2014年02月13日
【イノベーション】『10年後躍進する会社 潰れる会社』鈴木貴博
10年後躍進する会社 潰れる会社
【本の概要】
◆今日ご紹介するのは、当ブログで『戦略思考トレーニング』が大人気だった鈴木貴博さんの新作。5つの業界において、「10年後」という「近未来」を予測されているのですが、これがなかなかに「目からウロコ」な内容でした。
アマゾンの内容紹介から。
自動車業界、銀行業界など、今話題の業界の10年後を、人気企業コンサルタントであり、ベストセラー『戦略思考トレーニング』の著者が予測する。確実に分かる未来を知ることで、私達がどうすべきかがわかる一冊。
「あの業界」「あの会社」が危ないだなんて!?
“Driving” the Google Self-Driving Car / jurvetson
【ポイント】
■1.10年間で消え去ったフィルム業界今から考えれば、あの人たち馬鹿だったんじやないの? と思えるかもしれませんが、1994年当時のフィルムメーカーの幹部の大多数の意見は、
「デジカメは発展するだろうが、市場としては高性能のフィルム方式のカメラと、低性能のデジカメが棲み分けることになる」
という考え方が定説でした。
そこから10年後の2004年に写真産業はどうなっていたでしょうか?
皆さんご存知のとおり、棲み分けるなどという話は幻想で、カメラはすべてテジタルカメラに置き換わってしまいました。
■2.電気自動車のイノベーションも10年後に?
グローバルな自動車業界の辺境にある中国農村部に、安価でちゃちな新興メーカー製電気自動車の登場が目立ち始めたのは2009年頃。そしてグーグルがトヨタのプリウスを改造して、完全に自動で運転する自動車を開発して人間の介入なしにアメリカの道路1000マイルを走破したのが2010年のことでした。
このふたつの破壊的イノべーシヨンが、現在の自動車産業の安定した産業構造を破壊する時期を、イノべーションにかかる時間のセオリーから推定すれば、2020年から2024年にかけてということになります。これから先の10年間で、自動車産業には恐ろしい大変動が起きることが予測されるのです。
■3.中国の安価な電気自動車は、かつてのデジカメと同じ?
この番組では日本の大手自動車メーカーの役員の方がインタビューに登場して、
「われわれはああいうのを自動車とは呼びません」
と堂々と意見を表明していらっしゃいました。まさにフイルム業界と同じ感覚です。
確かに2011年に日本カー・オブ・ザ・イヤーを受賞した日産リーフのような電気自動車は世界のトップ20社ぐらいの限られた自動車メーカーにしか設計できない性能の自動車かもしれません。
しかし市場のローエンドにはそれよりももっとちゃちで安価でおもちゃのような自動車が登場し始めているのです。
■4.スマートテレビはテレビ業界を破壊する
もし世の中がこのような進化したスマートテレビばかりになり、その結果、顔認識技術を通じてテレビ番組をどのような人がどれくらい見て、どのように行動をしたのかすべての情報が広告主につまびらかにわかるようになったとしたらどうなるでしょうか?
まずまっさきにわかってしまうことは、テレビのコマーシヤャルを見ている人が意外と少ないという不都合な事実です。
次にわかってしまうことは、経済性です。
(詳細は本書を)
■5.テレビ局の天敵となる「スマホリモコン」
もしスマホにグウンロードしたソーシャルリモコンアプリ、WEBリモコンアプリが家庭内のリモコンの主流に変わったとしたら? そして視聴者が自分で全ての番組を選ぶのではなく普段はおすすめの番組を好んで見るように視聴の仕方が変わったとしたら?
そしてその中でシェア一番になった特定のリモコンアプリが数千万人規模の会員を持つようになったら?
もしそうなったときには、テレビ局がそのリモコンアプリにひれ伏すことになります。
■6.外食業界で生き残る2つの方法
ひとつは食材の工業化の流れからうまく離脱することです。
工業化された格安な食材に優位性を求めるのではなく、本質的なおいしさへの原点回帰を求めることです。(中略)
もうひとつの具体的なトラップの避け方は、「大きくならない」という選択肢です。
京味やカンテサンス、てんぶら近藤といった日本の飲食業界を代表する名店は、規模を追わないことでその輝きを維持することができています。
■7.日本のメガバンクには国際的に通用する与信力を持ったバンカーはいない?
その理由は、日本の独特な融資制度、土地担保制と個人保証制に原因があります。
日本のバンカーは法人に対して融資をする際に、ドラマに出てくるような事業計画書を読み込んでそのリアリティを判断できるような教育訓練は受けていません。
銀行員にとって重要なことは、融資を実行する際に、それが焦げ付いても資金が回収できるように土地を担保にとることと、経営者が必死になって返済するように経営者個人の保証を入れさせることです。
【感想】
◆本書の第1章で展開される自動車業界の激変については、つい先日「トヨタが最高益更新へ」なんてニュースを見た自分にとって、すんなり受け入れられるものではありませんでした。トヨタ、6年ぶり最高益更新へ 14年3月期 :業績ニュース :企業 :マーケット :日本経済新聞
ただ、大きな流れから見ると、確かに電気自動車へ向かうのは事実かと。
そしてそれは、かつてコンピュータがIBMのような企業が独占していたところ、マイクロソフトのOSや、インテルのCPUが開発されたことで、家電メーカーが参入できたのと同じ事です。
ですから、今後自動車関連株を買うのであれば、今の自動車が電気自動車にとって変わられても以前重要な自動車部品に着目するのも手。
同様に、就職・転職する場合でも、こういった視点は必要だと思います。
◆第2章のテレビ業界の話で登場する「スマートビエラ事件」については、「ネットが見れるテレビの新商品のCMをテレビ局が拒否した」という概略だけは知っていました。
つまり「ネットに人が流れて視聴率が落ちるからダメなんでしょ?」と思っていたのですが、内情はもっと複雑な感じ。
その肝心のCMがYouTubeにあったので貼っておきますが。
製品も、特に発売中止とかではなくて、アマゾンにありました。
Panasonic VIERA 地上・BS・110度 CSデジタル ハイビジョン液晶テレビ 42v型 TH-L42FT60
◆ところで上記のCMでもチラッと紹介されていた「顔認識機能」。
本来は、家族おのおのの「マイページ機能」を提供するためのものなのですが、これとテレビCM、さらには「ネット検索機能」が結びつくとどうなるか?
「トヨタのアクアという車種のコマーシャルを流した直後に、早速アクアを検索する視聴者がいたとして、顔認識機能によってそれが一家のご主人とわかった」場合、それは自動車の販売会社が熱望する情報であることは、間違いありません。
おまけにこの「顔認識機能」は、目線がテレビ画面に向いているのか、ネットを見ているのか、さらにはCM中の行動まで把握できるとのこと。
/ ̄ ̄\
/ _ノ \
| ( ●)(●) <そんな事バレたらテレビ局的にまずいだろう、JK…
. | (__人__)____
| ` ⌒/ ─' 'ー\
. | /( ○) (○)\
. ヽ / ⌒(n_人__)⌒ \
ヽ |、 ( ヨ | もともとテレビCMなんて見てない ムググ…
/ `ー─− 厂 /
| 、 _ __,,/ \
◆また、第4章で言及している「外食産業」には、「死の谷」と呼ばれるゾーンが存在します。
例えば、居酒屋業界では、上位3社が売上高で1000億円を超えていて、一方で300億未満のゾーンにも様々なチェーン店等が存在しており、その間にはほとんど企業が存在していないのだそう。
似たような(?)お話を以前、鬼頭宏昌さんの本で読みましたが、事業を立ち上げるのなら、「既に大きな市場ができており、かつ大手の寡占が緩い業界」にせよ、とのことでした。
つまり、ラーメンのように大きな市場がありつつ、独占する大手がいない業界は良いのですが、牛丼やハンバーガーだと、大手が強すぎて勝ち目が薄いわけです。
そんな外食産業で「死の谷」を避けるためにどうしたらいいのかは、上記ポイントの6番目を参考にして頂きたく。
◆最後の第5章は「銀行業界」ということで、上記ポイントの7番目は、なるほど言えてそう。
ただ、日本のメガバンクのバンカーたちはバブル以後の敗戦処理、さらにはリーマンショックの後始末等もあって、そんな教育訓練どころではなかったでしょう。
そんなメガバンクに比べて、競争で生き残れそうなのが地方銀行。
何でも資金運用では、都市銀行を上回っているのだそう(知らなんだ)。
それは何でなのか……についても、本書にてご確認を。
◆本書は、「ビジネスモデル」や「イノベーション」といったテーマがお好きな方なら、十分楽しめるはず。
冒頭の『戦略思考トレーニング』と比べた場合、読み応えは、もちろんこちらの方があります(単行本ですし)。
ただし、本書でなされている「10年後の未来予測」は、理屈では理解できても、感覚的に違和感がありました(第1章でのトヨタの没落等)。
もっとも、本書の「はじめに」によると、鈴木さんは「携帯電話でゲームをするようになると、任天堂は赤字になりますよ」とアドバイスをしても、ゲームボーイを作っている人たちは、耳を貸そうとしなかったのだそう。
……私に限らず、人は見たいモノしか見ようとしないのか?
10年後に生き残るためには、必読です!
10年後躍進する会社 潰れる会社
第1章 2024年・自動車業界の勢力図はどう変わるか?―トヨタ・日産は繁栄するか、それとも市場の片隅に追いやられるか
第2章 2024年・テレビ業界激変で消滅するものは何か?―業界を滅ぼすモノはすでに家庭内に入り込んでいる
第3章 2024年のエネルギー業界の意外な敗者―電力・エネルギー業界を待ち受ける運命
第4章 2024年の外食産業における勝ち残る条件―「死の谷」の宿命をかかえた業界プレイヤーの未来
第5章 2024年の銀行業界へのしっぺ返し―巨大銀行に未来はあるのだろうか?
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【編集後記】
◆ちょっと気になる本。外資の社長になって初めて知った「会社に頼らない」仕事力 (Asuka business & language book)
こういう本は、チェックしておかねば!
ご声援ありがとうございました!
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