!
【関連記事】
【スゴ本!】「なぜこの店で買ってしまうのか―ショッピングの科学」パコ・アンダーヒル(2007年10月09日)【編集後記】
◆速読で名高い栗田先生が、こんなご本を。ちょっと気になる内容ですね。例えば、仕事の効率を高めるため、著者はペーパレス化=紙のスキャニング(スキャン)を勧める。
確かに、膨大な紙の資料は荷物になり、いざ探すときに大変であるが、スキャニングしてデータ化して上手に整理して保存しておけば、場所をとらずに探すのも簡単だ。また、ビジネスパーソンは、業務レポートや調査報告など、いろいろな文書を書かなければならない。そうしたときに速く正確でインパクトのあるものに仕上げるコツを、科学論文の書き方にヒントを得ながら紹介する。
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