2014年11月06日
【業界関係者必読!?】『「本が売れない」というけれど』永江 朗
(046)「本が売れない」というけれど (ポプラ新書)
【本の概要】
◆今日ご紹介するのは、文章術本等で当ブログでもお馴染みである、永江 朗さんの最新刊。書店勤務や雑誌編集を経て、ライターになられた永江さんだけに、本書のテーマはピッタリかと。
アマゾンの内容紹介から。
出版不況といわれる現在、本はたしかに「売れなくなった」。商い不振で暇になるかと思いきや、本に携わる人たちはますます日々忙しい。日本の読書は、本は、どこへ向かうのか?日本独自の流通システム、変わる書店の形、ネットの世界との関係性など、出版業界のこれまでを振り返り、読み手と本をつなぐ新たな出会いの形を模索する。
もちろん業界関係者だけでなく、読書家の方にも、ぜひ読んで頂きたい1冊です!
Just one small section of this massive used-books store. / 3n
【ポイント】
■1.消費者の視点から考える大型店舗の進出書店Aの在庫数が1万点で、書店Bの在庫数が10万点だったら、その差はかなり大きい。その街に住む人にとっては、これまで1万点のなかから本を選ぶしかなかったのが、10万点から選べるようになる。選択範囲がうんと広がる。逆にいうと、書店Bが出店するまで、その街に住む人にとって9万点分の、本を選ぶ機会が奪われていたと考えることもできる。
そんな回りくどいいい方をしなくても、読者(消費者)にとって、大きな書店が身近なところにできるのは、いろんな本を手に取って見たり買ったりできるわけで、歓迎する人が多い、ということだ。だから大きな書店ができるとそちらにお客が集まる。大きな書店が小さな書店を潰すのではなくて、お客が小さな書店ではなく大きな書店で買うようになって、その結果として小さな書店が潰れるのだ。
■2.必ずしも本が手に取れないリアル書店
新刊の場合は、そこそこの規模の書店なら在庫がある(配本されている)ことが多い。困るのは既刊本だ。半年以上前に出た本を中規模以下の書店で見つけるのは難しい。
この時点で、「本は実物を手に取って、中身を確かめて買いたいから、リアル書店が優位だ」という根拠は崩れている。実物を手に取って見られないなら、リアル書店でもアマゾンでも同じだ。
在庫がなければリアル書店に注文すればいい、というのはアマゾン出現以前なら通じたかもしれない。しかしいまは、リアル書店に在庫がなければアマゾンに注文しよう、という読者(消費者)が増えた。
■3.雑誌落ち込みの一因である大型書店
小さな書店が減って、メガ書店に置き換えられると、結果として雑誌の売場が減ってしまう。10坪の書店では売場の3割から5割ぐらいが雑誌だろう。コミックを加えるともっと多い。では10坪の書店が100店なくなって、かわりに1000坪のメガ書店ができたとする。10坪の書店が100店なら、雑誌売場は500坪。しかし1000坪の書店の雑誌売場はせいぜい100坪ぐらいではないか。
雑誌の売上が減ると、小さな書店が打撃を受ける。小さな書店が減ると、雑誌の売上が打撃を受ける。日本の雑誌販売に起きているのは負のスパイラルだ。
■4.返本削減の総量規制の結果、配本が減った中型店
総量規制によって取次の扱い部数は減り、出版社も初刷部数を減らした。その影響を強く受けたのがミドルクラス書店だろうと推測する。初版部数が5000部ならば、零細書店には並ばなくてもメガストアとミドルクラス書店には並んだ。しかし初版部数が3000部になると、配本されないミドルクラス書店も出てきた。零細書店は雑誌と文庫とコミックで食べているが、ミドルクラス書店は書籍の比率が高い。その書籍がミドルクラス書店にあまり配本されなくなった。
■5.意外と廃業が簡単な書店業
書店業はやめるのが簡単な商売だ。店頭にある書籍と雑誌を取次に返せばそれでおしまい。ほかの小売業だと「在庫一掃セール」を何度も繰り返し、2割引、3割引、5割引と、割引率をどんどん上げていき、それでも残ったものはバッタ屋に引き取ってもらう。けっこう大変だ。
しかも、本屋は在庫を返品すると、それが現金になって帰ってくる。たとえ取次に未払い金があっても、返品によって相殺され、たいていはプラスになる。店がなくなった上に借金を抱える、ということがあまりない。
取次も、書店の支払い状況が悪くなると、傷口が広がる前に閉店することを勧めるという。そのほうが取次にとっても損害が少ないからだ。書店から返品された書籍・雑誌は、出版社に返品すればいい。
■6.本が安いと苦しくなる書店経営
再販制のもとで、出版社が価格決定権を持つのだから、出版社には本屋が成り立つだけの利益を確保できるようにする責任がある。しかし、本の値段を決めるとき、本屋の利益について考えている出版社員はどれだけいるだろう。値段を決めるとき、多くの編集者や販売担当者は、1円でも安くしようとする傾向がある。安くすれば売れると信じている。しかし本当に安ければ売れるのだろうか。安ければ安いほど本屋の利益は減る。もちろん安くしてたくさん売れれば、本屋の利益は増える。だが1冊あたりの利益が減った分をカバーできるぐらい売れるのかどうかはわからない。
【感想】
◆私は出版業界の関係者というわけではありませんが、それなりにこの業界について、知識はあるツモリでした。著者志望でもないのに、こんなセミナーにも参加したことがありましたしw
「ベストセラーの仕掛け方<流通編>」に参加してきました(2007年03月30日)
最近は情報流出を恐れたのか(?)、土井英司さんもこの手の出版戦略セミナーをやって下さらないものの、かつては毎年何度かあって、その都度私は、顔を出していたという。
他にも、こういう書評系ブログを運営していると、著者さんや版元さんとのお付き合いがあって、色々と情報は仕入れていたわけです。
ところが、本書を読んで新たに知ったことが多過ぎて、少々ビックリ。
◆まず、「出版不況」とよく言われていますが、その内実は売上高で観る限り「雑誌不況」である、ということ(詳細は本書を)。
しかも雑誌の場合、売上高が減少すると、それに伴って広告収入も減ってしまいます(「暮しの手帳」等の広告の無い雑誌を除く)。
また、あからさまな広告以外にも、編集記事風のタイアップ広告があることは、皆さんご存知の通り。
そして、上記ポイントの3番目にあるように、大型店が増え、小型店が減っていくと、雑誌の売上はスパイラルに落ち込んでしまいます。
実際、売上の落ち込みによって、廃刊される雑誌の多いこと。
私のゼミの同期が編集長をやっていたメジャーな雑誌も、2誌なくなってしまいましたし。
◆一方、本書の第3章で語られているのが、「街の本屋」の衰退ぶり。
こうした書店の場合、そもそも売上の中心は、雑誌やコミックなのですが、これらをまず、コンビニに持っていかれてしまいました。
その後登場するのが郊外型書店で、こちらには若者が奪われることに。
加えて、ブックオフ等の新古書店によって、「話題の新刊」の売上も減少。
さらには、メガストアの進出に、とどめはアマゾン……。
上記ポイントの5番目にあるように、「じゃあ、廃業しようか」となるのも不思議ではありません。
◆個人的に考えさせられたのが、上記ポイントの6番目の「価格設定」のお話。
私もよく、新刊の連絡を編集者さんから頂いた際、「2000円を超えちゃうと、売れ行き悪いんですよね」とか言っちゃってましたが、書店さんのマージンのことを考えたら、1冊の値段は高ければいいに決まっています。
永江さんは以前、筑摩書房の役員だった松田哲夫さんと話していて「本の値段が倍にするだけで、出版界が抱える問題のかなりが解決する」と盛り上がったのだそう。
それによって、たとえ売上が半分になっても、売上額全体は同じですし、むしろ販売にかかる手間が半分になります。
それを踏まえたのかどうか、筑摩書房からは「ちくま学芸文庫」というラインナップがあり、これはページ単価を従来のちくま文庫の2倍から3倍にして、初版部数を大幅に絞り込んだのだとか。
Amazon.co.jp: ちくま学芸文庫
◆他にも第5章では、電子書籍にも触れられていますが、スペースの都合でここでは割愛。
また第7章では、ヴィレッジヴァンガードや、下北沢のB&Bといった、「本以外に売りがある書店」について言及されています。
ホントは、冒頭のエピローグにあった「本屋大賞」の部分だけでも付箋を貼りまくったんですけど、当ブログの読者層とは異なると思って、こちらもまとめて省略した次第。
こういうお話も、出版関係者や業界人にとっては、ある意味当たり前の部分もあるのでしょうが、普通の読者にとっては「目からウロコ」だと思います。
自分たちが、日頃手に取っている「本」が、今こういった現場にある、と知っておくのも決して無駄ではないはず。
これは「本好き」にはオススメせざるを得ません!
(046)「本が売れない」というけれど (ポプラ新書)
第1章 日本の書店がアマゾンとメガストアだけになる日
第2章 活字ばなれといわれて40年
第3章 「街の本屋」は40年間、むしられっぱなし
第4章 「中くらいの本屋」の危機
第5章 電子書籍と出版界
第6章 本屋は儲からないというけれど
第7章 「話題の新刊」もベストセラーもいらない
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【編集後記】
◆今朝、子どものために注文した1冊。信じられない現実の大図鑑
なるほど、こういう本が売れると、版元、取次、書店の皆さんがハッピーになるのかな、と。
ご声援ありがとうございました!
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