2009年07月02日
【論理的思考】「過去問で鍛える地頭力」大石哲之
過去問で鍛える地頭力―外資系コンサルの面接試験問題
【本の概要】
◆今日ご紹介するのは、All About「コンサルティング業界で働く」のガイドでもある大石哲之さんの新作、「過去問で鍛える地頭力」。「地頭力」とあるように、本書の前半は「フェルミ推定系問題」が、後半は「ビジネス系問題」が占めています。
私は正直、あまりフェルミ推定は好きではなかったので、後半部分の問題に期待していたところ、その後半もさることながら、思わぬ形で、フェルミ推定の魅力に気が付きました。
「読んでよかった!」と思えた1冊です!
【目次】
まえがき
PART1 フェルミ推定系問題
Q1 日本の電球の市場規模はどのくらいでしょうか?
Q2 シカゴにピアノ調律師は何人くらいいますか?
Q3 日本に温泉旅館は何軒くらいありますか?
Q4 日本全国では犬は何匹くらいいますか?
Q5 羽田空港は1日に何人くらいの人が利用しているのでしょうか?
Q6 レインボーブリッジを通る車の量は1日何台くらいでしょうか?
Q7 東京都内ではタクシーは何台あると考えられますか?
Q8 エアバスA380の重さはどのくらいでしょうか?
Q9 フィギュアスケートの観客にリンクの氷でカキ氷をつくって食べてもらおうという企画しました。十分なカキ氷はつくれるでしょうか?
Q10 文字どおりの赤道直下には何人くらいの人が住んでいるでしょうか?
PART2 ビジネスケース系問題
Q11 ロンドンオリンピックで日本のメダル数を増やすにはどうすればいいでしょうか?
Q12 羽田空港の利用者数を増やすにはどうすればいいでしょうか?
Q13 おしぼり会社の社長からオシボリの売上げを伸ばしたいと相談されました。どのようにするのがいいでしょうか?
Q14 読売新聞の売上げを増やすためにはどうすればいいでしょうか?
Q15 JR新宿駅の改札口に設置されているロッカーの売上げを増やすための方策を考えてください。
Q16 ある地方にある水族館ではここ1年で客が25%も減ってしまいました。どのような原因が考えられるでしょうか? また対策も合わせて考えてください。
Q17 ある温泉地域の老舗旅館でこのところ宿泊客が減っています。どういう原因が考えられるか論理立てて整理をし、検証するために調べるべきことを簡単にリストアップしてください。
Q18 アメリカンエキスプレスはカード会社間の熾烈な競争にさらされています。思いきって年会費を1円にするというのは、よいアイデアでしょうか?
Q19 銀座で定食屋を開こうと考えている友人がいます。ビジネスをシミュレーションして収益予測をしてみてください。
Q20 マンホールの蓋はなぜ丸いのでしょうか?
【ポイント】
◆本書も「ネタバレ注意」な本ではあるので、具体的な答えについては伏せて、私が「なるほど!」と思わず膝を打った(年バレ)部分をご紹介してみます。■ベースとなるものをいち早く見抜く
◆フェルミ推定を説くコツとして挙げられていたのがコレ。
フェルミ推定の問題は、それぞれ「ベースとなるもの」が異なるため、それを素早く見抜くことが、問題を解くための鍵となるよう。
例えば多くの問題で利用する事ができるこれは人口あたりをベースとする推定なのか?
それとも面積あたりをベースとする推定なのか?
はたまた時間あたりか?
「ベースとなるものは何か?」を見抜くことが大事です。
「総需要=供給量」
というモデルにおいても、
総数=総需要÷1(人、台、棟、時間・・・)あたりの供給数
という式における「人、台、棟、時間」の部分を見抜くのがキモなわけですね。
この「総需要=供給量」モデルと、「そのベースを見抜いて推論する」やり方は、かなり応用が利きそうでした。
■自分が知っている知識に頼って解答しない
◆これは自分でも「ありがち」だと自戒したお話。
例えばQ6の「レインボーブリッジを通る車の量は1日何台くらいでしょうか?」という問題を解いた方の中には、「迷走」してしまった方もいたそう。
つまり、「どんな施設があって、どんな目的の人がいて、どことどこを結んでいて、どういう車が通って・・・」といった事柄。迷走してしまったのは、知識に頼って「解答」を考えた人です。
「知識に頼って」とは、レインボーブリッジという特定の橋の特性をもとに答えようと考えてしまうことです。
結局、この問題を解くためには、「何がパラメーターか」を考える必要があります。この方法で推論すると、どうしても手詰まりになります。まず、レインボーブリッジを通る目的をMECEに分解することが難しいことがわかるでしょう。レジャー目的以外に通勤の人もいるでしょうし、千葉や横浜方面に抜けるために通る人もいるでしょう。MECEに表現するのは難しく、仮にできたとしてもかなり無理があります。そもそも通行量と利用目的が密接な関係にないため、利用目的をベースに分類してもよい見積もりになるとは思われません。
本書で提示された考え方だと、確かに「橋」というものが、ゴールデンゲートブリッジでも、横浜ベイブリッジでも、アプローチが同じだということがよく分かりました。
気になる答えは、本書にてご確認を!
■計算が主体のフェルミ推定の例
◆「ちょっと変わった問題」として出題された中に、「目からウロコ」のモノがあったので、ご紹介。
シンプルな計算式1本で解けるというパターンです。
基本的には
「世界(日本)の人口とその瞬間に○○○をしている人の比率は、あなたがある時間のうち○○○をしている割合と同じ」
というモデル。
◆いくつか問題の事例が挙げられていたのですが、一番ツボだったのがこちら。
「いま日本でこの瞬間に赤ちゃんを産んでいる人は何人?」
これを式で表現するとこうなります。
まさに産んでいる人 / 日本人口(女性) = 出産時に病院で過ごす時間 / 平均寿命
同じロジックで、「日本でこの瞬間にトイレに踏ん張っている人」の人数も算出可能w
これは結構面白いな、と。
■「メカニズムの考察」から考える
◆ここからはビジネスケース系問題を。
Q12の「羽田空港の利用者数を増やすにはどうすればいいでしょうか?」という問題に対する解答で多かった(9割の人!)のが、「PRをもっと打つ」と「新幹線をターゲットとした差別化策」だったそう。
ところが、面接でこう答えたら、おそらく「ツッコミされまくり」なのだとか。
答えが書けなくてもどかしいのですが、要は、「利用者を増やすアイデア」から入るのではなく、「利用者を増やすメカニズム」を考察するということ。
◆ここで登場するのが、フェルミ推定の問題であるQ5の羽田空港は1日に何人くらいの人が利用しているのでしょうか?」という問題です。
なるほど、フェルミ推定で用いたパラメーターごとに考えればいいわけですね。羽田空港の利用者数をフェルミ推定してみることから、この問題へのアプローチは始まります。まずはフェルミ推定を行ってみて、羽田空港の利用者数をいくつかのパラメーターに分解してみます。そして、そのパラメーターごとに、利用者を増やすために改善の機会がないかを考えていく、というのが望ましいアプローチです。
これには「目からウロコ」でした。
そして、9割の方が解答したという2つの施策も、実はパラメーターの1つである「平均●●率」をアップするためだけのもの。
他のパラメーターについて言及されていなければ、確かに面接ではアウトではないか、と。
◆ちなみにこの問題については、その後、各施策ごとに「効果算定」を実施。
さらに「施策の効果×難易度マトリクス」を作成しています。
それを踏まえた結論は、なるほど「説得力アリ!」
これが「コンサル的思考法なのか」と、納得しまくりでした。
■「答えのない問題」の模範解答を覚えて「答えがある」と考えてしまう時点で、思考が停止している
◆これは最後の問題である、Q20の「マンホールの蓋はなぜ丸いのでしょうか?」において、言われていたお話。
この問題自体は、マイクロソフトの入社試験に出されたということでご存知の方も多いことかと。
実際、私もその答えを2つ3つは知っています(ご存じない方のために、ここでは書きませんが)。
そしてそれらは、いずれも私なりに納得できるものでした。
◆しかし、それら「知ってる答え」をそのまま面接で解答したとしても、「アウト」なのだとか。
そして大石さんが提案しているのが、次のようなアプローチ。「答えのない問題」の本質は何度も繰り返しますが、問題に対してどれだけ自分の頭で考えることができるか、自分なりの分析をすることができるかという点です。
本書では、以下大石さんのアプローチが6ページ弱に渡って展開されています。「マンホールのユーザーとはいったい誰か?ユーザーはマンホールの形状によって誰がどの点でベネフィット(便益)を得るのか?といった観点から分析して答える」
正直、これには「脱帽」しました。
この「マンホールの蓋問題」をご存知の方も、この部分だけはご覧になったほうがよいかも。
「答え」ではなく、「アプローチ法」や「過程」が大事なんですね・・・。
【感想】
◆簡単ですが、この辺で。こういった問題形式の本ですと、ネタバレを気にして、どこまで書いていいのかよくわからないワタクシ。
実は出版社のサイトや、大石さんの会社のサイトや、出版社のサイトに、問題の事例がなく、手打ちで目次を書いちゃって大丈夫か否か迷っていたところ、アマゾンに全部載っていたというw
問題を見ていただければ、この本の中身の濃さもわかるというものです。
◆また、大石さんのブログには、「まえがき」からのかなり詳しい抜粋が掲載されています。
まえがき「過去問で鍛える地頭力 外資系コンサルの面接試験問題」:大石哲之公式ブログ
もちろん、全体を通じて、この抜粋にもあるように現役コンサルの「思考過程」が記載されているのですが、中でもスゴイのが、Q15の「JR新宿駅の改札口に設置されているロッカーの売上げを増やすための方策を考えてください」。
この問題は、大石さんと戦略コンサルティングファームのお二人の「実際の会話のみ」で解答まで持って行っています。
テラリアル!
・・・ホントは、こんなにスラスラアタマが回転するコンサルさんに、コンプレックスを抱いてしまったのですが。
◆ただ、自分なりに解いているに連れて、段々と問題のパラメーターが分かるものも出てきました。
そこから仮定に持っていくまでの推論というか、数字作りがまだまだなのですが、こういう部分が分かってくると、読んでいても楽しいものですネ。←単純w
このブログで言うなら、「ブログのアクセスを増やすにはどうしたらいいか?」。
(つ はてブと Twitter を使って、1ヶ月で約3万 PV を稼いだ顛末:gerenuk.crazyphoto.org/)
とか、
「ホッテントリに掲載されるにはどうしたらいいか?」
(つ ブログアクセスアップ戦術143★人気ブログの作り方)
みたいなものかと。
やはり、「自分ごと」として何かを考えるのが一番ですね。
◆それと、ポイントでも挙げたのですが、フェルミ推定は、ただ推定するだけじゃなくて、推定する際に「パラメーターの洗い出し」が必要になってきます。
そして、「ビジネスケース系問題」を解くためには、その「フェルミ推定」で用いたパラメーターが使われることに。
つまり、実社会で問われる可能性のある「ビジネスケース系問題」を解くためにも、「フェルミ推定」を理解しておく必要があるわけです。
今まで、あまり取り組んでこなかったフェルミ推定ですが、本書を読んで、思わず考えを改めました(今ごろ)。
というわけで本書は、「フェルミ推定好き」にも「コンサル系ネタ好き」にもオススメできる良書だと思われ。
こういう表現が適切かどうかわかりませんが、面白かったです!
過去問で鍛える地頭力―外資系コンサルの面接試験問題
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【編集後記】
◆実は、今日ご紹介した本の巻末には、ステップアップしたいための参考文献が9冊掲載されています。その中からこの2冊を。
Amazy |
大石さんのコメントから。
なるほど、こちらも役立ちそうな。問題解決法の基礎を学ぶためには、この2冊がお勧めです。たとえば「痩せるためには?」といった問題を取り上げて、問題の分解の仕方、分析の仕方、解決策の作り方、などを明確に解説しています。
ご声援ありがとうございました!
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フェルミ推定、勉強してみます。
そうなんですよ。
フェルミ推定使えば、「この一帯にいるマグロの数は何匹か?」というような問いにも答えられるかも(笑)。
一緒に勉強しましょう!