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2019年05月12日

【感情?】『感情の正体──発達心理学で気持ちをマネジメントする 』渡辺弥生


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感情の正体 (ちくま新書)


【本の概要】

◆今日ご紹介するのは、先月半ばの「未読本・気になる本」の記事にて、「編集後記」で取り上げたにも関わらず大人気だった1冊。

実際に読んでみたところ、タイトルからは想像できないくらい広範囲な内容の作品でした。

アマゾンの内容紹介から一部引用。
抑えられないネガティブな感情。怒り、悲しみ、屈辱感、劣等感、後悔……。ポジティブ感情もそうだけれど、どうにも思い通りにならないのが人間の気持ちです。勉強や仕事の能率を上げ、友情や公共心を育むには「感情の安定」が大切ですが、どうすれば身につくのでしょう。非行やいじめ、ひきこもり、発達障害や児童虐待との関係は? 世界の最先端研究から感情の正体に迫り、効果的なマネジメントの技術を盛りだくさんに紹介します。職場で学校で家庭で、実践できるテクニックやアイデア多数!

中古はやや値下がりしていますが、送料を考えるとKindle版がお買い得です!






Emotion / Arbron


【ポイント】

■1.気持ちを表す言葉の獲得は大事
 たとえば、言いようのない気持ちのときは誰にでもありますが、「なんだか気持ちがなかなかのらないのよ。こうなんというか、やりようがないというか、出口がないというか……」といった言い方では他人には何となくしか理解できませんし、本人も悶々とした気分が晴れないものです。しかし、「八方ふさがり」といった言葉を学び、うまく気持ちと置き換えることができるようになると、他人はその気持ちに共感しやすくなります。本人も、その言葉を知る前よりもカタルシス(解放感) を得ることができるようになるわけです。
 ところが、若い人は、「まじ」「やばい」「めんどくさい」といった短い言葉で、気持ちを表現しようとする風潮があります。こうした言葉が実際、自分の心の状態をもっともうまくつかんでいるのであればまだしも、実際には人によって受け取り方はまちまちで、ミスコミュニケーションを生じやすい言葉です。


■2.パラ言語情報と子育て
 パラ言語情報というのは、口調などの音声的な側面のことを言います。すなわち、言葉の意味的側面とは異なります。大人になると、しばしば、言語的内容は「大嫌い」と言いながらも、声の調子、ストレス、トーンといったパラ言語情報により「実は好意があるのかな」と判断できたりします。(中略)
 最近の子育てで指摘されることに、親がスマホを見ながら子どもに注意するという状況があります。「いい加減にしなさい!」と声を荒げながら、親の顔は下を向いていたりします。子どもにきちんと表情を示さないことで、子どもへのメッセージがストレートに矛盾なく伝えられていないかもしれません。一貫しない状況に常におかれた子どもの感情発達に影響が及ぶ懸念があります。感情表現について、言葉の内容だけでなく、表情や声との関連性を調べる研究の深化が、今後ますます必要になるでしょう。


■3.道徳の感情、行動、判断
 学校の道徳授業では、たとえば優先座席の前に立っている高齢者に対して、同情や共感の気持ちを持つことを目指しているのか(道徳感情を重視)、それとも気持ちはどうであれ、すぐに立って座席を譲る行動ができるようにしたいのか(道徳的行動を重視)、あるいは高齢の方に席を変わるべきだという規範意識を強く持つことをねらいとするのか(道徳的判断を重視)、によって、自ずと教え方に違いがでます。
 もちろん「道徳的」というからには、すべての側面が求められるわけですが、従来の道徳の授業は、どちらかといえば規範意識を強めることばかりに終始して偏っていたように思います。実際のところ、子どもたちは、「いじめは良くない」ことは頭ではわかっている場合がほとんどです。ところが、実際にはいじめに加わる子どもたちが少なくないのですから、規範を知っているだけではダメなわけです。
 ところが、いじめは良くないという規範意識を持っていても、いじめという悪い行動をとってしまう原因の1つは、「悔しさ」「嫉妬」「みんなから一目置かれたい」など、感情の部分の弱さゆえです。同時に、規範意識に比べて、慈悲、感謝、罪悪感、恥、崇高さ、といった道徳的感情が育っていないとも考えられます。


■4.他人の表情を誤解する非行少年たち
 表情は、会話の最中にずっと同じではなく、内面の感情と関連して、その瞬間瞬間で変化します。一般に、私たちは行動を決めるための情報処理の過程で、意識的であれ無意識であれ、相手の表情を手がかりにしています。特に、攻撃的な言動をとるかとらないかは、相手の表情の変化がかなり影響します。
 暴力的な行動をする青少年の問題として、こうした表情からの感情の受け取りに問題があると指摘している研究は少なくありません。そういった調査によれば、問題行動を起こす子どもは、他の子どもの感情について、その表情の強度が弱い場合には、喜びと悲しみの認知を間違える可能性が高いと報告しています。
 表情認識を調査した研究は、暴力的な言動をとりがちな彼らの表情認識は、成人に比べて、嫌悪と悲しみについて正確さを欠くことを明らかにしました。さらに、非行少年とそうでない少年を対象に、表情の認知について比較検討していますが、非行少年は嫌悪の表情を、怒りと受け取る傾向が強いことを指摘しました。


■5.スパークレジリエンス・プログラム
 私たちは何かが起きると、それを悪くとらえる傾向があります。ああやっぱりダメだといったネガティブな感情から攻撃的になったり、人生は悪いことばかりといった諦念を深めたりしがちです。とくに困難な状況にあるのが子どもの場合、それは間違っているのだと教えるのは難しくなります。
 そこで、スパークレジリエンス・プログラムでは、悪い方へ悪い方へと考えてしまうのは、あなたの肩に乗っていらないことを吹聴してくるオウムのせいなのだというイメージを子どもに与えます。イラスト化した7羽の「ネガティブオウム」にマイナス思考を仮託して、子どもの受け止め方、感じ方を変え、期待される行動へと導いていくためのプログラムです。「非難オウム」「正義オウム」「敗北者オウム」「心配オウム」「あきらめオウム」「罪悪感オウム」「無関心オウム」の7羽です。日本の学校でも、このプログラムの効果は報告されています。
「どうせ君なんかダメだよ! できるわけないよ!」という気持ちになりやすい子どもは、あきらめオウムが肩に載っているので、あきらめオウムを追っ払う方法を考えさせます。そして、「これはできないかもしれないけれど、別のことはできるかもしれない」といった声を出せるように練習します。すると、ちょっと前向きな気持ちになり、それまでとは違った行動がとれる可能性が高まっていくのです。


【感想】

◆なかなか読みごたえがある作品でした。

何せ、著者の渡辺さんは、ガチな研究畑の方。

アマゾンの著者紹介も、こんな感じです。
筑波大学卒業、同大学大学院博士課程心理学研究科で学んだあと、筑波大学、静岡大学、ハーバード大学客員研究員、カリフォルニア大学サンタバーバラ校客員研究員を経て、現在、法政大学文学部心理学科教授。同大学大学院ライフスキル教育研究所所長。教育学博士。専門は発達心理学、発達臨床心理学。
それだけに、おっしゃることは基本的にエビデンスベースであり、説得力大。

上記ポイントでは読みにくくなるので割愛していますが、「(池田・針生、2018)」「(Seligman, Steen, Park & Peterson, 2005)」のような形で、論文等の引用元が明らかにされています。

そして巻末には「全体の8%」にも及ぶ「参考・引用文献」を収録。

272ページの8%ですから、新書だと21ページ以上にものぼることが分かります。


◆……という前提を踏まえて、まずは上記ポイントの1番目の「言葉」の問題。

これはムスコの塾の父母会でも言われたのですが、「やばい」等の何でも使える言葉は、極力使わせないように、とのこと。

確かに、自分の気持ちを表す言葉を的確に使えなかったら、国語の問題は解けません罠。

もちろん、受験のみならず、実生活においても「ミスコミュニケーション」は十分起こりうります。

たとえば、私の母から誕生日プレゼントをもらったムスコが、「ヤバい!」と言っても母には通じないでしょうし……。


◆子育てで言うなら、上記ポイントの2番目の「パラ言語情報」も留意しておきたいお話です。

実際、スマホ見ながら何か言われても、子どもは言葉の額面通りにしか受け取れられません。

それ以前に、子どもが「相手の顔を見ないで話していい」と捉えかねませんし、これはぜひ避けたいところ。

逆に、親が注意をしているのに、子どもがゲーム機(任天堂Switch等)の画面に夢中で、親の顔を見ない、というケースも多そうな……。

また、これに関連するのが、上記ポイントの4番目の「表情を誤解する」お話です。

これが幼少時からの育て方に原因があるのかは分かりませんが、「表情を正しく読み取れない」という問題は、その後の人生をも変えてしまいかねないワケで。


◆なお、今回は割愛しましたが、この表情のお話は「いじめ」にも関連してきます。

いじめの加害者およびその仲間と、いじめられている被害者の対人関係のやりとりを観察した、カナダのクイーンズ大学とヨーク大学の共同研究によると、被害者が、加害者と同様に、関心があると加害者に受け取られるような、喜びのような表情を示してしまっている場合があるのだそう(詳細は本書を)。

さらには、加害者である子どもが共感性に乏しいと、
被害者の苦痛を知っても攻撃を止めず、相手に敵意があると解釈すると、むしろ被害者の苦痛を見ることが快感となり、行動を強化している
こともあるそうです。

結局のところ、いじめを防ぐためには、大人が介入して、被害者である子どもをケアする必要がある次第。


◆ちなみに上記ポイントの5番目の「スパークレジリエンス・プログラム」は、本書の第5章の「感情マネジメントの技術」からのものになります。

この章では他にも、「SEL(ソーシャルエモーショナル・ラーニング)」「ムードメーター」さらにはおなじみの「マインドフルネス」といった、感情をマネジメントするTIPSが紹介されていますから、ぜひ参考にしてみて下さい。

ところで本書全般に関してですが、「感情」というテーマから、「感情マーケティング」のようなビジネス絡みを期待されると、ちょっとキツいかも。

むしろ、上記でも触れているように「子育て」に関して得る部分が多かったので、子育て世代の方にお読みいただくと、良いと思います。


より良く「感情」と向き合うために!

4480072187
感情の正体 (ちくま新書)
第1章 感情とは何か
第2章 様々な年代と感情の発達
第3章 道徳感情の芽生えと成長
第4章 問題行動の感情問題
第5章 感情マネジメントの技術
第6章 場所アイデンティティと感情


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【編集後記】

◆昨日の「続・カドカワ祭ゴールデン」の記事で人気だったのは、この辺でした(順不同)。

B01GT3V9OC
ドラッカーと会計の話をしよう (中経の文庫)

B079DK2VRM
誰も書かなかった 日本史「その後」の謎大全

B00LIKL49W
頭のよさとは「ヤマを張る技術」のことである (中経出版)

参考記事:【オススメ!】『頭のよさとは「ヤマを張る技術」のことである』鬼頭政人(2014年07月03日)

B0192JV7I8
世界NO.1執事が教える“信頼の法則” 「信じていい人」「いけない人」の見分け方

宜しければご参考まで!


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