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2010年10月01日

【問題作?!】『残酷な世界で生き延びるたったひとつの方法』橘 玲


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残酷な世界で生き延びるたったひとつの方法


【本の概要】

◆今日ご紹介するのは、私がブログを始めた頃からお気に入りの著者さんである橘 玲さんの最新作。

すでに、金融投資系の著名ブロガーさんが、ブログで絶賛中です。

金融日記:残酷な世界で生き延びるたったひとつの方法、橘玲

橘玲「残酷な世界で生き延びるたったひとつの方法」は読む価値あり!の一冊 - 内藤忍の公式ブログ SHINOBY'S WORLD

ちょっと長くなりますが、アマゾンの内容紹介から。
伽藍(がらん)を捨ててバザールに向かえ! 恐竜の尻尾のなかに頭を探せ!ワーキングプア、無縁社会、孤独死、引きこもり、自殺者年間3万人超など、気がつけば世界はとてつもなく残酷。だが、「やればできる」という自己啓発では、この残酷な世界を生き延びることはできない。必要なのは、「やってもできない」という事実を受け入れ、それでも幸福を手に入れる、新しい成功哲学である。 (中略)

残酷な世界を生き延びるための成功哲学は、次のたった二文に要約できる。 伽藍を捨ててバザールに向かえ。恐竜の尻尾のなかに頭を探せ。 なんのことかわからない? そのヒミツを知りたいのなら、これからぼくといっしょに進化と幸福をめぐる風変わりな旅に出発しよう。(本書「はじめに」より)
面白かったので、一気に読破しましたよ!


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【目次】

序章 「やってもできない」ひとのための成功哲学

第1章 能力は向上するか?

1. 「やってもできない」には理由がある
2. 能力主義は道徳的に正しい
3. 「好きを仕事に」という残酷な世界

第2章 自分は変えられるか?

1. わたしが変わる。世界を変える。
2. 『20世紀少年』とトリックスター
3. 友だちのいないスモールワールド

第3章 他人を支配できるか?

1. LSDとカルトと複雑系
2. こころを操る方法

第4章 幸福になれるか?

1. 君がなぜ不幸かは進化心理学が教えてくれる
2. ハッカーとサラリーマン
3. 幸福のフリーエコノミー

終章 恐竜の尻尾のなかに頭を探せ!


【ポイント】

■1.勝間香山論争の根底にあるもの
 勝間は、料理教室でアップルパイをつくったり、自動車教習所で縦列駐車を教えるように、幸せになるための"レシピ"や"技術"を教えているだけだ。ナショナリズムや共産主義のような政治主張があるわけでもなく、特定の宗教を伝道しているるのでもない。(中略)

 だとすれば香山の異議申し立ては、ただの空回りなのだろうか。勝間個人に対しては、おそらくそうだろう。二人の対話を読むと、なぜ自分が批判されるのかわからず困惑する勝間の様子がありありと伝わってくる。
 だがその"言いがかり"が、勝間のスキルの核にある自己啓発に向けられているのなら話は別だ。自己啓発は縦列駐車のような生活技術ではなく、ひとつの強固なイデオロギーだからだ。


■2.能力主義は道徳的に正しい
 能力主義がグローバルスタンダードになったのは、それが市場原理主義の効率一辺倒な思想だからではない。
 会社はヒエラルキー構造の組織で、社負は給料の額で差をつけられるのだから、なんらかの評価は必要不可欠だ。その基準が能力でないならば、人種や国籍、性別、宗教や思想信条、容姿や家柄・出自で評価するようになるだけだ。すなわち、能力主義は差別のない平等な社会を築くための基本インフラなのだ。


■3.日本人はアメリカ人よりも個人主義だ
 安心社会で暮らす日本人は、仲間内では集団の規律に従うが、相互監視・相互規制のくびきから離れれば個人主義的(というか自分勝手)に行動する。それに対してしっぺ返し戦略を基本とする社会で育ったアメリカ人は、仲間であるかどうかとは無関係に、人間関係をとりあえずは信頼(協力)からスタートさせる。このちがいが、社会的ジレンマに直面したときに、協力か裏切りかの選択の差となって表われるのだ。


■4.貨幣空間で成功する人々
 貨幣空間の成功者は、ひととひととをつなぐことに喜びを見出している。でもこれはたんなる善意ではなく、優秀な人材を紹介することで人間関係の貸借対照表に資産を加えることができることを知っているからだ。紹介されたほうは心理的な負債を負うけれど、これは金銭とちがって返済義務はなくて、逆にそのひとを受け入れることが貸しになったりもする。
 それと同時に彼らは、いろんなひとたちと積極的に知り合おうとする。パーティで立ち話をしただけでビジネスにつながったり、ウマい話が転がり込んできたりするわけはない。でも世界じゅうのすぺてのひとと六次以内でつながるスモールワールドの貨幣空間では、たくさんの弱い絆の向こうに大きな鉱脈が眠っている。グローバル時代のビジネスでは、その"真理"を本能的に知っているひとが成功の果実を手にできるのだ(いつもではないけど)。


■5.マルチ商法にひっかかる人の特徴
 マルチ商法の被害者に決定的に欠けていたのは社会常識だ。預金金利が0.1パーセントの時代に、元本保証で年利36パーセントの投資商品など存在するはずがない。だけど多くのひとは、こうした経済(経済学ではない!)の常識にはまったく興味を持たず、楽してお金が儲かることを夢見て漫然と日々を過ごしている。
 社会的な知性の高いひとは、他人を信用する。だけど、社会常識のないままに他人を信用するのは自殺行為だ。


■6.人は無意識のうちに支配と被支配の関係をつくりだす
 人間の耳には、500へルツより低い周波数は意味のない雑音(ハミング音)としか聴こえない。ところがぼくたちが会話をすると、最初はハミング音の高さがひとによってまちまちだが、そのうち全員が同じ高さにそろう。ひとは無意識のうちに、支配する側にハミング音を合わせるのだ。
 声の周波数分析は、アメリカ大統領選挙のテレビ討論でも行なわれている。1960年から2000年までの大統領選挙では、有権者は一貫してハミング音を変えなかった(すなわち相手を支配した)候補者を常に選んできた。わざわざ選挙などやらなくても、討論のハミング音を計測するだけでどちらが勝つかはわかってしまうのだ(ドウ・ヴァール『あなたのなかのサル』)。

あなたのなかのサル―霊長類学者が明かす「人間らしさ」の起源
あなたのなかのサル―霊長類学者が明かす「人間らしさ」の起源


■7.日本的雇用が生み出す自殺社会
 ムラ社会的な日本企業では、常にまわりの目を気にしながら暖昧な基準で競争し、大きな成果をあげても金銭的な報酬で報われることはない。会社を辞めると再就職の道は閉ざされているから、過酷なノルマと重圧にひたすら耐えるしかない。「社畜」化は、日本的経営にもともと組み込まれたメカニズムなのだ。
 このようにして、いまや既得権に守られているはずの中高年のサラリーマソが、過労死や自殺で次々と生命を失っていく。この悲惨な現実を前にして、こころあるひとたちは声をからして市場原理主義を非難し、古きよき雇用制度を守ろうとする。しかし皮肉なことに、それによってますます自殺者は増えていく。
 彼らの絶望は、時代に適応できなくなった日本的経営そのものからもたらされているのだ。


■8.人が幸福になるには
 高度化した資本主義社会では、論理・数学的知能や言語的知能など特殊な能力が発達したひとだけが成功できる。こうした知能は遺伝的で、意識的に"開発"することはできない。すなわち、やってもできない。
 ところがその一方で、金銭的に成功したからといって幸福になれるとは限らない。ヒトの遺伝子は、金銭の多寡によって幸福感が決まるようにプログラムされているわけではないからだ。ひとが幸福を感じるのは、愛情空間や友情空間でみんなから認知されたときだけだ。


【感想】

◆冒頭の引用部分に出てきたフレーズ
伽藍(がらん)を捨ててバザールに向かえ! 恐竜の尻尾のなかに頭を探せ!
について、気になった方が多いと思います。

ただ、これに関しては、その直後に「そのヒミツを知りたいのなら、これからぼくといっしょに進化と幸福をめぐる風変わりな旅に出発しよう」とあるので、具体的に「こういうことなんです(キリッ」とやってしまうとモロにネタバレ

ゆえに、完全自重させて頂きたいと思います(スイマセン)。

上記の藤沢さんも内藤さんもハッキリとは書かれてませんし、やはりここは空気を読むべきかな、と。

ただ、藤沢さんの記事は、様々な問題を列挙しておいて、結局記事では結論を自重しているせいか、コメント欄が荒れちゃっています(もっとも、藤沢さんご自身、「荒れそうなポイント」ばかりを選んでらっしゃる、というものあるのですが)。


◆特に「火に油を注いでいる」のが、「知能は遺伝で決まる」というクダリ。

確かに頭のいい人の親も頭が良かったりすることはありますが、これは本書に限らず問題となりやすいテーマではあります。

さらに、橘さんは別に遺伝の専門家でもないので、参考とされている文献から結論部分を引っ張ってきているのであり、その文献自体が果たして正しいのか否かは、読んでいるこちらとしても分かりません。

今回はその部分や、さらに「親の育て方も関係ない」というお話もあるのですが、この辺はまとめてカットさせて頂いた次第(詳しくは本書を)。


◆ただ、本書の冒頭から展開される、「勝間香山論争」を含む「自己啓発ブーム」の分析は、「目からウロコ」でした。

お恥ずかしながら、本書を読んで、初めて「社会進化論」なるものを知ったワタクシ。

本当に「やればできる」のか、それとも「やってもできない」のかは、本書を読んで、各自考えて頂きたく。

個人的には、「分野」の問題と「程度」の問題は、まず前提としてあるのではないかと……。


◆今までの橘さんの作品は、まず「身も蓋もない事実」があって、それに対して部分的であれ「いかに対処するか」という「現実的な処方箋」があったと思います(とくに『黄金の羽根』シリーズ等)。

何というか「認めたくないけれど、確かにそうだよね」みたいなw

一方本書では、ネタバレ自重している部分で「処方箋」は出ているものの、橘さんらしくなく(?)「楽観的」というか、今までとは逆に「そうならいいんだけど、それで大丈夫?」といった感じ(分かりにくくてスイマセン)。

とはいえ、その結論もさることながら、そこに至るまでに積み重ねられた様々な事象が「身も蓋もない」あたりで本領発揮しているのが、結局橘さんらしいと思われ。


読み始めたら、最後まで止まらない1冊!

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残酷な世界で生き延びるたったひとつの方法

【関連記事】

【黄金の羽根】『貧乏はお金持ち──「雇われない生き方」で格差社会を逆転する』橘 玲(2009年06月08日)

【快作!】「亜玖夢博士の経済入門」橘玲(2007年12月12日)

【激論350分!】「勝間さん、努力で幸せになれますか」勝間和代 香山リカ(2010年01月09日)

【力作!】「やればできる―まわりの人と夢をかなえあう4つの力」勝間和代(2009年12月04日)

「プチクリ!」岡田斗司夫(著)(2006年07月10日)


【編集後記】

◆今日の橘さんの本の第3章では、お馴染み『影響力の武器』が大々的にピックアップされています。

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影響力の武器[第二版]―なぜ、人は動かされるのか

……とオモタら、アマゾンで豪快に在庫切れ(おそらく本書の影響かと)。

当ブログの読者さんなら既にお読みだとは思いますが、ご存じない方は、こちらをお読み下さいませ。

参考記事:【速報!】最強のビジネス本「影響力の武器」の[第二版]がいよいよ登場!!(2007年08月18日)


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この記事へのコメント
               
残酷な世界で生き延びるたったひとつの方法。私も読み物としては面白くて、いっきに読んでしまいました。
しかしながら、内容にリアリィも具体性もなく、インパクトがありませんでした。もしこのようなリアリティ感希薄な若者達が今後増えていくとすれば日本のこれからが心配です。

Posted by 片木 at 2010年10月02日 21:30
               
藤沢さんのブログは何書いても荒れてしまいますからねぇ(笑)
「荒れそうなポイント」とはつまり各個人の考え方がはっきり分かれるポイントであり、みんな黙ってたけど実はみんな気にしていたデリケートな部分ということ。
必要なのは読んだ自分がどう考え、どう自分の幸福に生かしていくかでしょう。同意できない部分は同意しなくていいんです。
Posted by まこやん at 2010年10月03日 09:55
               
>片木さん

なるほどー、「読み物としては面白い」でしたか。
私は結構、自己啓発書を多く紹介している当事者でもあるので、他人事とも思えませんでした。
具体性については、本からの引用が多かったのもあるかもしれませんね。

>まこやんさん

コメントありがとうございます。
言われてみれば、藤沢さんのところは、いつも結構荒れてましたねw

また、おっしゃるとおり、「どう自分の幸福に生かすか」が大切というのは同意です。
私も「恐竜の尻尾のなかに頭を探す」ことにしたいな、と。
ただ結局、マネタイズがいつも難しいんですが(涙)。
Posted by smooth@マインドマップ的読書感想文 at 2010年10月04日 05:10