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2021年12月17日

【問題解決】『上流思考──「問題が起こる前」に解決する新しい問題解決の思考法』ダン・ヒース


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上流思考──「問題が起こる前」に解決する新しい問題解決の思考法


【本の概要】

◆今日ご紹介するのは、先日の「未読本・気になる本」の記事でも人気の高かった思考術本。

『アイデアのちから』や、『決定力!』といったスゴ本を世に送り出してきた、ヒース兄弟(アマゾンの表記は「ハース」ですが)のダン・ヒースの最新作です。

アマゾンの内容紹介から一部引用。
なぜ人は、いつも「起こったこと」にバタバタと対応するだけで、根本からの問題解決をしないのか?
ビジネス界から教育界、スポーツ界、医療業界に至るまで徹底取材!
無限ループの不毛な作業を断ち切って、「上流」で抜本的に解決する方法とは?

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【ポイント】

■1.問題を事前に防ぐ「上流活動」が難しいわけ
 問い合わせを減らそうとしたエクスペディアの取り組みは、上流介入の成功例だ。「下流」活動は問題が起こってから事後的に対応するのに対し、「上流」活動は問題を未然に防ごうとする。問題解決には、顧客からの問い合わせに答え、日程表が来ないという苦情に対処するという方法もあるが(下流活動)、顧客が日程表を確実に入手できるようにして、電話をかける必要をなくす方法もある(上流活動)。
 問題に事後対応するのではなく、問題がそもそも起こらない世界で暮らしたいのは誰もが望むことだが、なぜそれができないのだろう?(中略)
 エクスペディアの経営陣は、問題を見過ごしていたわけではない。問い合わせ件数の多さには気づいていた。ただ、会社はこの気づきを組織的に無視するようにできていたのだ。(中略)
 営業部門は顧客をウェブサイトに呼び込み、製品部門は顧客が予約を完了できるよう誘導し、技術部門はウェブサイトを円滑に機能させ、顧客対応部門は問い合わせに迅速に対処して顧客満足度を高めるという目的をもって活動していた。
 だがそこには何かが欠けていた。顧客が問い合わせをせずにすむようにすることをめざす部門は1つもなかった。


■2.問題を「自分のもの」としてとらえ直す
 シカゴ学区を考えてみよう。卒業率への対策を取れずにいたのは、問題盲のせいだった。「たしかに中退する生徒は多いが、そういうものだから仕方がない」。だがそれだけではなかった。教職員の間に、たとえ低い卒業率が問題だとしても、それを解決するのは自分たちではない、という思い込みがあった。「解決するのは生徒自身だ」、または「親だ」「社会だ」と思っていた。
 そしてその考えは、ある意味では正しい! 高校中退で最も打撃を受けるのは、生徒自身とその親なのだから。だが本当に考えなくてはならないのは、「誰がいちばん打撃を受けるか」ではない。「 問題を解決できる最適な立場にいるのは誰か? その人たちは行動を起こすだろうか?」だ。
 シカゴ学区のリーダーは、卒業率の低さは「自分たちの問題だ」と考えを変えた。問題に対して当事者意識を持ったのだ。


■3.カネや時間の「欠乏」が視野狭窄を生む
 急いで探すと、タグはベビーベッドの上に落ちていた。3時間後、同じことが起こった。退院を控えた別の赤ちゃんもタグをつけていなかった。数人がかりで探したが見つからなかったため、アビーは紛失を上司に報告した。アビーの迅速な対応のおかげで、どちらの母親もそれほど遅れずに退院できた。(中略)
「正直言って、とてもショックでした」とタッカーは言う。なぜならそこには上流活動のかけらもなかったからだ。 セキュリティタグが3時間のうちに2つも外れていたことに気づいたアビーは、「なぜこんなことが何度も起こるのだろう」とは考えなかった。タオルを失敬した看護師は、「これはプロセスの問題だ、連休明けの日の対策を立てなくては」とは考えなかった。 看護師たちはトンネリングを起こしていた。時間にも注意力にも余裕がなかった。別の病棟のタオルを失敬すること——数時間後にはその病棟のタオルも不足する——は、消費者金融からお金を借りるのと変わらない。いつかツケを払うときが来るが、とりあえずいまではない。それまでの間、看護師はがむしゃらに前に進み続ける。


■4.価値ある「早期警報」とは?
 問題を早く予見できれば、その分対処する時間的余裕が増える。だからこそ上流活動では、「解決すべき問題の早期警報を得るにはどうするか」を考えなくてはならない。この問題専用の煙感知器のようなものをつくるのだ。
 リンクトインで警報を作動させた「煙」は、サービス申し込み後1か月間利用がないことだった。シカゴ学区の「煙」は、高校1年生時の脱線だった。
 ただし、すべての早期警報に価値があるわけではない。警報の価値は、その問題がどれだけ重大かによって決まる。枕元の電灯が切れそうだという早期警報はたぶん必要ないし、ほしいとも思わない(逆に、灯台のてっぺんの電球切れを知らせる早期警報は価値が高い)。
 また警報の価値は、十分な対応時間が取れるかどうかによっても決まる。タイヤのパンクを30秒前に検知できれば命が助かるかもしれないが、0.5秒前にわかっても何にもならない。


■5.全体の利益が一部の利益に反することもある
 2009年7月のこと、グーグルの若手エンジニアがセントラルパークを通り抜けようとしたとき、頭に樫の木の枝が落ちてきて脳に損傷を負い、体に麻痺が残った。
 これは不幸な不測の事故だと思われていたが、そうではなかった。のちにニューヨーク市の会計監査官スコット・ストリンガーが、市が訴訟を解決するために支払ってきた和解金について調べ始めたところ、枝の落下が絡む訴訟が異様に多いことに気がついた(このエンジニアの訴訟は1150万ドルで和解している)。
 不思議に思ったストリンガーは調査を進め、数年前から経費削減の一環として樹木剪定の予算が削られていたことを突き止めた。「維持管理面で節約したつもりのお金が、訴訟で消えていたんです」と、ニューヨーク市政策担当監査官補デイヴィッド・サルトンストールは言う。


【感想】

◆昔のように本に付箋を貼った画像をご紹介できなくて残念ですが、とにかくハイライトしまくりました。

それにしてもメインタイトルの「上流思考」というのは、それだけ見ると「上流階級」的なイメージがありませんか(私だけ?)?

原題が「UPSTREAM」なので、「上流」で全然いいのですが、要は「川上」ということ。

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Upstream: How to solve problems before they happen

すでに昨年発売されている海外での評価平均が、960件で「4.6」とかなり高いのも、実際に読んだ自分としては納得しきりです。

また、冒頭の内容紹介で「ビジネス界から教育界、スポーツ界、医療業界に至るまで」とあるように、ユニークなエピソードも非常に豊富でした。

もっとも、まともにそれらを引用すると、ボリューム的に大変なことになるので、上記ポイントでは3番目と5番目くらいしかご紹介できていないのですが。


◆たとえば、上記ポイントの1番目のエクスペディアのケースで言うと、オンライン旅行会社のエクスペディアでは、予約した顧客の58%が、予約後に問い合わせの電話をしてきたのだそう。

その理由の1位は「旅行の日程表が欲しい」……って、オンラインなのになんで?と思ったら、メアドの誤入力や、日程表のメールが迷惑メール扱いになっていたりと様々な理由があったとのこと。

もちろん最大の理由は、サイトからダウンロードできなかったことであり、それを含めて対策を取られたのですが、そもそもなんでこんな簡単なことを見過ごしていたのかが問題です。

その理由は引用部分にもあるように、「組織的に無視するようにできていたから」。

結果的に対策がとられるまでは、ひたすら「下流」の対処(電話受付)に明け暮れていたワケです。


◆この導入部分を踏まえて、第1セクションでは、「上流思考」を阻む3つの障害がテーマ。

その1つが、上記ポイントの2番目の冒頭で登場する「問題盲」です。

これはたとえば、「プロスポーツ選手は全力でプレーし、怪我が必ず起こる」というようなもの。
悪い結果はあたりまえ、または避けられない、自分にはどうすることもできない、という思い込みである。
ここにある「シカゴ学区」では、公立高校の生徒の卒業率は、52.4%だったのですが、1997年当時はそれが「当たり前」でした。

その原因は、家庭の貧困や小中学校時代の勉強不足、栄養不良等々あるのですが、誰もが「どうしょうもない」と思っていた次第。

さらには、ここで指摘されているように「当事者意識」も欠けていました。

そんな中、上記ポイントの4番目で触れられている、ある「予測」によって、高校1年修了時に卒業できるか否かが80%の精度で判明することが分かり、改善に向かうのですが……(詳細は本書を)。


◆また、上記ポイントの3番目の「トンネリング」も3つの障害のうちの1つです。

トンネリングを簡単に説明すると「お金や時間、心のゆとりなどが欠乏していると感じるとき、大きな問題が小さな問題を意識の外に締め出す」というもの。

これに関しては、本書内でも紹介されている、こちらの本に詳しいです。

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いつも「時間がない」あなたに (ハヤカワ・ノンフィクション文庫)

参考記事:【オススメ!】『いつも「時間がない」あなたに:欠乏の行動経済学』センディル・ムッライナタン,エルダー・シャフィール(2015年03月01日)

ただ、このトンネルからの脱出も、上記ポイントの1番目にあるように難しいのだそう。
エクスペディアのCEO、マーク・オカストロムの言葉を思い出そう。「組織というものは、そこで働く人たちに何をすべきかを示すためにあるのです。要は、『目の前にある問題だけに集中すればいい』という許可を与えているのですよ」
なるほど、確かに。


◆そこで続く第2セクションでは、「上流」での問題を解決するための7つの論点が紹介されています。

その1つが、上記ポイントの4番目の「早期警報」。

上記でも登場しているシカゴ学区のケースはもちろん、リンクトインでもサービス申し込みの30日間の利用の有無で、その顧客が解約するかしないかが合理的にわかったのだそうです。

そして、この「兆候」に関して本書で印象に残ったのが、学校内での銃乱射をテーマにしたこちらの動画でした。



詳しくは下記のGIGAZINEでも紹介されているのですが、できれば記事を読む前に、この動画をご覧頂きたいところ……。

参考記事:少年はなぜ銃撃事件を起こしたのか?を描くショートフィルム「Evan」が戦慄 - GIGAZINE


◆なお上記ポイントの5番目は、「『害』をおよぼさないためには」と章題のついた第10章からの「利害相反」のお話。

これに関しては、いわゆる「コブラ効果」が典型的かもしれません。

コブラ効果 - Wikipedia

また、今回は割愛してしまった、第3セクションの「起こらなかった問題」の具体例も、考えさせられました。

個人的には記憶に新しい「2000年問題」も、大きなトラブルが起こらなかったからこそ、「あれは騒ぎすぎだった」という見解があるのでしょうけど、その陰では大変な苦労があったという。

逆に「頑張って対策を練った」にもかかわらず被害の出た、「ハリケーン・カトリーナ」も、実は何もしなければもっと大きな被害が起きていたらしいです。

予測を大きく下回る死亡者数に留めた「最大の決め手」に関しても、本書にてご確認を(私は知りませんでした)。


これはオススメせざるを得ません!

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上流思考――「問題が起こる前」に解決する新しい問題解決の思考法
CHAPTER 1:上流に向かえ

■SECTION 1:「上流思考」を阻む3つの障害
CHAPTER 2:問題盲
CHAPTER 3:当事者意識の欠如
CHAPTER 4:トンネリング

■SECTION 2:「上流リーダー」になれる7つの質問
CHAPTER 5:「しかるべき人たち」をまとめるには?
CHAPTER 6:「システム」を変えるには?
CHAPTER 7:「テコの支点」はどこにある?
CHAPTER 8:問題の「早期警報」を得るには?
CHAPTER 9:「成否」を正しく測るには?
CHAPTER10:「害」をおよぼさないためには?
CHAPTER 11:誰が「起こっていないこと」のためにお金を払うか?

■SECTION 3:さらに上流へ
CHAPTER 12:予言者のジレンマ
CHAPTER 13:あなたも上流へ


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【オススメ!】『いつも「時間がない」あなたに:欠乏の行動経済学』センディル・ムッライナタン,エルダー・シャフィール(2015年03月01日)


【編集後記】

◆本日の「Kindle日替わりセール」から。

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Posted by smoothfoxxx at 08:00
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