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2020年07月17日

【視考術?】『人は、なぜ約束の時間に遅れるのか〜素朴な疑問から考える「行動の原因」〜』島宗 理


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人は、なぜ約束の時間に遅れるのか〜素朴な疑問から考える「行動の原因」〜 (光文社新書)


【本の概要】

◆今日ご紹介するのは、現在開催中である「光文社新書 半額フェア 第2弾」の中でも個人的に読んでみたかった1冊。

結構前に「シゴタノ」さんで絶賛されているのに、チェックし損ねておりました(恥)。

アマゾンの内容紹介から。
たとえば、約束の時間。私たち現代人の生活には、約束した時間通りに行動しなければならないことが数多く仕掛けられている。そして、約束の時間によく遅れる人は「だらしない」とみなされ、約束の時間を守る人は「几帳面」とみなされる。しかし、「だらしなさ」のせいで人は約束の時間に遅れ、「几帳面さ」のせいで人は約束の時間を守るのだろうか。私たちは、自分や他人の行動の原因について、日常的に「なぜ?」と問いかけながら暮らしている。本書では、そんな「なぜ?」を、描いて・視て・考える『視考術』という行動分析学に基づく手法を使って考察し、これまでとは違う角度から人間行動の本質を探る。

なお、中古が値崩れしていますが、送料を加えるとKindle版に軍配が上がります!






Late / Photo Extremist


【ポイント】

■1.都会と地方の「時間を見積もる」ことの違い
 電車で待ち合わせ場所に向かうのと、自家用車で待ち合わせ場所に向かうのとでは、いくつかの違いが考えられる。
 1つは先行事象としての時刻表の存在である。都心部ならともかく、関東でも千葉県や埼玉県などの近県から渋谷に向かうのであれば、路線によっては時刻表を見て、それに合わせて出発しなくてはならない。その時点で電車を一本逃してしまうと十分から数十分以上遅れてしまうから、出発の時間を決めてそれまでに出発する行動が動機づけられる。
 これに対して自家用車の場合にはそもそも時刻表という先行事象が存在しない。だから、見積もり行動の参考となるのは、これまでの「経験」である。しかし、経験に基づいて時間を見積もっても、あたりはずれが大きい。道路が空いていて早く着くこともあれば、渋滞で遅れることもあるから。見積もりがあたらなければ、見積もり行動は強化されなくなっていく。


■2.明かりの消し忘れを視考する
 私たちが日常生活でついついうっかりもの忘れしてしまう場面は他にもたくさんあるが、杉山尚子氏による部屋の明かりの消灯行動の分析は興味深い。杉山氏によれば、暗い部屋に入るときに灯をつける行動は部屋が明るくなることで強化される。部屋の中の見えないものが見えるようになることによる、『 行動内在的随伴性』が点灯行動を強化しているというわけだ。『行動内在的随伴性』とは、後続事象が他者による介入なしに自動的に生じる随伴性のことである。
 ところが、部屋を出るときに灯を消す行動は本人にとって直接の利益をもたらさない。あるとすれば、電気代の節約か、「また、つけっぱなしじゃない!」と家族からなじられるのを避けることくらいである。
 電気代の節約も行動内在的な強化随伴性ではあるが、1回の消灯で節約できる電気代は微々たるものなので消灯行動は強化されにくい。(中略)
 杉山氏の解釈が面白いのは、消灯しない原因を、「うっかり」や「もの忘れ」や「注意散漫」といった本人側の心の問題ではなく、消灯行動を強化する随伴性の方に求めているところにある。


■3.地べたに座るジベタリアンを視考する
 座り込む行動の直接的な動機は「疲労」である。座る行動は楽になることで行動内在的に強化される。ジベタリアンでなくても、たとえば休日に銀座の街をぶらぶら2時間も歩けば、誰でも座りたくなる。これは万人に共通の随伴性である。
 しかしながら、私たちは、少しくらい疲れていても駅前やコンビニにジベタ座りすることはない。では、ジベタリアンと私たちの違いは、どこにあるのだろう。
 その違いは3つある。ひとつは側に友達が座っているかどうか(あるいは一緒に座りそうな友達がいるかどうか)。2つめはそれに関連して、座ったことによって恥ずかしい気持ちになるかどうか。そして3つめは、これらの結果として、駅前やコンビニという特定の場所が座り込み行動を喚起するようになっているかどうかである。


■4.人は、なぜ宝くじを買うのか
「2億円あれば住宅ローンを完済できるなぁ。車を買って、それでもまだ余るなぁ。少しは寄付もしようかな。老後のための資産運用も始めようかな……」と、私ならこんな具合に「夢」をみる。
 夢は宝くじを買わなくてもみることはできる。だが、宝くじを買うことによって、こうした「夢」行動には、「夢」行動を引き起こす刺激(未発表の宝くじ)が手元にあるということによる「現実感」が生まれる。宝くじを買う前は、車を買っても支払うすべがないのが、宝くじを買えば支払いにめどが立つ。もちろん、どちらも想像上の話ではあるのだが、宝くじを買うことで「夢」行動が強化される随伴性が生じるのは現実の話だ。
 買ったらどのくらいの確率で当たるのかということはこの随伴性には関係ない。買えば必ず前述の動機づけ操作が機能するのだから。そういう意味では確率は P=1なのである。当選確率の過大評価どころの話ではない。


■5.詐欺の本質
 犯人から指定された口座にお金を振り込む行動を制御している直接の先行事象は犯人からの指示であるが、見逃してはならないのが、被害者に不安感を生じさせる要因である。「交通事故」や「怪我」「病院」という言葉やサイレンの音は、どれも不安という情動反応を引き起こす機能をもつ。犯人側は、こうした操作によって高まった不安感が、お金を振り込むことによって減らすことができる随伴性を、もちろんそれをそのまま説明するのではなく、《示唆》する。(中略)
 そして、詐欺にまつわる随伴性に特徴的なのが、本当に交通事故が起こっているのかウソなのかを示す先行事象の不在である。騙す側は、ウソをついていることがバレる先行事象を提示しないように細心の注意を払う。たとえば、被害者から孫や息子の個人情報を尋ねられたら答えられるような情報をあらかじめ入手しておく。あるいは、怒ったり、泣いたりしながら「それどころじゃないんだよ」と言ってごまかす。そして、事故が本物であることを示す手がかり(警察官役やサイレンの音)を偽装する。
 不安を 煽る情動操作と、ホントとウソの区別を曖昧にする先行事象の操作が、詐欺の本質であると視考する。


【感想】

◆サブタイトルにもあるように、人のさまざまな「行動」の「原因」について掘り下げた作品でした。

とはいえ、メインタイトルから「時間術」を期待されてしまった方には、少々肩透かしな内容だったかもしれません。

ただ、たとえば誰かが「約束の時間に遅れる」場合、その人が「だらしないから」「意志が弱いから」と私たちは考えがちですが、決してそうとは限らないことを本書は指摘しています。

そしてこうした「行動のなぜ」を目で視てわかるように描きだす手法を、『視考術』と言うのだそう。

……この言葉、ググってヒットするのが本書絡みのサイトやレビューばかりなので、ひょっとしたら著者オリジナルの概念である可能性もありますが。


◆まず本書はその序章で、「県民性・国民性」をテーマに『視考術』を解説。

よく時間にルーズな地方、国がありますが、それを県民性や国民性に求めない考え方を指南してくれています。

たとえば上記ポイントの1番目では、約束の時間までに到着するまでの「時間を見積もる」という行為に関して、その「先行事象」(行動を引き起こすきっかけとなる手がかりや出来事、条件、時間などのこと)の有無が、都会と地方では違うことを指摘。

また、タイの人は結構時間にルーズらしいのですが、それを「国民性」で済ませず、世界でも有数の渋滞都市(スコール等により)であることに、その原因を求めています。

もちろん、こうした「先行事象」は1つとは限らず、常に「他に何か別の理由があるかもしれない」と、開かれた思考状態を維持するのがコツなのだそう。


◆1つ飛んだ第2章では「忘れ物」がテーマ。

上記ポイントの2番目にあるように、電気の「つけ忘れ」はあり得ないのに対して、「消し忘れ」がよくあるのは、ここで言うところの「随伴性」に違いがあるようです。

これはまた「傘の置き忘れ」も同様のこと。

喫茶店から出る際、雨が降っていれば傘を忘れることはありえませんが、降ってなければ「雨に濡れる」という現象がないどころか、ささない傘を持ち歩くという手間によって、むしろ「内在的随伴性」が弱化されている可能性もあります。

もっとも傘なら失くしてもまだ被害も少ないですが、著者の島宗さんは、傘どころか財布をよく置き忘れることが多かったのだとか。
 私がとった解決策は、財布はポケットではなく鞄に入れること。そして、外出時には必ず肩掛け鞄を提げて出ることである。この解決策をとるようになってからは、一度も財布をなくしていない。
他にも定期券は定期券ホルダーに入れ、これを鞄に紐でつないでいるのだそう。

見てくれはよくないかもしれませんが、こうした「仕組み作り」が効果的なのだと思います。


◆続く第3章では「道徳観」というデリケートなものに言及。

地べたに座り込む「ジベタリアン」と、私たちの「違い」について、上記ポイントの3番目では列挙しています。

ただし本書によると、状況を変えれば、私たちも「ジベタリアン」になりうる、とのこと。

たとえば、仲間と早朝から山に登り、夕方ようやく下山して、コンビニの駐車場で仲間を待っている場面を想像してみます。
ところが腰をかけて休める長椅子もなにもない。駐車場は広々としていて、車止めの縁石が「さぁ、休んでらっしゃい」と言わんばかりにあなたを誘う。こんなところに座るなんて恥ずかしいなぁと躊躇しているうちに、気がつくと、1人、また1人と、仲間が縁石に腰を下ろし、冷えたペットボトルのお茶をゴクンと飲み始めている。
 どんなに気高い《道徳心》の持ち主でも、この状況下で一人で立ち続けるのは至難の業だろう。
つまり、「ジベタリアン」が座り込むのは、道徳心が低下したからではなく、この登山のシーンと同様に、その場面では、座り込む行動が強化されているから座り込んで座り込んでいるワケです。


◆一方、第4章では、まず「災害からの逃げ遅れ」をテーマに「バイアス」を解説しているのですが、行動経済学本でおなじみのお話だったので割愛。

むしろ上記ポイントの4番目の「人は、なぜ宝くじを買うのか」の内容の方が、結構「目からウロコ」だったので引用してみた次第です。

なお、今回割愛したその他の要因として、「ニアミス」も「惜しかった。次こそは」という言語行動を引き出し、また最低3000円買えば必ず当選する少額当選(300円)も、売り場まで足を運ばせ、再度宝くじを買わせる動機づけ操作として作用するのだとか。

……それでも私は買いませんけどね(頑固者)。

また、「意識」をテーマにした第5章からは、「振り込め詐欺」を解説した上記ポイントの5番目を抜き出してみました。

ここで取り扱っている詐欺は、昨今流行りの「還付金等」(私の母もやられました)ではなくて、トラブル系の詐欺なのですけど、以前ご紹介したこの本を読む限り、どんな用心深い人でも、まず引っ掛かってしまうであろう制度設計になっていると思われ。

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だましの手口 知らないと損する心の法則 (PHP新書)

参考記事:【『影響力の武器』悪用編?】『だましの手口』に学ぶブラック手法6選(2012年03月07日)

確かに「先行事象の操作」が、この手の詐欺のキモなのは、間違いないでしょう。

いずれにせよ、この内容が400円しないで手に入るのですから「買い」の1冊。


表面的ではない「行動の原因」を理解するために読むべし!

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人は、なぜ約束の時間に遅れるのか〜素朴な疑問から考える「行動の原因」〜 (光文社新書)
序章 県民性・国民性を視考する―行動の『視考術』とは何か
第1章 性格を視考する―人は、なぜ血液型で性格を判断しようとするのか
第2章 記憶を視考する―人は、なぜ傘を置き忘れるのか
第3章 道徳観を視考する―人は、なぜ公衆マナーを守れなくなったのか
第4章 思考を視考する―人は、なぜ災害から逃げ遅れるのか
第5章 意識を視考する―人は、なぜ騙されるのか


【関連記事】

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【問題解決】「デザイン思考が世界を変える―イノベーションを導く新しい考え方」ティム・ブラウン(2010年04月29日)

【『影響力の武器』悪用編?】『だましの手口』に学ぶブラック手法6選(2012年03月07日)


【編集後記】

◆本日の「Kindle日替わりセール」から。

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世界を変えた10冊の本

私も持っているこの作品は、今回「199円」という送料以下でのご提供。

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メンタル・タフネス ストレスで強くなる

テーマ的に当ブログ向きであるこの翻訳本は、中古が値崩れしているものの、Kindle版の方がお得に。

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子どもの能力は9歳までに決まる

ウチの子がまだ小さかったら、おそらく買っていたであろうこの本は、Kindle版の方が600円以上お得な計算です!


【編集後記2】

◆一昨日の「光文社新書 半額フェア 第2弾」の記事で人気だったのは、この辺の作品でした(順不同)。

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人は、なぜ約束の時間に遅れるのか〜素朴な疑問から考える「行動の原因」〜 (光文社新書)

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教養としての聖書 (光文社新書)

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戦略人事のビジョン〜制度で縛るな、ストーリーを語れ〜 (光文社新書)

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マハーバーラタ〜インド千夜一夜物語〜 (光文社新書)

宜しければご参考まで!


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Posted by smoothfoxxx at 08:00
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