2008年09月06日
【起業】「新規事業がうまくいかない理由」坂本桂一
【本の概要】
◆今日お送りするのは、以前「頭のいい人が儲からない理由」をご紹介したことがある坂本桂一さんの新作。既に「平成・進化論。」でも取り上げられていたので、ご存知の方も多いと思います。
今回のご本も、いくつもの事業を立ち上げられてきた坂本さんの経験に基づく、非常に興味深い内容で、これまた一気に読破してしまいました。
中心となるテーマは、単純な「起業」ではなく、「企業内起業」なのですが、脱サラして起業を目論む方も必読です!

【目次】
第1章 新規事業従事者の陥りがちな五つの罠
1 全方位にまんべんなく労力をかける
2 考えずに調べる
3 すぐに閉塞感に襲われる
4 過去の経験のなかに課題解決の方法を探す
5 リソースがないという嘘に縛られている
第2章 会社側が陥りがちな七つの罠
1 成功が前提となっている
2 撤退の際のルールが明確になっていない
3 目的や意味が違う新規事業を一般化している
4 意思決定に多くの人がかかわり過ぎる
5 既存事業のルールや評価基準を適用する
6 メンバーに二軍を投入する
7 はじめれば何とかなるだろうと思っている
第3章 新規事業を立ち上げる
1 目的を決める
2 何をやるかを決める
3 ビジネスプランの策定
4 ビジネスの決定
5 成功率を上げる
6 利益を本体に還元する
7 新規事業の切り出し
第4章 新規ビジネス実例
1 (株)ジェイティービーモチベーションズ
2 マガシーク(株)
3 (株)ウェブマネー
4 アルダス(株)
【ポイント】
■「企業内起業 vs. ベンチャー」経営資源比較
●人⇒大して差はないが、大企業の社員はビジネスマンとして完成している人が多く、ベンチャーは基礎力は劣るかもしれないが、ユニークな才能が揃っている
⇒大企業なら会社経営に必要な人材は、ほぼ社内から調達できるので、企業内起業の方が若干分があるか
●モノ
⇒どちらが有利とは一概には言えないものの、モノは資金調達と関係があるので、企業内起業の方が若干有利
●カネ
⇒あらかじめ事業予算を計上してもらえる企業内起業の勝ち
●モチベーション
⇒モチベーションとは「やりたいという強い前向きの意思」
⇒ベンチャーの立ち上げ時には、強制されているわけでもないのに、泊まり込んで働くケースも見られる
⇒ベンチャー有利
●ハングリー精神
⇒ハングリー精神は「後ろから押されるエネルギー」
⇒現状には不満だという考えに後押しされている
⇒ベンチャー有利
■「モチベーション」と「ハングリー精神」
⇒企業内起業のメンバーには「モチベーション」「ハングリー精神」を望む方がムリ⇒そもそも彼らは、安定や現状肯定に価値を感じているからサラリーマンという生き方を選択している
⇒企業内起業を成功させようと思うのなら、考え方を変えて、ハングリー精神やモチベーションの乏しい人間がオペレーションを行うということを前提として事業を選ぶそもそも就職先に大企業を選んだ時点でその人はハングリーではないし、一から事業を起こして大きくするなどという仕事は、できればやりたくないのが普通なのです。
⇒もしくは、一部の非常にモチベートされた人間だけでマネージできる組織を考える
■インセンティブを過信しない
⇒企業内起業において、インセンティブは、社員のモチベーションを上げることはあっても、所詮「ある程度」まで⇒一方、自分たちでベンチャーを起こそうという人は、「自分の夢のためなら死んでもいい」といった、普通の人には理解のできないような行動を平気でとることができる
⇒このような「狂気」というのは、決してインセンティブのような外部的要因では引き出すことができない
■全方位にまんべんなく労力をかけない
⇒限られたリソースは、事業コンセプトや収益構造の設計に注ぐべき⇒会社のロゴや中期計画といったものは、事業がスタートするまで放っておけばよい
■調べないで考える
⇒動画の投稿サイトや検索エンジンは、YouTubeやGoogle以前にも数多く存在していたが、それらを調べ、平均的なビジネスモデルを抽出してスタートしていたら、YouTubeもGoogleも成功していなかったハズ⇒「考える」とは、具体的にいうと、あらゆる仮説を出し、その中からもっとも勝てる可能性が高いものを選び出すことをいう
⇒考えるには、パソコンやインターネットは無用であり、会議室にホワイトボードひとつあればいい
⇒新規ビジネスが成功するかどうかは、はじめる前にどれだけ時間をかけて深く考えたかによって、半分以上は決まっているといっても過言ではない
■会社側が陥りがちな7つの罠(抜粋)
●成功が前提となっている⇒大前提は、「新規事業はほとんどの場合失敗に終わる」
⇒ベンチャーでさえ、コンセプトを熟考し、あらゆる仮説の中から最良と思われるひとつを選んで始めたとしても、成功率はせいぜい、50%がいいところ
⇒企業内起業であれば、おそらく25%以下
⇒失敗を前提にしてスタートしルール(検討内容や撤退等の)を決めておく
●撤退の際のルールが明確になっていない
⇒撤退のルールが決まっていないと、思い切った投資ができない
⇒重要なのは、どういうルールが適切かということよりあくまでこうなったらやめるというルールを初めに決めておくこと
●メンバーに二軍を投入する
⇒業績好調な企業だと、新規事業にはどうしても一軍ではなく二軍クラスが送り込まれることになるが、本業が不調な企業だと、新規事業に一縷の望みをかけて、そこに一軍の人材が投入される
⇒かくして新規事業に関しては、本業が好調な企業より業績の悪い企業のほうが、成功する確率が高くなる
⇒新規事業を成功させたければ、思い切って一軍人材をそこに投入すべき
■目的によってゴールは変わる
⇒トヨタ自動車が居酒屋チェーンに進出して、年商100億円のビジネスに育て上げ、毎年10億円の利益をあげるようになったとしても、もともと2兆円もの利益があるのだから、その10億円はあまり意味のある数字ではない⇒リース会社が羽毛布団の会社を作り、高品質の商品を安値で売って、利益をほとんど出さなくても、決済に親会社のリースを利用して、親会社の利益が伸びており、それを狙っての新規事業なら、あきらかに成功といえる
⇒このように、新規事業にとって大事なのは目的であり、目的を達成することができて初めて、その新規事業は価値を持つ
■ビジネスプランを作る
●文章ベース⇒この新規事業の目的は何で、それを達成するためにこういうことをやっていくということを、第三者が見てもわかるように文章にまとめたものが必要
⇒ポイントはより正確に伝わり、相手が理解しやすく誤解が生じにくいということ
⇒最初にいいたいことや答えを書いておいて、それから説明や証明をしていくほうがわかりやすい
●キャッシュベースのP/L
⇒キャッシュベースというのは、減価償却などは無視して、実際のお金の出入りだけをP/Lに反映させる
⇒「売り掛け」「買い掛け」のように、取引とお金のやりとりに時間差がある場合は、便宜上売買のあった時点でお金の出入りがあったことにすればよい
【感想】
◆こういう本を読まれる方は、多分「企業内起業」ですとか、「新規事業」といったものに興味(もしくは意欲)がおありだと思うのですが、のっけから、うまく行かない理由がボカスカ出てきて、結構ハードかもしれません(笑)。でも、いいんです。
もともと上手く行かなくて当たり前なんですから。
そして、その「何故うまくいかないのか」について、理路整然と、時には体験談も交えて解説してくれるのが本書なわけです。
◆特に冒頭の「企業内起業 vs. ベンチャー」のお話は、腑に落ちまくり。
言われてみれば、確かにそうだな、と思います。
私も思いっきり該当するんですが、そもそも大企業に入るという選択肢をしている時点で、ハングリーさなど期待しようがないですって(涙)。
◆また、今まで読んできた起業本でも、創業時に「なんとなくやってたら上手く行った」なんて話はまずなかったハズ。
逆に「そこまでやってもダメなのか(汗)!」という事例の方が多かったですし。
本書には「社内公募がダメな理由」「多くの人から意見を聞くと失敗する理由」等々、会社人間の常識では気が付きにくい、起業の本質のエッセンスが随所随所に含まれており、とにかく失敗する要素が皮膚感覚的にわかるような気がします(汗)。
そもそも「絶対成功する方法」なんてないのですから、失敗する可能性をできる限り減らすのが、結局は正解なのではないか、と。
◆なお、まえがきによると、本書は当初「ハウツー本にする」「マニュアルチックに細かいところまで書いて分厚い本にする」といったアイデアもあったそう。
ここら辺がこの「起業」というテーマの難しいところで、マニュアル的に攻めると専門書のようになって読者が減るし、かといって広げすぎると抽象的になって、実務レベルでは役に立ちにくいという(汗)。
本書の場合、どちらかというと読みやすさを優先してか、前作のテイストに近いものとなっており、起業にそれほど興味がない方でもお楽しみ頂けると思います。
◆その一方で、新規ビジネスを別会社で行うときに、「投資資金は資本で入れるべきか、貸し付けるか」といった、ある意味細かい「スキーム」のような話も出てきて、違った意味で「なるほどー」と唸らされました(え?これって常識なんですかね(汗)?)。
他にも、5億円の開発費を子会社を作って返済するスキームとか。
・・・ここでは細かくは書けませんので、詳しくは本書を(笑)。
ニッチなテーマかもしれませんが、面白かったです!
【関連書籍&記事】
◆某所で激プッシュされていました。
既にアマゾンアタック済みなので、いつかご紹介するつもりです。
◆KLabの真田さんのビジネスセンス炸裂の一冊。
新規事業のテーマを決める際に、どのように考えるべきかがわかりやすく書かれています。
(当ブログでの記事:【起業センス】「なぜ、ベンチャーは失敗しやすいのか?」真田哲弥,東京大学起業サークルTNK)
◆こちらは、既にテーマが決まっていて、実際に運営する時点での役立つ情報が満載。
マネージメント面でも役に立つと思われ。
(当ブログでの記事:【超・仕組み系】「Hot Pepperミラクル・ストーリー」平尾 勇司)
◆起業家の中の起業家である、江副さんの濃いお話が詰まっています。
起業を考えるなら、まず読んで欲しい1冊。
(当ブログでの記事:「リクルートのDNA」江副浩正)
【編集後記】
◆昨日コメントを下さったRachさんは、実はこんなご本を出されていらっしゃる英語勉強本の著者さんでした。これ、かなり面白そうですね(笑)!本書のタイトルにある「シットコム」(sitcom)というのは、
シチュエーション・コメディ(situation comedy)の略です。
代表的な作品は、「フレンズ」「フルハウス」「奥さまは魔女」などで、多くのシットコムでは、ジョークの時に、観客の笑い声が入ります。
このような海外ドラマをゆったりと家で見ながら学ぶほうが、本物のネイティブを目の前にして緊張しながら話すよりも、ずっと効果的なのです。
本書では、海外経験のない著者が、英会話学校にも通わずに、英検1級、TOEIC945点(リスニング満点)を獲得するに至った実際の学習法を、具体的、懇切丁寧に解説します。
これこそ、英語学習の新しいスタンダードなのです。
ヨメと一緒にやってみようかなぁ・・・。

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