2008年01月22日
【ネオ茶の間?】「明日の広告」佐藤尚之
【本の概要】
◆今日ご紹介するのは、先日の谷山さんのご本に味をしめて(?)の広告本。とある方面から「何やらこの本イイらしい」(笑)とのウワサをかぎつけゲットしました。
なお、著者の佐藤さんは、広告業界にあっては珍しく、かなり古くからネットに親しまれていたそう。
それだけに、今までどおりの「マスメディアマンセー」という考えにも、最近よく言われる「テレビ広告は終わった」という考えにも一言おありのようです。
◆アマゾンの商品説明より。
ところで、「ネオ茶の間」って何ですか(汗)?インターネットの普及、情報洪水、市場の成熟などによって、消費者はガラリと変わってしまいました。マスメディアへの接触が減り、広告をスルーし、しかも信じません。ブログを含め、友人からのクチコミの方がずっと信頼されるこのご時世、どうやって「効く」広告を仕掛ければいいでしょうか。
本書は、さまざまな広告賞を受賞している現役クリエイティブ・ディレクターである著者に、消費者に届く「コミュニケーション・デザイン」について、実例を用いて具体的に解説していただいています。
広告やマーケティング関係だけでなく、メーカーなどで実際にモノ作りをしている方にも、ぜひ読んで頂きたい一冊です。
いつも応援ありがとうございます!
【目次】
はじめに ~「なんだか小難しい時代になっちゃったな」とお嘆きの貴兄に第1章 消費者へのラブレターの渡し方―広告という名の「口説き」の構造
第2章 広告はこんなにモテなくなった―変化した消費者と広告の20年
第3章 変化した消費者を待ち伏せる7つの方法―彼らと偶然を装って出会うために
第4章 消費者をもっともっとよく見る―コミュニケーション・デザインの初動
第5章 とことん消費者本位に考える―スラムダンク一億冊感謝キャンペーンより
第6章 クリエイティブの重要性―商品丸裸時代とネオ茶の間の出現
第7章 すべては消費者のために―消費者本位なチームづくり
おしまいに 楽しくエキサイティングな時代なのだ
【ポイントなど】
◆今回は、個々の項目にコメントを付していきます。■広告は消費者へのラブレター
◆著者の佐藤さん曰く、これは納得。商品を買ってもらうために企業や広告会社の担当者が表現とメディアを使って行うキャンペーンは「相手にラブレターを渡して、口説き落とすためのコミュニケーション」となるのである。
日頃目にしている広告も、最終的な目的は「この商品を買って下さい!使ってください!」となっているわけですから。
そして、以前はこの「ラブレター」が、しっかり効果があったんですね。
◆ところが、最近ではその効果が薄れつつあります。
佐藤さんの比喩的表現(笑)は、こう。
言わんとされてることは分かるかと思います。・ラブレターが相手の手に届きにくくなった。
・他に楽しいことが山とあり、相手はラブレター自体に興味をなくしている。
・ラブレターを読んでくれたとしても、口説き文句を信じてくれなくなった。
・しかもラブレターを友達と子細に検討し、友だちに判断を任せたりする。
結局ひところに比べると、広告関係者が意識しなくてはいけないことは格段に増えているわけで。
◆ならばどうするか?
一言で言うなら「もっと相手を良く知り、しっかり手渡しする」
詳細は本書をご覧アレ。
■「伝えてもらいたがっている人」のことをリアルに想像する
◆「相手のことを知る」ために大事なのが、「消費者本位」の考え方。これを習得するためには、「(こちらが)伝えたい相手」ではなく、「ニーズがある時に伝えてもらえないとすごく損した気持ちになる」消費者、つまり「伝えてもらいたがっている消費者」が、どこで何をしているか、をリアルに想像すると良いそう。
実際、佐藤さんが携わった例で、車の広告を作る際に、クライアントの想定した消費者像が、実態と全く乖離していたケースがありました。
それにより、出稿を計画していたメディアから何から全部変更になったとか。
そう、「買いたい人」とは、年齢や性別でくくれるとは限らないのです。もちろんいままでの担当者だって消費者の調査はしてきたと思う。
でも、たぶんそれは「その商品のメインターゲット(つまり商品を買わせたいターゲット層)を決め、そのターゲット層の行動を調査する」というやり方だったのだと思う。
先入観を持たずに、ニュートラルに「彼ら」の行動を追う必要があるわけですね。
■買いたい人を作り出してしまう
◆ちょっと特殊(?)な例も、本書には収録されていました。それは「ピロリ菌」に関係したヨーグルトのお話。
世の中に「ピロリ菌」というものが知れ渡っていない時に、ピロリ菌に効くヨーグルトを売るために、どうしたか?
◆担当チームのとった方法は「戦略PR」と呼ばれるもの。
そう言えば最近、こういうニュースも目にした自分。そのヨーグルトを売るに当たって、その担当チームは、まず世の中に「実は胃に悪さをしているのはピロリ菌というヤツだったのです」という事実をニュース・リリースなどで流すことから始めたのである。
「ピロリ菌タンパク質でがん 北大、マウス実験で確認」:西日本新聞
ここまで断言されなくても、確かに「ピロリ菌は良くない」という話を耳にして、ついつい某ヨーグルトを買った事ありますよ。
「こっ、これも戦略だったのかっ!」
■「スラムダンク1億冊感謝キャンペーン」より
◆このブログをご覧の方で、マンガ、「スラムダンク」をご存じない方は、少ないと思います。こんなの。↓
連載終了8年後の2004年7月、累計1億冊(スゴイっすよね)を達成し、作者の井上雅彦さんは、「読者のみんなにありがとうという気持ちを伝えたい」という想いを個人広告という形で、実行に移しました。
それが、2004年8月10日の「スラムダンク1億冊感謝新聞広告」。
その広告は、マンガを知らなくとも、ご覧になった方は多いと思います。
なにせ、読売、朝日、日経、毎日、産経、東京の5紙にデカデカとスラムダンクのキャラクター達(しかも新聞ごとにみな違う)が登場したのですから。
◆実は著者の佐藤さんは、2003年9月16日にも、「星野仙一優勝感謝広告」を手掛けてらっしゃいます。
ただし、その時と、「スラムダンク〜」とはアプローチの仕方が違いました。
そして佐藤さんたちが出した結論はこうでした。つまり「伝えたい相手」は、孤独に漫画と向き合い、それぞれの人生にスラムダンクと過ごした熱い時間を持った人々なのだ。大切な青春の時をスラムダンクと一緒に生き、この漫画をとても大切なものとして一生持ち歩いていくであろう人々だ。そんな彼らに伝えるのに、星野監督の時のような大声の「ありがとう」でいいのだろうか。
それが佐藤さんが言うところの、「めちゃめちゃ閉じた新聞広告」「めちゃめちゃ不親切なウェブサイト」そしてDVDにもなった、「めちゃめちゃ限定して告知したイベント」だったのです。伝えたい相手、つまりスラムダンク読者が一番喜ぶことは何か。
それはスラムダンクの世界に8年ぶりに帰ること。井上雅彦が8年ぶりにスラムダンク作者に戻り、スラムダンクを描き、読者たちのいろんな想いを壊さないように、あの頃の作者と読者の関係に戻ることだ。
じゃあ「場」を作ろう。
スラムダンクを愛している人だけが集まれる「場」を作ろう。
そのイベントの模様が収録されているDVDがコチラ。
◆ちなみに私もこのDVDは持っています(結構オススメ)。
本書に載っているこのイベントの裏話を読んで、また観たくなりました。
かなり特殊なイベントではあるのですが、「徹底的な消費者本位」という言葉の意味がよくわかるイベントだと、今になって思います。←遅すぎ
■「ネオ茶の間」とは?
◆本書に出てくる面白い概念で、「ネオ茶の間」というものがあります。佐藤さんの説明より。
この場合、テレビが「ボケ」で、ネットが「ツッコミ」。ひとりでテレビとパソコンを「ながら視聴」している人が、リアルタイムで同時に大勢つながり、雑談している。テレビとケータイを「ながら視聴」している人もそこに大勢入り込んでくる。まさに「巨大なバーチャルお茶の間」ではないか。そしてそれは以前のお茶の間のような「新しいクチコミ源」なのである。
この考え方は、結構腑に落ちました。
実際、「ニコニコ動画」は(著作権の問題はさておき)、作品によっては、テレビ番組に新しい付加価値をつけたともいえるわけで。
◆さらに佐藤さんは、この「ネオお茶の間」を楽しむ上での「同時性」にも着目。
結果、リアルタイムで皆が「ネオお茶の間」に入り浸ることになり、HDレコーダーに録画することによるCMのスキップ問題も解決するのでは、と予想されています。
この辺については、今後の動きにも注目したいところです。
【感想】
◆本書も基本的には、広告畑の人に向けて書かれている本です。ただ、佐藤さんの文体が軽快で、ストレスレスに読みきれました。
個人的には真似をしたいくらい(笑)。
◆ところで佐藤さん、世代的には40代半ばということで、ネットに関しては、普通なら疎いハズ。
ところがこんなクールな(笑)サイトを運営されてるんですよっ!
www.さとなお.com
右上のカウンター見ました?
「since 1995.0820」ですってよ(汗)?
◆というか、昨日の記事がこの本の書評の紹介で、しかもチラッとみたところ、広告関係の人まで激賞してるぢゃないですか(汗)!
うーん、素人のワタクシが「イイッ!」とか言っていいのか、実際(汗)。
しかもそちらにある記事とはうって変わって、この記事なんて引用しまくり。
・・・問題あったら修整しますんで、よろしくお願いします(汗)。
◆他の方も書いていたように、本書のキモは、上記の「スラムダンク」のクダリ。
私が一番感動したのは、そのイベントで「ひと言書いてください」と置いたノートに書かれていたこの言葉。
「この時代、この日本に生まれて本当に良かった」(佐藤さんもこの書き込みに一番感動したそうですが)
「心に深く刺さるイベント」というものが、ここにはあります。
◆本書を読んで、単に「最近の広告ってそうものなのね」と流すだけだとしたら、ちょっと残念。
ここにもまた、「相手を知り、もてなす心」があると思います。
広告のみならず、モノを作ったり、イベントを企画する方なら、きっと何かしらのヒントがみつかるハズ。
読みやすくて奥が深い、まさに新書の王道だと思われ!
【関連記事】
【スゴ本!】「広告コピーってこう書くんだ!読本」谷山雅計(2008年01月15日)【プロジェクト崩壊を救う?】「最強のWebコミュニケーションシナリオ」濱川 智(2007年11月08日)
「売れるマーケティングのしかけ」堤 香苗(2007年06月12日)
「ヒット商品を最初に買う人たち」森 行生(2007年04月13日)
「クチコミの技術」コグレマサト,いしたにまさき(2007年03月28日)
【編集後記】
◆一昨日、リアル書店で見かけて気になった本。超文系のワタクシですが、読んで記事書いても良かとですか(汗)?
ご声援ありがとうございました!
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忙しい、なんてことを言い訳にすっかりネット上から消え去っていたkojiです。
今日もいろんな本の情報仕入れさせて頂きました。ありがとうございます。
今は新橋・汐留エリアのお店におりますので、もし近くに来られるさいは是非お立ち寄りください!
ではでは、またチョコチョコ拝読させていただきますね。