2008年07月25日
【仕事術】「人は仕事で磨かれる」丹羽宇一郎
【本の概要】
◆今日お送りするのは、3年ほど前に出た、元伊藤忠社長である丹羽宇一郎さんの「人生本」。本書を読んだ当時(2005年秋)は、このブログは基本的に「本のマインドマップ化」を行っており、この本のように多岐に渡る内容だとうまくまとめきれず、結果、非常に良質な作品であるにも関わらずご紹介しておりませんでした。
丁度先日、とある方とお話しする機会があって、自分自身「経営者の言葉」のような本をもうちょっと取り上げても良いかも、と感じており、ずい分間が空いてしまいましたが、今回投稿した次第。
◆アマゾンの内容紹介もアツいです(汗)!
「こんな社長がいたのか」と、ビックリされることウケアイです!清廉・異能・決断力…四千億円の不良資産を一括処理、翌年には伊藤忠史上の最高益を計上して世間を瞠目させた男・丹羽宇一郎が、生い立ち、疾風怒濤の青春、ビジネス現場の緊張、倫理観、経営理念のすべてをここに明かした。
いつも応援ありがとうございます!
【目次】
第1部 四つの大いなる決断
掃除屋
新領野の開拓
負の遺産
経営者を引き受けるということ
第2部 決断する力を養う
本屋さんの息子
自分を鍛える
コミュニケーション環境を整える
人を育てる
【ポイント】
◆本書は、丹羽さんの言葉をそのまま文字起こししたかのようなスタイルですので、今回の記事は引用中心で参ります。■「掃除屋」としての最後の仕事
◆丹羽さんは、伊藤忠の社長であった2004年に、翌2005年から適用される「固定資産の減損会計」を早期適用して、320億円の赤字を計上します。もちろん早期適用ですから、ムリにやる必要はありませんでした。
これについて、丹羽さんは「新しい社長に、1点の曇りもない状態で会社を引き渡したかったから」と言われています。
自ら泥をかぶる姿勢が見事だな、と。人には、それぞれ役割があります。企業のトップならなおさら、中興の祖とか事業拡大の立役者などといった具合に、その役割は明確にならざるを得ません。振り返ってみると、私の社長としての役割は「掃除屋」だったのではないかと思っています。
自分が退任するときぐらい、花道を美しく飾ってもよかったんじゃないか。そう思わないでもないんです。きれいな花道も、作ろうと思えば作れたかもしれません。減損会計の早期適用をせず黒字決算を行っていれば、少なくともきれいな花道を手を振りながら去ることができた。
でも、そもそも私はそんなものに興味がない。やっぱり人には役目というものがあります。私の場合はさしずめ、伊藤忠にとって考えられる全ての膿を掻き出すことだった。だから減損会計の早期適用は、私の「掃除屋」としての最後の仕事だったと思っているんです。
■社長を辞めたらタダの小父さん
◆本書の表紙の写真にもあるように、丹羽さんは社長の頃から、地下鉄通勤をされていました。偉ぶったところが全くないのが、この部分を読んでもわかります。
私もサラリーマン時代はそれなりに大きな会社にいて、そこの社長さんは業界では有名な人だったのですが、多分地下鉄で通勤されていたら、ほとんどの人は「従業員何万人の会社の社長」なんてわからないんだろうな、と考えたことがありました。自分の人生なんてたかが知れている。社長を辞めたらタダの小父さんだ。格好つけたってしょうがない。それが私の哲学です。(中略)
だから、私は偉いとも思われたくないし、かえってそう思われるのも迷惑です。今でも私は電車通勤を続けているし、長いことカローラに乗っていますが、周りからは「社長のくせに」と言われる。しかも社長を退いた後だって、「あの人、伊藤忠の社長だったわりには何かショボクレてるよな」とか「こんなところで酒飲んでるぜ」とかきっと言われたりするんです。余計なお世話です。社長になったって全くいいことないですよ、と私は思っているのですから。(中略)
そもそも黒塗りの車で送り迎えなんていう生活をしていたら、世間の常識からどんどんずれてしまいます。私はそのほうが怖い。もちろん、満員電車で突かれたり雨傘で冷たい思いをするのは誰だって腹も立つし、不愉快です。運転手つきの車のほうが居心地はいいでしょう。でも社員はみんな満員電車に揺られて通勤しているんです。その目線からずれてはいけない。だから、社長が電車通勤しているからといってマスコミに騒がれるのは、こちらからしてみれば「放っておいてくれ」と言いたいぐらいです。
何も肩書きがない状態で、相手に尊厳を持って接してもらうにはどうしたらいいのか(大げさ(笑))、とか考えてみたり・・・。
■スペシャリストはゼネラリストになれる
◆今度は一転して(笑)キャリアのお話。限られた分野の仕事をしていた人間に、いきなり経営全般をやらせるのは難しいのではないかと言う人もいます。しかし私は決してそうは思わない。一芸に秀でているもの、つまり1つの業界でプロフェッショナルになる能力を持った人は、本社の管理部門に来ても他の業界のことを掌握できるんです。全部の業界を網羅しないと総合商社の社長になれないのだとしたら、誰もできません。10年ずつ各分野の仕事をしたって、7つも8つも業種があったらとっくに引退時期を過ぎている。5年に縮めても同じです。とても追いつきません。しかし、1つの仕事を極めれば、だいたい仕事のやり方というのはそう大きく間違えることはないんです。スペシャリストこそ優秀なゼネラリストになれるというのが、私の基本的な考え方です。
■「縦の総合化」
◆社長になる直前に、丹羽さんは伊藤忠始まって以来という大きな投資を実行しました。それが西友とその関連企業が保有していたファミリーマート株の取得です。
その背景には、総合商社として、「生産」と「中間流通」に関わるだけでなく、これからは二次加工や販売にまで関わろうとする姿勢がありました。
つまり川上から川下まで全部の分野に投資して、これに関与していく必要があるということです。私は「縦の総合化」と言っています。商社はこれまで部門ごとの「横の総合」を主なビジネスモデルとしてきましたが、それでは儲かりません。小麦なら小麦の、生まれてから最終形態にいたるまで。つまり、ゆりかごから墓場まで。縦の総合を行えば、必ずどこかで儲かるはずです。川上である原料のマーケットがふるわないときでも、川下のうどんやパンのマーケットは好調だという具合に、どこかで商機を見出せるわけです。
伊藤忠では、このビジネスモデルを「SIS(Strategic Integrated System=戦略的統合システム)」と名づけ、食料分野を中心に推進しています。
■みんなの喜ぶ顔が見たい
◆2004年の減損処理よりも前に、丹羽さんは不動産の不良資産の一括処理として、3950億円の特損処理も1999年に決定されています。その決定の大もととなったのが、不良資産によって利益が相殺されていたことにより、社内にはびこっていた厭世観の一掃。
実際には金額がある程度算出されてからの方が、丹羽さんの悩みは一層深くなっていくのですが、その辺の揺れる動く心については、本書をご覧下さい(笑)。あなたの社長として目指すところは何か、と問われたら、私はこう答えます。社員が喜び、株主が喜び、取引先にも「伊藤忠はいい会社だ」と言われることだ。自分一人で金銀財宝を抱えて喜んでいる、ニヤニヤしているというのは気持ちが悪い。みんなと感動や感激を分かち合う喜びのほうがいい。
自分が責任を持っている人たちの喜ぶ顔を見るのは、本当に嬉しいものです。人間というのはそういうところに生きがいを感じるのではないかと思います。たとえば、奥さんが喜び、子どもが喜び、家庭が明るくなれば、自分が多少苦労していても嬉しいと思う。それが自分の生きがいになるんです。
だから私は、伊藤忠が暗くなる原因をまず絶たなければならないと考えました。それには重荷を排除しなくてはなりません。稼いでも稼いでも不良資産に利益が吸収されていく現実を、先送りしながら眺めているわけにはいきませんでした。したがって、みんなの机の中にしまってある損をとにかく出せと指示したわけです。
■商社マンとしての人材をどこで見極めるか
◆丹羽さんの基準は次の3つ。●自分の意見をはっきり言えること
ある一定のレベルとかある程度の年齢までは、言われたとおりのことをやるだけでもいい。しかし、自分で判断していかなくてはいけない立場になったときは、自分の意見がないとどうにもなりません。カッコいい言い方をすれば、確立された価値観を持っているということになるでしょう。
●お客様からの評価が高い
実際に相手のためになることを考えて仕事をしている人は、複数のお客様から高く評価されるのです。これは、会社にとって金銭には代え難い財産です。
●「金の匂い」がするかどうか
と言うだけあって、いくつか例を挙げられているのですが、今ひとつピンとこないワタクシ(汗)。これは、言葉ではうまく説明のつかない部分です。
しょうがないので、列挙しまくります。
えー、わかったようなわからないような(汗)。・異動になった途端に、その人が就いた部署の業績がグッと上がる。どうして風向きが変化したのかは説明しようがありません。もちろんツキもあると思いますが、それも匂いの一つです。
・ともかく新しい仕事を作り出して、積極的に儲けようとしていることも匂いの一つとして挙げられるでしょう。もちろん悪事をはたらくわけではありません。正当なビジネスの範疇で、貪欲にそれを成し遂げていこうとする人です。
・お金の流れについてしっかり管理している人は、「金の匂い」がするんです。
・このように「匂い」は様々な前提の上で成り立っています。逆に匂いがしない人は、いつも損しているか利益が小さい。実力によるものなのかどうか、こればっかりは検証のしようがありません。
・こう言うとわかりやすいかもしれません。官庁にはまず金の匂いがする人はいない。
ただし、この「金の匂い」はトップにも必要な模様。
・・・と言われて、私ももっと「金の匂い」がしないと、自営業としてダメなのかなぁ、と思ったことはヒミツ(汗)。いずれにしても、トップに立つ人間はこの「金の匂い」がするかどうかが大切です。頭の善し悪しだけでトップを選ぶものではありません。どんなに頭が良くても金の匂いがしなければ、貧乏会社になってしまう。
■DNAのランプがつくまで諦めるな
◆丹羽さんは、能力の開花のことを「DNAのランプがつく」と表現されています。そして人間の能力にはほとんど差がなく、あるのは、「DNAのランプがつくまでの時間の差」である、と。
もちろん、前提としてあるのは、「努力」。どこでランプがつくか、誰にもわからないんです。10年後かもしれないけど、明日かもしれない。1時間後かもしれない。少なくとも言えることは、今やめたら永遠にランプはつかないということです。だから永遠に努力なんです。(中略)
ある日、必ずDNAのランプがつくと確信して努力する。このことを、私は社員に限らず、学生を含めた多くの人に言いたい。大抵の人は、「会社は僕のことを認めてくれない」と、諦めたことを他人や周りの環境のせいにしてしまいます。するともう永遠に、せっかく両親からいただいた素質を開花させないままで終わってしまう。残念なことです。
「ダラダラ続けていればいつか何とかなる」、というのとはもちろん違うようです(汗)。
■読書の大切さ
◆当ブログの読者さんには、嬉しい(?)お話。この後も読書賛歌が続くのですが、丹羽さんは「古典」を勧められているので残りは省略(汗)。私がこれまでの人生を振り返ってみて誇りに思うのは、絶対に読書を欠かさなかったことです。これまでの何十年という間の読書の蓄積は、人に負けないものだと思っています。そして、読んだ人と読んでいない人との差は、そう一朝一夕には埋められない。これまで読書の習慣のなかった人が、急に読書をしようと思い立ったとしても、よほどの覚悟をしないと難しいでしょう。
ただし、「読書をしないような人間は。これからの経営者にしてはいけない」「発想が貧弱なのは、読書不足だから」といったお言葉がビシバシ出てくるので、この部分はやはり必読でしょうね。
■涙が出るほどの感動を味わえ
◆最後に、本書の締めの部分から。丹羽さんの激励の言葉です。
この辺は、上記で触れたように、「3950億円の特損処理」ですとか、「1350億円の投資」のようなビッグプロジェクトを手がけてこられたからこその発言かと(汗)。私はよく経営会議で言うんです。「君たち、本当にオシッコ漏らすぐらいの緊張感を感ずる仕事をしろ」と。どっちに転んでもたいしたことないような仕事をしたって、感激も感動もありません。想像を膨らませて、大きな仕掛けを考える。このビジネスが成功するか、契約が成立するか、オシッコ漏らすぐらいの緊張を伴う仕事をすれば、そこには涙が出るほどの感動や感激があるはずです。
そんだけデカければ、オ●ラシぐらいしちゃいます罠(汗)。
そして本書のおしまいで、タイトルにも触れられています。
私の場合は完全に「ブログで磨かれる」ですがー(笑)。緊張を伴う仕事であればあるほど、そこから得られるものも大きいはずです。人間として一回りも二回りも成長していくことができる。
「人は仕事で磨かれる」という真意は、ここにあるのです。
【感想】
◆最初に読んだ時から「スゴイ人だなー」と漠然と思ってましたが、改めて読み返してみて、器の大きさがひしひしと感じられました。とにかく若い頃から「迎合」という言葉とは無縁の生き方をされている丹羽さん。
学生運動はしていたわ、上司には逆らうわ、新入社員時に組合の役員になって、「経営陣が困ることをしなけりゃダメだから、ストライキをやれ!」と皆の前で発言するわ、とまさにフリーダム(笑)。
◆もちろん、それだけのこと(?)をやりながらも、最後には社長にまで登り詰めたのですから、その働きぶりは非常に秀でていたことは間違いありません。
ただ、本書ではその功労部分も自慢話になることなく、節目節目で、どのように考えて、どのように決断したか等のお話が淡々と語られており、それがかえって、一層の深みを感じさせてくれます。
おそらく、ある程度経営に携わる方なら、丹羽さんの「判断基準」は、きっと参考になるのではないか、と。
全体として、「どうやるか」という話ではなく、「どう考えるか」というお話が多いので、なかなか一般ウケはしにくいんでしょうけど・・・。
◆それと、コンテンツの内容とは直接関係ないのですが、丹羽さんの語り口というか、口語体の文章のリズムが私はかなり好きでして(笑)。
もちろん、伊藤忠での社長時代の功績等については存じておりました(私も「こんなに損出して大丈夫なの?」と思ってたクチです(笑))から、最初に雑誌か何かで文章を拝見した時には、「こんなにわかりやすい文章を書ける方だったなんて」とビックリした記憶があります。
このことに関しても、本書にはこういう一節が。
やはり中身だけでなく、表現にまで気を配ってらっしゃったんだな、と。経営というものはまず論理がある。したがって我々のキャッチフレーズは、まず論理に裏打ちされたものでないといけない。論理的に説明するとなると、今度は学者みたいに非常に難しい言葉になりますから、そこをわかりやすく説明することが大事になってくるわけです。
◆そして、丹羽さんの人間的な魅力も節々に垣間見れるのが本書のお楽しみの一つ(笑)。
特に奥さんのことを折に触れて「ワイフ」とさらっと表現されているのは、非常にスマートで好感度大(私の「ヨメ」とはえらい違い(汗))。
しかも駐在員時代に、その奥さんに頭をバリカンで刈ってもらっていて、ハゲみたいな刈り込みができても、墨を塗って出勤したこともあるというツワモノぶり(汗)。
機会があれば、講演会等でぜひお目にかかってみたいものです。
◆なお本書は、今年になって文庫化もされております。
この機会に是非お読み下さいマセ。
読んで悔いなしの名著です!
【関連記事】
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「リクルートのDNA」江副浩正(2007年03月22日)
「USEN宇野康秀の挑戦!カリスマはいらない。」和田勉(著)(2006年04月22日)
【編集後記】
◆プレゼン関係のご本は一応何冊か読んではいるものの、もうちょっと少人数というか、最近ぽちぽち増えてきた取材対応で使えるような本を探していたワタクシ。それで、アマゾンのランキングで見つけた本がコレ。
もっとも取材では、たとえ話があちこち飛んでいたとしても、ちゃんと編集された上でテキストになるので大丈夫なんですがー(笑)。
ご声援ありがとうございました!
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BJと申します。
いつも読書の参考にさせて頂いておりました。
本書面白そうですね。
経営者本。
最近読めてなかったのでCheckしてみようと思います!
ありがとうございました!
昨日帰りの新幹線の中で読んだ「日経アソシエ」の84ページ、拝読いたしました。
smooth先生ったら、ご自分が取材されたことをあまりブログに書かないのですね。
私なら、喜んで書いてしまうのに・・・(-_-)
あれから、最近、SPA!も毎号読んでます。
電車の中で女子が読むには、どうかな〜と思うので、アソシエや週刊ダイヤモンドに挟んで読んでますが。
はじめまして、コメントありがとうございます!
えーっと、さっそくですが経営本関係は、当ブログ的にはあまり多くないので、多少プレッシャーではございますが、頑張りますね(笑)!
しかも、そちらのブログでは大々的にリンクしていただいているようで感謝です。
今後ともよろしくお願いします。
>心月さん
スンマセン、実は思いっきり記事にしております。
【読書術】「即効!読書術」@「日経ビジネスアソシエ8月5日号」に掲載されました
http://smoothfoxxx.livedoor.biz/archives/51467110.html
タイトルにまで入れているというはしゃぎっぷりでございます(汗)。
そしてSPA!はまた今日も記事に使わせてもらいました。
実は、アソシエさんよりSPA!さんに取り上げてもらった方が私らしい、という意見があることをお伝えしておきます(笑)。
あれ?オモイッキリ、見落としてしまった記事にアソシエのこと書いてあったのですね。
アンポンタンなコメント、許してね。
今日は、小学生向けの雑誌をたくさん出している某出版社の編集長さんにむかって、「御社のランダムハウスから出ている最後の授業よかったです」と感想を言ってみたところ、全く違う出版社ということに気付き、撃沈した私。
ランディさんのご冥福を祈ります。