2009年05月12日
【結構スゴ本】「オタク成金」あかほりさとる,天野由貴
【本の概要】
◆今日ご紹介するのは、昨日の記事の編集後記でちょこっと触れていた1冊。すでに、この記事がホンテントリ入りしてしまったので、ご存知の方も多いと思いますが。
あかほりさとるいわく「ライトノベル業界そのものが危ない」:Half Moon Diary
◆上記記事の方と違って、私の場合「全くライトノベルを読んだことがない」人間なのですが、この本の著者であるあかほりさとる氏の「作品に対する方法論」には正直驚かされました。
「ラノベ・アニメ好き」やその作品の執筆者だけに独占させておくにはもったいないコンテンツかと。
何たって、こんなに付箋貼ってしまいましたし!


【目次】
はじめに あかほりさとる
第1章 「赤堀悟」から「あかほりさとる」へ
〜メディアミックスを作り上げた男〜
'90年代、アニメ界のコムロと呼ばれた男
あかほりが実践した、"売れっ子になる方法"
第2章 オタク成金
あかほりが手にした夢のような成金生活とは
這い上がれたのは、叱ってくれる人がいたからだ
作家生活23年目で初心に戻る
第3章 売れる作家になるために
〜あかほりさとるの作家論〜
商人作家になれ!
愛される"萌えキャラ"の作り方
オタク成金に向かって行動してみよう ほか
第4章 生き残りたければ成金になれ
〜あかほりさとるが見るオタク業界の今後〜
このままだとオタク業界はなくなってしまう!
成金にならなければエンタメ作家として生き残る術はない!
"飽き"という問題にどう対処すべきか ほか
あとがき あかほりさとる/天野由貴
【ポイント】
◆とにかくやたら付箋を貼りまくってしまったので、ここは心を鬼にして(?)、「作品を作ること」に関連した、あかほり氏の発言を集めてみます。■努力はして当たり前
◆「売れるには運も必要」という話に関連して、話の聞き役であり、もう一人の著者である天野氏の「運がなければ売れないのなら、努力なんて無意味なんじゃ・・・」という発言に対する、あかほり氏の言葉がコレ。
あかほり氏によると、作家としてやっていくために必要なのは、「才能が50%、運が40%、努力なんてたったの10%」なんだとか。「無意味だね!だってこの業界、努力はして当たり前なんだから。努力で差がつくなんて、そんなこと思っちゃいけねぇんだよ」
努力は「大前提」であって、それにどれだけ上乗せできるかにかかっているようです。
◆実際にあかほり氏は、「あの手この手」を色々と編み出し、上記目次にもあるように「アニメ界のコムロ」とまで言われたそう。
細かい小技については割愛します(ただ、これもマーケティング的な見地からは見逃したくないのですが)が、一番大きかったのがコレ。
■メディアミックスを仕掛ける
◆あかほり氏以前は「漫画(小説)原作」の下に「ノベライゼーション」「アニメ」「ドラマCD」「ゲーム」が並んでおり、これらがどれだけ売れても、売上は漫画(小説)を持っている作家と会社に集中していたのだとか。
それをあかほり氏は、「原作」を円の中心に副えて、その周りに「漫画」「アニメ」「ノベライゼーション」「ドラマCD」「ゲーム」を囲むような関係に構築。
結果、どれかが売れれば相乗効果で円が大きくなり、皆が儲かる仕組みしたのだそう。
以前、「月刊アスキー」でアニメのメディアミックスの記事を読んだ記憶があったのですが、まさかその生みの親が、このあかほり氏だったとは。
■サービスとは迎合することではない
◆本書の中でもひんぱんに「エンタメはサービス業」と発言しているあかほり氏。
ただ、ここで言う「サービス」とは、ファンに迎合することではない、と。
こういうお話だと、「ブログ」にも通ずるような気がします。「つまり、サービスって言っても、ファンのご機嫌をうかがうとか、媚を売るってことではまったくないわけ」(中略)
「エンターテインメントっていうのは、"見る人間がいるということを意識する"ということなんだよ。見る人間がいて、それが不特定多数なんだと。それを意識するってことが、すごく大事だと思うんだよ」
私も読者さんに迎合するつもりはないものの、「読んでいただくことを前提に」記事作りを心がけておりますし(一応)。
■サービスとは"ジゴロの心意気"
◆上記に続く話で、これまた非常に大事だと思った点をピックアップ。
ちょっと長いのですが、引用します。
最後の「読者サービスっていうのは、読者を愛することであり、その読者にわかりやすく愛を伝えること」というのは、けだし名言かと・・・。「ただ、意識したうえでご機嫌をうかがうってことかって言うと、そうじゃないんだな。例えば、俺、君にいつも言うよな。"俺に惚れろ、俺に惚れろ!"って。そのために俺は、いろんな言い方で、俺の魅力を君に伝えるわけだよ!俺って優しいだろとか、うまいもの知ってるだろ、とかさ。
ただ、"俺がこんなに頑張ってるのは、君に魅力を感じてるからなんだぞ"っていう。これが読者サービスなんだな。読んでくれるお前が一番好きだよ、読んでくれるお前のためにこの物語を作ってるよっていう。読者サービスっていうのは、読者を愛することであり、その読者にわかりやすく愛を伝えること。だから媚じゃないんだよ。いうなればジゴロの心意気だな!」
たとえがアレですがw
■作品の象徴はキャラ
◆本書の中で何度も語られているのが「キャラクターの重要性」。
ちなみにここでいう"設定"とは、物語の舞台や登場人物の背景のこと(「物語の舞台は○○という惑星である」等)。「エンタメでは、物語の調味料としての"設定""仕掛け"っていうのはアリだけど、それはあくまで驚かしであり、演出だから。
結局、エンタメとしてのアニメや小説や漫画っていうのは、あくまで、このキャラって、こんな子なんだよ、っていうのを作ってるわけで。
アニメならワンクールで十数本、漫画なら何十巻ってあるけど、その全編を通して、そのキャラがいかに魅力的かを示しているだけなんだよ。
そして"仕掛け"とは「ストーリーの中の仕掛け」だそう。
本書の中では"仕掛け"の具体例として、映画『シックス・センス』を挙げています。
今さら「オチ」をご存じない方も少ないとは思いますが、そこを紹介するのが当記事の目的ではないので割愛。
◆さらにあかほり氏曰く、
厳密には、「キャラを作る」前に、「さらに作っておくべきもの」があるのですが、それは本書でご確認を。「だって、考えてもみろよ。ミッキーマウスのストーリーなんて誰も知らないだろ。でも、ミッキーマウスは誰でも知ってるし、何年経っても残ってる。つまり、作品の象徴はキャラなんだよ!実は、エンタメの世界では、ストーリーでさえほとんど残らないという」
ヒントは『プロジェクトX』???
私も本書を読んで、「なるほど!」と思いました。
【感想】
◆本書はあかほり氏の活躍した「アニメ・ラノベ界」について、あかほり氏が語るスタイルをとっており、さらにタイトルに「オタク」と入っているため、書店で手に取る人を選んでしまうかもしれません。ただし、語られていることは、「クリエイティブ」な活動をされている方なら、どなたでも応用できる要素が大。
個人的には、「エンタメ」に関連して、「広告関係」の方なんかにも、オススメしたいところです。
◆そして、ビジネス書の著者さんにも。
「夢をかなえるゾウ」以来、ストーリー形式の作品が目立つようになりましたが、果たして、それらの中のどのキャラが、「ガネーシャ」(「夢をかなえるゾウ」のゾウですねw)を超えられたのか。
私は今まであの本のヒットの秘密は"設定"にあると思っていたのですけれど、むしろ"キャラ"のチカラの方が大きいのでは、と思った次第。
そういう視点で物語形式の作品を読み返しても、面白いかもしれませんね。
◆もちろんビジネス書は、純粋なエンターテインメントではありません。
ただ、そもそもあかほり氏がライトノベルを志したのは、「小説とか読んだことのない人間に、小説を読ませるにはどうしたらいいか」という命題ゆえ。
「クラスに40人いたとしたら、本を読むヤツなんて5人しかいないんだから、残りの35人は本なんか読まない。読んだとしても漫画なんだよ。
その35人に買わせるためにどうしたらいいのかという、その発端がライトノベルだった。そのために俺がやったのは、擬音を使って、アニメや漫画の小説化をしたらどうなるのか、漫画を文字にしてみたらどうなるかな、ってことだな」
◆世間的には40人いたら、ビジネス書を読むのは2人くらい(多分)。
となると、残りの38人にビジネス書を買わせるための工夫を、私たちもしていかなければいけないような気がします。
・・・って、私は単なるブロガーですがwww
出版関係者の方なら、お読みになられた方が宜しいかと。
【関連記事】
【キャラ作法】「キャラクターメーカー」大塚英志(2008年04月14日)「クリエイター・スピリットとは何か?」杉山知之(2007年05月05日)
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『「物語力」で人を動かせ!』 平野日出木(2006年03月18日)
「ゲームシナリオのドラマ作法」川邊(川辺)一外(2006年03月15日)
【編集後記】
◆ちょっと面白そうな本の情報を入手しました!アマゾンの内容紹介から、一部引用します。
こ、これは面白そうな・・・。たとえば、こんな話が載っています。
★高級ブランド市場の60%は、わずか35の主要ブランドによって占められる(3ページ)
★世界最大の免税品販売会社・DFSの最大株主は、あのLVMHグループだった(82ページ)
★アルマーニをJ・フォスターに着せてアメリカ中に広めた、スゴ腕の元女性記者(114ページ)
★今日の高級ブランドの大半は、自社で香水を製作していないという現実(157ページ)
★偽造品摘発のため、ルイ・ヴィトンは40人の弁護士と250人の私立捜査官を雇用(283ページ)
★高級ブランド生き残りの道は、「ホテル経営」と「ファスト・ファッションとの共闘」(318ページ)
詳細は、ぜひ本書をご覧くださいませ!!

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