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2013年02月17日

【スゴ本】『価格の心理学 なぜ、カフェのコーヒーは「高い」と思わないのか?』リー・コールドウェル


価格の心理学 なぜ、カフェのコーヒーは「高い」と思わないのか?
価格の心理学 なぜ、カフェのコーヒーは「高い」と思わないのか?


【本の概要】

◆今日ご紹介するのは、ビジネスにおいて非常にデリケートな問題の1つである「値付け」について深堀りした1冊。

元々は、大手企業の幹部やコンサルタント等を対象として2万円超で販売していた「研修マニュアル」がベースとなっているとのことで、密度の濃さに少々ビビりました。

アマゾンの内容紹介から一部引用。
―お客は価格の何をどう感じているか?
―お客の「欲しい」を引き出す価格とは?
―競合品より高い価格でも売れるポイントは?
―「買い」へと誘導する価格の「アンカリング効果」とは?

お客の「不合理な選択」の法則を読み解く新しい「プライシング戦略」の教科書

行動経済学系のネタはいくつか知っていましたが、具体的な価格への落とし込みが具体的なのが本書の大きな特徴だと思われ。

果たして架空の新ドリンク「チョコレートポット」の運命は?


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【ポイント】

■1.ポジショニングと価格設定
 たとえば、エストニアから来ている友人が、飲みなれたお酒を飲めるパブを近所で見つけたとする。ふるさとの味だ。その友人に1杯おごる場合、その金額はいくらと予想するだろう?
 ボトルからワイングラスに注がれたとしよう。するとワインを基準に175mlで560円と見当をつけるだろう。シャンパングラスに注がれると、同じ量で980円かもしれない。それに対して、ハーフパイント(285ml)のジョッキ売りだと、おそらくビールを基準に280円が妥当と思うだろう。ショットグラス売りだと、リキュールと見なして25mlに抵抗なく280円払うはずだ。グラスが違うだけで、価格は11倍になっている。もちろんアルコール度数も基準になるが、11倍のはずがない。


■2.「98円戦略」は効果があるか?
人は簡単に意思決定できるように、おおよその価格帯を設定してパターンごとのルールを決めている。たとえば298円のサンドイッチは「200円グループ」になるが、310円のものは「300円グループ」入るので、強く意識せずに購入候補からはずしてしまう。それを裏付けるのがロバート・シンドラーの実験である。被験者に20ドルと25ドルの商品を比較してもらったところ、その価格差は小さいと認識された。ところが価格を1セントずつ安くして、19.99ドルと24.99ドルにしたところ、その価格差はかなり大きいと感じられ、価格が安いほう選ぶ確率が大幅に上がった。


■3.「価格のアンカリング効果」を利用する
「ショップに入った顧客には、チョコレートポットの適正価格がまったくわかりません。ティーバッグを基準にすれば3円が妥当かもしれないし、スターバックスのホットチョコレートのLを基準にすれば480円かもしれない。
 第一印象はとにかく重要です。チョコレートポットの価値を思案している顧客が最初に180円の値札を見ると、その金額が強く心に残るので、180円以上の値札を見ると高級品だと思うようになります。ところが最初に840円の値札を目にすると、無意識にそれぐらいするものだと思ってしまうので、360円は手ごろな価格、180円は安いと感じる。実際に高価な商品を選ぶ傾向も見られます。(後略)」


■4.「低価格戦略」の用い方
たとえば派手に宣伝しているわけでもないジュースを日常的に購入している顧客は、ほとんど差がない別の商品が低価格で売られていれば、おそらくそちらを選ぶ。
 そのときの価格差は、顧客の既存商品のブランドに対するこだわりと、対象商品の価格が可処分所得に占める比率次第である。大人をターゲットにコカ・コーラの競合商品を販売するつもりなら、コカ・コーラの標準小売価格120円を極端に下回る50円ぐらいでなければ、顧客を奪えない。一方、(可処分所得が限られている)子ども向けの新しい炭酸飲料を発売するのであれば、価格差はそれほど必要ない。既存商品の価格は100円程度にすぎないので、90円にすれば多くの購入者が見込める。


■5.売る気のない商品を使う「おとり戦略」
店側は顧客が欲しがっていない、まったく無関係な商品をすすめる。しかも高ずぎる。ところが顧客は、店が買ってほしい商品を購入してしまう。なぜそんな事態が起きるのか?(中略)

専門用語では「非対称の優位性」と呼び、2種類の商品(AおよびB)が、一方が価格、他方が品質というように別の点で優位性があるときに必ず起こる。
 Bより(両面において)間違いなく劣っている第3の商品Cを見せると、顧客はAよりBを選ぶ確率が高くなる。

 しかも商品Cを投入する一番簡単な方法は、価格を高く段定することである。つまり、品質と価格に違いがある2種類の商品のなかから高価格の商品を選んでもらいたいときは、品質に優位性のないさらに高額商品を第3の商品として見せればよいのだ。


■6.「無料(フリー)戦略」とスタンプ
行きつけのコーザノーストラで最近定番にしているチョコレートポットを注文すると、ポイントカードを渡された。よくあるのは1杯購入ごとにスタンプを押してもらい、10個集まると1杯無料になる仕組みだが、ちょっと違うのは、スタンプを10個ではなく12個集めなければならず、しかも最初から1個ではなく3個のスタンプが押してある。
 マギーの策略だ。いずれにしても1杯無料になるまでに9個のスタンプが必要だが、最初3個のスタンプが「サンクコスト効果」を発揮し、目標をかなり近く感じる仕組みになっている。


■7.他人のお金を使わせる4つの方法
(1)第三者が購入できるようにする。たとえば宝飾品は、身に着ける本人より恋人が購入するケースが多い。(中略)

(2)費用を第三者の支払いに組み込んでしまい、目立ちにくくする方法を指南する。新しい家具は住宅購入時に売り込み、住宅ローンの金額を少し増額して代金の支払いに充当してもらう。購入者は自分の所持金ではなく銀行のお金を使っている感覚になるので、購入判断をためらいにくくなる。

(3)業務用となる正当な理由を見つけ出し、購入者が経費処理できるようにする。

(4)法人に販売する方法を考え出す。(後略)


【感想】

◆まず最初にお断りしておきたいのですが、本書は俗にいう「物語形式」とは少々違います。

一応「チョコレートポット」という新ドリンクを発売する架空の会社「チョコレートティーポットカンパニー」が繰り出す、様々な「価格戦略」が時系列的に紹介されているものの、それは各章の冒頭部分で簡単に触れられているだけで、むしろそれに続く「解説」や「ケーススタディ」、さらには「実践してみよう」と題された具体的なアクション指南が本書のキモかと。

特にありがたかったのが、消費財を販売するケース以外のアドバイスが多いことで、サービス業やコンサルタントのような、自分が提供するものの「値付け」が難しい場合にも対応しています。

さすが「コンサルタント等を対象とした研修マニュアル」がベースになっているだけのことはあるな、と。


◆さて、その「価格戦略」ですが、下記目次をご覧頂ければお分かりのように、「ネタ多杉」

本書では、最初に商品を投入してから、さまざまな環境の変化や販売店との関係を通じて、値段を変えることはもちろん、パッケージや商品自体も変えていくサマが描かれています。

ちなみに、私でも知っている「松竹梅戦略」(3つあると真ん中の価格のものを選ぶ)も登場するんですが、本書を読んで、これが「ゴルディロックス効果」と呼ばれていることを初めて知りましたw

なお、その3つの価格も、実は「理想の比率」があるそうなので、本書にてご確認を。


◆そして、その「松竹梅」をさらに高度にしたのが、上記ポイントの5番目の「おとり戦略」のお話。

本書ではこんなカメラでの具体例が紹介されています。
・ニコン―バッテリーの持続時間10時間、光学20倍ズーム、重さ600g、厚さ5cm。価格4万6000円。

・ソニー―バッテリーの持続時間5時間、光学16倍ズーム、重さ350g、厚さ2cm。価格3万9800円。
この2つのどちらを選ぶか、というと即答はしにくいもの。

そもそも、何を決め手とするかにもよるでしょうし。

ところがここに「バッテリーの持続時間が9時間、光学ズームが18倍で価格は4万7400円」のニコンの前年モデルを加えると、最初のニコンが選ばれやすくなるという。

まさに上記ポイントでいうところの「品質に優位性のないさらに高額商品を第3の商品として見せている」わけですね。


◆本書では他にも「寄付」と絡めて販促を行なったり、アルコール入り商品を開発して高額商品化し、飛行機内で販売したりもしています。

さらにコンサルティングサービスとパッケージ化して、企業に売り込んだりもしていますし、まさに縦横無尽。

いや、ホント架空の商品の話とはいえ、ここまで様々な戦略を打ち出せるというのは、正直脱帽ものでした。

「価格戦略」というと、すぐ「値下げすりゃいいんでしょ?」みたいに思われている方は、ぜひ本書を読んで考えを改めるべきかと。


読む人を選びますが、オススメせざるを得ませぬ!

価格の心理学 なぜ、カフェのコーヒーは「高い」と思わないのか?
価格の心理学 なぜ、カフェのコーヒーは「高い」と思わないのか?
第1章 ポジショニングと価格設定
第2章 原価に基づく試算
第3章 顧客心理の読み方
第4章 マーケットのセグメンテーション
第5章 バイアスとの戦いと公平さの追求
第6章 記憶と期待
第7章 アンカリング効果
第8章 マーケットでの競争戦略
第9章 おとり戦略
第10章 代金の後払い
第11章 ティーパーティー効果
第12章 バンドリングの技法
第13章 無料(フリー)の効用
第14章 アップセリング
第15章 提携販売とバリュープライシング
第16章 他人のお金
第17章 価格設定の環境整備
第18章 「あげる」心理学
第19章 価格設定と倫理


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【お金の心理】「人はこうしてみすみす損をする」(2007年07月21日)

「まっとうな経済学」ティム・ハーフォード(2006年10月23日)


【編集後記】

◆最近当ブログでは「起業」「ビジネスモデル」ネタが人気なので、こんな本をご紹介。

儲ける仕組みをつくるフレームワークの教科書
儲ける仕組みをつくるフレームワークの教科書

ちょっと読んでみたいですね。


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この記事へのコメント
               
「価格の心理学」おもしろいですよね〜!
同書でも参照されている「プライスレス」(ウィリアム・バウンドストーン)もおすすめですよ!

Posted by しうへ at 2013年08月29日 10:13
               
>しうへさん

コメントありがとうございます。
この本、リアルビジネスをおやりの方なら、結構マストだと思います。

そして『プライスレス』は、以前書店で手に取って、その分厚さに断念した記憶が(涙目)。

ブログ拝見しましたけど、素敵ですね〜☆
頑張って下さい!

Posted by smooth@マインドマップ的読書感想文 at 2013年08月30日 04:51