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2021年07月21日

【日本語指南】『大野晋の日本語相談』大野晋


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大野晋の日本語相談 (河出文庫)


【本の概要】

◆今日ご紹介するのは、現在開催中である「Kindle本30%ポイント還元キャンペーン」の河出書房新社分の記事でも人気の1冊。

あの「『広辞苑』の初版の基礎語約1000語の項目執筆を受け持った」という故・大野晋さんが、読者からの87の疑問に答える作品です。

アマゾンの内容紹介から。
日本語の達人が、読者からの素朴な疑問に答えます。一ケ月の「ケ」はなぜ「か」と読む?見レル・起キレルは正しい?日本人は外国語学習が下手?なぜアルが動詞でナイは形容詞?五十音図は誰が作った?面白くて奥が深い、最高の日本語教室。井上ひさし・大岡信・丸谷才一との座談会を巻末に収録。

中古が値崩れしていますが、送料を合わせるとKindle版に軍配が上がります!






dictionary / stockcatalog


【ポイント】

■1.「見レル」「起キレル」「出レル」といった変な日本語が増えたワケは?
 mirareru, okirareru という形ではrが3つも重なり発音しにくいという条件がまず1つあるでしょう。しかしそれだけではありません。
 我々は書ケル・行ケル・住メルなどと言います。書クコトガデキル という表現です。これは書カナイ・書キマス・書ク・書クトキハ・書ケバ・書ケという古くからの活用の変化からはみ出した新形で、動作を表す書ク、行ク、住ムなどの四段活用の動詞をもとにして江戸時代の後半から広まったものです。学者はこれに可能動詞という名前をつけました。可能動詞は意志的な動作を表す四段活用の動詞から作られます。その中に「切レル・釣レル・取レル・乗レル」などが多数あり、それに類推して「見レル」「起キレル」「出レル」などが生まれて来たようです。
 言葉は正しく使うべきものだという規制が一方では強く働きます。一方ではややこしい形式は、なるべく簡略にしたいという欲求が働きます。言葉の現実はその両方のバランスの中にあるのです。


■2.「ちょっとお聞きします」「荷物をお持ちします」等、自分の行動なのに「お」を付けるのはなぜ?
 さて、「ちょっとお聞きしますが」が変だとお感じですが、ではこう言ったらどうでしょう。「ちょっと聞きますが」。
 これでは相手に失礼になるでしょう。つまりこの場合の「聞く」は自分の動作だけれども、相手に対する動作であり、相手との間の話題の動作です。そのときは、ここにオを加えて「お聞き」として動作を大事なものと扱うのです。このようなオの使い方を、このごろは美化語と呼ぶ人もいます。
 この手の美化語のオの使い方は、最近では非常に多く、「お手紙を差し上げた」のように相手に属すると考えられるものから、「おハンカチを買いました」のように自分のものについても使い、オビール、オ洗濯、オ絵描き……実にたくさん使われています。このオは室町時代から次第に広く使われはじめたものです。


■3.自分が寝るのに「おやすみなさい」というのはなぜ?
 さて、自分で先に寝床に入るのに、仕事をしている親や兄弟に「オヤスミナサイ」というのは、はなはだ変です。(中略)
 この表現は以前は、「お先に。お休みなさい」ともいいました。こうなると、自分が先に寝るのに、相手に向かって、「先に寝なさい」と命令するかのようで変なのです。
 この言い方の少し古い例を求めてみると、明治時代には、夏目漱石の『草枕』に、
「床を延べる時には『ゆるりとお休み』と人間らしい言葉を述べて出て行ったが」
とあります。
 つまり「お休みなさい」とは「(ごゆるりと)お休みなさいませ」のつもりの表現だったのです。それが、「お休みなさい」になり、さらに「お休み」と省略されてしまって、さて変だということになりました。
 会話のことばは、こういうように簡単にされて短くなり、由来の分からなくなることがあるんですね。


■4.「秋も深まる」はどうして「も」?
 つまり「も」は、これ1つと確定しないのが原義なのです。そこから「あれもこれも」のような添加の用法が発展したのです。ですから「秋も……」と手紙を始めると、書き手、読み手に共通な「秋」が題目にされ、他にもまだ仲間があるかのような気持ちをただよわします。その上、「も」は不確定で不確実という色合いも表します。
 つまり、「秋は」と始めると唐突に確固たる題目から始まることになり、「秋が」とすると突然、なまなましい現場の描写が始まる趣があります。ところが「秋も」とすると、自分と相手と「秋」が仲間であるような場を作る。その上、これといった強固さを表さない。こういう題目の設定の仕方は相手に対する礼節をわきまえた態度の表現と受け取られるのですね。
 日本人はそうした柔らかに礼儀をふくんだ意識が好きです。「秋も深まってきました」という表現のうしろには、そういう日本人の無意識の選択がはたらいていると私には思われます。


■5.なぜ英語の「I」に対応する日本語に「私、僕、俺、小生」等いくつもあるのか?
 ためしに、英語の「I」(アイ)について英和辞典を引いてみると、「人称代名詞、第一人称単数主格。目的格 me, 複数 we」とあり、それ以上の説明はありません。大型の英和辞典もおよそ同じでした。(中略)
 つまり英語では、話し手が、子供であれ老人であれ、大臣であれ、小売商人であれ「自分が動作の主体である」ことを表明するのに同じ1つの形を使うのです。(中略)
 日本語の社会では、自分を言語化するときに、ただ1つ、自分自身が動作の主体であることを示せばよいのではありません。相手に対する自分自身の社会的関係を考慮します。関係に応じて自分自身を言語化します。(中略)
 ですから日本語の社会では、自分をむやみに低く扱う表現をして相手にへつらったり、「拙者は」などといって尊大さを示したりします。英語社会の個人の行動の主体性の明確さに対し、日本人は周囲に気がねして自己主張が弱い。それと代名詞組織の相違とのあいだには関係があるのでしょう。
 第二次大戦後、人間は平等という観念が広まり、上下の意識は大きく変化しましたが、親疎の観念は、依然として代名詞でこまかく言いわけられているようです。


【感想】

◆想像以上に「ガチ」な内容の作品でした。

冒頭の内容紹介を眺めた限りでは、ちょっとした「日本語の成り立ち教室」くらいの感じですが、実際には古語のレベルから掘り下げたり、諸外国の言葉との比較があったりと沼も深め。

今さらですが、Wikipediaで見たら「古代日本語の音韻、表記、語彙、文法、日本語の起源、日本人の思考様式など幅広い業績を残した」なんて一文がありますからね。

大野晋 - Wikipedia

おかげで、抜き出そうとしていた項で、ガンガンに発音記号等が出て来て、本書自体では特殊なフォント(?)で表現できているものの、こちらではフォントがなくて引用できないというアリサマ。

分かりやすいところでは、「apple」の「a」で使う、「ア」と「エ」のミックスしたような発音記号ですら、パソコンにフォントないんでしたっけ?

たとえそのくらいなら特殊文字であったとしても、古語の象形文字みたいなのは、いかんともしがたいワケです。

こっそりスクショ撮りましたが、こんな感じで。




◆そんなこんなで、上記ポイントではそうした引用上で問題がないものばかりということになっています。

たとえば上記ポイントの1番目は、いわゆる「ラ抜き言葉」について言及。

「可能動詞」なんて表現があるの、私は初めて知りましたよ。

可能動詞 - Wikipedia

ちなみにこのテーマは奥深いこともあって、本書ではもう1つ項を設けて触れられています。

そちらによると、「本来、ラレルという助動詞は、受け身、尊敬、可能、自発という四つの役割を負っている」とのこと。
そこで、見ラレル、起キラレルという表現を、もっぱら尊敬表現のほうに使うことにして(これには戦後、文部省が、尊敬にはレル、ラレルを使うと導いたことも関係があるでしょうが)、可能を分離し、レル形の見レル、起キレルにもっていく。こういう一種の役割分担による表現の明確化の意向が、人々の間に潜在的に働いていると私が感じていることもあるのです。
ここで言う「尊敬表現」との切り分け、という指摘は目からウロコでした。


◆また、上記ポイントの2番目の「ちょっとお聞きします」等が変、という疑問は、本書で言われるまで感じたことがありませんでした。

割愛しましたが、本書で言われているのが「日本語の敬語を考えるときに、根本的に心得ておくとよいことは、話題にするものごとや動作に対する敬語と、話しかけている相手に対する敬語とを区別するとよい」というお話です。

具体例であげられているのが「ポリの野郎が来やがった」だと、泥棒仲間同士の発言であるのが、「ポリの野郎が来やがリましたぜ」だと、泥棒の子分が親分に言う言葉になる、というもの。

なるほど、そう言われると、「ちょっとお聞きします」も同様で、話し相手に対する敬意であることがわかります。

さらには上記ポイントの3番目の「おやすみなさい」も、今の今まで、疑問に思ったことすらありませんでした。

「挨拶なんてそんなもの」と、何も感じなかった自分を恥じるばかり。


◆ただ、こういう「ちょっとした疑問」は、私たち以上に、日本語を学ぶ外国人はひっかかるらしくて、本書では何人かの外国人からの質問も取り上げられていました。

たとえば
「窓が開いている」と「窓を開けてある」はどう違うか?
などは、私たちが無意識に使い分けていることでしょう。

同様に「そう」「らしい」「みたい」の使い分けなんて考えたことなかったのですが、
〆Fの文法はやさしいようです。∈Fの文法はやさしそうです。今日の文法はやさしいみたいです。という三文は同じ意味なのか、ニュアンスが違うのか。
と改めて問われると答えられなかったり。

……これなどはポイントとして取り上げたかったのですが、やたら長くなるので割愛したのですが。


◆さらには上記ポイントの4番目の「秋も深まる」の「も」も、「そういうものだ」と思い込んで、「は」や「が」と比較などしたこともなく。

今般本書を読んで、「なるほどそういうことだったのか」と納得した次第です。

逆に上記ポイントの5番目のお話は、よく指摘されることですから、納得感は高いかと。

私も「相手に対する自分自身の社会的関係を考慮」「関係に応じて自分自身を言語化」しているからこそ、このブログや仕事上では「私」と名乗ってますが、カジュアルな場面では「僕」と言ってるワケでして。

1つ残念だったのが、「日本人はなぜ外国語学習が下手?」という質問を取り上げられなかったことでして、これは上記でも触れた発音記号の問題ゆえ。

母音の区別が少なかったり、子音の数が少なかったり単純なことが大きな理由なのですが、外国語に苦労されてる方は、こちらもぜひお読みください。


普段使っている日本語の仕組みや成り立ちを理解できる1冊!

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大野晋の日本語相談 (河出文庫)
どうしてェ そうなるのォ?
「ハクショーン」「えいっ、クソ」
犬にエサをあげる? やる?
すごく、とても、非常に面白い
見レル、起キレル、出レル
再び「見レル、起キレル」
正しい標準語はどこで話すの? 他


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【編集後記】

◆本日の「Kindle日替わりセール」から。

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あの『ビジネスモデル・ジェネレーション』で有名になった、「ビジネスモデル・キャンバス」を解説したこの作品は、Kindle版が1200円以上お得。

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Posted by smoothfoxxx at 08:00
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