2021年04月12日
【生産性】『ドイツ人はなぜ、毎日出社しなくても世界一成果を出せるのか 7割テレワークでも生産性が日本の1.5倍の秘密』熊谷 徹
ドイツ人はなぜ、毎日出社しなくても世界一成果を出せるのか 7割テレワークでも生産性が日本の1.5倍の秘密 (SB新書)
【本の概要】
◆今日ご紹介するのは、先日の「未読本・気になる本」の記事で取り上げた中でも、当ブログ向きと思われる1冊。フリージャーナリストとしてドイツ・ミュンヘンに在住されている熊谷 徹さんが、コロナ禍でも生産性の高いドイツの秘密を明かしてくれています。
アマゾンの内容紹介から一部引用。
「出社して働いた方が、成果が出る」という考え方が、いまだに根強い日本。
それに対してドイツではコロナ危機勃発以降、テレワークが急速に広まり、すでに「むやみに出社させない社会」が出来上がりつつある。
好きな場所、好きな時間に働いて、効率よく成果を出す。
オフタイムを充実させてワークライフバランスを高める……。
ドイツに30年以上暮らす著者が教える、ドイツ人流・消耗しない働き方。
中古に送料を加えると定価を超えますから、Kindle版もご検討ください!
Working from home / ShanMcG213
【ポイント】
■1.コロナ禍でテレワークを推進したドイツ2020年春のコロナ・パンデミック第1波の際に、ドイツの企業は日本企業よりもはるかに積極的にテレワークを実施した。
フラウンホーファー労働経済・組織研究所(IAO)とドイツ人事労務協会(DGFP)は、2020年5月5日から22日までに、500社の企業を対象としてテレワークに関するアンケートを行った。同年7月に公表された調査結果によると、「社員にテレワークを行わせている」と答えた企業の比率は、コロナ禍勃発前には32%だった。だが、コロナ禍が始まって以降は、回答企業の70%が「全ての社員もしくは大半を自宅で働かせた」と答えた。
またベルリン商工会議所が2020年7〜8月に約300社の企業経営者を対象に行ったアンケート調査でも、「コロナ禍の勃発以来、テレワークを拡大した」と答えた回答企業の比率は、65.8%にのぼった。
これらの意識調査から、2020年春のコロナ第1波の時には、ドイツ企業のほぼ6〜7割が社員にテレワークを行わせていたことがわかる。これは日本の数字を大きく上回る。
■2.テレワークでオフィス費用を大幅に削減
将来ドイツでは、オフィスワークとテレワークが混在する働き方が主流になるので、オフィスが完全に不要になるわけではない。それでも、企業にとって経費の一部を節約できることは間違いない。
特に重要なのが、オフィスにかかる賃借費用だ。これまで大手企業はニューヨーク、ロンドンやパリなど家賃が高い都市でオフィスを維持するために毎年多額の賃借費用を払ってきた。しかし将来社員の一部がテレワークを行うとすると、オフィスの面積を縮小して賃借費用の一部を節約することができる。
コロナ・パンデミックが吹き荒れた2020年の3〜4月、2021年の1〜2月には、多くのドイツ企業が社員に原則として自宅で働くよう要請した。出社が許されるのは、火急の要件がある場合だけだった。このため、多くのオフィススペースから人影が消え、「遊休施設」のようになった。
一部の企業は、コロナ後もテレワークを勤務形態の一部として定着させることによって、不動産関連コストを節約する方針をすでに打ち出している。その傾向は、デジタル化が進み、テレワークに適した金融サービス業界で最も顕著だ。
■3.コロナ禍で「インダストリー4.0」の重要性を認識したドイツ
Bitkomによると、2016年にはインダストリー4.0関連の技術を導入した企業の比率は46%だったが、2020年には13ポイントも増えて59%になった。2016年には回答企業の12%が「インダストリー4.0は、我が社には無関係。導入の予定もない」と答えていたが、2020年の調査ではこうした消極派企業の比率がわずか1%に下がった。
また「コロナ禍は貴社のデジタル化にどのような影響を及ぼしましたか?」という設問に対して「コロナの影響でデジタル化のための投資を増やした」と答えた企業の比率は、75%にのぼった。「コロナ禍はデジタル化に影響を及ぼさなかった」と答えた企業は、わずか0.2%に留まった。
これらの数字は、コロナ・ロックダウンを経験した多くの企業が、緊急事態への耐性を高めるという観点から、インダストリー4.0の重要性を強く認識したことを示している。
■4.労働時間口座に基づくフレックスタイムとは?
前述のように、1990年代末までのドイツでは、社員に対し午前9時から午後3時までオフィスにいることを義務付ける会社が多かった。タイムカードで出社時刻が午前9時を1分でも過ぎると、「遅刻」として上司に報告された。
だが今では大半の企業が労働時間口座(タイムアカウント)に基づくフレックスタイムを導入している。この制度では、労働時間口座の収支残高が、期末に大幅なマイナスになっていなければ、出社、退社の時間は自由だ。
たとえば金融サービス業界では所定労働時間が週39時間なので、週休2日制の会社では1日の労働時間は7.8時間となる。1日に7.8時間を超えて働くと、残業時間が発生し、労働時間口座にプラスのポイントが蓄積される。1日に7.8時間より短く働くと、労働時間負債が発生して、労働時間口座にたまった残業時間から差し引かれる。(中略)
社員にとっては、労働時間口座の収支残高がプラスである限り、出社・退社時間を自由に決められるという利点がある。たとえば、あるドイツ人は朝型なので、毎朝7時に出社し、午後3時に退勤している。上司は全く文句を言わない。
■5.同調圧力ではなく法で規制を
前述のようにドイツ政府は、感染拡大に歯止めをかけるために、2021年1月に業務の内容が許す限り、テレワークの許可を経営者に義務付ける政令を約1ヶ月半にわたり施行した。経済界は強く反発した。しかし企業は政令に違反すると事業所監督庁に摘発される他、メディアによって「ブラック企業」という烙印を押される可能性もあるので、しぶしぶ従わざるを得なかった。
ドイツに比べると、日本政府の対応は消極的だった。我が国の政府はテレワークに関する政令を出すのではなく、企業に対し強制力のない「お願い」をするに留まった。(中略)
具体的な政令や規則を伴わない要請だけでは、ほとんどの企業の経営者たちはテレワーク社員の比率を70%まで引き上げないだろう。彼らは、収益目標やノルマの達成に追われ、他社との熾烈な競争にさらされているからだ。あくまで政府からの「お願い」なので、実行しなくても罰金の支払いを命じられることはない。緊急事態宣言の発出期間中にも、首都圏の朝の通勤電車が混雑していたのは、そのためだ。
【感想】
◆生産性をキーワードに、色々と考えさせられる作品でした。ただしサブタイトルの「生産性が日本の1.5倍」というのは、コロナがまだ発生する前からのお話であり、著者の熊谷さんが2018年に寄稿されたこんな記事を発見。
なぜドイツの労働生産性は日本よりも高いのか:在日ドイツ商工会議所
本書内では2019年のグラフも収録されているのですが、それによると、1時間当たりの労働生産性は、ドイツが66.4ドルであるのに対して、日本は46.8ドルなのだそうです。
ただし、「生産性が1.5倍」なんていうと、ドイツ人の情報処理能力が1.5倍のような気もしますが、上記リンク先で書かれているように要は「労働時間が短い」ということ。
もちろん処理能力が速いからこそ労働時間が短い、という部分もあるのですが、日本の場合、元から「付き合い残業」やら「仕事が少なくても有給休暇が取りにくい」なんて要素もありそうです。
◆それを踏まえて、コロナ禍でドイツがどのように変わったかのお話が触れられているのが本書の序章。
なかなかテレワークが進まなかった日本に比べて、ドイツでは上記ポイントの1番目にあるように、ドラスティックにテレワークを推進しました。
ただ、意外だったのはむしろコロナ禍以前のドイツは、他のEU諸国と比較しても、ドイツはテレワークが普及していなかったのだそうです(2016年の時点で約12%)。
それでも1度テレワークに移行すると、その恩恵を労使ともに実感し、テレワークが定着しつつある模様。
たとえば意外なことにドイツにも「通勤時間問題」があるそうで、とある調査によると、ドイツの会社員のうち「通勤時間が往復1時間以上かかる」人が48%いるのだそうです。
また、本書の第1章から抜き出した、上記ポイントの2番目にもあるように、企業側もテレワークにはメリットがありました。
元から「成果主義」である以上、オフィスにこだわる必要はなかったようです。
◆ただし、こうしたテレワークをスムーズに進められたのは、非製造業においてのこと。
コロナのパンデミック第1波の際に積極的だったのは、銀行等の金融サービス業や、IT・通信業界だったのだそうです。
とはいえ、本書の第2章によると、ドイツには以前から製造業のデジタル化を目指す「インダストリー4.0」なるプロジェクトがありました。
これは2011年にドイツ政府が公表した、製造業のデジタル化計画のこと。
本書によると
物づくり大国ドイツが、米国や中国のIT企業のデジタル化攻勢に対抗し、製造業における優位を維持するために、伝統的なビジネスモデルを自ら改変して、デジタル化とサービス化の要素を取り入れるというプロジェクトなのだとか。
かつては「インダストリー4.0」の導入にあまり積極的でなかった企業も、コロナ禍によって大きく変わったのは、上記ポイントの3番目にあるとおりです。
◆また、元からドイツでは、ワークライフバランスが重視されていたのですが、その背景には、ドイツの法律と労働組合の影響力の強さがありました。
法律により有給の消化率を高くしたり、1日の労働時間を10時間未満に抑えていること等々は、私たちから見ると羨ましいばかり。
さらには聞きなれない「労働時間口座」なる概念が登場するのが、本書の第4章です。
なるほどこういう仕組みがあれば、全体としての労働時間は短くなるでしょうし、その結果、生産性も高くなりそうな。
それに比べて我が国は……と愚痴も言いたくなりますが、確かにテレワークすら導入しきれなかったのは上記ポイントの5番目にもあるとおりです。
やはり上からガツンと言ってもらった効果は、ドイツでも大きかったようなので、日本でも前向きに検討してもらえたら、と。
今回のコロナ禍は、誤解を恐れずに言えば、日本のテレワーク導入の良いチャンスになりえたんですけどね……。
ドイツに学ぶために読むべし!
ドイツ人はなぜ、毎日出社しなくても世界一成果を出せるのか 7割テレワークでも生産性が日本の1.5倍の秘密 (SB新書)
序章 日本を大きく上回るテレワーク比率でもドイツ人の生産性が高い秘密
第1章 ドイツではなぜ、出社しない働き方が普及したのか
第2章 「むやみに出社させない国」に進化したドイツ
第3章 「ひとりひとりがマイペースで働く権利」を保障する国
第4章 経済的な豊かさよりもオフタイムを大切にするドイツ人
第5章 人とつながり、幸せを分かち合う国・ドイツ
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【生産性向上?】『チームの生産性をあげる。―――業務改善士が教える68の具体策』沢渡あまね(2017年07月20日)
【編集後記】
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【編集後記2】
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参考記事:【成毛流?】『アフターコロナの生存戦略 不安定な情勢でも自由に遊び存分に稼ぐための新コンセプト』成毛 眞(2020年11月20日)
イケメンはモテない 確実に好きな人の「特別な存在」になるたった1つの方法
参考記事:【モテ】『イケメンはモテない 確実に好きな人の「特別な存在」になるたった1つの方法』仮メンタリストえる(2021年04月11日)
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