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2014年12月13日

【ザックジャパンの真実】『通訳日記 ザックジャパン1397日の記録』矢野大輔


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通訳日記 ザックジャパン1397日の記録 (Sports Graphic Number PLUS)


【本の概要】

◆今日ご紹介するのは、アマゾンの総合でベスト20に入っているスポーツ本。

アルベルト・ザッケローニ前サッカー日本代表監督の通訳を務めた矢野大輔さんが、その在任中の日記をまとめ上げたものです。

アマゾンの内容紹介から一部引用。
誰よりも日本の可能性を信じたザッケローニ監督の真意、キャプテン長谷部誠との絶対的な信頼関係、ザックと本田圭佑の熱い対話の数々、監督と通訳を超えた深い絆……。
日本サッカーの教訓として、この貴重な資料を公開する。
Number連載当初から話題を呼んだ「ザックジャパン通訳日記」が遂に書籍化。

今さらですが、私にとっては新たに知ったことが多々ありました!





Catania-Juventus(1-1) / calciocatania


【ポイント】

■1.選手起用に関して、中心選手やスタッフの意見を取り入れていた

◆これはアジアカップ・サウジアラビア戦前のこと。
トレーニング後、遠藤と長谷部を呼んだ。
「明日の試合、圭佑も松井もいない。バランスを考えると、トップ下は香川より柏木を使おうと思っているんだけど、どう思う?」
 監督から選手起用に関する意見を求められて驚く2人。僕の方から「監督は中心選手の意見を聞くことに慣れているから」とフォローを入れる。
一方こちらは、アジア杯決勝前当日朝のミーティングでのザックのお言葉。
「ここまでマヤで来た。しかし決勝は絶対に勝たなければならない。経験と安定感のある岩政でいくか? ビルドアップに長けてラインを高く設定できるマヤでいくか?」
「うちのサッカーをするならマヤ」と関さん(関塚現ジェフ千葉監督)。他のテクニカルスタッフからは、オーストラリアのFWは高いだけじゃなくて、裏に抜けるのも速いからマヤがいいのでは、という意見が出る。満場一致でマヤでいくことに。
他にも招集選手案をスタッフ提案させて、それらを擦りあわせる等、思った以上に周りの声を取り入れていたようです。


■2.かなりの「ニッポン好き」だった

◆アジア杯優勝を受けて、ザックが欧州のクラブに引き抜かれるのでは、という意見に対するザック。
「大輔……。今、グアルディオラが辞めて、バルセロナの次期監督として私に白羽の矢が立ったとしよう。それでも、私は断る。私は日本代表とブラジルW杯に行きたいんだ」
こちらはラトビア戦前。
 監督は心から日本のことを気に入っている。唯一の不安はこの先、日本が良すぎたので、次に行くところでは必ず不満を持ってしまうだろう、ということだった。
一方、2013年のグアテマラ戦勝利後にはこんな発言も。
「大輔、もし何年か後に私のことを聞かれたら、こう言っていたと伝えて欲しい。代表戦を行なうたびに超満員のサポーターが熱い声援を送ってくれる、こんなに素晴らしい国は、世界中どこを探しても他にない」
相当「日本」並びに「日本代表監督」という仕事がお気に入りだった模様。


■3.サブ扱いならベテランは呼ばない方針だった

◆これは、アジア杯後のペルー戦&チェコ戦のメンバーの検討の際のお話なんですが、ここを読んで、ザックの選手起用に関する疑問が1つ解けました。
 特にボランチのところに人がいない。出た名前を見る限りケンゴ(中村憲豪)が一番なのだが、'80年、'81年生まれの選手は絶対的なレギュラーであるべきで、サブとしては難しいというのが監督の考え。
ベテランが呼ばれたり呼ばれなかったりしてたのも、こういう事情があったのか、と。


■4.選手個別に、かなり細かいアドバイスをしていた

◆当然と言えば当然なんですが、ザックは選手達にアドバイスをしていました。

これはW杯予選・ヨルダン戦前に、「トップ下をやりたい」と言ってきた香川に対しての発言。
「昨日の件だけど、若いうちから自分のポジションに固執して可能性を消さないで欲しい。本当に良い選手というのは、システムがどうであろうと力を発揮する。(中略)
 仮に来年レアル・マドリーに移籍しても、トップ下は空いていないかもしれない。シンジは中も左も右もできる。だからサイドにトライして欲しい」
また、コンフェデのブラジル戦後、「スーパーな選手になるにはどうしたらいいか?」という本田の質問に対してのザックのアドバイスの一部を。
「誰かの真似をするのではなく、本田圭佑を完全形にすることが大切なんだ。圭佑はパワーと技術を兼ね備えていて、MFをへルプする動きもできる。それはカカも持っていない。しかしカカはスピードがあって、ゴールを奪える。圭佑は今持っているものにプラスして、ゴールの数とプレーのバリエーションを増やす。具体的にはもっとペナルティエリアに侵入する動きを覚えるのがいいと思う。(後略)」
アドバイスを聞いた本田は奮起したのか、イタリア戦でも活躍したのは、皆さんご存知のとおりです。


■5.結局選手たちは「4-2-3-1」を望んでいた

◆いくつかの試合で「3-4-3」を試して、大抵上手くいかなかったザックジャパンですが、大健闘したオランダ&ベルギー戦の前には、「3-4-2-1」というシステムに取り組むものの、「消化不良」のような状態になってしまいます。

そこでやり慣れた「4-2-3-1」に戻すことに決定した際の様子が。
 4-2-3-1に戻す、と言った時の選手たちの驚きというか、目の輝きは明らかだった。やはり、やり慣れたシステムの方がしっくりくるのだろう。
そもそも、あれだけ何度もトライした「3-4-3」も、結局は本番で使えませんでしたからね……。


■6.W杯での不振は、「頭が重かった」から?

◆W杯初戦(コートジボアール戦)と第2戦(ギリシャ戦)の後、チームの不振を受けて、ザックは遠藤と話し合います。
遠藤「メンタルと戦術に関して、監督の言った通りだと思う。確かに頭が重くなっている部分はある」(中略)
遠藤「自分は元々の性格もあるし、(W杯が)3度目っていうのもあるからプレッシャーはないけど、初めてのやつもいて。気負いとか、見えないプレッシャーを感じている選手もいて、それが頭が重いというか、プレースピードが上がらないことにつながってると思う。
実は、ザックは相手をかなり細かく分析しており、それらを踏まえて、選手たちに指示を出していたのですが、それがかえって選手たちの動きに影響を与えていたのではないか、と。

著者の矢野さんもそれは感じていて、「全員が監督から言われたことを寸分違わずきっちりやろうとしていた」と述べています。

本書を読んで分かったのですが、私が以前から「日本は策がないなー」と感じた時でも、本当は「策」が与えられていたのに、それができなかっただけのよう。

ただ、肝心のW杯の本番でそうなってしまったのは、「選手たちの責任」なのか、それとも「できないタスクを与えてしまった監督の責任」なのか……。


【感想】

◆本書を読んで新たに知ったことは多々ありましたが、同時に本書を読んでもわからなかったこともありました。

たとえばコンディショニングの問題。

今回のW杯では、キャンプ地の問題や、トレーニングの負荷のかけ方の問題で、コンディショニングに失敗したのでは?、という論説を結構目にしました。

確かに体は重そうでしたし、調子がいい時のザックジャパンとは雲泥の差だったかと。

この点に関して、本書は一切言及しておらず、それがあえて触れていないのか、まったく問題がなかったのかは分かりません。

ただ、W杯後の選手の発言等を見ても、キャンプ地のせいにしていた選手は、確かいなかったハズ。


◆むしろ、上記の「頭が重かったから」というのを読むと、緊張もあるのでしょうけど、その時その時における判断遅いから、結果的に体が重そうに見えたのかもしれません。

そう言えば、大昔にオシム監督がジェフを指導し始めた頃、選手たちは戦術や動き方を理解するだけでヘトヘトだった、という話を読んだ気が。

毎日一緒にいるクラブチームでさえそうなのですから、これが年に何回かしか顔を合わせない代表チームだと、さらに大変だったのではないでしょうか。

ちなみに、青山(敏弘)選手は、言われたことがすんなりすぐできたそうなので、最終メンバーに選ばれたのも、ある意味当然だったのかも。

なお、ザック曰く「遠藤の後継者がやっと見つかった」とのことで、私たちが思っている以上に評価されていた感じです。


◆また、長くなるので割愛しましたが、「選手間の意識のずれ」の問題についても記述がありました。

東欧遠征で、セルビア戦の0-2の敗戦を受けて、ザックは本田、長谷部、遠藤の3人とミーティング(本書内では「HHEミーティング」と呼ばれていました)を行います。

その際、選手からの「両サイドバックを上げてパスを回したい」という意見に対して、ザックは「もっと色々トライした上で、監督である私に意見を言った方が良いのではないか?」と反論します。

そして、これまでやってきた「現状で行える7つの手法」(本書では「左サイドのコンビネーションから香川をバイタルエリアでフリーにさせるやり方」等具体的に列挙されているのですが、割愛)を挙げて、これらを存分に試して、それでもチャンスが作れないなら、選手案を試してみよ、と。

これを聞いた上で、さらに本田は反論する……のですが、詳細は本書にて。


◆一方、本書を読んで何度も感じたのは、ザックの日本人選手に対する評価の高さでした。

とある選手に対しては「私がパリ・サンジェルマンのGMだったら、今すぐ獲得に動く」と言い、また別の選手については、「私がヨーロッパのクラブの監督なら、今すぐにでもロッカールームに来て契約するために連れて帰る」と言う具合(誰のことかは、本書にてご確認を)。

直接選手に言ったのではなく、矢野さんに言っただけなので、選手のモチベーションを高める意図があったのではないのでしょうから、結構本気のようです。

さらには、日本代表についても、W杯での具体的な目標は掲げなかったものの、世界のどのチームとやっても互角に渡り合える、と思っていたらしく。

それがW杯で失敗すると「『自分たちのサッカー』にこだわり過ぎた」と言われてしまったワケなのですが。


◆本書は「日記」ですから、書いている時点では、その後のことは当然分かっていません。

それに対して私たちは、「最終的にW杯で惨敗を喫してしまう」ことを知っている上で読むワケですから、矢野さんやザックそれに選手たちの「希望」のまぶしさに、胸が痛かったです。

最終戦のコロンビア戦のハーフタイムで、ギリシャが1-0で勝っていることを伝えられた時、ロッカールーム内は「まだ行ける!」と、皆、大興奮だったのだそう。

そしてそれが、ザックジャパン最後のきらめきでした……。


◆最終日の挨拶で、ザックは皆に「結果は思うように付いてこなかったが、もう1度23人を選んでいいと言われても、私はここにいるメンバーを選ぶ」と言います。

また、「もしこれから他の代表チームの監督になったとしても、日本とは対戦したくない。君たちの本来の力を、誰よりもよく知っているからだ」とも。

ザックも、矢野さんも、そして皆も涙したこの日、ザックジャパンは静かに終わりました。

確かにW杯では結果は残せませんでしたが、多くの試合で、感動や興奮を与えてくれたザックや選手、スタッフの皆さんに、私自身、改めて感謝したいと思います。


日本代表を応援する人すべてに捧ぐ!

4160082041
通訳日記 ザックジャパン1397日の記録 (Sports Graphic Number PLUS)
I ザックジャパン誕生 2010―2012
1 日本代表通訳就任「日本に戻る準備はできたか?」
2 ザックジャパン始動「初陣アルゼンチン戦の金星」
3 アジア杯優勝「このチームの伸びしろは計り知れない」
4 東日本大震災とチャリティーマッチ「日本は止まることを知らない国」
5 W杯アジア3次予選突破「目標に向けての第一歩に過ぎない」
6 W杯アジア最終予選「今のままでは強豪に太刀打ちできない」

II 世界との距離を詰める 2012 - 2013
7 欧州遠征vs.フランス&ブラジル「真の強者と戦うことで実力がわかる」
8 ブラジルW杯出場決定「我々のサッカーをすれば何も問題ない」
9 コンフェデレーションズ杯「世界との差をこの1年間で詰める」
10 東アジア杯と新戦力台頭「できない選手に『やれ』とは言わない」
11 東欧遠征vs.セルビア&ベラルーシ「ミンスクの夜のHHEミーティング」
12 欧州遠征vs.オランダ&ベルギー「勝つべくして勝った試合だった」

III ブラジルW杯で世界を驚かせるために 2014
13 W杯日本代表メンバー選考「発表前夜にかけた主将への電話」
14 指宿合宿&アメリカ合宿「ハセはこのチームにとって大切すぎるんだ」
15 ブラジルW杯「我々のサッカーを全員で信じてやろう」
エピローグ ザックジャパン最後の一日「最高の時間を過ごすことができた」
ザックジャパン全戦績&全招集リスト


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【サッカー】『信じよ! 日本が世界一になるために必要なこと』イビチャ・オシム(2014年05月27日)

【対ベルギー戦直前!】『日本代表がW杯で優勝する日』中西哲生(2013年11月19日)

【サッカーファン必読!?】『日本サッカースカウティング127選手』ミケル・エチャリ,小宮良之(2013年08月07日)

『サッカー日本代表の少年時代』に見る3つの共通点(2012年11月20日)

『サッカー「海外組」の値打ち』と『Number 2012年 5/24号』を読んで海外移籍を考える(2012年05月19日)


【編集後記】

◆本書を読んで、速攻注文したのがこちら。

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Number(ナンバー)866号 「通訳日記」で読み解く14の教訓 ザックジャパンの遺産。 (Sports Graphic Number(スポーツ・グラフィックナンバー))

本書とは反対に、選手サイドからの視点が得られそうです。


人気blogランキングご声援ありがとうございました!

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Posted by smoothfoxxx at 10:00
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