2009年03月28日
【研究知見】『「人間力」の科学』小阪裕司
【本の概要】
◆今日ご紹介するのは、「ノウハウ系」とは一味違った「考え方系」のご本。著者の小阪裕司さんは、以前「非ノウハウ系」の本である「ビジネス脳を磨く」をご紹介させて頂いたことがありました。
本書も読んだだけで自動的にメリットが得られるようなタイプの作品ではなく、脳に汗かく必要アリ!
◆アマゾンの内容紹介から。
そんな「バルバロッサな人」になるための、ヒントが満載です。本書では、センスと教養を感じさせ、プロ意識が高く、理知的に冒険する人、いわゆる「人間力」に満ち溢れた人のことを「バルバロッサな人」と呼ぶ。そしてそんな魅力的な人間になるために、ハウツーの類に頼るのではなく、さまざまな分野の研究者の知見から、仕事と人生に活かせるようなヒントを得るのが本書のチャレンジだ。
【目次】
はじめに 「人間力」の時代に
バルバロッサな人
ヒントを得るための4つのテーマ
第1章 「世の中のしくみ」に気づく
1.事前制御システムの呪縛
2.プラスマイナスゼロ感覚
3.物事が広まるメカニズム ほか
第2章 「脳のチカラ」に気づく
7.やる気のメカニズム
8.「かわいい」の判断基準
9.オリジナリティを生む秘密 ほか
第3章 「能力の活かし方」に気づく
12.名前が秘めた力
13.情報を伝える力
14.人をインスパイアする力 ほか
第4章 「時代が求めているもの」に気づく
18.匠の知られざる本質
19.新しい学習のあり方
20.意味充実の社会へ ほか
おわりに そしてわれわれの社会は融合する
「分離」から「融合」へ
【ポイント】
■昨今の消費者の食生活感覚「プラスマイナスゼロ感覚」高力先生は20歳代の男女にグループインタビューも行っている。「食情報を提供するテレビ番組のファンであり(食の)トレンドにも敏感な若者たち」だ。ところがそんな若者たちも、実際にはコンビニの弁当などを毎日食べていることが明らかになった。そんな彼らに先生が「毎日コンビニのお弁当では揚げ物が多いし、栄養の偏りは気にならないのか」という質問を投げた。それに対してある女性は、こうさらりと言ってのけたそうだ。
「コンビニの弁当を食べたら、翌朝にでも野菜ジュースを飲めばよい」
マイナスのものを食べたら、プラスのものを食べることで帳消しにするという感覚。それが「プラスマイナス感覚」なのである。
■感性経営における「無形資産」を重視するスタンス
日本の感覚では、無形資産に重きを置くのは難しい。LVMHの総資産は4.6兆円で、このうち無形資産は約2兆円。総資産の規模は東芝に匹敵する。仮に東芝が総資産の44%は無形の特許やブランドだと言ったら、日本の金融機関は何と言うだろう。無形資産でそろばんがはじけるかどうか。
■「成果報酬」がやる気を出させるという観点からはいささか効果的と言えない理由
人をやる気にさせようとするとき、成果を出してから報酬を与えても効果的でない。行動した直後に報酬をあげることが必要なのだ。
つまり成果に対して報酬を与えるのではなく、行動したこと自体をまず評価して報酬を与える。これがニューロンの発火を促す方法だ。できれば60秒以内が理想だが、とにかくできるだけ早く報酬を与える。
■人の「印象」の判断を司るもの
たとえば初対面の人とあいさつを交わしたとき「仕事ができそうな人だ」と感じるのも同様のしくみだ。服装ひとつ取ってもさまざまな認知部位がある。スーツのズボンに正しく折り目がついているか。シャツにはアイロンがかかっているか。(中略)
いちいち意識してチェックしなくても、それらは自然と脳に入力され、印象を形成する一助となる。(中略)
ここで活かすべき学びは、常に「印象」という最終判断を司るものは、細かな認知部位なのだということだ。どれかひとつできているだけでは、全体の印象は良くならない。どれかひとつに致命的な問題があると、全体の印象も変わってしまう。そういう事実なのである。
■脳疲労解消法をダイエットに応用する場合の2原理3原則
●2大原理
「自分で自分を禁止抑制することをできる限りしない」
「自分にとって心地よいことをひとつでも開始する」
●3原則(抜粋)
「たとえ健康に良いことや良い食べ物でも、いやであれば決してしない」
■時代を生き抜くのに必要な4つの力(抜粋)
●「あいまいな状況を探索的に生きる力」
●「自分と折り合う力」昔は単一解があり、「いい大学に入れ」「車ぐらい買えるようになれ」「マイホームを持て」と言うことができた。しかし現在、どうすればその人の人生が豊かになるかは誰にもわからないし、レールそのものがない。
豊かな社会では、やろうと思えば何でもできるし、何でも手に入る。その反面、全部を選ぶことはできないから、選ばなかったものはあきらめなければならない。
■名前とはまさに「この世で一番短い呪」
語感とは発音体感からくるものだから、勉強して身につけるものではない。発音体感とは、発音した瞬間に体感するものだ。「鈴木」と発音したときのすべらかな感じ、「大徳寺」と発音したときのどっしりした感じ。誰でも無意識のうちに感じているはずのこと。だからこそ、こうして語感についていくばくかの知識を得、意識を向けるだけで、語感術をわれわれも使えるのではないかと思う。
■日本の曲を聴くと日本酒が飲みたくなる
ご存知かもしれないが日本の音階は独特で、ファとシの音が抜けたいわゆる「四七抜き」だ。西洋の音階とは違う。そこで訊きたいが、あなたは三味線で奏でる日本の曲を聴くと、冷酒や熱燗が飲みたくならないだろうか?あれは音色のこともあるかもしれないが、和音階によるメロディそのものが「日本のもの」を想起させる力を持っているからではないかと、私は思っている。常盤津や都都逸が流れている席でジョッキのビールを豪快に飲む気にはなれない気がするのだ。そしてビールを豪快に飲むには、やはりドイツの民謡が合う気がする。
■携帯の着信音や電話の保留音にも留意すべき
こうしたビジネスでの活用とは別に、日常生活では携帯電話の着信音も気を配るべきかもしれない。好みの曲をダウンロードして楽しむ人が多いが、曲目によって周囲の人に特定の印象を与えている可能性がないとは言い切れない。(中略)
個人以上に、会社の電話の保留音には気をつけるべきだろう。「元気のいい会社だな」とか「何か悩みでもあるのでは」など、相手に何かしら印象を与えることを知っておいたほうがいい。極端な例だが、保留音の曲として「ドナ・ドナ」を延々と流されたらどうだろう。担当者が出る頃にはこちらの気分まで沈んでしまう(実は、これは実際に私の友人が経験したことだ)。
■自己誇示と自己卑下のバランスによる好感度
実験の結果、呈示者(話し手)に対する好感度は、自己誇示的になりすぎても、自己卑下的になりすぎても低下することが見出された。すなわち、自分の長所をアピールしすぎるとかえって好感度が下がる。逆に、欠点ばかりアピールしても好感度が下がる。最も好印象を与えたのは、一定の割合で両者をミックスして呈示した人物であった。
その割合とは自己誇示が○○%、自己卑下が○○%である(ネタバレ自重)。この割合で自己呈示したとき、話し手に対する好感度は突出して高くなった。実に興味深いデータである。
【感想】
◆本書は、月刊文庫『文蔵』で2年にわたって連載したものを加筆してまとめ直したものだそう。上記の個々のポイントには付記しませんでしたが、それぞれ各界の研究者の方々の研究知見がそのバックボーンとなっています。
つまり、様々な学術研究を身近な次元に落とし込んだのが本書ということ。アプローチは「学術研究」である。その知識を知ることで自分が見ている世界のフレームを変えられる、それが自分を変えていく手がかりんある。そうした研究者の知見を、自分なりに解釈して血肉にする、それが本書でのチャレンジだ。
◆上記で挙げた中にも、私自身思い当たるフシが多々。
例えば、「認知部位」に関連したところで、「本から受ける感覚」とか。
たまに出版関係者の方から「どういう本が売れるのか」と問われることがあるのですが、これも結構感覚的な部分があると思っています。
また、「本が売れる」ということは、たくさんの方の評価なわけで、そういった多くの方が本を開いた時の感覚というのは、逆にある程度コントロールできるのではないか、と。
もちろん、これはコンテンツ以前のお話なので、中身を読めば「絶対面白い」とか「絶対アウト」という評価が下されちゃうわけですが。
◆ですから、「装丁」とか本当にバカにならないですし、リアル書店で手に取ったり、アマゾンで「クリックする、しない」の違いも、装丁による部分が大きいと思っています。
タイトルとか帯のキャッチは「意識的」なのでわかりやすいのですが、装丁は「無意識下」である分、ホント怖いというか。
ビジネス系の出版社の方は、お仕事自体がかなり理論的なので、こういう話にピンとこない方が多いのに加えて、その経営層に近い方ともなると、さらに理論的(というか頭が固い)なので、たまに「何でこんな装丁に」ということもあるわけでして。
もちろん、装丁だけではなくフォントのタイプや大きさ、行間、図・イラスト等々、色々な要素もあります。
この辺は、いずれキチンと言語化してから、改めて論じてみたく。
◆また、名前の語感のお話は、私がムスメの名前を決める時に最も意識したことで、ひらがなの読み方だけは先に決めて、そこからひたすらベストの漢字を探していったという。
たまたまムスメの名前に使った漢字は、私たち夫婦のそれぞれの名前の漢字の一部分を持ってきたようになっているため、他人にはそのように説明すると「おぉ!」と驚かれますが(完全な後付けw)。
とにかく、あまり性格がきつくなって欲しくなくて、できるだけ優し目の名前にしたところ、おかげさまでふにゃふにゃした性格に育っております。
ムスコの方は・・・ぶっちゃけあまり考えてなかったカモw
◆最後の「自己誇示&自己卑下」のところは、思いっきりネタバレ自重してスイマセン。
小阪先生のオリジナルではないので、書いてもいいかと思ったのですが、本を読んで知った人だけ活用してもらった方が、あまり広まらなくて助かる・・・というセコさ炸裂。
私も期せずして、以前に比べると、何となくこんな割合になりつつあるんじゃないか、と自分では思っております。
このブログもまだまだこれからですから!
学術研究が結構身近に感じられる「使える」1冊!
【関連記事】
【感性社会】「ビジネス脳を磨く」小阪裕司(2008年05月13日)【スゴ本!】「なぜこの店で買ってしまうのか―ショッピングの科学」パコ・アンダーヒル(2007年10月09日)
【ティッピング・ポイント】「急に売れ始めるにはワケがある」マルコム・グラッドウェル(2007年07月18日)
あなたにもできる「惚れるしくみ」がお店を変える! 小阪裕司(著)(2006年09月21日)
「心脳コントロール社会」小森陽一(著)(2006年08月03日)
【編集後記】
◆昨日来たアマゾンからのDMで気になったDVD。子供の頃、父がこの番組が好きで、毎週家族で観ていた記憶があります。各国のレストランに足を運び、そのレストランの料理をスタジオにて再現する。
グラハム・カー独自のユーモアセンス光る軽妙な会話と観覧視聴者の笑いで綴る料理ショー。
まさに、現代のさまざまな料理ショーの原点となった作品である。
ワインを飲みながらキッチンに立つ姿や、顔見せないスタッフ・スティーブとの掛け合いは当時の視聴者にインパクトを与えた。
世代的にご存じない方の方が多いと思いますので、いつまであるかわからないですが、YouTubeの動画を。
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いつもブログ拝見しております。
一言申し上げます。
「アマゾンアタック」という言葉を随所で使われていますが、感動しましたw
ほしかったワンフレーズです。
というのも、ここの記事を読み、流れでアマゾンへ行き、ついつい購入してしまい、
毎日アマゾンから荷物がくるので、妻にほどほどにしろと言われていますが、
その言い訳に
「アマゾンアタックしてしまいました」
と、使わせていただきますw
どこの書評よりもマインドマップ的読書感想文を参考にしております。今後ともアクティブに更新期待しております。
ほそい
いつもお買い上げありがとうございます。
そんな、奥様に怒られてしまうほど、アタックされてらっしゃるとは(涙)。
ところで、「アマゾンアタックしてしまった」と言って、奥様にお許しもらえるのでしょうか(汗)?
もし許されるのであれば、このフレーズも使っている甲斐があるというものです。
・・・返り討ちにあわないといいのですが(汗)。
そして、ほそいさんのように期待してくださる方のために、私も睡眠時間を削って頑張ります!
この年でこの時間まで起きているのは正直眠いですがー(涙)。
そろそろ4時起きの成功者とかが目覚める時間(汗)。
お休みなさいませ〜。
今後ともよろしくお願いします!
タメになりそうです。
感性本も勉強になりましたが、これはまた違う視点から人間を見た内容でしょうか?
楽しみです。
ビルダーナースさんは、小阪先生お好きでしたもんね!
この本、結構使えそうな気がします。
・・・って私の場合、本業にはほとんど関係ないんですが(汗)。