2009年06月30日
【商品開発の天才?】「ヒットの神様」内田 耀一, コイケ ジュンコ
【本の概要】
◆今日ご紹介するのは、マーケティングというよりは、商品開発の「知られざる天才」の記録。著者である内田耀一さんの手がけた商品は、誰もが知るベストセラーでありながら、今なお広く知られているロングセラーばかりです。
本の帯に記載されたものだけでも、
と盛りだくさん。シッカロール、ジャルパック、チキンラーメン、マキロン、ヴィックスヴェポラッブ
さらに、プロ野球中継や東京ディズニーランドの誕生の裏側にも大きく関わっていたというのですから、ちょっとビックリ。
マーケティング関係の方のみならず、私たちが普通に「読み物」として読んでも楽しめることうけあいです!
いつも応援ありがとうございます!
【目次】
第1章 1963(昭和38)年〜「マーケティング」という言葉がなかった時代の商品開発
“常識”は、最初に誰かがつくるもの
「恥ずかしい」ものに、商品開発のチャンスあり
常識にとらわれず、現場の真実を知ること
全く無関係なもの同士をつなげてみる発想を
“そんなの無理”を実現させたから、ブームが生まれた
第2章 1965(昭和40)年〜ベビーブーマーの受験戦争とサザエさん、カップラーメンの登場
商品の付加価値を明確化した、日本初の「比較広告」
何度も何度もやり直す真摯な企業姿勢が長寿ヒット商品をつくる
イメージアップの意味
販売促進は「誰」を使うか
第3章 1970(昭和45)年〜豊かさへの道を歩む日本と商品コンセプト概念の確立
商品に隠された“物語”が市場をつくる
広告の怖さ
“コンセプト”という概念を初めて取り入れた商品開発
消費者を、上から目線でナメてはいけない
エンターテイメントという文化の輸入
日本人に受け入れられない商品は、「母親のホンネ」がヒントだった
色がヒトにどんな影響を与えるのか
【ポイント】
■「日本初のグループ・ディスカッション調査法」で調べた「赤ちゃんのイメージカラー」お母さんの赤ちゃんに対する様々なイメージカラーは、すべてトーンが同じでした。「赤ちゃんに授乳しているときのイメージ」では、淡いピンクかクリーム色。「おむつを替えているときのイメージ」は、淡いブルーかクリーム色。
参加者を変えて、6人ずつ2グループの調査を3回繰り返しましたが、母親たちの色表現は、ほぼすべて一致しました。
今でこそ、赤ちゃんのイメージカラーは淡いパステルカラーとして暗黙のうちに確立されていますが、当時としては、想像を超えた新しい発見だったのです。
■常識にしばられると、未来が妨げられる
新しいものを生み出すためには、「常識を否定してみる」という姿勢が大切です。
今日では、「発想法」や「問題解決のテクニック」といった言葉が様々なビジネスの場面でもよく言われ、いろいろな書籍も出ていますが、なかなかどうして、人間の頭は、長年の常識や既成概念にしっかりと支配されているもの。既成の考え方を払拭するのは至難の業です。
■全く無関係なもの同士をつなげてみる発想を
一見、全く無関係に思えるものを結びつけること、つまり、誰も思いつかないようなものを結びつける発想力は、どんなビジネスにおいても重要です。常にアンテナを張り巡らせながら周囲を注意深く観察し、アタマを柔らかくしておかなくてはなりません。
特に、商品開発においては、その発想力がすべての鍵を握るといっても過言ではありません。
■無名だったレミーマルタン躍進の秘密
マーケティング的には、客にレミーマルタンをボトルキープさせたら、ホステスさんにキャッシュバックしてあげる。さらに、それが貯まると代理店からお店にもインセンティブとしてキャッシュバックされる、という仕組みにしたのです。
こうすることで、売値が高いお酒ですから、お店も喜んでキャンペーンに協力してくれたのです。大勢のお客さんたちに、ホステスの皆さんはずいぶんと熱心に勧めてくれたようで、ほとんど無名に近かったレミーマルタンが、爆発的にバーやクラブで売れるようになったのです。
■"物語"こそが、商品のプレミアムとなる
手間ひまかけてつくられた商品は、きちんとその物語(コンセプト)を語れば、商品として価値を感じ、評価してもらえるのです。物語こそが商品のプレミアムとなるのです。
商品価値とその物語がコンセプトとして語られることによって、人々の商品に対する見る目が変わります。それまで一般の人たちになじみが薄かったり、好まれなかった商品でも、「一度試してみたい」と手を伸ばしてもらえるようになるのです。
■「マキロン」発売前のグループ・ディスカッション調査で
容器に入った水は、一押しするだけで、シュッと霧状になって勢いよく出てきます。
「面白い」「これは、すてき」「これなら、水がないところでも使える」「子どもが喜んで遊んじゃいそう」等々、テーブルを水浸しにしながら、大変な興奮ぶり。
一番喜んだのは、幼稚園、小学校保健室の先生でした。これを使えば、ケガをして泣いている子どもたちに、「消毒という"虐待"をしなくてすむから」です。
■既存の遊園地とディズニーランドとの違いはいったい何なのか?
このような調査では、単に「いいか?」「悪いか?」といった意見を求めてはダメなのです。一般の人たちが、普通は意識していない"心の中"を鏡のように映し出す作業、つまり「心の中にある遊びの根源」を見つけていく作業が重要なのです。
その作業が、グループ・ディスカッションで語られた言葉から「ホンネ(=潜在意識)」を探り出していくという調査そのものです。
■日本独自の「塗る風邪薬」のコンセプトは、何気ない母親の言葉から誕生
長く調査をしていると、グループ・ディスカッションの中で、こちらが考えてもいなかった言葉が、何気なく発せられることがよくあります。そして、周りの女性たちのホンネにその言葉が響くと、「いいわね」と共感してくれます。それがすぐさま、ひとつの大きなプラスのうねりをつくっていくのです。
そうなった言葉というのは、揺るぎない商品コンセプトとなります。私は、そんな経験を何度もしてきました。
「塗る風邪薬」という、「ヴィックス ヴェポラップ」を日本で発売するコンセプトも、お母さんのひと言から生まれたものだった、ということです。
【感想】
◆本書は、大学で心理学を研究し、その後、広告代理店、リサーチ会社勤務の過程において、さまざまなヒット商品の開発に携わってきた内田耀一さんのお話を、エディターのコイケジュンコさんがまとめる、という体裁をとっています。というのも、本書の執筆過程である昨年5月、ガンにより内田さんが他界されてしまったから(ご冥福をお祈り申し上げます)。
そもそも本書の始まりも、難病であるギラン・バレー症候群を発病しながらも、奇跡的に助かった内田さんが、書きたい本がある、と知人を通じてコイケさんに申し出てきたためなのだとか。
守秘義務等があるのではないかと、多少気にはなるのですが、本が面白ければ(ry生死をさまよって生還されたときに強く思ったことがあるのだ、と内田さんは話してくださいました。40年以上、ずっと公にすることなく心血を注ぎ続けてきた自分の仕事に関することを、少しでも誰かの役に立つなら、できる限りのものを残したい、とおっしゃるのです。
ひょっとしたら本書に書かれた内容も、もし内田さんがお元気だったら、語られることもなく、そのまま抹消されていたことなのかもしれません。
◆「ネタバレ」を意識して、今回は控えめにしかポイントを挙げていませんが、出てくる商品やサービスがいずれも国民レベルで知れ渡ったものばかり。
冒頭に出てきたものを除いて、さらに商品名を挙げても「ハイクラウンチョコレート」「ジャック・ダニエル」「コーラック」「レディーボーデン」などなど。
また、商品もさることながら、「海外パック旅行」や、「プロ野球の民法でのテレビ中継」なんてモノも内田さんが手がけられたものだそう。
・・・ここまで来たら、確かに「ヒットの神様」ですよ。
◆今現在から考えると、いずれのアイデアも「存在して当たり前」ですが、逆になかった時代から考えると、これらのアイデアが実現して、世間に受け入れると断定できるかどうか、私は自信がありません。
というのも、あまりに慣れ親しみすぎて、存在しないことが想像できないから。
ただ、それこそがまさにヒット商品の秘訣である「ありそうでないもの」なのだと思われ。
そして同じように、今現在において存在せず、今後実現するかもしれない「ありそうでないもの」を見つけることが、将来の「ヒットのタネ」になるのではないか、と。
◆ところで本書を読むと、「潜在意識」が、いかに人々の行動に影響を及ぼしているか、がよくわかります。
本書の「おわりに」でのコイケさんの言葉から。
本書の帯にあるように、『「当たり前のこと」が、最初は誰も思いつかない』のは、それが潜在意識に根付くものだからかもしれません。潜在意識にこそ、人のホンネがあるのだと、心理学が専門である内田さんは、商品開発の仕事を始めてすぐに気づかれたそうです。
ご自身も調査するときには、先入観や理屈やエゴや欲を取り払い、調査対象である人たちのホンネ――潜在意識に潜むホンネ――の声に耳を傾けようとしました。
内田さんにとって、開発調査での一貫したテーマは、「いかに潜在意識からホンネの言葉を引き出すか」。目指していたのは、その1点だったのです。
「ヒット商品多杉」でとにかく驚きました!
【関連書籍】
◆本書のように「え?あれもこの人が?」という「目からウロコ感」を味わったのが、当ブログ未紹介(←ヲイ!)のこの本。中古でもあまり安くなってないですし、中身の濃さは保証付きです。今日のCRMの基となる「直接顧客からの反応を得る」「計測ができる」マーケティングとして、世界で初めて「ダイレクトマーケティング」という言葉を提唱し、また広告界の伝説的存在でもある、レスター・ワンダーマン。時代とともにネットマーケティングが注目を浴びてなお、応用が利く普遍的なダイレクトマーケティングのエッセンスとは何か? 彼がその半生を回顧しながら、ダイレクトマーケティングが形作られた原点を解き明かす。
【関連記事】
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「究極のマーケティングプラン」ダン・ケネディ(著)、神田昌典(監訳)(2007年04月16日)
「脳科学から広告・ブランド論を考察する」山田理英(2007年02月27日)
『第1感 「最初の2秒」の「なんとなく」が正しい』 マルコム・グラッドウェル(著)(2006年03月01日)
【編集後記】
◆土井英司さんのメルマガで紹介されてから、しばらく在庫切れ状態が続いていたこの本の在庫がやっと復活しました。まだの方は、ぜひご一読を。
参考記事:【スゴ本】「影響力の武器 実践編」がやっぱりスゴかった件(2009年06月10日)
ご声援ありがとうございました!
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