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2009年06月23日

【街のプロファイル】『東京「進化」論』増田悦佐




【本の概要】

今日ご紹介するのは、東京の町並みを分析した「アド街ック」な1冊。

地方の方にとっては「関係ない」と思われてしまいそうですが、東京在住の私も知らない話が多々あって、非常に楽しめました。

本書の序章にはこうあります。

 皆さんは、山手線の輪の中で、銭湯がいちばん近くにある駅はどこかご存知だろうか?東西に長い街は、ほとんど例外なく北側から先に発展する理由をご存知だろうか?これからカフェを始めるとしたら、どこなら軌道に乗せやすくて、どこだと失敗する可能性が高いか、ご存知だろうか?なぜ東急沿線の地味な街にはいい居酒屋と深夜営業のセレクトショップが多いのか、ご存知だろうか?

ご存知なければ(というか私も知りませんでしたよ)、本書にGO!


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【目次】

序章 東京の「どこ」に行く?

第1章 みんなが知っている「あの街」の意外な素顔
 なぜ渋谷は年齢不詳の美女なのか
 ワルが似合う六本木
 新橋、ぽっかり空いた都市の空洞 ほか

第2章 時代は「派手街」から「地味街」へ
 駅は人間見本市―膨張する品川
 一つ目小町、「隠れ家」大井町
 いい居酒屋とセレクトショップ―東急沿線の不思議 ほか

第3章 東京よ、どこへ行く?
 一つ目小町界に新スター誕生の予感
 「勝ち組」渋谷に忍び寄る危機
 中野の「おたく」化、さらにパワーアップか ほか


【ポイント】

■渋谷の意外な素顔

◆本書で最初に登場する街が渋谷。

私もメディアで接するイメージや、自分の行動範囲等から、「若者の街」と思っていましたが、意外なほど「おじさまサラリーマン」が多いそう。

なぜかというと、桜丘町の総本山、東急電鉄本社や南平台の東急不動産をはじめとして、東急グループ各社の本社や大営業拠点となっているオフィスがあちこちに点在しているからだ。そして大手鉄道グループは、日本の大企業グループの中でもとくに、俗に言う終身雇用を今も守っているケースが多い。

実はもう1つ、やはり中年サラリーマンの供給源として、渋谷近辺にはいくつかの生命保険会社の本社ビルがあったのですが、これらが軒並み破綻してしまい、その後は若返りが進んでいるそう。

「買い物等で街に来る人」の年齢層だけでなく、「そこで働く人」の年齢層を考える、というのは、目からウロコでした。


■新宿は3つの街の寄り合い所帯

◆本書によると、新宿は「少なくとも3つの違う性格を持った街の寄り合い所帯」と考えた方が、実像が見えてきやすいそう。

超高層ビル街区を中心とした西新宿、ゴールデン街・歌舞伎町で知られた夜の街という側面ばかりが強調されるが昼も大きな街である東新宿、日本有数の各種学校・専門学校密集地帯である南新宿は、それぞれまったく性格が違う街だ。

このうち、おそらく多くの方にとって、あまり馴染みがないのが、「南新宿」ではないか、と。

私は紀伊国屋サザンシアターの講演会に参加する際、新宿駅ではなく代々木駅で降りて徒歩で向かうのですが、なるほど専門学校生の方が多い雰囲気がある一帯です。

しかも面白いのが、この地域は「喫茶店やカフェの常連客定着率が非常に高く、一度開店した店の寿命の長さではおそらく東京で一番」なのだとか(本書における参考データ元:WorldWideCafe.net

カフェのイメージの強い、代官山・中目黒といった街との実際の数字の比較等は本書にてご確認を。


■池袋の「若い女の子比率」が一番高いワケ

◆本書では「乙女ロード」についての言及も多いのですが、面白かったのが、新宿・渋谷・池袋の中で、池袋がいちばん「若い女の子たちが集まる場所」だというクダリ。

その理由は、まず、山手線の南半分が若い女性に魅力的な街が多いのに比べて、北半分だと池袋くらいしかないということ。

次に、上記の渋谷とは逆パターンなのですが、「中年サラリーマンばかりの大企業本社が少ないこと」

池袋は大規模小売店以外の大きな事業所が本当に少ないので、毎日池袋で働いている人たちの中でも、大企業に勤める4年生大学卒のサラリーマン・OLの比率が低い。高卒で社会人になった大規模小売店の女性店員が多い街なのだ。

もう1つ、もっとわかりやすい(?)理由があるのですが、それは本書をご覧下さい(ネタバレ自重)。


■躍進する品川駅

◆JR品川駅をご利用になったことのある方は、駅構内にある商業施設、エキュート品川はご存知のことかと。

また、それ以外にも改札内にある飲食店がやたら多く、我が家でも、食事どきに品川で乗り換える際には、駅構内で食べたり買い物したりしております。

本書でも「日本で1,2を争うほど古い駅であるにもかかわらず、最新の機能を持った駅に発展しつつある」との指摘アリ。

ゆったりした駅構内のヒミツが、かつて「大日本帝国陸海軍の兵士たちを長距離移動させるために作られた臨時ホームのおかげ」というのが何とも・・・。


■複数の大学キャンパスにはさまれるかたちで発展した街

◆本書では、そんな街の代表として江古田が紹介されています(キャンパスはそれぞれ武蔵野音大日大芸術学部武蔵大学)。

 こうした学生街には地元の一店舗だけで生き抜いている個人経営の店が多く、小さくても活気のある商店街がある。そして、むしろ全国チェーンのファミレス、居酒屋、コーヒーショップの方が小さくなっている。当然、学生相手の家賃の安いアパートやワンルームマンションも多い。店舗にしてもオフィスにしても、近隣のおしゃれな街より割安な賃料でスペースが借りられる。

なお、「独立して何かの分野で事業を起こしたいけど、まだどこでやるか決めていない」という人向けに、本書で推奨されているのがこのガイドブック。


これを見て「駅を三方からそれぞれ性格の違う大学キャンパスが取り囲む立地を見つける」と良いそう。

個人的には、大学だけに依存しすぎると、夏休みが1ヶ月以上とかあるので、一緒に休まざるを得ないというデメリットもあるような気もしますが。


■中央卸売市場移転後の築地のあるべき姿

◆私が毎日横目に見ながら通過している街、築地。

著者の増田さんは、中央卸売市場移転後の築地市場の跡地利用について、こう提言されています。

 できるかぎり低層の、せいぜい地下1階から地上3階くらいまでの建物に抑えて、和食、フレンチ、中華、イタリアンといった我々が日常慣れ親しんでいる料理の店だけでなく、世界中のさまざまなエスニック料理を食べ歩ける、食の一大バザールを目指すべきだ。つまり、新築地市場で仕入れたすばらしい食材を、ありとあらゆる調理法で食べさせてくれるレストランが軒を並べたエリアを造り、そのエリアを「築地という名の世界最大のレストラン街」にするのだ。

近所で事務所を開いている関係上、利害関係者が知り合いにいないわけでもなく、移転の件も含めて私がどうこう言える立場にはありません。

ただ、増田さん曰く、

「築地ブランド」は、これからどんどん食を多様化し、消費カロリー辺りのエネルギー効率を高めようとする世界中の消費者が安心して受け入れられる海産物に対する目利きについては世界最高ブランド

なのだそう。


◆また、そのことに関しては、こんなこぼれ話も。

六本木ヒルズが開業したころ、ヒルズに出店した高級フレンチレストランに派遣された若いフランス人シェフが、「今までぼくはパリの本店で世界一の魚介類を仕入れたと思っていましたが、東京に来てみたらパリの一級品は築地でハネられた品物の中ではいちばんマシな部類が回ってきただけだったことがわかりました」と言っている。

なるほど、「築地の目利き力」は、市場がどこにあるかに関わらず、今後も大きな意味を持ってくるんですね。


【感想】

◆今回は、比較的名の知れた(多分)街を中心にピックアップしてみました。

ただ、本書で取り上げられている街は他にもまだまだ沢山あります。

ざっくり挙げても「新橋」「赤坂」「広尾」「大井町」「吉祥寺」「立川」「中野」「蒲田」等々。

他にも読者の皆さんにとって「思い入れのある街」が漏れていたらごめんなさい。

記事の量から言っても、どうしても、「話として面白い」街を優先せざるを得ず。


◆冒頭で挙げたいくつかのネタについては、ネタバレを自重して、カフェの話以外はすべて「割愛」しております(サーセン)。

逆に、ネタというほどでもないのですが、興味深かったのが、「東急線の戦略」

「他社路線との乗り換え」や、「相互乗り入れ」をどうするか、という点に関して、「乗客の利便性を高めるためになるべくしやすくする」か、「自社路線の乗客を囲い込むためになるべくしにくくする」の2つの選択肢があるところ、東急は日本一(「いや、世界一」)乗り換えのしやすい路線網を築いてきたのだとか。

この件については、本書でも何度か言及されており、街の発展にプラスになっていたことがわかります。

そして、別の線の囲い込み戦略によって、発展し損ねた街もあるわけで(それがどこか、というお話についてはこれまた本書にて)。


◆なお、本書では著者の増田さんが東京の「街自慢ブログ」を100選び、そこで取り上げられた街を集計した結果が掲載されています。

面白いのが、「住んでみたい街」アンケートの結果と、マスコミが定番として情報を流す街と、この街自慢で登場する街との順位がばらばらなこと。

六本木はマスコミにはひんぱんに登場するが、おもしろいブログは少なく、住んでみたい街では25位までのランキングに入ったことがない。赤坂は、おもしろい街自慢ブログで取り上げられる頻度はトップなのに、マスコミに登場する頻度は隣接する六本木・麻布・青山ほど多くなく、住んでみたい街では六本木とともに25位圏内に入ったためしがない・・・といった具合だ。

それより何より「赤坂が街自慢ブログに登場する頻度がトップ」というのが意外。

これはどうも、「食べもの屋の数が圧倒的に多い」ことに起因するらしいです。

そういえば、「赤坂の飲食店」と言えば、最近こんなサイトが注目を集めましたよね。

ぐるなび - もつ焼き処 赤坂もつ千

はてブでも大人気です!(違


◆東京在住の私にとっては、元々、街ごとにある程度イメージみたいなものがあり、本書を読んで、そのイメージとのギャップ(「それは意外!」みたいなもの)が楽しめました。

もちろん、東京以外の方にとっては、全然知らない街の話だと、「ふーん」で終わっちゃうのかもしれませんが、それでも、これから東京で暮らしたり、何かやろうとお考えの方にとっては、本書は「東京の街の良いテキスト」になると思われ。

ついでに言うと、冒頭で挙げた「東西に長い街は、ほとんど例外なく北側から先に発展する理由」というのは、東京に限った話じゃありませんしねw


本書のおかげで「街の読み方」が上達しましたよ!



【関連記事】

【スゴ本!】「なぜこの店で買ってしまうのか―ショッピングの科学」パコ・アンダーヒル(2007年10月09日)

『新富裕層の消費分析―藤巻流!「勝ち組」の意識を探る』 藤巻幸夫 (監修)(2006年04月08日)

「下流社会 新たな階層集団の出現」 三浦 展 (著)【マインドマップ付】(2005年11月21日)


【編集後記】

◆毎晩3時過ぎに寝ている私。

そろそろこういう本の出番かも。

4時間半熟睡法
フォレスト出版
発売日:2009-06-19
おすすめ度:4.5

ガンガレ自分!


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