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2009年05月15日

【枯れた技術の水平思考】「任天堂 “驚き”を生む方程式」井上 理


任天堂 “驚き”を生む方程式
日本経済新聞出版社
発売日:2009-05-12


【本の概要】

◆今日ご紹介するのは、先日編集後記でちょこっと触れた、「任天堂 “驚き”を生む方程式」

既に小飼さんの記事土井さんのメルマガによって、アマゾンではバカ売れしており、今さら感が漂っておりますが、気にせず参ります。

アマゾンの内容紹介から。

任天堂はなぜ強い? WiiとDSのヒットで最高益を更新。不況下でも快走を続け、今や米アップルなどと比較されるイノベーション・カンパニーとなった任天堂。独創的な商品開発の舞台裏、“驚き”を生み出す仕組み、創業から受け継がれる哲学など、同社独自の「突き抜けた強さ」の秘密を解き明かす。製品広報や投資家向けIR以外、徹底した情報統制が敷かれ、関連書もわずかしかない中、岩田社長、宮本専務、山内相談役ほか経営トップらに直接取材を行い、これまで公にされてこなかった同社の経営の中身に迫った初の本。

単体で言うと、従業員一人当たりの営業利益が約3.3億円(2008年3月期)の会社の秘密をご覧アレ!


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【目次】

第1章 旋風と危機感
 DS、1人1台への挑戦
 社長が作った脳トレ
 ゲーム人口拡大戦略 ほか

第2章 DSとWii誕生の舞台裏
 レストランで生まれたDS
 技術のロードマップを外れろ
 Wiiの「お母さん原理主義」 ほか

第3章 岩田の経営と宮本イズム
 「儲け」を目的にしない
 岩田聡、心はゲーマー
 宮本茂の「文法破り」 ほか

第4章 笑顔創造企業のこだわり
 娯楽原理主義
 「任天堂らしさ」を守る
 「驚き」や「喜び」を食べて育つ ほか

第5章 ゲームの本質に還る
 引き継がれる「枯れた技術の水平思考」
 横井軍兵と任天堂の原点
 高画質、高音質から面白さは生まれない ほか

第6章 「ソフト体質」だけが生き残る
 カリスマ山内の直感の経営
 ゲームからアイデアが失われた
 ソフトが主、ハードは従 ほか

第7章 花札屋から世界企業へ
 京都のぼんぼんとキャラクタートランプ
 勝てば天、負ければ地
 失意泰然、得意冷然 ほか

第8章 新たな驚きの種
 ポスト脳トレの新機軸
 素人が世界を変える
 お茶の間の復権 ほか


【ポイント】

■レストランで生まれたDS

◆2003年春のある日、岩田社長と宮本専務は任天堂本社から歩いて数分のところにあるゴルフ練習場のレストランでランチを食べていました。

その頃2人は、新たな携帯型ゲーム機のコンセプト作りに悩んでおり、前社長の山内氏は「2画面にしたらええ」と言い残して経営を引退。

 普通に考えれば、2つの画面を利用するゲーム機は複雑で高度な方へと向かってしまう。2人にとっては悩みの種でしかない。最初は無茶な注文に思えたが、この日のランチで宮本が言った一言が、すべてを解決した。
「1枚をタッチパネルにして組み合わせたら面白いよね」―

これが山内氏、宮本氏、岩田氏のアイデアが結実した「DS誕生」の瞬間でした。

本書には他にも「ふとしたきっかけ」がその後の大ヒットにつながるシーンがいくつかあり、ドキドキできることウケアイですw


■Wiiの「お母さん至上主義」

◆DSの開発と時を同じくして、2003年前半には、新たな据え置きゲーム機についても任天堂社内で議論が深まっていました。

そこで取られたアプローチが「お母さん至上主義」

要は、「ゲーム機としての基本性能を向上させる技術は捨て、家族の機嫌をとるための技術は積極的に採用する」ということ。


◆それゆえ、他のメーカーと相反するように、据え置き型なのにサイズも小型化

ただし、それを目指すことにより、「省スペース」「省電力」「静音」という三位一体のメリットが得られます。

Wiiはまさに、「お母さんに愛される」ゲーム機を目指していたのです。


■山内前社長と岩田社長の違い

◆この点に関して、宮本専務の次の発言をご紹介しておきます。

「山内は天性の勘とか、経験則で予言をする人なんです。けれども、岩田は逆に経験則から否定されている部分でも、科学的に見たらまだ使える要素があるんじゃないかと、1つずつ仮説を立てて裏づけを取ろうとする。裏づけが取れたら、今度は戦略に折り込んでいく。勘から確信として動けるようになって、他の人たちも説得しやすくなるんです。

本書の後半では、山内前社長の半生や引退後初とも言える経営に関するお話も収録されており、そこと併せて読むとかなり納得


■蘇る「枯れた技術の水平思考」

◆若い世代の方はご存じないと思いますが、私のような40も半ば過ぎたような世代には強烈な印象があるおもちゃの1つが「光線銃SP」

これは、銃から出た光が的に当たると、ライオンが鳴いたり、ルーレットが回ったりする、当時にしては(今でも?)斬新なおもちゃでした。

実は私は「誕生日」が12月だったため、小学生の頃「クリスマス」との合わせ技のプレゼントとして、親に執拗にねだって買ってもらった記憶がw

というか、これが任天堂の製品だったとは、今般初めて知りましたが。


◆この製品を開発したのが、往年の任天堂のアイデア玩具の開発を一手に引き受けていた横井軍平氏。

子どもだった私は、この製品が「超ハイテク」なのだとばかり思っていましたが、実はこんな仕組みが。

 太陽電池は通常、発電に用いる。だが横井は、シャープの営業担当者が持ち込んだ太陽電池にわずかな光量の変化も見逃さない特性があることを知ると、当たり判定用のセンサーとして利用するという奇抜なアイデアを思いつき、玩具に応用した。
 豆電球と太陽電池を誰もが考えつかないような遊び道具に変え、驚きや喜びを演出する。それが、横井の真骨頂だ。1980年代に発売されたゲーム&ウォッチもそうだった。

そう、その後大ヒットとなるゲーム&ウォッチも、電卓を構成する成熟した部品や技術を利用するものの、全く違う使い道である娯楽商品として仕上げられたのでした。


◆DSやWiiについて、岩田社長もこう言っています。

「昔の商品で一番相通ずるのは、やっぱり横井さんがやっていた商品になるんですかね。例えば『光線銃』の技術というのは、最先端じゃない。けれども、太陽電池をセンサーにするという、とんでもないアイデアなわけですよ。電源じゃなくてセンサーにするために、ちょうどいいものだったから使った。そうしたことに代表されるようなことが、任天堂DNAの1つなんだと思います」

実はWiiのリモコンにも似たような「裏技」が使われています(詳しくは本書を)。

岩田さんのお言葉をもう1つ。

「本来、娯楽って枯れた技術を上手に使って人が驚けばいいわけです。別に最先端かどうかが問題ではなくて、人が驚くかどうかが問題なのだから」

なるほど確かに!


■「ソフト体質」にこだわった、山内前社長

◆山内前社長によると、「娯楽産業は、高機能、高品質のモノをより安く作るための体質が優先されるハード産業とは違い、洗練されたソフトを生み出す体質、すなわちソフト体質が優先される」そう。

「もし、僕がハード体質の経営者だったら、任天堂という企業はおそらく今日までとても来られなかった。DSが、Wiiがヒットした、かつてはファミコンが大ヒットしたと人々に言ってもらえるのは、それは私たちがソフト体質だったからです。ハード体質の経営者がもし、いたとしたら、辞めてくれと言いますし、そうしないと任天堂という企業は潰れるんですよ」

なお、山内氏の反技術志向(?)は相当なもので、後出しじゃんけんのようですが、こんなお言葉もありました。

「社員にはハード体質の奴もたくさんいる。だからといって、社員を辞めさせるわけにはいかんでしょう。ファミコンの時は、たまたまソフト体質の人間に恵まれたけれども、次の段階では新しい開発者が出てきた。それが不幸にして、ソフト体質でなかった。だからロクヨンのようなものが作られたわけ。あの時、僕は不満やった。ロクヨンが出た時に『ダメだな、任天堂は』と思ったよ」

ただし、これは技術をおろそかにしているわけではなく、ハードとソフトのどちらを優先させるか、というお話。

確かにこの思想が、DSやWiiにも生かされていますよね。

やはりこれらは、パッと出ラッキーな製品ではなかったんだな、と・・・。


【感想】

◆昔からゲームらしいゲームをしたことがない私にとって、任天堂は近そうで遠い会社でした。

ファミコンは初代を後輩に借りて、ドラクエを最後までプレイして以降全く触りませんでしたし、そもそもゲームセンターに行ってもやるのは大抵ピンボール(村上春樹の本の影響w)。

実はマリオすらやったことがありません。


◆そんな私も、上記で触れた「光線銃SP」には深い思い入れがありました(遠い目)。

さらには、その開発者である横井氏は、こんなヒット商品もあったりして。

ウルトラハンド

考えつく横井氏もスゴイですが、商品化を指示して、ヒットさせてしまう山内氏もスゴイというか。


◆他にも横井氏の作品(?)としては「ラブテスター」なんてオモシログッズがあります。

これらの記述の参考文献として登場する、『横井軍平ゲーム館』という本を取り寄せようとしたら、既にマーケットプレイスでは10万円の高値が付いてしまっているという・・・。

いや、マジで復刊を希望したいところですね。

本書で描かれている横井氏も、「任天堂のもっとも任天堂らしい一面」を表している感じがしますし。


◆そんな横井氏を見出した山内前社長の、「若かりし頃」も、本書では描かれています。

そしてかつては「カルタ(花札)屋」に過ぎなかった任天堂が、いかに現在の地位まで登りつめてきたのか。

さらには、現在のWii、DSに続く製品はどうなるのか。


◆ただし本書のエピローグにはこうあります。

 ソニーやマイクロソフト、あるいはアップルが敵なのではない。最も恐れるべき敵は、飽きであることを、岩田は自覚している。自らが生んだ過去の驚きが、次なる敵となることを。
 そのための仕込みは、もう始まっている。

比較的骨太で真っ当な書き方をされている本書ですが、登場人物の魅力によって、エンターテインメント的に楽しめるのが魅力かと。

それにしても、皆さん、キャラ立ち杉!


経営書とは思えない(?)面白さです!

任天堂 “驚き”を生む方程式
日本経済新聞出版社
発売日:2009-05-12


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『MBAコースでは教えない「創刊男」の仕事術』 くらたまなぶ (著)(2006年04月11日)


【編集後記】

◆「ゲーム的な発想」といっていいのかどうか微妙ですが、今日のご本に興味の出た方なら、この本はきっと楽しめるハズ。

『シーマン』『The Tower』等のゲームを開発された事でも知られる斎藤由多加さんの作品です。


参考記事(単行本版です):【再録】★「ハンバーガーを待つ3分間の値段」斎藤由多加 (著)【マインドマップ付き】(2006年01月18日)


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この記事へのコメント
               
僕はゲーム大好き人間なのでこういった経営観点からの本は、興味をそそります^^
まぁ個人的には任天堂よりソニーなんですが(汗

WiiとDSをみているとさすが任天堂!と叫びたくなります。
Posted by シンジ at 2009年05月15日 17:44
               
>シンジさん

あら、「ゲーム大好き」でしたか。
そういう方なら一層この本楽しめるかも。
堅めのテーマなのに、読みやすかったですよ。
Posted by smooth@マインドマップ的読書感想文 at 2009年05月16日 02:34