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2019年09月27日

【英語】『同時通訳者のここだけの話ープロ通訳者のノート術公開ー』関根マイク


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同時通訳者のここだけの話ープロ通訳者のノート術公開ー


【本の概要】

◆今日ご紹介するのは、今月の「Kindle月替わりセール」の中でも当ブログ向きともいえる英語本。

著者の関根マイクさんは、「日本会議通訳者協会理事」「名古屋外国語大学大学院講師」「全米司法通訳人」等々の肩書を持つ、会議通訳の第一人者です。

アマゾンの内容紹介から。
羽生善治(将棋棋士)、本庶佑(ノーベル医学・生理学賞受賞者)、イーロン・マスク(実業家)他、数々の名士を担当してきた同時通訳者のエッセイ。 現場体験談を通して、通訳の醍醐味と通訳者の頭の中を語ります。英語学習に役立つ通訳の技や豆知識もご紹介。

中古があまり値下がりしていないゆえ、「61%OFF」であるこのKindle版が700円弱、お買い得です!





Interpreters (01113764) / IAEA Imagebank


【ポイント】

■1.適切な一言を選ぶ
 正しい一言を選ぶことで、聞き手に、より良い印象を与えることもできます。例えば、cooperateとcollaborateの使い分け。日本語にする場合は、どちらも「協力」と訳す通訳者が多いのですが、この逆、つまり「協力」をどう英訳するかで通訳者の英語能力が試されます(と勝手に思っています!)。両方とも確かに、同じような意味ですが、英語でcooperateは主に、補完的役割としての協力(たとえば情報やリソースの提供)を意味する一方、collaborateは同じ「協力」でも距離がグッと近くなり、現場で「一緒にやろう!」感が強くなります。ですから、災害支援などの会議では、状況によってはcollaborateを使う方が聞き手にとって安心感が大きくなると思います。実は、プロの通訳者でもきちんと使い分けができていない人が多いので、皆さんはしっかり覚えて、居酒屋で自慢しましょう(ドヤ顔で)。


■2.「if」と「when」の違い
評価の段階になり、講師はまずこう言いました。「営業戦略をお客さまに売り込んでいるのだから、ifじゃダメでしょう。もっとポジティブに、積極的に、whenと言わなきゃ!」
 つまりこういうことです。日本人発表者の「Aを実施する場合……」を、私は If we do A ...と訳しました。通訳的にはセオリー通りの訳です。日本語の「Aを実施する場合」を英訳する際、ifでもwhenでも文章を作れますが、ifは「発生する/しない」を問題とするので、 If we do A ...と言うと「( 実際にするかどうかはわかりませんが)、Aを実施する場合……」のようなニュアンスになります。
 一方、whenは「事象は発生するという前提で、いつ発生するか」を問題とするので、 When we do A ...と言うと「( 実行が前提で)、Aを実施する場合……」のようになります。当然どちらを選ぶかで、大きく意味が異なります。講師は、客に対しての営業なのだから、より積極的に When we do A ...と言ってほしかったのです。


■3.プロなら「網を広げる」
 例えば話者が「大学でファイナンスを勉強した」と言ったとします。もし通訳者がこの「大学」の部分、または「ファイナンス」の部分を聞き逃したらどう処理するのでしょうか。例えば、訳として次の二つはどうでしょうか。
訳A:I studied finance in high school.
訳B:I studied marketing in college.
 訳A は「大学」の部分を聞き逃したので「高校」、訳 B は「ファイナンス」の部分を聞き逃したので「マーケティング」と、それぞれ訳出したという想定です。普通に考えれば、どちらも誤訳です。(中略)
訳C:I studied business in school.
 businessはファイナンスとマーケティングを両方含むし、schoolも大学と高校の両方を含みます。このように意味の幅を広げれば、とりあえずその場を乗り切れます。話者が再度同じ表現を使ったら今度はより正確に訳せるでしょうし、必要であれば休憩中に訳語を調べることもできます。私はこの手法を「網を広げる」と呼んでいます。一本釣りを狙って失敗するよりも、地引き網のように広いエリアをカバーすることで、確実に正解を網にかけるのです。この方がクライアントにも喜ばれます。


■4.状況に応じて対応する
 日本企業と外国企業の交渉でのこと。両社とも世界的に知られている大企業で、数百億円にも上る契約でしたので、交渉の主導権を握ろうとしてどちらも一歩も引かない膠着状態になりました。そのうち、延々と続く交渉にストレスがたまったのか、参加者が、取りようによっては相手を中傷するような、交渉決裂をほのめかすような内容の発言をしました。ただ、このような状況の中、通訳者はコミュニケーションの最後の砦として落ち着いて対処しなければなりません。
 事前の打ち合わせで、この交渉が両社にとってとても大事なものだと伝えられていた私は、中傷と捉えられかねない表現は柔らかい表現に修正して、交渉ができるだけスムーズに進むように配慮しました。この案件の目的は「言葉を正確に伝えること」ではなく、「交渉がまとまること」だったからです。逆に、言葉を正確に伝えることに徹していたら、参加者同士、ケンカになっていたかもしれません。


■5.通訳と翻訳の違い
 先日、ある翻訳団体の依頼で、翻訳者と通訳者の思考法を比較するというイベントで講演してきました。同時通訳者は(1)話の先が見えない中、リスクを取って大失敗したくないので基本的にはFIFO(first in, first out)方式で、聞こえたとおりの順番で組み立てて訳していくこと、そして(2)瞬時に情報価値に優劣をつけて、省いてよいと判断したものは訳さないことを発表したところ、とても驚いた翻訳者もいたようです。たしかに翻訳者は原文に書いてあることを訳さないのは本能的に裏切りと感じるかもしれません。しかし通訳者はあえて価値が低い情報を省略することで発話のペースを調整しています。すべて訳してしまうと、とても早口になってしまい、情報も多過ぎるので、聞き手が疲れてしまうのです。
 私は立場上、翻訳者に「通訳をやってみたい」と相談されることが多いので、自分なりに考えを整理して、しっかり答えを出してみたかったのですが、講演ではうまく伝わったかどうかわかりません。ただ通訳を試してみたいのであれば、まずはサイト・トランスレーション、通称サイトラ(sight translation) の練習から始めることをお勧めします。


【感想】

◆仕事で英語を使われる方にとっては、参考になるであろうTIPSが多々含まれた作品でした。

確かに、ご自身が通訳をされる必要のある方は、ほぼいらっしゃないハズです。

とはいえ、外国での会議等では、自分の考えていることをリアルタイムで発言する必要がある以上、それは自分の日本語での考えを「通訳」しているとも言えるワケで。

そう考えると、本書の第1章の「同時通訳者とことば」は、読みどころ満載。

たとえば上記ポイントの1番目の「『協力』をどう英訳するか」というお話は、実際に「cooperate」と「collaborate」の使い分け方として、意識しておきたいところです。


◆同様に、上記ポイントの2番目の「if」と「when」も、正しく使い分けなくてはなりません。

同じ「Aを実施する場合」であっても、カッコ内の発言のように置かれている前提が違えば、明らかに「when」を用いるべきでしょう。

英語で発言する際、「とにかく通じればよい」という考え方もありますが、これなどは明らかにニュアンスが違ってくるかと。

逆に、どちらかわからない場合に便利なのが、上記ポイントの3番目の「網を広げる」やり方です。

もし、通訳者が訳Cのように「網を広げ」たら、「大学」や「ファイナンス」が重要情報な場合、聞き手は必ず具体的に聞いてくるでしょうから、それで補えばOK。

ちなみに、初対面の人には普通「Nice to meet you.(はじめまして)」と言いますが、米政界では代わりに 「Nice to see you.」をよく使うのだとか。
 というのは、政治の世界では一度会った支援者や関係者のことを忘れるのは失礼だと考えられているので、「初めまして」と「お久しぶりですね」の両方の意味を持つ後者の方が、便利なのだそうです。
なるほど、初対面かどうか怪しいときは、「Nice to see you.」で!


◆続く第2章では、「同時通訳者の現場」と題した、通訳業界の裏話が展開されています。

この章を読むと、私たちが国際会議やプレンゼンテーション等でよく目にする(耳にする)同時通訳が、いかに大変な作業であるかが身に染みて分かるという。

たとえば上記ポイントの4番目では、「交渉ができるだけスムーズに進むように配慮」していますが、逆(?)の場合もあります。

実際、著者の関根さんが、日米政府間交渉の通訳を行った際に、スケジュールに遅れが見え始めたため、ある作業について米国側に「早く進めてほしい」と会議の場で丁重に依頼したことがありました。

しかし、米国側は「時間が取れない」などと言ってやんわりと拒否。

するとこれまで一度も声を荒らげることがなかったリーダーが、強い語気で「ならば時間をつくってください」と言ったのだそう。
 普通なら Then I would ask you to make time, please. などと丁寧にまとめるのでしょうが、リーダーの強い決意を察した私は、 Then make time. と強めに訳しました。完全に命令調なので、通訳学校でこんな訳をしたら、相手に失礼だと評価される可能性が高いですし、言葉だけ見れば、私もそう思います。けれどあの瞬間、いつもは相手への礼儀と配慮を忘れないリーダーが、交渉相手の目をしっかり見据えて一種の決意表明をしたと私は解釈し、ここが勝負どころだと考えたからこそ、こういう訳にしたのです。
その結果、会議室はしばらく沈黙に包まれ、米国側は曖昧な返答ではすまされないぞと、即答を躊躇したとのこと。

この辺になってくると、もはや英語のスキルうんぬんではなく、空気を読むチカラが必要なのだと思う次第です。


◆一方最後の第3章では、「同時通訳者の技術と学び方」と題した、より専門的なお話が登場。

この辺は、本書の元ネタであるコラムが、アルクの『ENGLISH JOURNAL』に連載されていることからも分かるように、読者のニーズに応えたものとなっています。

上記ポイントの5番目では、翻訳者と通訳者の違いについて触れられていますが、勘違いしていただきたくないのは、必ずしも通訳者の方が難しい、というワケではないということ。

たとえば関根さんは、現場で一緒に仕事をして「この人は間違いなくうまい」と思った通訳者に、翻訳の仕事を依頼したものの、届いた訳文はクライアントに納品できるレベルではなかったのだそうです。
難しい原文の表現から逃げるような訳が散見されたり、構文が雑だったりと色々問題はあったのですが、一言でいえば、ぎこちない話し言葉をそのまま文字に起こしたような印象を受けたのです。
要は、どちらも高度な技術が必要とされるものの、甲乙は付けられないのだな、と……。

さらに本書には付録として「プロ通訳者のノート術」なるものが巻末に収録されているのですが、これがページにして30ページもある大作!

Kindleでなんでページ数がわかるかというと、ここがまるごと画像処理されている(関根さんの直筆部分があるから?)からなのですが、おかげでハイライトが使えずここからは抜き出せませんでした。

気になる方は本書にて、ぜひご確認ください。


「通訳」というお仕事の奥深さが実感できる1冊!

B07NMGZD6G
同時通訳者のここだけの話ープロ通訳者のノート術公開ー
第1章 同時通訳者とことば
第2章 同時通訳者の現場
第3章 同時通訳者の技術と学び方
付録 プロ通訳者のノート術公開


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【編集後記】

◆本日の「Kindle日替わりセール」から。

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なぜ夫は何もしないのか なぜ妻は理由もなく怒るのか

夫婦間コミュニケーションの改善に役立ちそうな1冊。

中古に送料を加算すると定価を超えますから、Kindle版が900円以上お得な計算です。


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