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2010年10月22日

【業界人必読】『街場のメディア論』内田 樹


街場のメディア論 (光文社新書)
街場のメディア論 (光文社新書)


【本の概要】

◆今日ご紹介するのは、8月の発売後、1ヶ月で5刷りまで到達している、売れっ子内田 樹先生の話題作。

実は、内田先生のご本は今まで読んだことがなかったのですが、はてブを集めまくったこの記事を読んで、やっと手に取ってみた次第です。

内田 樹 「腐ったマスメディアの方程式」 君たちは自滅していくだろう | 経済の死角 | 現代ビジネス [講談社]

アマゾンの内容紹介から。
テレビ視聴率の低下、新聞部数の激減、出版の不調―、未曾有の危機の原因はどこにあるのか?「贈与と返礼」の人類学的地平からメディアの社会的存在意義を探り、危機の本質を見極める。内田樹が贈る、マニュアルのない未来を生き抜くすべての人に必要な「知」のレッスン。神戸女学院大学の人気講義を書籍化。
業界関係者並びに「本」に思いいれのある方なら必読です!


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【目次】

第一講 キャリアは他人のためのもの

第二講 マスメディアの嘘と演技

第三講 メディアと「クレイマー」

第四講 「正義」の暴走

第五講 メディアと「変えないほうがよいもの」

第六講 読者はどこにいるのか

第七講 贈与経済と読書

第八講 わけのわからない未来へ


【ポイント】

■1.人が才能を爆発的に開花させるのは、「他人のため」に働くとき
人の役に立ちたいと願うときにこそ、人間の能力は伸びる。それが「自分のしたいこと」であるかどうか、自分の「適性」に合うことかどうか、そんなことはどうだっていいんです。とにかく「これ、やってください」と懇願されて、他にやってくれそうな人がいないという状況で、「しかたないなあ、私がやるしかないのか」という立場に立ち至ったときに、人間の能力は向上する。ピンポイントで、他ならぬ私が、余人を以ては代え難いものとして、召喚されたという事実が人間を覚醒に導くのです。


■2.報道に携わる人なら「こんなことが起きるなんて信じられない」というのは禁句
 それは先ほどから繰り返し言っていますように、「世界の成り立ち」について情報を伝えることがメディアの第一の社会的責務だからです。人々が「まだ知らないこと」をいち早く「知らせる」のがメデイアの仕事であるときに、「知らなかった」という言い逃れが節度なく濫用される。けれども、「知らなかった」という言葉はメディアの人間としては「無能」を意味するのではないですか。


■3.患者は「お客さま」か
「患者さま」という呼称を採用するようになってから、病院の中でいくつか際立った変化が起きたそうです。一つは、入院患者が院内規則を守らなくなったこと(飲酒喫煙とか無断外出とか)、一つはナースに暴言を吐くようになったこと、一つは入院費を払わずに退院する患者が出てきたこと。以上三点が「患者さま」導入の「成果」ですと、笑っていました。
 当然だろうと僕は思いました。というのは、「患者さま」という呼称はあきらかに医療を商取引モデルで考える人間が思いついたものだからです。


■4.ネット上に氾濫する匿名での口汚い罵倒の言葉
 僕はそれはたいへん危険なことだと思います。攻撃的な言葉が標的にされた人を傷つけるからだけではなく、そのような言葉は、発信している人自身を損なうからです。(中略)

 そのような名乗りを繰り返しているうちに、その「呪い」は弱い酸のようにその発信者の存在根拠を溶かしてゆきます。自分に向けた「呪い」の毒性を現代人はあまりに軽んじていますけれど、そのような呪誼(じゅそ)を自分に向けているうちに、人間の生命力は確実に衰微してゆくのです。「呪い」のカを侮ってはいけません。


■5.メディアは惰性を攻撃する
メディアが医療と教育という制度資本に対して集中的なバッシングを展開した理由も今となるとよくわかるのです。医療も教育も惰性の強い制度だからです。簡単には変わらないし、変わるぺきでもない。だからこそ、メディアの攻撃はそこに集中した。
 メディアの提言は要約すればただ一つです。それは医療も教育も、社会状況の変化にすぐ即応できるような制度に変えろということです。


■6.文句を言わない著作権者が好かれる
 僕の書きものは入学試験問題に採用されることが少なくありません。予備校では毎年「現代文頻出作家リスト」を発表しますけれど、そこには数年前からチャートインしています。なぜ僕の書きものは入試に使われるのか。それは(あまり知られていないことですが)「ウチダの書きものはいくら切り貼りしても著作権者から文句が出ない」ということが広く受験関係者に周知されているからです。


■7.書籍は「買い置き」されることで教化的に機能するもの
 僕たちは「今読みたい本」を買うわけではありません。そうではなくて「いずれ読まねばならぬ本」を買うのです。それらの「いずれ読まねばならぬ本」を「読みたい」と実感し、「読める」だけのリテラシーを備えた、そんな「十分に知性的・情緒的に成熟を果たした自分」にいつかはなりたいという欲望が僕たちをある種の書物を書棚に配架する行動へ向かわせるのです。


■8.電子書籍ビジネスは実需要を前提にしている
 電子書籍を基盤とするビジネスモデルについて、僕はこれを礼賛する論者たちのように楽観的ではありません。それは端末機器が重いとか軽いとか、画面が見やすいとか明るいとか、起動が速いとか遅いとか、費用対効果がいいとか悪いとかいうレべルの話ではなくて、電子書籍ビジネスが実需要を前提にして設計されているからです。このビジネスモデルは、僕の直感では、本をあまり読まない人間が設計したものです。本をアンパンのように「ときどき欲しくなるもの」というふうにしかとらえていない人間が考案したものです。僕にはそう思われます。


【感想】

◆本書はその定義が若干曖昧な点はあるにせよ、「メディア」を中心テーマに据えています。

なのに初っ端の第1講が「キャリア論」

ここさえなければ純度が高まる……と言いたいところなのですが、実はこの第1章もかなり「深い」

先日ご紹介した渡邉正裕さんのご本とはまた異なった「キャリア」の考え方を提示しています。

そう言えば先日、私が知り合いの編集者さんの依頼を受けて、時おり本の販促のお手伝いを(ロハで)していることについて「何でそんなことやってるんですか?」と知人に問われたことがありました。

確かに「他にやってくれそうな人がいない」んでやってたんですけど、これで才能を爆発させてる場合かというwww


◆本題の「メディア論」については、「コンテンツの電子化の流れ」とは別の次元でメディアを糾弾しています。

ポイントの2にあるような「こんなことが起きるなんて」「こんなことが許されていいんでしょうか」といったフレーズは、今に始まったことではありません。

内田先生によれば、「ジャーナリストの知的な劣化がインターネットの出現によって顕在化してしまった」とのこと。

そしてメディアが好んで用いる「演技的無垢」が、被害者ぶることで責任を回避する「クレイマー」を人々の間に生み出した、と看破。

正直、この辺りの論点については、私も今まで意識すらなかったので、付箋貼りまくりました。


◆一方、第6講と第7講では「書籍」について掘り下げています。

上記ポイントの6番目のように、内田先生は改変を認める等、著作権に緩く対応していることにより、作品が試験問題に多く採用されており、それが新たな読者を生み出しているとのこと。

ただ、そもそも内田先生は『本を書くというのは本質的には「贈与」だと思っている』のだそう。

その理由と、本書のキモとなる「贈与経済」については第7講に詳しいので、ここはぜひともお読み頂きたく。


◆また本書が電子書籍に関して指摘した点で、最も「なるほど」と思ったのが、紙の書籍による「書棚の効果」

人は書棚を作ることで、「他人に自分を開示」したり、「自分の願望を自分に開示」したりしているわけで、これは電子書籍にはできないことです。

さらには物理的な威圧感というか、例えば小飼 弾さんの書棚が丸ごと電子書籍になって手のひらサイズになったとして、それがたとえ何万冊であっても、現在の書棚を上回るとは思えません(小飼さんの本のための諸費用は別にしてw)。

もっともこのことは、「音楽業界」では既に起きていることで、何千枚何万枚のCD(やアナログレコード)の中身が、HD1つに丸々入ってしまい、PCのみでプレイするDJも増えているのですが。


◆ところで私は、日頃、他の方の書かれた書評やTwitterでの感想をあまり読まないようにしております(影響を受けたくないので)が、たまたま調べたいことがあって、Twitter検索で本書を検索したところ、そのほとんどが「好意的」(と言うか称賛)なものでした。

なるほどご自身で「ウチダバブル」と言われるほど売れっ子なのも、納得のクオリティ。

冒頭で申し上げたように、メディア関係者は当然ですが、丸善オアゾの中の人のツイートにもあるように書店の人も必読だと思います。

もちろん、第1講のキャリア論は全方位でw


今さらですが、オススメせざるを得ません!

街場のメディア論 (光文社新書)
街場のメディア論 (光文社新書)


【関連記事】

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【必読!】「新世紀メディア論-新聞・雑誌が死ぬ前に」小林弘人(2009年04月16日)

「新聞がなくなる日」歌川令三(著)(2006年08月24日)

本当にヤバい「テレビ局の裏側」の脆弱性4つ(2010年02月12日)

「テレビCM崩壊」Joseph Jaffe(著)(2006年08月05日)


【編集後記】

◆その内田先生の「街場シリーズ」の中の1冊。

街場の教育論
街場の教育論

今日ご紹介した本でも教育について言及されていましたが、この本も気になります。


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