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2009年04月24日

【ネタ満載】「ねじれ脳の行動経済学」古川雅一


ねじれ脳の行動経済学 (日経プレミアシリーズ 41)
日本経済新聞出版社
発売日:2009-04-09
おすすめ度:5.0


【本の概要】

◆今日ご紹介するのは、経済学の中でも比較的面白い(そういう評価があるのかどうかは別として)、「行動経済学」に関するご本。

新書ながらも豊富なネタが魅力的な1冊です。

アマゾンの内容紹介から。

「それってあるある」な不合理の数々。特定の部下に厳しい上司、大穴に入れ込む競馬ファン、無理めな新規事業に過大投資……。なぜ人間は損ばかりするのか。行動経済学者が、思い込みの罠のメカニズムを平易に解明。

確かに「あるある」の連続でした!


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【目次】

第1章 理不尽な上司―自信過剰

第2章 契約が取れない本当の理由―認知不協和

第3章 ひねくれ者は成功する―フレーミング効果

第4章 損得を的確にとらえる方法―価値関数

第5章 あのビジネスは本当に儲かるのか―利用可能性ヒューリスティック

第6章 見積もりなんて嘘だらけ―アンカリング

第7章 都合よくとらえれば致命傷―確率加重

第8章 2年目のジンクス―代表性ヒューリスティック

第9章 頑固になれば成功できる―選好の変化とコミットメント


【ポイント】

◆本書の場合、事例をご紹介するとかなりネタバレしてしまうので、今回は事例部分については基本的にカットしてお送りします。

■確証バイアス

人間は結論を先に下し、後からその判断の裏づけとなる情報を集めようとする。逆に、裏づけとはならない情報を無視、または軽視してしまう。


■勝者の呪い

競争に勝った者が必ずしもいつも得しているわけではないこと、概してその後は得をしていないことを指して、勝者の呪いともいわれる。
 勝者の呪いは、企業合併や買収、すなわちM&Aのような高額な「買い物」でも起こるから恐ろしい。


■認知不協和

人間は、自分の行動や知識と矛盾したものに遭遇すると不快感を覚える(認知不協和)。だから、これを解消したり低減するために、対象となる物事への認知や態度を変化させるのだ。自分の選択が正しかった、と後で自分に言い聞かせ、正当化してしまうのである。


■初期値効果

 じっくりと説明文を読むとなれば時間がかかるし、労力も費やさなければならない。だから、だまされる危険がないと感じれば、最初の状態を受け入れるのだ。
 このように、最初の状態のまま受け入れる人間の特性を初期値効果という。


■極端回避性

人間には両端を避けて真ん中を選ぶという特性がある。極端回避性という。
 本当に真ん中が両端より気に入ったものならそれで構わないが、理由もなく真ん中を選んでいるとすれば、一度は両端も吟味したほうがいいだろう。


■保有効果

人間は、自分が所有しているものを手放すことに対し、同じ物を手に入れるのに支払ってもいいと考える以上の値段をつける。この評価の特性を保有効果という。
 保有効果は、保有している物に魅力があるからというよりは、それを手放すことに対する損失感や苦痛が大きいからである。


■感応度逓減性

 たとえばタクシーに近距離だけ乗ったときに、メーターが710円から800円に上がると結構ショックを受ける。しかし、もう少し乗って3500円から3590円に上がったとしても、710円から800円に上がったときほどショックを受けない。同じ90円の変化にもかからわず、だ。
 このように「損」「得」ともに、その値が小さいときはその変化に敏感であるが、大きくなってくるとだんだんと敏感ではなくなるのだ。これを感応度逓減性という。


■「リアリティのある情報」

試験勉強のためにどの参考書を利用するのがいいか悩んでいたとしよう。そして、ある参考書が、試験合格者の100人のうち30人によって高く評価されていたとしよう。30%というと決して高い値ではないので、購入すべきかどうか悩んでしまう。
 そんなときに、試験合格者の1人がこの参考書の活用方法を具体的に述べている合格体験記事を読めば、その参考書を使って勉強しようという気分になる。「リアリティのある情報」が行動に影響を及ぼしたのだ。


■役割曖昧性

役割が曖昧だと、どの仕事に責任を持って打ち込めばいいのかわからないし、ストレスが溜まる。これを役割曖昧性という。
 このストレスは、曖昧なものを避けたいという人間の特性から生じているのだ。


■確率加重関数

人間は、低い確率を高くとらえ、逆に中等度〜高い確率を低くとらえるという傾向がある。
 また、同じ確率加重でも、「得」に直面した状況のほうが「損」に直面した状況よりも低い確率をより高く、中等度〜高い確率をより低くとらえる傾向がある。


■連言錯誤

本来は複数の事象が起こる確率のほうが単一の事象の起こる確率より高くなることはない。複数の事象が起こる確率は、それぞれの事象が起こる確率の積だから、そのほうが低い確率になるのだ。
 しかし、人間は複数の事象が起こる確率を高くとらえてしまう傾向がある。アメリカとロシアの2国間の紛争よりも、これらに第三国も加わった多国籍間の紛争が起こる確率を高くとらえるのだ。


【感想】

◆当ブログでは、今までも行動経済学に関する書籍を何冊かご紹介して参りました。

その中でも本書の特徴として挙げられるのは、まずネタの多さ

その分、1つ1つについて、実際に著者の古川さんが検証しているわけではありませんが、日常のわかりやすい事例を用いることによって、理解を深めてくれています。

また、有名な海外での実験等については、巻末に「主な参考文献」として引用元が明示されているのも手堅い感じ。


◆もう一つは、上記ポイントで太字で小見出しとして挙げているような、用語が豊富に使われていること。

ネタが豊富だからその分用語が多いのは当然なのですが、それぞれについて「これは〜という」とラベリングしてくれているのがありがたいです。

上記の「極端回避性」なんて、ずーっと「松竹梅の法則」と呼んでましたよ(マジで)。

まぁそれでも通じると言えば通じますがw


◆そういえば、これだけ用語が出てくるのなら、巻末で索引を作ってもらっても良かったかな、とか。

なお、各章のタイトルは上記目次のとおりなのですが、その中の小見出しにも、これらの用語が出てくることもないですし、かといって、その小見出しも新書にしては、かなりソフトな付け方のような。

この辺はさすが「日経プレミアシリーズ」なだけあって、お上品です。

というか本のタイトルだって、「ねじれ脳の行動経済学」をサブタイトルにして、本書の中では際立ってフックの効いてる小見出しである「早起きの決意はなぜ二度寝の誘惑に負けるのか」をメインにした方が、多分売れますwww


◆このお話はいわゆる「選好の時間非整合性」に関するもので、たまたま関連する事例がテキストよりも図解で非常にわかりやすく説明されていたので、こちらに持ってきてみました。

ちょっと見にくいですが・・・。

ねじれ脳の行動経済学
















これは日頃から「ゆとりある老後生活」のために貯金をしている人が、「一杯誘われた」ときの価値の高さを比較したものです。

横軸は時間で、縦軸は価値


◆上段は日頃の価値観を表したもので、右端にある「ゆとりある老後生活」「お酒を飲むこと」を上回っています(高さが高い)。

ところが「飲みに行こう」と誘われると、下段のように「お酒を飲むこと」の方がより価値あるものとなってしまうんですね。

要は

遠い将来の物事であればその価値を高く評価しないが、近い将来の物事となればその価値を高く評価する

ということ。

ハゲシク納得

「早起きの決意はなぜ二度寝の誘惑に負けるのか」についても同じ理由でもあります。


◆というわけで。

本書は「読んですぐに何かの役に立つ」、というよりは、「何かあったときに、自分の考えを検証する」類の本だと思います。

つまり、こういう「人の考え方のバイアス」というか「クセ」のようなものを知っていると、より合理的な判断を下さるのではないか、と。

日常生活のみならず、「仕事上での判断」にも応用できそうなものが多々ありますので、念のために一読しておくといいかもしれません。

今回は「ネタバレ自重」して、事例を極端に減らしてしまいましたが、逆に一回読んでおけば、上記のポイントを見ると、「ハイハイ、あの話ね」となるハズ。


行動経済学のガイドブックともいえる1冊です!

ねじれ脳の行動経済学 (日経プレミアシリーズ 41)
日本経済新聞出版社
発売日:2009-04-09
おすすめ度:5.0


【関連書籍&記事】

◆今まで当ブログにて記事にした関連書籍をまとめてご紹介しておきます。


参考記事:【スゴ本】「予想どおりに不合理」ダン・アリエリー(2008年12月15日)


ヤバい経済学 [増補改訂版]
東洋経済新報社
望月衛(翻訳)
発売日:2007-04-27
おすすめ度:4.5

参考記事:ヤバい経済学 [増補改訂版](2007年05月16日)


転ばぬ先の経済学
オープンナレッジ
高橋 由紀子(翻訳)
発売日:2006-12-20
おすすめ度:4.5

参考記事:転ばぬ先の経済学(2007年01月26日)


まっとうな経済学
ランダムハウス講談社
遠藤 真美(翻訳)
発売日:2006-09-14
おすすめ度:4.0

参考記事:「まっとうな経済学」ティム・ハーフォード(2006年10月23日)



参考記事:「行動経済学」友野典男(著)(2006年07月20日)


【編集後記】

◆今読んでいる本。


この本のなかでも触れられているオーマイニュースは、今日、2009年4月24日をもって完全閉鎖です(リンク切れになるのでリンクは張りませんが)。

色々な意味で読んでおきたいな、と。


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