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2018年09月13日

【英語】『翻訳地獄へようこそ』宮脇孝雄


翻訳地獄へようこそ
翻訳地獄へようこそ


【本の概要】

◆今日ご紹介するのは、今月の「Kindle月替わりセール」の中でも一番人気の1冊。

著者である宮脇孝雄さんの雑誌連載のエッセイ41篇に、加筆修正した作品です。

アマゾンの内容紹介から。
『死の蔵書』や『異邦人たちの慰め』など、エンターテインメントから文学まで多様な作品を訳してきた宮脇孝雄が、数多くの翻訳実例も引用しつつ、翻訳のやり方を実践的に紹介。読めば読むほど翻訳者の苦悩と翻訳の奥深さがじわじわ伝わってくる一冊です。悩める翻訳者と海外文学ファン必読。地獄で仏の実践翻訳ゼミナール。

とにかく中古に4600円超の高値が付いていますから、このKindle版が900円以上お買い得です!





Translation / ccstbp


【ポイント】

■1.不用意な誤訳を防ぐために読むべき辞書
 何年か翻訳をやっていると、原文の間違いやすい箇所、要注意の単語・文型が、なんとなくわかるようになってくる。翻訳の世界では、原文のそういう部分を見て、「ここには地雷が埋まっている」と表現することがある。地雷にはいろいろな種類があるが、英語の慣用句は翻訳者にとって破壊力のすさまじい地雷になりうるので、めいめいがいろいろな対策を講じている。とはいえ、怪しい表現が出てきたら、こまめに辞書を引くことしか有効な対処法はない。
 私が翻訳を始めたばかりのころ勧められたのが、Jennifer Seidl、R. C. Goffin、W. McMordie著の English Idioms(別題、 English Idioms and How to Use Them)という本。一世紀以上前の1909年に初版が出た参考書(版元はオックスフォード大学出版局)で、そのときの著者がMcMordieさん。1954年にGoffinさんが改訂第三版を出して、1978年にSeidlさんが改訂第四版を出し、今は1988年刊の第五版が流布している。
 三千ほどの慣用句が収録されていて、辞書としても使えるが、最初から最後までざっと目を通しておけば、慣用句に対する語感が身について、不用意な誤訳を減らすことができる。

English Idioms and How to Use Them.
English Idioms and How to Use Them.


■2.愛情表現の用語(terms of endearment)の訳しかた
 このterms of endearmentにはさまざまな種類があり、それぞれに意味がある。たとえば、birdie(小鳥ちゃん)とかducky(アヒルちゃん)というのは、主に年配の女性が子供に対して使う言葉。先ほどのsweetheartも、子供に対する呼びかけとして使うことがあり、その場合は男女ともに口にすることができる。この規則を無視して、こわもてのギャングが対立する組織のチンピラをsweetheartと呼べば、意図的に相手を子供扱いして侮辱したことになる(おい、ひよっこ、みたいな感じ)。
 私が昔訳した小説には、初対面の若い男優に対して、
What's your name, dear?
 と呼びかける舞台演出家(男)が出てきた。
 そのときは、セオリーどおり、dearを無視して、
「きみの名前はなんだ」
 と訳したのだが、あとで知ったところによると、初対面の男に対してなれなれしくdearを使うのは、だいたいホモセクシュアルの男性だそうで、実は、この台詞も、「ねえ、あんた、名前は?」と、おねえ言葉で訳さなければならなかったのである。


■3.句読点もおろそかにできない
 ジャーナリストでテレビ番組の司会者でもあるリン・トラスさんが書いたこの本には、
He shot himself as a child.
 という文も出てくる。このままだと、「子供のとき彼は自分を銃で撃った」だが、
He shot, himself, as a child.
 とコンマを打てば、「彼自身、子供のころにぐんと背が伸びた」になる(shot=shootは「急に成長する」という自動詞、himselfは再帰代名詞の強調用法)。
 英語を翻訳するときにも、句読点はおろそかにできない。単なる飾りだと思っていると、足をすくわれて意味を取り違えることになるので、用心するに越したことはない。

パンクなパンダのパンクチュエーション―無敵の英語句読法ガイド―
パンクなパンダのパンクチュエーション―無敵の英語句読法ガイド―


■4.時代によって意味が変化した単語
 たとえば、ご存じかと思うが、nurseという単語。今なら「看護師(看護婦)」だが、昔の小説では、1・乳母、2・保母の意味で使われることも多い。混乱しないように、1の意味ならnurse、2の意味ならdry nurseということもある。しかも、2の保母には子守り・家庭教師も含まれる。
 みなさんご存じ、メアリー・ポピンズ・シリーズの第一作 Mary Poppins『風にのってきたメアリー・ポピンズ 』には、
“Why, children,” said Mrs. Banks, noticing them suddenly, “what are you doing there? This is your new nurse, Mary Poppins.”
 という一節があるが、これを、
「『あら、みんな』と、バンクス夫人は、子供たちにはじめて気がついていいました。『そんなところで何しているの? こちらは新しい看護婦のメアリー・ポピンズよ』」
 と訳したらかなりみっともないと思う(正解は「家庭教師」)。


■5.直喩は原文の順序で訳す
 最近読んだある小説に、次のような一文が出てきた。
The bellhop wore an old blue uniform which looked as if he had fought through the Civil War in it.
 bellhop(ホテルのボーイ)を描写した文だが、訳してみれば、
「ホテルのボーイは古びた青い制服を着ていた。まるでそれを着て南北戦争を戦い抜いてきたようだった」
 となり、高級なホテルのロビーにたたずんでいるボーイの、いかめしい、時代錯誤的な雰囲気がうまく表現されている。
 これは翻訳のポイントだが、こういう直喩は原文の順序(事実→比喩)を守って訳すこと。比喩のほうから先に訳すと、目の前にその人物がいる現場感、空気感がなくなり、前の晩に握っておいた寿司を出されたような「作り置き感」が目立つようになる。
「ホテルのボーイは、まるでそれを着て南北戦争を戦い抜いてきたかのように見える古びた青い制服を着ていた」
 ほら、新鮮さが消えたでしょう。


【感想】

◆この手の本の場合、原文と翻訳の両方を載せる必要があるため(ポイントの1番目を除く)、いつもよりもボリューミーになってしまいました。

これでもハイライト引いた中では、抜き出しても分かりやすい、比較的短めな部分を選んでいるので、実はもっと興味深いお話もあるのですが、それはさておき。

いずれにせよ、本書で紹介されている翻訳の「ミス」は、基本的に書籍に登場するものですから、プロが商業作品として出版しているのにもかかわらず間違えているワケです。

中でも一番インパクトが大きいのが、いわゆる慣用句。

個々の単語の意味を知っていても、慣用句を知らないととんでもない間違いが起きることは、読者の皆さんもご存じのことと思います。

上記ポイントの1番目では、「プロが使う辞書」をご紹介しましたが、興味のある方は要チェックで。


◆ただ、慣用句以前の、単語レベルでも誤訳は起こりうります。

上記ポイントの2番目の「sweetheart」も、本来、男性から女性への愛情表現の呼びかけの言葉ですが、それを裏手にとって、あえて侮辱表現としても使える次第(誤訳したら大変ですが)。

……ところが「実はおねえ言葉だった」というオチは、さらにワンランク上のお話ですけどねw

また、上記ポイントの3番目にあるように句読点も無視できません。

ちなみにここでご紹介している本の原題は『Eats, Shoots & Leaves』というもので、直訳すると「食べて、撃って、去る」ですが、もしコンマがない『Eats Shoots & Leaves』だと「(笹の)若枝と葉っぱを食べる」というパンダの話になります。

Eats, Shoots and Leaves
Eats, Shoots and Leaves

このKindle版がなぜか「450円」と激安なので、こちらも気になる方はぜひ。


◆と、ここまでが本書の第1章である「翻訳基礎トレーニング」からで、あくまで「基礎レベル」のお話(私には基礎どころの騒ぎではないハイレベルですが)。

続く第2章では、さらに文化や歴史等にまで踏み込んでいきます。

その中でも比較的なじみ深いのが、上記ポイントの4番目のメアリー・ポピンズのお話。

映画をご覧になっていれば、看護師でないことは明らかなのですが、原著で「nurse」と表現されていたとは知りませんでした。

ちなみに本書によると、この「nurse」というのは日本の翻訳家が苦手としているらしく、結構頻繁に誤訳されているのだそうです。


◆一方、本書の第3章は、さらにハイレベルの翻訳のキモが。

たとえば上記ポイントの5番目にある和訳は、比喩から訳しても、もちろん意味は通ります。

それをプロは、あえて原文の順序に合わせて翻訳しているという。

また比喩とは違うのですが、最近の翻訳の原則は、語順に従って訳すそうで、上記で触れたようにボリュームの関係で割愛した中に、「語順どおりに訳していくと登場人物の嫌味な性格が明らかになる」というお話もありました。

当たり前ですけど、翻訳家の方のプロの仕事というのは、色々と考えられてらっしゃるのだな、と。


英語学習者の方なら、読んでおきたい1冊!

翻訳地獄へようこそ
翻訳地獄へようこそ
1章 翻訳基礎トレーニング―注意深く読み適切な訳語を見つけだそう

2章 翻訳フィールドワーク―背景となる文化や歴史や地形を徹底調査せよ!

3章 翻訳実践ゼミナール―「表現」の翻訳を目指し試行錯誤の日々を送ろう


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【編集後記】

◆本日の「Kindle日替わりセール」から。

自由をつくる 自在に生きる (集英社新書)
自由をつくる 自在に生きる (集英社新書)

当ブログでも何冊か著作をご紹介している森博嗣さんの作品。

中古は底値ですが、送料を合わせるとKindle版に軍配が上がります。


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Posted by smoothfoxxx at 08:00
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