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2021年11月17日

【問題作?】『無理ゲー社会』橘玲


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無理ゲー社会(小学館新書)


【本の概要】

◆今日ご紹介するのは、現在開催中である「ぴっかぴか小デジ!感謝祭」における人気作。

今年8月に出た、橘玲さんの現時点における最新作です。

アマゾンの内容紹介から一部引用。
才能ある者にとってはユートピア、それ以外にとってはディストピア。誰もが「知能と努力」によって成功できるメリトクラシー社会では、知能格差が経済格差に直結する。遺伝ガチャで人生は決まるのか? 絶望の先になにがあるのか? はたして「自由で公正なユートピア」は実現可能なのか──。
ベストセラー『上級国民/下級国民』で現代社会のリアルな分断を描いた著者が、知能格差のタブーに踏み込み、リベラルな社会の「残酷な構造」を解き明かす衝撃作。

なお、中古が値崩れ気味ですが、送料を合わせればこのKindle版の方がお買い得です!






White Trash Cafe #2 / urbanwoodchuck


【ポイント】

■1.高校を舞台にした2つの作品の人間関係の違い
 2021年に吉川英治文学新人賞を受賞した加藤シゲアキの『オルタネート』は、東京の共学の私立高校を舞台に、調理部の部長になった3年生の蓉や、音楽への夢をあきらめきれず高校を中退して上京した尚志らの交友を描いている。(中略)
「伽藍の世界」を舞台にした『桐島、部活やめるってよ』と大きく異なるのは、日本じゅうの高校生が「オルタネート」というSNSによってつながっていることだ。そのためスクールカーストは存在せず、生徒たちの世界は「バザール化」している。(中略)
 高校を舞台にしたこの2つの作品は、10年を経て若者たちの人間関係がどのように変化したのかをよく示している。ネットワークが拡張したことで学校内の階級は消滅したが、その代わり、高校生たちはSNSでつながろうとし、ヴァーチャル空間での「評判」に夢中になっているのだ。


■2.運命は自分の手である程度は切り開ける
 行動遺伝学の知見によれば、遺伝率はよい方向でも悪い方向でも「極端」になるほど高くなる。並外れた才能も、世間を震撼させる凶悪犯罪も、いまでは遺伝的な要因が大きいことがわかっている。
 だがこれは逆にいえば、平均付近のほとんどのひとにとっては、「氏(遺伝)が半分、育ち(非共有環境)が半分」ということだ。人生のあらゆる場面に遺伝の影が延びているから、自由意志に制約があることは間違いないとしても、だからといって生まれ落ちた瞬間にすべてが決まっているわけではなく、自分の手で運命を(ある程度)切り開いていくことはできるはずだ。
 これからの時代に求められているのは、こうした不都合な事実(ファクト)を受け入れたうえで爐茲蠅茲ぜ匆餃瓩鮃汁曚垢襦嵜焚熟静リベラル」なのではないだろうか。


■3.「絶望死」というパンデミック
 世界じゅうで平均寿命が延びているのに、アメリカの白人労働者階級(ホワイトワーキングクラス)だけは平均寿命が短くなっている。この奇妙な事実を発見した経済学者のアン・ケースとアンガス・ディートンは、その原因がドラッグ、アルコール、自殺だとして、2015年の論文でこれを「絶望死(Deaths of Despair)」と名づけた。その翌年にドナルド・トランプが白人労働者階級の熱狂的な支持を受けて大統領に当選したことで、この論文は大きな注目を集めた。
「絶望死」とは、「死ぬまで酒を飲み続けたり、薬物を過剰摂取したり、銃で自分の頭を撃ち抜いたり、首を吊ったりしている」ことだ。2人はその後、膨大な統計データを 渉猟 し、アメリカ社会で起きている「絶望死」の実態を詳細に描き出した。
 ケースとディートンの共著『絶望死のアメリカ』の主張をひとことでまとめるなら、「アメリカの白人は高学歴と低学歴で分断されている」になる。この本では、アメリカ社会で大卒の資格をもたない白人がどれほどの苦境に追いやられているかの残酷な現実が、多くの印象的なグラフとともに、これでもかというほど示されている。


■4.陰謀論がはびこる理由
 自尊心についての多くの心理実験は、「ひとは誰もが自尊心をすこしでも高めようとし、それができない場合でも自尊心が傷つくことをなんとしてでも避けようとする」ことを示している。(中略)
 そのためわたしたちは、自尊心を引き下げるような事態に死に物狂いで抵抗する。ささいな批判に傷ついたり、激昂して攻撃的になることは誰でも身に覚えがあるはずだ。
 日本でも東日本大震災や今回の新型コロナ禍で、SNSなどに事実に基づかない主張があふれた。このひとたちは誤りを指摘されても訂正するどころか、さらに誤情報に執着する。これも問題の本質が「ファクト」ではなく「アイデンティティ(自尊心)」であることを示している。
 ところがある日、あなたは自分がいつの間にか「下級国民」の烙印を押されていることに気づく。(中略)
 こうなるともはや、現実を変える(努力して成功を目指す)ことは不可能だ。だとしたら、あとは現実を否認し自分の認知を変えるほかない。
 このようにして絶望の暗闇のなかから、「陰謀」がその異様な姿を現わすのではないだろうか。


■5.女性は結婚に失敗すると社会の最底辺に落とされる
 母子家庭になるのは離婚したからで、貧困に陥るのは別れた夫(父親)が養育費を払わないからだ。責任は男にあるが、なぜか日本では、最近まで養育費の不払いはほとんど問題にならず、母子家庭の生活保護不正受給だけがバッシングされている。こうした日本社会の現状を見れば、若い女性が「結婚して子どもを産んでもなにひとついいことがない」と思っても無理はない。
 結婚とは赤の他人といっしょに暮らすことだから、続けられるかどうかは、やってみないとわからない。「やさしかった夫が、子どもができたとたんに豹変した」などという話はいくらでもある。結婚に失敗することは、誰にでも起こり得る交通事故みたいなものだ。(中略)
 ところが結婚では、子どもができてから離婚すると、父親は責任を問われることが(ほとんど)なく、母親だけが社会の最底辺に突き落とされる「自己責任」にされてしまう。少子化で大騒ぎしている日本社会は、「子どもを産むな」という強烈なメッセージを送っているのだ。


【感想】

◆本書は下記目次にもあるように、全8章の4つのパートから構成されています。

そして上記ポイントの1番目は、PART1の第1章から抜き出したもの。

引用しといて申し訳ないのですが、私は対比された作品を2つとも読んでおりませぬ。

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桐島、部活やめるってよ (集英社文庫)

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オルタネート

前者が映画になったことは知っていましたが、後者は「第164回直木賞の候補に選出されたほか、『2021年本屋大賞』にノミネートされ、吉川英治文学新人賞にも輝いていた」んですね。

NEWS加藤シゲアキ「オルタネート」高校生直木賞受賞 史上初の2作受賞 - ジャニーズ : 日刊スポーツ

なお、この『オルタネート』に登場するSNS(「オルタネート」)は、現実世界ではないものの、それによって生み出される「ヴァーチャル空間での「評判」に夢中になっている」人間関係は、まさに現在、インスタやTikTokにハマっている若者と重ねて見てしまいます。


◆またPART2の第3章では、これまた私の知らなかった、マイケル・ヤングという作家の『メリトクラシー』なる「ディストピア小説」を中心にお話が展開。

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メリトクラシー

小説なので、これまた読んでいないのですが、ここで描かれる架空の世界では「教育によって学力はいくらでも向上する」「努力すればどんな夢でもかなう」という前提に立っているとのことです。

これはまさしく「リベラルな社会」を成り立たせるための「大前提」なのですが、現実には橘さんの過去の著作でも指摘されているように、「行動遺伝学が半世紀にわたって積み上げた頑健な知見では、知能の遺伝率は年齢とともに上がり、思春期を終える頃には70%超にまで達する」ワケでして。

それを受けた第4章の「遺伝ガチャで人生が決まるのか?」では、「全米成人識字調査」において、学歴によって仕事のリテラシーが明確に分かれてしまうことが明かされています。

つまり、遺伝に基づく知識レベルによって人生がほぼほぼ決まってしまう、という「不都合な真実」は、この本でも触れられていましたっけ。

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もっと言ってはいけない(新潮新書)

参考記事:【遺伝の真実?】『もっと言ってはいけない』橘玲(2019年01月28日)

ただし、上記ポイントの2番目にもあるように、「自分の手で運命を(ある程度)切り開いていくことはできる」のですから、諦めてはいけません。


◆続くPART3の第5章で最初に登場するのが、おなじみの映画『ジョーカー』です。

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ジョーカー [DVD]

何やら日本では「地上波放送が禁止に?」とか言われていますが、それというのも描かれている世界が、現実とリンクしているからかと。

実際、上記ポイントの3番目にあるように、白人労働者階級の「絶望死」の現状は悲惨なものであり、上記では割愛しましたが、
 ケンタッキー州における「自殺、薬物過剰摂取事故、アルコール性肝疾患」による死亡率は、1990年以降、大卒白人の死亡率がほとんど変わらないのに対し、非大卒白人は、1995年から2015年の20年間に10万人あたり37人から137人へと約4倍に増えている
のだそうです。

また、こうした状況から生まれた「Qアノン」信者たちが、なぜ「陰謀論」に傾倒するのかを明らかにしているのが、上記ポイントの4番目。

いわゆる「認知が歪んでいる」状態なのですが、それもまた彼らにとっては致し方ないのかもしれません。


◆そして最後のPART4の第8章から抜き出したのが、上記ポイントの5番目です。

橘さんいわく「日本は社会的な性差を示すジェンダーギャップ指数で156カ国中120位と世界最底辺で、それを象徴するのが、ひとり親(その大半が母子家庭)の貧困率が異様に高いこと」なのだそう。

その原因がまさに、こういった社会制度ゆえと言えるのではないでしょうか。

また、この後に続く部分でなるほど、と思ったのが、「積極的雇用政策は女性の失業者に対しては効果的に機能するが、それ以外の失業者(低学歴の男性や高齢者)にはあまり役に立たないらしい」というお話です。

というのも、女性の失業者の多くが、「普通の女性」であるのに対して、長期的に失業している男性の場合には、何かしらの問題があるケースが多いから。
学歴、資格、経験、才能など、労働市場で評価されるなんらかの要素をもっている者は働いているだろうから、必然的に「それ以外の男性」の集団になる。これが女性とちがって、職業訓練も職業紹介も役に立たない理由だろう。
これまた物議を醸しだしそうなのですが、その辺も橘さんらしい、と言ったらそうですね。


これからの世界を生きていくために知っておきたい真実がここに!

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無理ゲー社会(小学館新書)
はじめに 「苦しまずに自殺する権利」を求める若者たち

PART1 「自分らしく生きる」という呪い
 1 『君の名は。』と特攻
 2 「自分さがし」という新たな世界宗教

PART2 知能格差社会
 3 メリトクラシーのディストピア
 4 遺伝ガチャで人生が決まるのか?

PART3 経済格差と性愛格差
 5 絶望から陰謀が生まれるとき
 6 「神」になった「非モテ」のテロリスト

PART4 ユートピアを探して
 7 「資本主義」は夢を実現するシステム
 8 「よりよい世界」をつくる方法

エピローグ 「評判格差社会」という無理ゲー

あとがき 才能ある者にとってはユートピア、それ以外にとってはディストピア


【関連記事】

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【思い込み?】『FACTFULNESS(ファクトフルネス)10の思い込みを乗り越え、データを基に世界を正しく見る習慣』ハンス・ロスリング,オーラ・ロスリング,アンナ・ロンランド(2019年01月02日)


【編集後記】

◆本日の「Kindle日替わりセール」から。

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【編集後記2】

◆先日の「ぴっかぴか小デジ!感謝祭 残り分」の記事で評判が高かったのは、この辺の作品でした(順不同)。

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縁の切り方 絆と孤独を考える(小学館新書)

B00FRGIAYA
勝負論 ウメハラの流儀(小学館新書)

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養老孟司の旅する脳

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ウルトラマンになった男

よろしければご参考まで!


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Posted by smoothfoxxx at 08:00
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